小指ほどの鉛筆

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ヘンゼルの食物連鎖(トカゲ双子)

2013年02月28日 15時32分19秒 | ☆小説倉庫(↓達)
俺たちが生まれてはじめて見たものは、冷たい石の上に力なく放りだされた自らの四肢と、この身を拘束する鎖を手綱に気味悪く笑う、一人の老人の姿だった。
やけに嬉しそうに微笑んでいるその男は、自らを〝ギルティア〟と名乗り部屋中を歩き回る。
なにやら難しいことを言っていることは分かるのだが、なんせ言葉というものは複雑な形を持っているから、目覚めたばかりの自分たちには理解し難かった。
そもそも言葉という概念を知ったのは、ギルティアが並べるフィクションのような語り口から聞いてのことであるから、信頼には値しない。
自分たちが今まさに生まれたことはちゃんと理解できているのに、何かがひっかかる。
果たして自分たちはこれまでも、5本の指を持っていただろうか。舌の先が割れていただろうか。言葉を使えただろうか。
〝これまでも〟…?
「リザードマンは質がいい。だが知性と品性がいくらか足りないと見た」
ぼそぼそと呟くギルティアは、俺たちを凝視しながら顎をさすり何かを考えている。
それがろくなことではないだろうと思ってしまうのは、そもそも今現在自分たちがおかれている状況が、お世辞にも丁重とは言えないからだ。
「何か話せるのか?」
興味津々といった様子の彼は、一見すれば無邪気な子供のようにも見えた。
けれどもその瞳は何か底深いものを隠し持っていて、おそらくそれは獰猛で凶悪だ。
「アンタ、何者?」
「ただの人間じゃないよね」
まるで反響したかのように返ってきた声に驚いた。
しかしそれは自分の声ではあっても、自分の思った言葉を語らない。
そこではじめて声の方へと首を曲げた俺たちは、先ほどから自分が複数形で自らを表していたことを、ようやく思い出したのだ。
目の前の少年が、自分と同じ顔をしていることが容易に想像できる。
髪の長さこそ違えど、左右反転した目も、体も、向かい合えば鏡合わせのようにピッタリ一致する。
「共に生まれし者を、双対の子として双子と呼ぶそうだ。ユロド、マニ、お前たちは私の初めての子だ!」
「「双子…?」」
その響きには馴染みがなく、けれども片割れの存在は自らの分身として愛おしい。
慣れない四肢をのそのそと動かしながら、寒い石畳の上、二人で寄り添いあった。
ギルティア曰くそれは〝仲がいい〟ことなのだそうだが、俺たちは二人で一人である。共にいるのは当然のことだ。
やがて、お喋りなギルティアは俺たちのことについて様々語ってくれた。
融合と融解の能力で、複数の生き物を組み合わせ作ったのが俺たちなのだという。成功作は初めてで、その栄誉に胸を張ってよいのだと励まされた。
じめじめとした石畳は自分たちにとって居心地がよかったが、そうして地を這っていると、なんだか二つ足で歩くのが面倒になってくる。
這いつくばったままジッとしていたら、ギルティアがふと足元に視線を移し、呆れたようにため息をついた。
その頭がやけに高い位置にあると思ったら、どうやら俺たちは小さくなっているらしい。
いや、厳密に言えばそうでない。ギルティアが懐から取り出した鏡を覗き込めば、身体は正真正銘の爬虫類となっていた。
「ふむ、状態が不安定だな…その方が楽か?」
「動きやすい」
「体が軽いの」
人間より動物の方が身軽であることは当然として、人型よりも爬虫類型の方が馴染んでしまっているのでは少々不格好だ。
ギルティアは顎をさすりながら二匹のトカゲを見下ろすと、細めた目の色を少しだけ変えた。
「もう一度人にはなれるか」
「なれるよ、多分」
「でもこのままの方が楽だよ」
そうは言ったものの、結局は瞳の圧力に屈して人型へと姿を変えた。
ユロドとマニからすれば、目覚めて突然ワケの分からない老人に声をかけられ、難しい言葉を並べられ、挙句は命令されるのだから面白くない。
それでも逆らえないのは、ギルティアの言葉がまるでネジを巻くように自分たちの体を動かすからなのだ。
