国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

自分は自分じゃない?

2006-10-08 | 日本と世界

その昔、私が新入社員として、ある企業のちょっと過酷な営業の仕事をしていたころ、お客さんや取引先に、ずいぶん厳しいことを言われて、契約を断られ続けたことがありました。当時、そうした厳しい対応をされて思ったことは、自分は自分が思っていたような人間ではなく、いま他人が評価している自分が、もしかしたら本当の自分なのかもしれないということでした。

私たちは、自分の性格や人間性のようなものに対して、一定のイメージを持っているかもしれませんが、他の人は、それとは全然違うイメージを持って、自分に接している可能性があります。ですから、自分というのは、自分が思っているような自分であるというよりも、他人が思っている自分のようなものなのかもしれないということを、頭の片隅に置いておくと、仕事も人間関係もスムーズに行くことがあるように思います。

 

実は、このことは、国同士の外交にも当てはまるように思います。たとえば、小泉前総理は、自身の靖国参拝を「心の問題」として、一つの個人的な信念としてとらえていたのですが、結果的にこの行動は、アジアの近隣国に多大な不快感を与え、同盟国アメリカの一部世論にも顰蹙を買うなど、ネガティブな"外交政策"として作用するようになり、最終的に日本の国益を損ないました。

ここで靖国参拝の是非を論じることはしませんが、ここでのポイントは、小泉さんの行動は、小泉さん自身の主観や、物事の善悪・正誤といったことを超えて、近隣国の政府と国民に多大な不快感を与え、またそれだけでなく、この問題を一種の外交上の取引材料にされてしまい、結果的に日本の国益を損傷したということです。

このように、外交の世界では、自国の行動が、その国の主観や、物事の善悪・正誤を超えて、他国や国際社会に予想外の影響を及ぼすことがあり、その結果責任が政府に降り注ぐことがあります。そして、このようなことは、別に外交の世界に限った話ではなく、私たちの身近な人間関係においても、似たようなことがあることは、私たちの多くが体験しているところではないかと思います。つまり、自分の意図や、物事の善悪・正誤を超えて、自分の行動がまったく違う形で他人に伝わり、その結果責任が自分に降り注ぐことがあるということです。

 

私たちは、こうしたことに対して、ときに腹立たしささえ覚えることもありますが、同時に腹を立てても仕方がないことも知っています。なぜなら、自分のAという行動を、他者がBと解釈したからといって、その人を捕まえて脳外科手術を施し、それをAと認識し直させることはできないからです。

誤解が生じた場合、それを解く努力をすることも大事なのですが、相手や状況によっては、誤解がまったく解けない場合もあります。ですから、そうしたどうにもならない「誤解」が生じてしまった場合、私たちが唯一できることは、相手が「誤解」した事実を受け入れて、それを計算に入れた次の一手を打つことだけです。こうした状況下では、あらゆる議論は無益だからです。

おそらく、私たちの多くは、こうしたことをいつの間にかどこかで学習し、一種の処世術のようなものとして無意識のうちに人間関係の中で実践しているのではないかと思います。しかし、小泉さんという人は、他の分野では一定の貢献をしましたが、こうした対外関係のイロハをまったく理解しようとしない人でした。

安倍さんが、今日から中国と韓国に行きます(報道)。両国政府とも、日本と関係修復を図りたいと願っていますが、両国とも、安倍さんに対し、安倍さんが自分で思っているのとは違うイメージを持っているかもしれません。しかし、安倍さんは、そのことに対して子どものように反論するのではなく、そのことを計算に入れた大人の外交を展開してほしいと思います。 //

 

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ちょっとヘンだよ、エネルギー

2006-10-06 | 経済・社会問題

私はエネルギー問題の専門家ではないのですが、ここ一ヶ月くらいの間に、日本のエネルギー安全保障の問題は、素人目にも、少しおかしな方向へ傾いていっているように見えます。

一つは、ロシア・サハリン州で開発が進んでいた「サハリン2」という石油・天然ガス開発プロジェクトの計画が頓挫したことです。このプロジェクトは、三井物産と三菱商事が他の欧州企業とともに、これまで一兆円近くの資金をつぎ込んで開発を進めてきたのですが、先月20日になってロシア政府が環境問題を理由に、急に開発の中止を申し入れてきたのです(報道)。しかし、この中止要請の本当の理由は、すでに報道でご存知の方も多いと思いますが、ロシアがこの計画に、自国企業を参入させたいからだと言われています。

