名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

@ 非論理エッセイ 【名物料理 世界食べ歩き】

2021年09月04日 | 日記

 江戸落語に「酢豆腐」という「知ったか振り」を虚仮にした名作があります。言葉の由来は、中華圏の「臭豆腐(ツォー・ダオフー)」かも知れません。豆腐を発酵して独特のたれとラー油で食します。得も云えず美味いもので、匂いだけ嗅ぐと腐った豆腐と勘違いする。健康にも良くお酒にも合います。歴史のある一流の店だと芸術的な美味ですが、値段はごく安く庶民の智慧と云えます。「臭い豆腐」と名付ける思考形態そのものは、些か野暮と云えるかも知れません。が、これぞ名店と唸る程のお店でほんものを食すと…逆に粋なニックネームだなあと感心してしまいます。

 中華系の友人諸氏には内緒ですが、「馬の小便」で発酵する極意を誇る臭豆腐の老舗があります。一度勧められたのですが、「伝染病で重症」「徹夜仕事で多忙」と矛盾した断り文句を並べ立てて辞退した思い出があります。たとえ昇天するほどの美味であろうと…些かためらわざるを得ない。嘘吐き臆病と云われる方が余程ましです。

 以下は欧米やロシア、ラテン系の友人諸氏には内緒ながら、唾を吐いて酒を造る南米の風習と腐臭を思い出すと、あらゆる発酵物には似た様な発生状況がある様にも思います。フランスには、ひと塊1万フランの宮廷御用達チーズがある。が、近くを通るだけで身の竦む程の香りです。チョウザメの卵であるベルーガ・キャビアを食べる様になった発祥譚同様に、その起源は知りたくない。しかしながら、当初の吐き気だけ我慢すれば良い発酵料理などは未だ可愛いものです。慣れれば天にも昇る美食に違いありません。中国北部のビール工場にはネズミの死骸が浮かんでいました。が、見学者は皆さん美味そうに飲んでいる。僕自身は、「昨夜呑み過ぎなので」と辞退しました。このビールは、本来かなり安いものですが、日本だけは舶来ビールとして馬鹿高い価格で売られています。

 一番困るのは、中国の奥地や東ヨーロッパ、南米などにある生きたままの…。おっと、思い出しただけでめまいがしてきました。映画史に遺る映画「バベットの晩餐会」に登場する「うずらのパイ詰め」なども、脳みその鮮度がかなめゆえ超一流のシェフのみ調理可能な料理です。しろうとの手に掛かり一歩間違えると、怪奇映画の題材となってしまう。江戸っ子で良かった。と、書きながら思い出しました。すっぽんや怪魚の活き作りは苦手ですし…動く伊勢海老にも哀れを感じる。中華圏の蛇や蛙も勘弁して頂きたい。うまければ良いというものではありません。とはいえ、料理のレベルは中華圏が世界一だとは思います。ワイン抜きだと、フランス料理より日本料理の方が上と感じますが、一見平凡な手打ち蕎麦と関西風のおでん(関東炊き)に銘酒を揃えた晩餐が、粋な選択かとは思います。

 そうそう…「親子丼」という名前を何とかしないと、日本人の国際的な信用に関わるかと思います。日本橋の鳥料理店が発祥の様ですが、今や「伝統の味」として親しまれている。しかしながら、この名称だけは即刻変更すべく、日本料理協会・どんぶり勘定振興委員会に抗議したい。が、屁理屈は幾らでも成り立つので、誰ひとりとして賛同の意見はありません。「親子丼のどこが悪いのか」と云われる方とは、健全な友好関係を継続出来ない。と云った途端に、非難ごうごう。「うまそうな名じゃないか。親子丼の早食い競争まである」と…反省のかけらも無い。料理自体に、けちを付ける訳ではありません。食べる事自体も、別に法律違反という訳ではない。腹の減った知性も倫理観も無い野蛮人であれば、いた仕方のない成り行きかとは思います。問題は、血も涙も無い残酷無慈悲な名称です。

 良く良く鑑みれば、「臭豆腐」と名付けた中国人の方が、未だましだと云えない事もない。但し、生きた猿の脳みそを食べなければ…と云う条件付きではありますが。


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