流石は生みの親と自称するだけのことはある。
「人の形を覚えるがいい。いずれ役に立つ時が来る」
そう言って扉を開けたギルティアは、初めて見た時よりもいくらか興が覚めたようにも思えたが、もしくは新たに違うことを考え始めたのかもしれない。
慣れない二足歩行に戸惑いながら立ち上がったユロドとマニは、背を丸めて手を床に向けた姿勢のまま、しばらく互いに顔を見合わせていた。

いくら驚こうが不可解であろうが、生きていれば腹が減る。
ユロドとマニはギルティアに言われた通り二足歩行でぽてぽてと歩きながら、何か美味しそうなものはないかと建物の中を散策していた。
何かの材料になったのだろうか、生物の肉片がいたるところに散乱している。
野兎や小鹿、人間の手のようなものもある。さて、どれが一番美味しいだろうかと手を伸ばしつつ、毛のある生物は食べ辛いからと壁に叩きつけた。
石積みの壁にそれらはベチャッと不快な音を立ててずり落ちていったが、そこに残った紅い跡はユロドとマニから見てアーティスティックでなかなか良い。
啜った血の味が良かっただとか、肉の固さが丁度いいだとか、まるでグルメのように片っ端から貪っていく。
そうして最後に残ったのが、人間の手足だった。
自分たちの持っているそれよりもいくらか小さいのは、まだ未発達だったからだろう。
ギルティアがこの少年だか少女だかを連れてきた理由は分からないが、食べてしまえば同じことである。
「「いただきまーす」」
細い骨の割にやわらかい肉がしっかりとついていて、血の味も実にまろやかだ。
互いに食べていた手と足を交換しつつ、その骨の髄までしゃぶり尽くせば、もういい加減に満足だった。
生臭い臭いで充満した部屋の中、満腹になった二人は寝転がる。
食べたら眠くなる。それは当たり前のことで、それに逆らう意味を持たないユロドとマニは、野生の本能のままに瞳を閉じた。
その日二人は、はじめて夢というものを見た。
地面を這って歩く自分たちに思考などはなく、ただ体が動くままに生きることだけをいたずらに目的とした生活。
時に現れる巨大な生物たちに気をつけながら、いつもちょろちょろと茂みを歩き回っていた。
そこに、黒くて大きな生き物が現れる。
気配など微塵も感じなかったが、いつものように尻尾を切って逃げようと思えばそうできたのかもしれない。
けれども押し込まれた檻は本当に狭くて、360度駆けずり回る自分たちを地面から哀れと見ている他の生物たちは、それに踏まれていくばかりなのだ。
死ぬのと生きるの、どちらがいいか。どちらが幸福だと思うか。果たして幸福であるとは何か。
いっぺんに問いかけられたその質問に、畜生であった自分は確かな答えを持たなかった。
生きていることはそれだけで意味を持つのだ。少なくとも、存在していることは確かだったから。
しかしその答えに満足しない誰かが自分の中に入ってきて、もしくは自分がその中に取り込まれたのかもしれなかったが、そこで夢は覚めた。
同時に目を覚ました片割れと、その夢を共有しながら首を傾げる。
自分たちは二足歩行ができるようになった。草むらから覗いていた他の全ての生物を喰らいつくせるくらい、鋭い牙を持った。
それでも問いかけられた質問に答えられるだけの知性はなく、かろうじて理解した言葉が意味を持つことを悟ったくらいのこと。
きっと、自分たちは人間を乗っ取ったのだ。
そう思えば少しの優越くらいは感じるというもので、だから人の肉はあんなに美味だったのかと納得もいく。
「ユロド、マニ、創歌を」
そう言われて反射的に紡いだ言葉が、他の生物を苦しめていくのを楽しげに見ていた。
全てが終われば楽になる。そうしてこの腹に収まって、自分たちはまた何かを凌駕する生物になっていく。
そんな気がしていた。
ギルティアが難しい顔をするようになったのは、そんな二人が森へと自主的に食料を狩りに行くようになった頃のことだった。
人間の子どもや半人をよく見かけるようになった。それは決して思い違いなんかじゃない。
自分たちと同じような生物、いや、それよりはるかに高等で頭のいい生物を作ろうとしていることは明白だった。