プーティン大統領は、これまでも政権から独立した動きを取るエネルギー関連企業を政治力で潰すなど(ユコス事件)、国内のエネルギー権益を、自らの支配下に置いて権力基盤の強化を図るような傾向があり、今回のサハリン2の計画中止要請も、たしかに環境問題も一部影響しているようですが、主に政治的理由によるものと見た方が妥当なようです。ご参考までに、この問題の背景について、かつて鈴木宗男議員とともに連座した元外交官の佐藤優さんという人が、ロシアの専門家として一つの見解を示しています。ちなみに、ロシアが一大産油国だということは意外と知られていないようですが、埋蔵量では世界第七位、産出量では何と世界第二位の位置にいます。それだけに、今回の一件は、日本が原油の中東依存から脱却しようとしていた矢先の出来事であり、日本の政府、産業界にとってインパクトが大きいように思えます。

 

もう一つは、日本政府が事実上開発権を握ってきたイランの「アザデガン油田」の開発権が、イラン政府の意向によって無効にされかけている問題です(報道)。イランは、石油埋蔵量で世界第二位、産出量で第四位であるだけでなく、日本にとっても石油輸入先で第四位(総輸入量の15%)の大事な取引先です。ですから、日本政府も、イランと激しく対立するアメリカからの猛反対や、イランの核開発疑惑による国際社会の圧力に逆らってまで、この案件を進めてきた背景がありました。

しかし、ここにきて、イランは、ロシアや中国への開発権譲渡などを理由に、この日本にとって極めて重要なアザデガン油田の開発権を、日本から取り上げつつあります。実は、この背景には、イランの一方的な政策変更だけでなく、日本がアメリカへの遠慮などから、なかなか実際の開発に着手しなかったという日本側の事情もあり(報道)、日本としては、アメリカに逆らってでもこの権益を守るか、アメリカと一体となってほかの地域での権益確保を図るかという二者択一を迫られている側面があるようです。

 

ここ数日、原油先物価格が一時的に下落していますが、大勢においては、石油価格は世界的に需給が逼迫して、上昇傾向にあると言われています。その理由としては、主要な産油国が集中する中東地域の慢性的な治安悪化による供給不安と、中国とインドを筆頭とする途上国における石油需要の爆発的増大という二つの要素が挙げられています。

いまのところ、この二つの要素が石油価格の下落を促す方向へ方向転換する兆候はなく、また日本は、エタノールのような新たなエネルギー資源の開発においても、他の先進国に比べて遅れを取っています。あれほど、無理して汗を流したイラクも、まだまだ石油採掘の話どころではありません。今後、このエネルギー安全保障をめぐる行き詰まりをどのように打開すべきか、日本は正念場を迎えているように見えます。

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北朝鮮の「愛情表現」

2006-10-04 | 地域情勢

男性であれば誰もが、小学校の低学年くらいの時期に、自分が好きだった女の子に対して、その気持ちとは裏腹に、思わず嫌がらせのようなことをしてしまった思い出があるのではないでしょうか。通学時に、後ろからからランドセルを引っ張って転ばせてしまったり、そんなバカなことをやってしまった思い出が一つや二つあるのではないでしょうか。なぜ、こんなことをやるのかというと、それはその子に注目してもらいたいからです。本当にバカなことですが、自分の気持ちをどう表現してよいか分からないので、このような屈折した行動に出てしまうのです。

今回の北朝鮮の核実験に関する宣言も、この男の子が女の子のランドセルを引っ張る行為と少し似ています。男の子の目的が女の子をいじめることではなく、その子に振り向いてほしいということであるのと同様に、北朝鮮の目的は核実験をすることではなく、そのように宣言することによって、アメリカを交渉の場に引きずり出し、金正日政権の体制保証を確約させることです (ご参考:過去の投稿「北朝鮮の核問題」)。ただ、この男の子の比喩と違うところは、今後の状況の進展の具合によっては、北朝鮮が実際に核実験を実施する可能性があるということと、また実際にやってしまった場合は、その政治的インパクトのほか、放射能汚染などの甚大な物理的被害が出る可能性があるというところです(地下核実験でも、技術的な失敗があれば周囲への放射能汚染の危険があります)。

