名邑十寸雄の手帖 Note of Namura Tokio

詩人・小説家、名邑十寸雄の推理小噺・怪談ジョーク・演繹推理論・映画評・文学論。「抱腹絶倒」と熱狂的な大反響。

¶ 【幽霊はあなたの真後ろにいるー悪霊祓い】 名邑十寸雄

2019年04月16日 | 日記
 この作品は、35年前に関わった実話に基づいています。

ー幽霊は君の真後ろにいるー 恐怖サスペンス「悪霊祓い」(KINDLE本電子書籍 Amazon )

 不思議に思われるかも知れませんが、レンブラントの【夜警】の背後に観える魑魅魍魎も、パトパハの幽霊騒動も、祈祷師に拠る悪霊祓いも、首狩り族の話も全て実話です。当時の駐在員の中には悪質な人間もいましたが、彼等の悪行を阻止し様とした善意の日本人も多々います。善人と悪人の比率は、国がらには余り関わりがないとも云えるでしょう。ジャングルの巨大な工場が焼け落ちた現場にも立ち合いました。ふと思い付き、即日地球の反対側に出掛けるのは日常茶飯事でした。気が付いたら死んでいたと云う体験は、五回ほどあります。それでは、今この文章を書いているのは一体誰なのかという疑念も湧くかと存じますが、それは本人にも分かりません。誰にせよ、生死の境目など存在しない。未だ生きていると主張なさる貴方がたは、錯覚に陥っているのです。

 これも中々御理解頂けないかと思いますが、奇怪な事件を物語として執筆する時に、作者は幽霊の様に消えてしまいます。彫刻家のミケランジェロが石の塊の中に天使を見い出し、それを解放しようとした逸話と同じ様な感覚かも知れません。僕は、物語の辻褄を合せる為に登場人物にあれこれと作為的な行動を取らせませんし、思考や台詞も無為自然と生じるものと信じています。文学作法ではありません。登場人物が、作家の意図に反し、彼等自身の考えと動機に基き勝手に動き語り始めるのです。何か得体の知れない魔物に取り憑かれた様な忘我の世界ですが、その感覚こそ作家の証とも思います。

 「悪霊祓い」は、世にも恐ろしい物語ではありません。人間存在の核心を読む知的な読者諸氏は、爽やかな覚醒感を得る事でしょう。僕の知る限り、似た様なホラー文学はありません。何故かと考えると、こんな風にも云えるでしょう。ホラーの歴史に遺る作品群の多くは、物理的な観点から書かれています。本当に怖いのは、精神的な人間存在の証なのです。この物語の主人公は、悪夢を通して真理に至ります。「悪霊祓い」という題名に反し、おどろおどろしい物語ではありません。軽妙な喜劇と捉える感想ばかりです。底抜けに面白い本ものの怪談は、そういう作品であるべきだと信じております。
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