別に、悔しくもなければ嫉妬心を抱いたりもしない。
生物というものは、絶対的捕食関係のうちに成り立つものだ。そこにまた一つ種族が加わるだけのこと。
それが自分たちを喰らう生物でなければなんだっていいし、そもそも人の形をしたものを喰らおうとする生物の方が少ないことを、二人はここで過ごすうちによく理解するようになっていた。
けれども最近は巨大な肉食獣までも捕らえて引き裂くような人間がいると聞く。
それにだけは細心の注意を払いながら、しかし強い者に対してはむしろ弱い者としてやりすごせばいいのだと、野生の勘は生きる術をよく知っている。
「ギルティア、またダメだったね」
「これで5回目だね」
醜く四肢が繋がった、俗にいうキメラ的な生き物がそこにはいた。
あまり美味しそうではなかったけれど、ギルティアがもう見たくもないといった顔でそれを放置していったものだから、ユロドとマニは顔を見合わせてそれに噛みついた。
弱弱しい声は生まれたくせに生きる気がない貧弱なもので、それでは野生に放つこともできない。
食べられるために生まれてきたみたいだ。
ユロドとマニは、自称美食家だ。彼らの食べるものは特殊だから、その道の生物が少ないというだけの話かもしれないが。
人間の形をとどめた部分にだけ齧りつきながら、二人は知ってしまったやわらかい肉の味を噛みしめて、またギルティアのことを考える。
自分より強い生き物のことを常に気にかけるのは野生動物としては当たり前のことで、あとは美味しいものと安全な寝床さえあればそれでいい。
そんな毎日をおくっていた、ある日のことだった。
「最近のギルティア、楽しそうだよね」
「なんか、機嫌いいよね」
ギルティアが生き物をつくりはじめたのが、自分たちの生まれたどれくらい前なのか定かではない。
けれどもその初めての成功作が自分たちだと言われれば、悪い気もしない。
それでも未だに何かを作り続けているということは、自分たちには足りなかった何かを補って、完璧な成功作を求めているのだろう。
ギルティアはなぜ生き物を作ろうとするのか。
自由気ままに生きている自分たちでは何が不満だったのか。
何かをしてやればいいのか、けれども自分たちよりよほど自由なギルティアが、いったい何を望むというのだろう。
思えば、ギルティアが好きなものやことを何一つ知らないのだ。
いつもふらりとどこかへ消えて、久々に顔を見たと思えば理由もなくニヤニヤしていたりする。
だから、不可解な言動を繰り返すギルティアがはじめてユロドとマニに対象の世話を要求した時、二人はなんとなく嬉しかったのだ。
その檻は、いつもの失敗作が入れられるような不衛生な場所ではなくて、もっと綺麗でピカピカに磨きあげられた新しくて丈夫な柵で作られていた。
それだけでも、きっとギルティアのお気に入りなのだろうとわかる。
とすれば、おそらく彼の言うところの成功作なのだろう。しかも、自分たちを上回る。
そのことに脅威を感じなかったわけではないのだけれど、そこから唸り声や爪を引っ掻く音などが聞こえないだけマシだった。
その檻の中を覘いた瞬間なんて、ここで生まれて以来初めて興奮したと言っても過言ではない。
「アンタ誰?」
「ギルティアのお気に入り?」
問いかけた言葉に、彼はハッとしたように顔を上げた。
どこか嬉しそうにさえ見えるのは、きっと自分たちが〝言葉〟を持っているからだろう。
「キルノヴァイカ…いや、キルヴィカだ。お前たちは?」
檻の隅で膝を抱えていたにしてはやけに堂々とした物言いに、ユロドとマニは少し可笑しくなって笑う。
「ユロド」
「マニ」
「キルヴィカ、面白い奴」
「ギルティアに逆らった奴、初めて」
そうなのだ。生まれた途端にあのギルティアに逆らって拒絶したというのだから驚いた。
おかげであんなに楽しそうだったギルティアが、最近は物憂げに森の中をさまよい歩く始末。
どこかいい気味だと思っている自分たちも自分たちだが。
「ユロドとマニは、言葉が使えるんだな」
キルヴィカに言われて初めて、二人は自分たちが言葉をつかえることがギルティアの成功の鍵の一つであることに気が付いた。
人の形をしており、言葉を使い、そうして…?