 

この問題の背景には、北朝鮮政府が一貫して、武力による朝鮮半島統一の野望を捨てていないということと、それをアメリカが絶対に容認しないという、朝鮮戦争以来の両国の伝統的な確執があります。そして、いまやこの対立は、両国のメンツを超えて、両国の国益の実質に深く影響するところまで深刻化しています。

アメリカは、金正日政権の存在を、世界と地域の安全保障、国際経済・国内経済の安定、人権問題など、あらゆる観点から、もはや放置できないものとしてとらえてます。その一方で、北朝鮮(政府)は、核兵器開発、通貨偽造、覚せい剤の密輸、外国人の拉致など、政府ぐるみで違法行為に手を染めないと、どうにも体制維持が図れないところまで、経済的にも軍事的にも完全に行き詰ってしまっています。こうしたことから、両国の対立は、もはや抜き差しならないところまで来ているように思えます。

それでも、アメリカが北朝鮮との直接交渉を断り、六カ国協議での交渉にこだわる理由は、直接交渉が決裂した場合(その可能性が高いわけですが)、北朝鮮側は交渉が失敗した責任をアメリカになすり付け、さらにそれを自らの行動をエスカレートさせる口実として利用することが、最初から分かっているからだと言われています。つまり、北朝鮮政府は、米朝交渉という場を、本当の交渉の場として考えているというよりも、アメリカに一方的な要求を飲ませるか、もしくはあえて決裂に導いて、それを口実にさらに行動をエスカレートさせるための政策手段としてしか考えていないということです。このことが、アメリカが米朝協議に応じない理由の一つだと言われています。

 

今回の事態が、今後どのように展開していくのかということは何ともいえませんが、二つのことだけは指摘できるように思います。一つは、今回の北朝鮮の核実験に関する宣言は、アメリカを交渉に引き出すための北朝鮮特有の瀬戸際外交の一環であり、実際に核実験を実行する可能性は極めて低いということです。そして、二つ目は、それでも北朝鮮は、もう失うものはないところまで追い詰められていますから、核実験をしないよりも、核実験する方がメリットがあると判断したら、本当にやってしまうだろうということです。

しかし、北朝鮮は、今回の核実験に関する宣言を、たんなる感情の爆発などではなく、綿密な計算の上で発出したものと思われます。なぜなら、これまで継続して北朝鮮問題を協議してきた国連の安全保障理事会は、今週の2日(月)まで次期事務総長の選出で忙殺されていましたが、時差を含めたちょうど半日後の3日になって、北朝鮮がこの宣言を公表してきたからです。つまり、北朝鮮は、関係国がこの問題を集中的に協議できるように、タイミングを見計らった上で、宣言を公表したように見えるのです(同時に、事務総長選に事実上勝利した韓国政府に、冷や水をかけるという狙いもあったでしょう)。

今回に限らず、北朝鮮政府の行動パターンというのは、一見したところメチャクチャで、狂気さえも感じさせるところがありますが、核開発問題だけでなく、拉致問題などにおける行動パターンをよく見てみると、実に巧みに計算をし尽くしているところがあります。ですから、今回も国際社会は、詰め将棋のように、冷静に諸要素を計算しながら行動することが、相手を利することなく、事態を打開するために必要なのではないかと思います。

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貸したカネは忘れない?

2006-10-03 | 一般

「借りた金は忘れるが、貸した金は忘れない」という言葉は、ときおりお年寄りの記憶力などを揶揄する際に使われることがあるようですが、このような表現は二重の意味で失礼です。なぜなら、すべてのお年寄りがこういう傾向を持っているわけではないですし、また、このような傾向は、老若男女を問わず、かなり多くの人に当てはまるからです。私自身も、気を付けてはいますが、友人との食事代のちょっとしたやり取りなどにおいては、その例外ではないような気がします・・・。

