国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

ネポティズム補論

2006-10-31 | 経済・社会問題

前回の投稿で、途上国における悪しきネポティズム(縁故主義)と似た症状が、日本国内にも蔓延しているという話を書きました。書いた後で、ちょっと補足が必要かなという感じがしてきましたので補足します。

日本でも田舎に行くと、その地域社会が血縁・縁故を中心にしたコネクションで支えられている光景を目にすることがよくあります。たとえば、村一番の会社社長と、学校の校長、交番の駐在さんが、みんな親戚だなんてことは、よくあることです。私は、こうしたことは自然の成り行きだと思いますし、まったく悪いことだとは思っていません。かえって、地域社会の活性化、治安の安定に役立っているように思います。

 

ただし問題は、こうした血縁・縁故関係のコネクションの中に、違法行為が介在するようになると、問題の性質が一変するということなんですね。この場合の違法行為とは、選挙法違反、贈収賄、横領、恐喝といった類のものです。もし、こうした問題が皆無なのであれば、地域における血縁・縁故のコネクションというのは、地域の健全な経済発展と治安の安定に大いに貢献するのですが、もしこうした違法行為が介在する場合は、話がまったく変わってきます。

なぜこうした違法行為が問題なのかと言うと、それは法律に違反しているという机上の問題を超えて、利権のネットワークの外側にいる人々の経済・社会・政治的な機会を剥奪し、結果的にこれらの人々の人権を侵害することになるからです。その意味で、前回の投稿で指摘した問題は、提示した具体例などからも明らかかとは思いますが、この違法行為が介在するケースのみを指しています。そして、途上国の地方に行くと、こちらのケースが実に多いのです。こうした犯罪としてのネポティズムによる癒着は、大きくスケール・アップしていくと、最終的には国家レベルの独裁政に発展する場合もあります。その意味で、北朝鮮やキューバ、シリアなどで、独裁政とネポティズムが一体化しているのは偶然ではありません。

要は、ネポティズムも、法律に違反しているかどうかで、問題の性質がまったく変わってしまうということなんですね。しかし、途上国に行くと、先進国で違法行為とされる深刻な問題が、そうした行為を違法行為として特定できる法律が整備されていないことがあり、問題が放置されることがあります。ですから、前回触れたガバナンス支援などは、そうした法律の整備まで、一応仕事の範疇として括っています。今回は、ちょっと退屈な話でしたでしょうか・・・。


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日本は途上国?

2006-10-28 | 経済・社会問題

途上国の多くでは、いわゆるネポティズム(縁故主義)というものが、かなり極端なかたちで社会の隅々にまで蔓延しているのがふつうです。たとえば、地方に行って、ある市長さんみたいな政治家に会うと、たいていの場合、その息子が市内で一番大きな会社の社長をやっていたり、弟がその地域の警察署長だったりと、一つのファミリーがその地方全体を仕切っていたりします。

こうした市長、社長、警察署長のような人々が、その地域でどのような「共同作業」をやっているかというと、市長の選挙と権力基盤は、息子の社長が政治献金を集め、弟の署長が組織的に有権者を軽く脅しつけて、磐石の態勢を固めていたりします。社長の商売は、市長がすべての公共事業を横流しするとともに、同業他社の許認可を取り消し、署長が同業他者に様々な嫌がらせをして、磐石の態勢を固めています。署長の権力基盤と正統性は、市長が法律上の正統性を与え続け、社長が署内の統制に要する資金を用意して固めます。

こうして、鉄のトライアングルのようなものを形成して、その地方一体を一族で私物化して、甘い汁を吸い上げるのですが、こうした「共同作業」は、形態が多少違っていても、これまで訪れたすべての途上国で目撃することができましたし、また政治発展論などの文献を読んでみると、途上国の社会では、ごく普通に見受けられる常態であることが分かります。

しかしながら、よく考えてみると、こうしたネポティズムによる癒着というのは、なにも途上国だけでなく、日本でも見られるようです。最近の福島県のケースでも、兄の県知事と弟の会社社長が「共同作業」をやっていたことが判明しつつあります(参考記事)。また、新たに出てきた奈良市のケースでも、夫の市職員(兼)団体職員と妻の会社社長が「共同作業」をやっていたことが明るみに出てきました(参考記事)。