「お前たちは、ギルティアに反感はないのか」
どこか気高ささえ感じるその真っ黒な瞳は、ユロドとマニを射抜いたまま少しもブレない。
どうして自分で考えようだなんて、そんな面倒なことをしなければならないのだろう。
考えなくたって生きて行ける。何も考えていなければ、必要最低限のもので生きて行けるし、誰に恨まれて殺されることもない。
それこそが賢い生物の知恵だと思っていた。
けれどもどうだろうか。この男の、キルヴィカの一貫した強気の正義に、概念さえ揺らいだような気がした。
ギルティアが求めていたのはこれなのか。
決して自分のものにならなかったとしても、特別な何かを生み出すことへの執着。
創りだす者になろうとする誰より愚かな選択を、生を受けたこの時に正当化する恍惚。
なるほど、だからこの青年は、これまで見てきた何よりも麗しいのだ。
「キルヴィカ、凄い」
「キルヴィカ、カッコいい」
口々に賞賛を述べれば、はにかむようにして微笑んだキルヴィカにまたしても心を掴まれた。
きっと食べたらおいしいんだろうな、なんて、この期に及んでも食欲しかついてこない自分たちに飽き飽きする。
それでも、ギルティアが望むものがその気高い精神であるならば、肉体くらいは取り分として与えられてもいいだろう。
「ねぇキルヴィカ」
「キルヴィカが死んだら」
「俺たちにちょーだい」
「おいしそう」
「全部食べるから」
いつのことだったろうか、そう言った二人に向けてキルヴィカは力強く頷くと、残さず食えよと残してそれきり何も言わなかった。
ギルティアは新しい退屈しのぎを見つけたらしくそちらにお熱だったから、それにつき合わされた彼の作品たちはチェスの駒のように転がされ、それはユロドとマニも例外ではなかった。
もともと好戦的な方であったから、それ自体に関してはなんら苦痛ではない。
けれどもその間キルヴィカは大丈夫だったろうかとか、新入りは上手くやれているだろうかとか、余計な事を考えてしまって仕方がなかった。
生きていくうちにこうして次第に感情を覚えていくのだろう。
ギルティアの製作は、以前も以後も決して失敗ではない。そのことになんとなく安心しながら、一暴れした後に塔に戻った後のことだった。
お気に入りを鎖に繋いでおかなかったことを、これほど後悔したことはなかった。
「キルヴィカ!?」
「キルヴィカどこ行ったの!?」
上から下まで塔の中を走り回ったけれど、彼は見つからなかった。
その世話を任せておいた新人も消えていて、それに関してはやはり戦闘に駆り出された彼らが、塔の近くで人間に捕獲されたのを見たと言う者がいたからまだいいのだが。
キルヴィカはずっとここから出て行きたいと言っていた。
それを黙認しながらも、手助けも止めもしないと言ったのは確かに自分たちだ。
けれどもユロドとマニは、それが自分たちのいない間に密かに行われるとは全く予想していなかったのだ。
行方が分からないのでは、その死体を食べることも、もう言葉を交わすこともできないのだ。
そこはかとない絶望の中で、二人はよく森へと出かけるようになった。
小さい身体では不便だから、人間の姿のまま街へと出かけることもあれば、トカゲの姿で違う動物の背に張り付いていることもあった。
時には幼い子どもを捕まえて食べたし、それは確かに美味しかったけれど。
物足りなさを感じるくらいキルヴィカの血肉の味が気になって、交わした言葉は二人の記憶に確かに語彙として残った。
彼を探しに行こうと団結したのは、ギルティアがまたしても悪趣味な遊びを始めた頃のことだった。
