国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

タミフルと国際安全保障

2007-03-22 | 経済・社会問題

ここ数日、十歳代の人へのタミフル服用の是非が、一部の重篤な副作用の問題から、大きな話題となっています(関連記事)。ここでは、厚生労働省の対応の遅れが話題の中心となっていますが、この対応の遅れを単なる職務怠慢や、厚労省と製薬会社の天下りに関する癒着のためとするとする見方は、やや片手落ちであるような気がします。

もちろん確かにそうした問題も、今回の対応の遅れの一因であるとは思いますが、おそらく最大の理由は、タミフルの信用が落ちてしまうと、もし鳥インフルエンザが変異して、人の間で大流行(パンデミック)が発生した場合、効果的な対応が打ちにくくなってしまうという点にあるのではないかという気がします。かつて第一次世界大戦の末期のスペイン風邪と呼ばれたインフルエンザの大流行では、約5000万人が死亡したとされており、とくにここ数十年の間には、何の理由もなくインフルエンザの大流行が起きていないことから、一部の専門家の間では鳥インフルエンザの突然変異の問題は大きな脅威として映っているようです。

 

すでに北半球では冬が終わり、日本の近隣地域に限って言えば、およそ半年間は鳥インフルエンザの突然変異について、あまり神経質になる必要はなくなりましたが、厚労省の資料専門機関の資料などに目を通すと、私を含め世間一般の鳥インフルエンザに対する皮膚感覚は、ややのんびりしているような気もしないでもありません。世界保健機関(WHO)をはじめ、国連機関では2005年の初秋から専任の統括調整官を任命して本格的な対応を図るなど、国際社会全体の取り組みとしては、かなり緊張感に満ちたものがあり、世間一般の皮膚感覚との隔たりを感じさせます(参考記事1参考記事2)。

私は厚労省の回し者ではありませんし、このようなことを書いてパニックを煽るつもりは毛頭ありませんが、今回の厚労省の対応の遅れには、深い理由があったような気がします。また、その理由について厚労省が詳しい説明をしないのも、風評被害を出さないために意図して説明しなかったような気がしないでもありません。一日でも早く、タミフルに代わる副作用の少ない薬剤が開発され、市販・備蓄されることが求められます。


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中国経済の行方

2007-03-08 | 経済・社会問題

先週火曜(2月27日)に上海の株式市場が暴落し、それにつられて、ロンドン、ニューヨーク、東京などの世界の主要な株式市場が連鎖的に値を下げた世界同時株安は、まだ記憶に新しいところかと思います(参考記事これまでの世界レベルの株式市場の暴落というのは、ニューヨーク市場が発信源となったものがほとんどで、東京市場や、フランクフルト、ロンドン、ミラノのような欧州市場が発信源になったものはあまりありません。ましてや中国の市場が火元になったことは今回が初めてで、その意味では先週の暴落は、中国経済の存在感を否応なく露(あらわ)にしたアクシデントとなりました。

また、今回の問題は中国経済の存在感を示すとともに、その問題点も浮き彫りにしたところがあります。今さらという感じはしますが、中国経済のプラス面の特徴は、その巨大な人口ベースのスケール・メリットにありますが、マイナス面の特徴は、他の経済大国には見られない一党独裁体制に基づく政治による経済の締め付け、つまり政治権力による経済活動への恣意的な干渉と言えるように思います。いくら、改革開放政策が進んだと言っても、この中国の一党独裁体制は、国外から見ても、国内から見ても、中国経済の安定と成長の大きな足かせになっています。

 

今さら言うまでもないことですが、アメリカ、EU諸国、日本といった市場原理を尊重した資本主義経済を標榜する既存の経済大国は、独占・寡占、外部経済(環境問題など)といった健全な市場活動を阻害する要因を除去する目的以外では、あまり経済活動に干渉することをせず、市民の自由な経済活動を原則的に放任することによって、国内・国際レベルの市場から信任を獲得して、安定的な経済成長を達成してきています。そして、この経済活動の自由放任を保障し、内外の市場の信任を獲得する基盤となっているものが、実は政治の自由、つまり複数政党制に立脚する民主主義です。

このような政治の自由がある国では、企業や個人は、民主主義の各種制度(選挙、圧力団体の形成など)を利用して、政治権力と対等に渡り合い、自らの経済活動の自由を確保しています。つまり、政治の自由というのは、国民による経済活動の自由を保証し、商業上のインセンティブを維持する上での不可欠な要素でもあります。政治の自由のある国では、国民は自由に経済活動を行うことができ、そのような経済環境の下では、おのずと国民は労働意欲をかき立てられ、諸外国も投資の魅力にかき立てられ、結果的にその国は大きな経済成長を達成することができます。

 

しかし、ご存知の通り、中国という国には、政治の自由がありません。中国は、長く一党独裁体制を維持しており、国内に政党間の競争が存在しないため、政権党である共産党は、自らの政治的意思によって、市民の経済活動に対して、気の赴くままに恣意的な経済政策(財政政策、金融政策、産業政策など)を執り行ってきました。

このような状況では、国民はヤル気をなくし、諸外国も、中国経済が市場原理以外の政治的要素で動くために、やむなく投資を控えざるを得なくなります。中国経済は、すでに限定的な改革開放政策によって大きな成長軌道に乗っているので、これらの潜在的なマイナス要因はあまり顕在化していませんが、中国の人口と国民の労働意欲を考慮すれば、もしこの国に政治の自由があれば、成長のペースはこんなものではないはずです。

そして、さらなる問題は、この中国が一党独裁体制の国である問題が、今後の中国経済の動向を左右する大きな問題であるだけでなく、巨大な中国経済に左右される世界経済の動向さえも左右する大きな問題でもあるということです。「世界経済を左右する」という意味は、私たちの暮らし(賃金・雇用、消費生活など)を左右するという意味です。その意味で、この中国の一党独裁体制の問題は、もはやイデオロギーの問題ではなく、私たちの生活の実利に関わる問題でもあります。

 

その一方で、確かにこの問題は、一朝一夕では解決しない巨大な問題です。ロシアのような国を見ても、いかに市場経済と民主政が根付くのに時間がかかるか良く分かります。しかし、なぜアメリカが、一世紀近くにわたり世界一の経済大国のポジションを守り続けているのか、なぜ米ドルが世界で最も信用され、最も汎用される通貨であり続けているのか、なぜ世界の頭脳がアメリカに惹き付けられ、ノーベル賞受賞者の数でもダントツでトップなのか、なぜ常に科学技術の最先端を走り続けているのか等々といった問題を考えると、政治の自由が経済成長に果たす役割を過小評価することはできないと思わされます。

その意味でも、中国の民主化は、人権などの政治的観点だけでなく、私たちの生活面における経済的観点からも推進されるべきであろうと思わされます。中国経済の成長が、日本経済の脅威になるという見方もありますが、日本とアメリカの50年来の共存共栄的な関係を考えてみても、一時的な雇用の問題が起きたとしても、長期的には日本経済に大きなメリットをもたらすものと思います。


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