そして、この困った傾向は、世界のあらゆる国の国民性についても、当てはまるように思います。日本人の多くは、第二次大戦中に行ったアジア諸国における行状については、つい忘れそうになりますが、原爆や東京大空襲のことについては、いつまでたっても忘れません。一方、アメリカ人の多くは、原爆や東京大空襲については、ほとんど忘れていますが、真珠湾攻撃のことは、いつまでたっても忘れません。このように、自らの加害行為はさっさと忘れて、被害行為をいつまでなっても忘れない傾向は、日本やアメリカだけでなく、世界中のあらゆる国に共通して見られる傾向ではないかと思います。もちろん、自分が受けた被害を忘れる必要性は全くないのですが、自分が与えた加害行為を忘れてしまうのは、国際関係を不安定にさせる大変困った要素です。

この「借りた金は忘れるが、貸した金は忘れない」という傾向は、おそらく人間の本能に根ざす気質のようなものでしょうから、私たちが個人レベルや国家レベルで、こういう傾向から解放されることはないのかもしれません。しかし、私たちがこうした気質を持っているということを、自覚し、自戒することはできます。そして、そういう自覚と自戒をしっかり持つことができれば、私たちは人間関係だけでなく、外交関係についても、お互いにもっと快適な対外関係を維持できるのではないかと思います。

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国連事務総長の選出

2006-10-01 | 国際社会

今年の年末で、国連のコフィ・アナン事務総長の任期が切れるため、現在、後任の事務総長選びが急ピッチで進められています。

国連の事務総長というのは、世間では、国連で一番偉い人だと思われているようですが、実はちょっと違います。アナン氏は、国連の六つある主要機関のうちの一つである「事務局」の中で一番偉い人ですが、国連機構全体で一番偉い人ではありません。

国連(国連サイト解説)というのは、その形体から言うと、文字通り、加盟国192カ国の結合体(United Nations)です。また、国連というのは、その目的から言うと、世界各国の政府が、平和の維持、貧困の解決など、国際社会の共通利益を図るために、その有志が設立した政府間の協議体のようなものです。ですから、今も昔も国連のオーナーは加盟国であり、加盟国が国連の活動内容を決定しています。それでは、事務総長は何をやっているのでしょうか?

 

事務総長は、192カ国の加盟国が国連を通して実行したいと思っている外交課題の調整業務、いわば加盟国の国益の総合調整のような仕事を、自分のオフィスである事務局(ここに勤務している人が国連職員です)を統率して行っています。具体的には、平和維持と紛争解決、貧困の解消、人権の国際的保障、地球環境保護といったそれぞれの政策分野において、各加盟国が国連を通して何をしたいかという要望を正確に把握し、その要望をどうしたら最も効率的・効果的に実現できるか、そのアイディアに賛成・反対する国はどの程度いるのか等々を見極めながら、できるだけ多くの加盟国が同意でき、なおかつ国連憲章や関係決議の趣旨に合致する政策を加盟国間で形成させるための具体的な提案や調整を行っています。そういう意味で、事務総長というのは、リーダー(指導者)ではなく、コーディネーター(調整者)だと言えます。

しかし、この仕事は、なかなか大変です。なぜなら、192人の個人の利害調整でさえ、すごく大変だと思いますが、相手は192の主権国家の代表であり、それぞれの代表は自国の数十万から億単位の国民の利害を背負っているわけで、ただの192人の個人の利害調整とはワケが違うからです。国連事務総長というのは、そういう極めて複雑で重層的な利害調整を、大した権限もなく進めなければならない大変難しい仕事であるとも言えます。あちら立てれば、こちら立たずということが、毎日起きます。常に不満や文句を言われるし、たとえ褒められたとしても、それは事務総長を言いくるめるための方便だったりします。ですから、これは関係者に聞いた話ですが、国連の中でナンバー2、3くらいまで出世した人の中には、事務総長職の強烈な職務上のプレッシャーをよく知っているから、周囲に事務総長になるよう強く推されても、うまく逃げてしまう人もいるそうです。それだけ、大変な仕事だということです。

 

しかしそれでも、国連事務総長というのは、世界のほとんどの国が参加している国連という場で、国連憲章の趣旨と精神に従って、かなり自由に自分の意見を述べることが許されており、また、問題の性質によっては、かなり広い裁量を与えられて、政策上のイニシアティブを握ることも許されることがあります。またそれだけでなく、国連の外部でも、国家元首クラスの人々が参加する多くの国際会議に招かれ、自由に意見を言う機会を設けられています。ですから、職掌上の権限というのは大きくないのですが、国際社会全体に対する潜在的な影響力というのは、かなり大きいものがあります。だから、国連事務総長になりたいという人も出てくるのです。

