「食べ過ぎで胃はもたれるし、ワインの呑み過ぎで肝臓がおかしい。子孫を作る為とはいえ、こう忙しいと女性のお相手も心臓に良く無い。肥り過ぎで糖尿病と高血圧を病んでいる上に、前立腺の調子も良くない」
「食に不自由のない方が良いと云ったのは、お前さんじゃないか」
「健康な体と魂の安らぎが欲しい。こんな事なら、冬の野山にいれば良かった」
「この世は、儚(はかな)い夢さ。贅沢は云えない。あんたは料理用のガチョウなんだ」
「フォア、グラ」(立ちくらみがした)
*
「フォア(Foie)」は肝臓、「グラ(gras)」は脂身を指します。ガチョウや鴨に、過剰な栄養を与え肥らせた肝臓を食すのが、フランス料理の珍味「フォアグラ」です。ワイン、シェリー酒、シャンパン、ドライ・マティーニに合いますが、「脂肪肝」を食べる訳ですから健康管理風病理学的には余り好ましくありません。
日本料理にも、江戸っ子風精神病理学的に不健康な「親子丼」というメニューがある。鶏肉を卵でとじた料理です。無粋(ぶすい)な名前のせいか、動物愛護精神が旺盛なせいか、親子丼だけは口にした事がありません。鮭にイクラをまぶした「鮭イクラ丼」なども、倫理道徳的な拒絶反応が生じます。
元来食べるという行為は残酷であり、食物連鎖の定めは無慈悲なものです。別に作家がそう揶揄する訳ではなく、人類の属性とも云える確とした普遍的な事実ではないでしょうか。長期冷蔵した海鮮食材は、長く冷凍安置所に置いた魚介類という事も出来ますが、貯蔵という方法を本能的に考え出したのは、人類と鰐(ワニ)と北極の猛獣あたりが元祖でしょう。
「目玉焼き」は、勇気を出せば何とか食べられます。「たぬき(種抜き)蕎麦」なんて粋ですね。「かつ丼」も美味そうです。しかしながら、Tボーン・ステーキ、踊り揚げ、すっぽんや魚、伊勢海老の「活き造り」となると、何となく菜食主義者の気持ちが分かる野蛮な名称です。ワインや酒の酔い抜きに、野蛮極まりない料理を食する方々のお気持ちが理解出来ません。
*
「鶉(うづら)のパイ詰め三皿と、赤ワインの追加を頼む」
「これでボトル五本目ですが、だいぶ酔っていますね」
「鶉の脳みそを吸うんだ。しらふでいられるか」
「なんのそれしき。生きた猿の脳みそを、生で食べる国もあるそうです」
「アルコール度数96度の、スピリタスに合いそうだな」
「それは...、猿に呑ませるそうです」
「へえ...、良く生きてるね」
「食に不自由のない方が良いと云ったのは、お前さんじゃないか」
「健康な体と魂の安らぎが欲しい。こんな事なら、冬の野山にいれば良かった」
「この世は、儚(はかな)い夢さ。贅沢は云えない。あんたは料理用のガチョウなんだ」
「フォア、グラ」(立ちくらみがした)
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「フォア(Foie)」は肝臓、「グラ(gras)」は脂身を指します。ガチョウや鴨に、過剰な栄養を与え肥らせた肝臓を食すのが、フランス料理の珍味「フォアグラ」です。ワイン、シェリー酒、シャンパン、ドライ・マティーニに合いますが、「脂肪肝」を食べる訳ですから健康管理風病理学的には余り好ましくありません。
日本料理にも、江戸っ子風精神病理学的に不健康な「親子丼」というメニューがある。鶏肉を卵でとじた料理です。無粋(ぶすい)な名前のせいか、動物愛護精神が旺盛なせいか、親子丼だけは口にした事がありません。鮭にイクラをまぶした「鮭イクラ丼」なども、倫理道徳的な拒絶反応が生じます。
元来食べるという行為は残酷であり、食物連鎖の定めは無慈悲なものです。別に作家がそう揶揄する訳ではなく、人類の属性とも云える確とした普遍的な事実ではないでしょうか。長期冷蔵した海鮮食材は、長く冷凍安置所に置いた魚介類という事も出来ますが、貯蔵という方法を本能的に考え出したのは、人類と鰐(ワニ)と北極の猛獣あたりが元祖でしょう。
「目玉焼き」は、勇気を出せば何とか食べられます。「たぬき(種抜き)蕎麦」なんて粋ですね。「かつ丼」も美味そうです。しかしながら、Tボーン・ステーキ、踊り揚げ、すっぽんや魚、伊勢海老の「活き造り」となると、何となく菜食主義者の気持ちが分かる野蛮な名称です。ワインや酒の酔い抜きに、野蛮極まりない料理を食する方々のお気持ちが理解出来ません。
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「鶉(うづら)のパイ詰め三皿と、赤ワインの追加を頼む」
「これでボトル五本目ですが、だいぶ酔っていますね」
「鶉の脳みそを吸うんだ。しらふでいられるか」
「なんのそれしき。生きた猿の脳みそを、生で食べる国もあるそうです」
「アルコール度数96度の、スピリタスに合いそうだな」
「それは...、猿に呑ませるそうです」
「へえ...、良く生きてるね」