 

途上国支援の一形態に、「ガバナンス支援」という支援事業があります。内容的には、支援対象国の政治家、官僚、裁判官、企業経営者などに対して、政府機関の健全な統治手法に関する研修を行ったり、健全な統治に必要な法律の整備を支援したり、そのための政府機関の再編などを支援したりします(支援形態の一例)。

現実問題として途上国というのは、程度の差こそあれ、政府が国家全体を半ば私物化しているような独裁政をとっているケースが多く、一般市民の人権擁護の観点からも、巨額の支援資金の横領を防止する観点からも、先進国や国際機関が、途上国に対してガバナンス支援を積極的に行うケースが近年とみに増えています。一時期、ガバナンス支援の正当性については、西欧民主主義の押し付けであるという批判もなされたのですが、今では、ガバナンス支援は「文明や文化、社会背景に関係なく、一人ひとりの国民個人の政治・経済・社会の機会を、平等に極大化させる手段」として、世界的な認知を獲得しつつあります。

 

そもそも、こうしたユニークな支援を途上国にしなければならない根本的な背景には、貧困に根ざす途上国独特の社会条件があります。途上国では、やむなく初等教育制度すら整っていないことが多く、またテレビなどの情報の伝達手段も広く普及していないため、政治家、官僚、裁判官、企業経営者などが、民主主義や市場の自由競争に関するルールにまったく触れないまま大人になり、絶大な政治・経済権力を恣意的に振り回すようになることも多く、こうした支援を、関係者に対して改めて行わなければならない必然性があるのです。言うまでもなく、途上国の経済・社会状態が、ここまで悪化した責任の一端は、18‐19世紀にメチャクチャな植民地支配を断行した当時の列強、今の先進国にあるわけで、その意味では、先進国は今になって当時のツケを支払わされているという見方もできるかもしれません。

一方、日本は、初等教育はほぼ100%普及してますし、テレビや新聞、インターネットなどの情報伝達手段も広く普及しています。しかし、福島県や奈良市のケースを見ると、日本もガバナンス支援を必要としているではないかという気さえしてきます。一体どうしたらいいものでしょうかね・・・。


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一番難しいこと

2006-10-25 | 地域情勢

人にとって、一番難しいことは何でしょうか?大好きなものを食べないで、我慢することでしょうか。大好きな人に会えないのを、我慢することでしょうか。 ― 私は最近、人にとって一番難しいのは、自分の犯したミスを正直に認めることではないかという気がしています。

アメリカのイラク政策が転換する兆しが出てきました。駐留米軍の撤退に向けて、政策上の準備を始めることを、アメリカ政府とイラク政府が合意したのです。これはまだ政策上の準備を始めるという話に過ぎませんから、今後さまざまな紆余曲折も予想され、実際に現地部隊の撤退が始まるのは、まだまだずっと先のことです。しかし、これまでブッシュ政権は、撤退の「て」の字もタブーにしてきましたから、これは大きな潮目の変化と言っていいと思います。

 

ブッシュ政権が、この時期にこのような政策転換の兆候をあえて示した最大の理由は、来月7日に控える中間選挙をにらんでのことです。以前も少し触れましたが、今度の中間選挙では、連邦議会の中で、上院の3分の1、下院全員が改選されることになりますが、最近になって、ブッシュ政権と同じ与党の共和党が苦戦し、野党の民主党が善戦する観測が出始めているのです。これは、アメリカ国民の間でイラク戦争への厭戦気分が広がってきた結果だと言われています。

アメリカの連邦議会は、1994年以来共和党が過半数を制し、これまでブッシュ政権の対外政策における予算請求も、ほぼフリーパスで通してきました。しかし、もし今回民主党が過半数を獲るようなことになると、民主党は議会の予算権を使って、ブッシュ政権の対外政策の息の根を止めることもできるようになります。ブッシュ大統領は、この事態を最も恐れています(報道解説)。

 

イラク駐留の米軍撤退に関して、ブッシュ政権は今のところ、「行程表」という撤退までのタイム・テーブルを、イラク政府と共同で作成していくことを合意した段階にあります(報道1報道2動画付き報道)。ですから、今後、この行程表の内容がどうなるのか、またそれを作成しても予定通りに計画を実行できるのか、まったく未知数なところがあります。しかしそれでも、繰り返しになりますが、撤退の「て」の字を明言したことの意味は、きわめて大きいように思います。