そういうわけで、いまのところ、以下の6人の人が名乗りを上げています(おおよそ立候補順、カッコ内は国籍)。

スラキアット・サティアンタイ前副首相(タイ)
潘基文(パン・ギムン)外交通商相(韓国)
シャシ・タルール国連事務次長・広報担当(インド)
ザイド・アル・フセイン王子・国連ヨルダン代表部大使(ヨルダン)
ワイラ・ビケフレイベルガ大統領(ラトビア)
アシュラフ・ガニ元財務相(アフガニスタン)

誰が適任かということについては、それぞれの人の適性もさることながら、これまでの歴代の事務総長の出身地が、欧州→欧州→アジア→欧州→南米→中東(アフリカ)→アフリカという順番で選出されてきたから、今度はアジア地域から選出すべきだということが、加盟国の間でささやかれています。アジア出身の候補者が多いのは、そういう理由によります。また、世界中の様々な立場の国の利害調整をやることから、大国の出身者はあえて避ける傾向があり、そのため中小国の出身者が比較的多くなっています。ちなみに、ジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長・軍縮担当(スリランカ)という人も名乗りを上げていたのですが、昨日になって立候補を取り下げたという報道がありました。

 

事務総長の選出方法というのは、国連安全保障理事会(5常任理事国+10非常任理事国)の勧告に基づいて、国連総会(全加盟国の192カ国)が任命することになっています。しかし、ここにはまた、有名な国連安保理の「拒否権」というものが作用します。つまり、安保理常任理事国であるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国は、自国の気に入らない候補を、最初の段階で拒否できるのです。ですから、国連憲章上の規則によれば、事務総長に選出されるためには、総会を構成する192の全加盟国の三分の二以上の支持と、安保理常任理事国の5カ国すべてと、非常任理事国の4カ国以上の国に支持を受けている必要があるということです。これは、かなり大変な条件です。

この条件から見ると、インドや韓国の人は、微妙な関係にある中国が支持してくれるかどうかが鍵になってきます。ラトビアの人は、親分格のロシアがどう出るかが問題ですし、もう欧州出身者は当分いいというクレームがつく可能性もあります。ヨルダンやアフガニスタンというのは、アジアというより中東に近く、アナン氏の前任のブトロス=ガリ氏が中東出身だったことから、似たような地域から続けて出るのはどうかというクレームがつく可能性があります。また、タイの人は、かねてより有望視されていましたが、先ごろクーデターで崩壊したタクシン内閣の閣僚だったことから、自国政府の支持基盤そのものが薄くなったとも言われています。

安保理では、これまで三回ほど予備投票が行われており、いずれも韓国の潘基文氏が一位につけています。しかし、これまでも過去の事務総長選挙では、直前に予想外の波乱が起きたこともあり、いまだ予断を許さない状況だと言っていいと思います。現時点の動向としては、明日2日に行われる四回目の予備投票で、もし全ての常任理事国が潘氏を支持する意向を示すようであれば、潘氏の当確の流れが固まると言われていますが、もし常任理事国の一国でも潘氏を拒否する姿勢を打ち出すことがあれば、全てが振り出しに戻るとも言われています。

 

最後に、冒頭の問題提起に戻って、国連で一番偉い人は誰かということを考えたいと思います。それは、上に挙げた国連の実情からして、名実ともに、192カ国の加盟国の国家元首だということになるのではないかと思います。またそこで、あえて一人選べとなれば、やはり経済力と軍事力で突出しているアメリカの国家元首であるブッシュ大統領だということになるのかもしれません。ちょっとがっかりかもしれませんが、これが国際政治の現実です。

しかしそれでも、国連の中では、様々な政治的な駆け引きが繰り広げられており、アメリカが好き放題できないようになっているのは面白いところです。次の事務総長には、常任理事国5カ国に支持されると同時に、必要があれば彼らを手玉に取って、国際社会全体の共通利益を推進するような強力な外交手腕を持った人になってほしいと思います。その意味では、アナンさんというのは、なかなかの「したたか者」だったように思います。


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