名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

♪ スクリューボール・ジョーク 【禅の犬】

2018年03月02日 | 日記
 カジノのオーナーが自慢する様に云った。
「良寛和尚。【大悟】と名付けた奇跡の犬を、御紹介致します。何と、ポーカーをプレイ出来るのです」
「大悟とは、平常心の先にある無動の【正覚】でござりますな。禅のかなめと云えない事もない。是非とも、この可愛らしいむく犬の悟りを拝見致しましょう」
 天才的な仔犬は、札を入れ替えながら見事なポーカーの腕前を披露した。
「ワン(ONE)」
「ワンワンワン(THREE)」と前足を手前に掻きながら追加札を要求し、手持ち札を両足で覆いコールする。時には、札を下から覗きながら、じっくりと考える仕草が愛らしい。円を描いて走り回り、倍額とする張り方も威勢が良い。その様には、プロの風格が備わっている。暫く眺めていた良寛は、小さく頷きながら意見を述べた。
「惜しい才能でございますな。天才犬には相違ございませぬが、悟りからは程遠いかと存じます」
「如何いう意味で、ございますか?」
「無動心どころか、平常心さえ欠けておる」
「それは、如何なる理由でしょうか。禅の奥義を、お教え下さい」
「この犬の心は、右へ左へと動いております」
「まさか。人間とは違います。そこが、獣たる犬の強み。正にポーカー・フェイスなのです」
「ご覧なさい。スリー・カードが来ましたぞ」
「そこそこ良い札なのに、耳を塞ぎながら頭を抱え込んでいる。しかし、これは演技というもの。ポーカーでは当然の芝居です」
「今度は、ロイヤル・ストレート・フラッシュが揃いました」
「あらま」と、カジノのオーナーは絶句してしまう。

 見ると可愛い子犬は、耳をたれ渋い顔をしながらも、尻尾を思い切り振り続けていた。