これまでも何度かこのブログで書いてきたことですが、イラク戦争というのは、アフガニスタンを主戦場にした「対テロ戦争」と違って、道義を欠き、すべてにおいて準備不足のまま、ネオコン勢力の暴走で始めてしまった戦争です。ですから、今回このように政策転換を図ったことは、ずいぶん遅すぎた決断ではありましたが、それでも妥当かつ賢明なことです。

ただ、今回ちょっと残念だったのは、この大きな政策転換を、バグダッドに駐留する駐イラク・アメリカ大使と現地総司令官という二人の「役人」に発表させたことです。これほど大きな政策転換は、やはり大統領自らがテレビ演説して発表すべきだったのではないでしょうか。 ― 誰でも自分が間違ったことをしたときに、それを認めるのは大変勇気が要ります。しかし、それができるかどうかというのは、とくに政治家のような公人の場合、政治生命をも左右するインパクトを受けるのではないでしょうか。もし、大統領がテレビ演説で過ちを認めていたら、共和党への支持率も、うなぎのぼりに上がっていたのではないかと考える私は、やはり甘いのでしょうか・・・。 


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オザワれない苦しみ

2006-10-23 | 日本と世界

いまの若い人(!?)は、「オザワる」という言葉の意味を知っているでしょうか。そのむかし、いまの民主党代表、小沢一郎さんが40歳代前半で自民党の幹事長として活躍していた頃、選挙の総責任者として、企業から巨額の政治献金を一気に集め、衆院選で大勝利を収めたことがありました。

 

その後も、竹下登氏(元首相・故人)の後ろ盾を得て、大先輩の宮澤喜一氏(元首相)が自民党総裁選に出たときに、事実上の面接試験を行うなど、かつて小沢さんは、党内だけでなく、政界全体で大変な権勢を誇っていたときがありました。「オザワる」という言葉は、こうした1980年代後半から90年代前半にかけて、小沢さんが自民党の実力者として、のちに新進党のリーダーとして政界を仕切っていたときに流行った言葉で、豪腕をふるって場を仕切る意味で使われた言葉です。

 

 

その小沢さんも、今は苦労しています。もともと、縦横無尽にオザワっていた小沢さんですが、今はすべてがこの人に対して敵対しているように見えます。選挙も、自民党も、民主党の党内問題も、自分の体調も・・・。「オザワる」という言葉の通り、小沢さんは昔から、既存のルールや敵対勢力を、気合や気力でブルドーザーのようにブチ壊して前進していくところがありました。

 

しかし、小沢さんが抱える狭心症という病気は、精神的に頑張ることが、最も症状を悪化させるそうです。そもそも、狭心症というのは、まじめ一徹で、気合の入ったタイプの人がかかりやすいそうです。ですから、小沢さんとしては、気合を入れて現状を打開したい気持ちは山々だと思いますが、それが一番病気に触るというジレンマに立たされています。これまでも、自分の代表就任式や安倍さんの首相就任時のタイミングで発作が出たのは、偶然ではないのでしょう。

 

 

民主党というのは、考えてみればすごく不思議な政党です。あまり右派、左派という分類分けは好きではないのですが、民主党は、政界の右派(旧自由党系)と左派(旧社会党・民社党系)の議員が幅広く参集していて、中道(元自民党系)の人が相対的に少なく、政策における所属議員の右から左へ至る分布を図で示すと、緩やかな凹型をした政党と言えるのではないかと思います。右派が小沢さんや前原さんとすると、中道は鳩山さんや岡田さん、左派は菅さんや江田さんといった感じでしょうか。このことから、民主党の代表というのは、まず党内をまとめることに、ものすごい時間とエネルギーを割かれるような感じがします。また、ついでに言うと、こういう政党が政権を握った場合、一貫性が要求される外交政策も、右に左に大きくぶれる可能性もあります。

 

一方、自民党も、派閥のような「党内党」がたくさんあって、まとめにくいところがありますが、中道保守が一番多く、政策における議員の分布というのは、凸型をした政党と言えるのではないかと思います。だから党の代表(総裁、幹事長)は、真ん中を押さえておけば、大体リーダーシップを取ることができるので、民主党ほどの苦労はないものと思われます。