そんな意思を見せると、これまで無関心だったギルティアは途端に二人に興味を持ち始め、握っていた精神的手綱をいとも簡単に手放した。
ギルティアは既にキルヴィカの居場所を知っているのかもしれない。けれどもそれを聞いてしまうのはなんとなく気が引けて、それはあくまでもギルティアの遊びは一人遊びであることを知っていたからなのだ。
他人を巻き込む一人遊びに、わざわざ拒まれることを知っていて首を突っ込むわけにはいかない。
キルヴィカの飛んだ首を探す前に、自分たちの首が飛んでは仕方がないし。

森を抜け、竜族の支配下にある北の区域にまで足をのばしても、キルヴィカはなかなか見つからなかった。
動物の死骸や人間の行き倒れには幾度も出会うのに、どうして一番会いたい人には出会えないのか。
海には行きたくなかったから、彼が人型であることを頼りに街へと繰り出す。黒い髪、黒い目、綺麗な声を頼りに捜索を続けて、やっと一時期彼に世話になったという少女に出逢った。
そこから食欲を我慢して人を伝うのは至難の業だったが、幸い森に近いその村には、食べてもさして害にはならない動物たちがたくさんいたことが幸いだった。
そうして見つけた無機質な建物の前、ようやく嗅ぎつけた彼の香りに舌なめずりをする。
壁を伝い、窓を突き破り、そうして再び会い見えた愛しき同胞の喉元へ、まるで生きていることを忘れて飛び掛かろうとした二人に、しかし現実は厳しい。
「キルヴィグェッ!?」
「マニー!?」
首根っこを掴んだのは、きっとギルティアと近い生物だ。
そうでなければ人の姿をした生き物を、まるで生きているとも認識していないかのように首など絞められまい。
「ユロド!マニ!!」
一拍置いて誰がやってきたのかを理解したキルヴィカは、驚きと困惑で少し引き気味だ。
けれどもかつての同居人、もといギルティアに言わせれば兄弟であるユロドとマニが今の上司に殺されかけているとあれば、なんとかせねばなるまい。
「ギルヴィガ…だずげでぇ…」
「イズベルト、放してやってくれ。知り合いなんだ」
キルヴィカに声をかけられた男、マニの首を今まさに片手で締め上げている奴の名は、イズベルトと言うらしい。
その猟奇的な行動と半比例して笑みを浮かべている彼に、片割れのユロドはマニを助けることを忘れて震えるレベルだ。
こいつ、鬼か。
「なんだ、虫が入ってきたのかと思った」
笑顔でそんなことを言われて気分を害さない者は、思考を持った生物の中に一人といないだろう。
とはいえ元はといえば、突然キルヴィカに食いつこうとした二人が悪いのだが。
「ゲホッゲホッ、ありがと、やっぱりキルヴィカはすごいや…」
「マニー!死ぬなーー!!」
ぐったりとした様子を見せるマニに心配そうな顔をしたキルヴィカだったが、イズベルトが大したことのなさそうな顔をしているものだから、きっとこれは小芝居なのだろうと安堵する。
たとえ不法侵入者であれ、それが自分の身内の知り合いであれば、問答無用で見殺しにするほど彼も非道ではないだろう。多分。
しかしユロドとマニは突然うけた酷い仕打ちに涙目になりながら、メンタル面がやられたのか、それともこれまでの長旅が響いたのか、トカゲの姿になってぺたりと床に伸びてしまった。
「おや、君の知り合いはトカゲなのかい?」
「ギルティアのところにいたんだ。俺より長生きのはず」
「それは研究価値がありそうだ」
途端に目を細めたイズベルトの危険性を、創士社にはいない二人が知る由もない。
