マエストロ朝比奈隆の弟

2007年05月07日 | 指揮者 朝比奈隆伝 取材日記
先日わたしが行った朝日カルチャーセンターの講座の最後に、質問コーナーが設けられていた。

いくつかの質問のあと、突然、前から二列目の老婦人が手を上げる。
「わたしは、朝比奈隆の弟の小島の妻でございます。小島は現在、介護施設にはいっておりますが、現在でも元気でおります。数年前先生(わたしのこと)にいらしていただき、本日、このような講演があると新聞で知り、参りました」

驚きました。
このところ、朝比奈伝に埋没しているのであるが、弟さんご夫妻にぜひとも確認したいことがあったのである。
朝比奈隆は、朝比奈家に生まれたのではない。
本人はそうとは知らず、中学生のときに、実子でないとわかった。それも両親が亡くなるという不幸の末に。
しかし、そのために、朝比奈は生まれた家に引き取られることになった、と本人は語っていた。

わたしに疑問をよびおこすのはそのあたりのことなのである。朝比奈にはいわば出生の秘密があるようなのである。


それをもう朝比奈隆に確認することはできなくなった。生前に10回ほどはインタビューしたが、そこまで質問はおよばなかった。
拙著の「君に書かずにはいられない」の篠島春枝さんにあって、このあたりの話はなんどか出たが、果たして、噂なのか、それとも・・・という疑問がずっとあったのである。
いずれにしろ、小島夫人が出現したことは、またまたわたしにとって幸いなことであった。

それにしても伝記をかいていると、どういうわけか、かならず必要な話やエピソードが、本ができあがるまでにはしっかりと私のもとに集まってくる。

ノンフィクションの神様がついているかとおもうぐらいの頻度で、そういったことがあるのである。不思議である。