 

そして、この党の構造の違いは、党をまとめやすい、まとめにくい、といった内部的な問題を超えて、党の命を左右する選挙にも如実に表れてくるのではないかと思います。日本という国は、自民党が常勝している現実からして、国民の最大多数は、意識しているか無意識かに関わらず、やはり中道保守を志向する人が多いように思います。変化よりも安定、現状革新よりも現状維持を志向する人が多いということです。こういう有権者の中で選挙をやれば、民主党のような構造をした政党が苦戦するのは、ある意味では当然のような気がします。私の見方は間違っているかも知れませんが、個人的にはかなり前から、いつまでたっても民主党が伸びないのは、こうした構造的なことが原因にあるのではないかと感じています。

 

小沢さんの悩みは尽きません。小沢さんの顔を見ていると、こちらも苦しくなってきます。しかし、それでも自民党の常勝体制が固定化して、政界に競争原理が働かないのは健全ではありません。私としては個人的に、岡田さんのようなバランスが取れて、なおかつ闘争心のある人にカムバックしてもらって、小沢さんには知恵袋のような役回りをしてもらうのが、小沢さん、民主党、日本の政界全体にとって、よいのではないかという気がしています。これは、小沢さんはダメだという意味で言っているのではありません。ただ、小沢さんのあまりに苦しそうな顔を見て、そんなことを感じました。

 

 


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ライス国務長官の歴訪

2006-10-20 | 地域情勢

コンドリーザ・ライス国務長官が、日本、韓国、中国、ロシアを、主に北朝鮮問題を協議するために歴訪しています。このライス氏という人は、黒人であるということ、女性であるということで、何かと注目を集めていますが、その能力的な優秀さと人当たりの良さも、関係者の間では高く評価されています。おそらく、こういう人は白人であっても、男性であっても、国務長官になったのではないかという気がします。

アメリカの国務長官というのは、日本の外務大臣に相当しますから、このように各国を歴訪して外交を展開するのは当たり前なのですが、今回のライス国務長官の各国への訪問は、それ以上の意味があるように思います。それは、この人が、ブッシュ大統領から全面的に信頼されており、政権内でも多方面から信任を得ており、政権内で影響力がかなり強い人だからです。

要職にある人が、その上司や同僚に信任を得ているのは当然と考えがちですが、どのような組織の中にも、程度の差こそあれ、組織内の抗争のようなものがあります。そして、政治の世界の抗争は、巨大な権力が絡むため、企業などのそれとは比べ物にならないほど、激しく陰湿なものになることは想像に難くありません。その意味で、ライス氏の強みは、そうした抗争に巻き込まれることなく、最高権力者である大統領の個人的な信任を得ている点にあるように感じます。

 

現在のブッシュ政権が発足した当初、政権の外交チームの中では、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官らを筆頭とするネオコン(Neo-conservative, 新保守主義)・グループと、パウエル国務長官(当時)らを筆頭とする国際協調派グループの間で、深刻な政策上の対立があったことはよく知られています。

両者の違いを極めて単純化して言うと、ネオコンは、国際社会でのアメリカの国益を拡張する上で、力(パワー)を信奉し、その圧倒的な軍事力と経済力を駆使して、アメリカにとっての国益上のプラス要因を強化し、マイナス要因を徹底的に排除して、そのプロセスで国際社会の意向や反応をほとんど考慮しないところに最大の特徴があります。一方、国際協調派は、国際社会におけるアメリカの国益を拡張する上で、外交を重視し、まずアメリカの政策に同意・黙認するよう関係国に迫り、そのような対話アプローチが効かない場合にのみ軍事力や経済力を動員するなど、基本的には国際社会のコンセンサスをテコにしてアメリカの国益拡張を図るところに特徴があります。一言で言うと、目的は同じなのですが、その手段が違うということになるかもしれません。