少々不安げにイズベルトの眼鏡の奥を見やるキルヴィカの視界の端、もう一人の訪問者が正規ルートからやってきたことに、誰も気が付かなかった。
「お邪魔しまーす」
「ルオ!」
「あぁっ、そこは!!」
気が付いたキルヴィカとアプライトが制止しようとしたときには、既に時が遅かった。
―むにっ
やけに軽い音の割に、正体を知っている3人にはグロイ音に聞こえた。
流石に笑顔だったルオヒグナも引きつった顔で右足を上げる。そこには、見事ぺったんこになったトカゲが一匹。
「ユロドー!!」
瀕死状態だったマニも流石に驚いたのか、トカゲ姿のまま、マニをペチペチと叩き安否を確かめる。
その様子を見ながら、喋るトカゲを踏んでしまったルオヒグナは口をあんぐりと開けている。
「俺は…もうダメだ…あとは頼んだぞ…ガクッ」
「ユロドーーー!!くそっ、この仇は必ず…!!」
まるでドラマの中で殉死した捜査官のようだとか、最近見たばかりの刑事ドラマを思い起こしてキルヴィカは首を振る。
違う、今はそんなことを考えている場合じゃなくて。
「お、おい、大丈夫か?」
「人殺しっ!悪魔っ!!」
「え!?死んだのか!?」
慌てるルオヒグナに、キルヴィカも気がかりだといった風に覗き込む。
アプライトだけは、早く手助けをしてやれというようにイズベルトの袖を引っ張っていたが。
「平気だよ。爬虫類は上からの圧迫に強いから」
ようやくイズベルトの声が上から降ってきて、先程マニの首を絞めた手が、今度はそっと二人を包み込む。
「離せー!」
「イズ、あんまり危ないことは…」
「大丈夫さ。アプ、ちょっと手伝ってくれるかい」
暴れるマニとぐったりしているユロドを両手に持ちながら、イズベルトはアプライトに扉を開けてもらいながら進んでいく。
最終的に二人が消えて行った研究室を見つめながら、キルヴィカは二人と交わした約束について思い出してた。

「酷いよっ!」
「殺されるかと思った!!」
ギャーギャーとわめく人型に戻ったユロドとマニに、ルオヒグナは頭を下げ、イズベルトは命を助けたのだからとふんぞり返っている。
対照的な加害者の様子に、キルヴィカも苦笑気味に様子を見守っていた。
「だいたいなんなの?」
「アンタたちキルヴィカのなんなわけ?」
ジトッとした瞳に睨まれて、ルオヒグナは顔を赤くする。
聞けばキルヴィカの先輩だと言うではないか。見た目は自分よりずっと年下だが、ギルティアに作られたとあれば歳なんて関係ない。
「恋人…?」
で、いいんだよな?と顔を上げれば、キルヴィカも微かに照れながら頷いた。
「はぁ!?」
「信じらんない!!」
「白髪!人殺し!!」
途端にわめきはじめた二人に、弟分をとられた悔しさがそうさせるのだろうと考えたアプライトはまだまだ純粋だ。
もちろんそれもあるのだろうが、ユロドとマニが一番欲しいのは、きっと美味しいだろう彼の肉体であり、精神はまた別のものだから。
「白髪じゃねぇし!!だいたいお前たち生きてるだろ!」
反発するルオヒグナに、ユロドとマニはまたお得意の小芝居をして困惑させるが、それがどこか楽しそうに見えるのは、あの閉鎖空間にはこうして言葉を交わせる生物がいなかったからだろうか。
それともやはり、自分の意思で言葉を発し、意味のある発言をする生き物と会話することは、ユロドとマニにとって有意義なのだろうか。
「で、アンタは?」
「僕?上司だけど」
「じょーしって何?」
イズベルトの返答に首を傾げたユロドとマニに、キルヴィカは優しく答える。
「偉い人だ」
直属の、とか、支部の、とか言ったって、どうせ二人には分かりはしないのだから。
そう思ってのことだったが、もうすこし丁寧に説明してもよかったかもしれない。
「ギルティアとどっちが偉い?」
「ギルティアとどっちが怖い?」
「それは…」
言い淀んでしまったキルヴィカに、イズベルトはどこか楽しげだ。
ギルティアと比べられることなんて、研究員時代以来のことだ。それは残虐性からくるものであったが、それに比べてこの無邪気な生き物は随分と可愛げのある対比をする。
「キルヴィカにとっては、ギルティアより僕の方が偉い。でも、ギルティアの方が怖いだろうさ」
「まぁ、どっちもどっちだけどな」
「怖い人なんだ」
「やっぱり怖い人なんだ」
ギュッと抱き合いひそひそと言いあうユロドとマニに、どこか人間離れした雰囲気を感じ取るのは正常なことである。
事実彼らは人間ではないし、二人といってもそれが当たり前であるから一人に変わりない厄介な個体だ。
「きっと俺たち」
「食べられちゃう!」
顔を見合わせてわざとらしく怯えて見せたユロドとマニに、ルオヒグナは呆れ顔で両手を上げた。
「流石にイズベルトでも、トカゲは食わないだろ」
「どうだろうね」
「えっ」
彼らが怯え、それでいてどこか楽しげに割れた窓から帰って行ったのはその数秒後のことだ。
食物連鎖のピラミッド、そこから外れた二人の生活は、実にくだらなくつまらないものだった。けれども嬉しいかな、旅立ちはいつだって刺激に満ちている。
持ち帰る価値のある宝石は本当に厄介なところに隠されていた。優しい顔した怖い魔女をくべるかまどもないし、逃げ帰るための白鳥も泳いではこない。
それでもこの家は、美味しい匂いで溢れているんだ。
道標のパンが消えたって、全てを食い尽くすまで物語は終わらせない。

今期のアニメは

2013年02月27日 14時38分32秒 | ☆Weblog
私の色相を着実に濁らせてくるなぁ…

モルモットと傭兵を聞きながら鳥双子について考える。
きよはるはイズの好きな事をさせれば必然的に鳥双子が不幸になるって言うけれど、私が書くイズはただの冷淡だからなぁ…
下手をしたら鳥双子を調べるだけ調べて放置の可能性も…
もうちょっと執着とか変態的な面を見せてもいい気がするんだけれど。どうしていいやら。
とりあえず、創作ネタは常にカムオンだからね!ネタくれ!

きっとね、

2013年02月26日 23時11分41秒 | ☆Weblog
そこにあるのは不満ではなくて、疑念でもなくて、愛に近い何かなのだから。
真っ赤なまあるい滴る球を、跡をつけずに救ってやることなんてできない。
この世界には足跡ばかりだ。
時々立ち止まれば、水たまりができるばかりだ。
愛は自己犠牲であり、それゆえに自己満足なんだから。
それでもそっと置いていかれた、それらの真っ赤なまあるい滴る球を、必死にこすって引き延ばす誰かがいることを。
汚す疎ましき者と見るか、拭い取る英雄と見るか、結果は同じでもずいぶん違うでしょう。
真っ赤な、まあるい、滴る、綺麗な球だ。

マス兄

2013年02月26日 22時48分04秒 | ☆Weblog
どうしても兄マスっぽくなる不思議。
いや、ここからだ…ここからマス兄に…
ノーマルがMに目覚める瞬間ってなんだろうか。
SがMを見極める瞬間ってなんだろうか。
互いに何を感じてどうして付き合い始めたのかってとこがな。
何気にこれも長くなったから、キリのいいところで切ろう。
むふふ…ベティーの読む小説を増やすのだ…ノルマを増やすのだぁ…