ライス氏は、政権に入る前から、「アメリカは、国際社会の協調を気遣うよりも、まず自身の国益を増進することに全神経を集中すべきである」といったニュアンスの政策提言をしており、当初はどちらかというとネオコン寄りの人物だと思われていました。ですから、2001‐2002年頃の報道では、ライス氏はネオコンであるとレッテルを貼った記事もあったように記憶しています。しかし、同時多発テロがあり、対テロ戦争が始まると、当時の大統領安全保障特別補佐官の立場から、国際テロ・ネットワークを締め付ける世界的な包囲網を構築するため、外交を重視する姿勢も同時に打ち出し、政策的にはネオコンと国際協調派の中間のような立場に身を置くようになりました。そして、面白いのは、両方の立場からあまり嫌われず、逆にかなりの信任を得てきたことです。

 

今では、パウエル前国務長官ら国際協調派の多くの人々が政権から去り、ネオコンの人々も様々なバッシングや情報リークに遭って凋落傾向にあり、政権内の権力闘争の図式も変わりました。しかし、ライス氏は、当初からあらゆる立場の人々から信任を得てきて、今となっては政権の最高幹部の中でただ一人、2001年初めの政権発足時から一貫して、強い影響力をずっと保持し続けている人となりました。この秘訣は、ライス氏の個人的な才覚もあるのだと思いますが、最大の要因はブッシュ大統領からの絶大な信頼にあるのではないかと思います。

この大統領からのあつい信任には、いくつかの理由があるようです。一つは、ライス氏が現大統領の父親のブッシュ・シニア政権のときから、すでにホワイトハウスの幹部スタッフ(国家安全保障会議・ソ連部長)として仕えてきたことです。そして次には、いまの大統領の最初の選挙のときに、ブッシュ氏の外交アドバイザーとして共和党陣営の大統領選挙委員会に入り、外交問題の家庭教師のような極めて近い立場でブッシュ氏をサポートしていたことです。また、さらには信仰上のつながりという精神的紐帯も指摘しなければならないかもしれません。このように大統領とライス国務長官の間には、ほかの政権幹部には見られない二重、三重の職務上、精神的な強固なつながりがあり、これが二人の間の信頼関係を育んでいるように見えます。

 

このような大統領と強い信頼関係にあるライス氏が、日本、韓国、中国、ロシアを次々と歴訪し、今回の問題の締め付けを図っていることは、ある意味では心強いことです。北朝鮮では、いますぐにも二回目の核実験が行われても不思議ではない状況が続いていますが、ライス氏がワシントンに戻って大統領と協議した後、おそらくアメリカは対北朝鮮政策を改めて再編成していくのではないかという気がします。

アメリカの対北朝鮮政策というのは、国際社会全体に多大な影響を及ぼしますが、今後も話し合いの道は絶えず開けておいても、もう北朝鮮政府との取引はしない、そのような内容の政策であればと思います。これまで、北朝鮮政府は、核兵器開発を完全に停止するという国際約束(KEDO)を締結した上で、その背後で核開発を着々と進めるという極めて大胆な背信行為を犯した負の実績があります。また、小さな欺きは数え上げればキリがありません。ですから、もう取引はしない方が賢明です。そして、もはや中国も内心感じ始めている通り、スムーズな政権移行を取り計らうべきときが来ているように思います。そのことが、国際社会だけでなく、北朝鮮の一般市民の人々も、心から望んでいることではないかと思います。


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潘基文氏の苦悩

2006-10-17 | 国際社会

インターネットの世界というのは匿名性が高いせいか、通常では考えられない誹謗中傷が横行することがあり、ちょっとびっくりしてしまうことがあります。とくに、国際情勢を扱う日本のサイトやブログでは、アジアの近隣国に対して、その政府と一般市民を区別することなく、一般的な言い方で中傷する記事も散見され、とても悲しくなります。ここでこうしたことを書くこと自体、何らかの非難の応酬を招く恐れもあるのでもうやめますが、私としては、一部のブログ等にこうした無節操な傾向があることを、ただとても悲しく思うということだけを述べておきたいと思います。

ふだんから、こうしたネット上の傾向に少し敏感になっているところがあるので、あるサイトの標題に、「潘基文外相を一日も早く解任せよ」とあるのを見たときは、ギョッとしてしまいました。しかし、よく確認すると、これはある韓国の新聞の社説の標題であり、また内容をよく読むと、その中身はまったくもってその通りというものでした(社説本文)。しかし、過激な標題です。「辞任を承認せよ」とか、そういうふうにはできなかったのでしょうか。注目を集めるためのテクニックだったのでしょうか。どうでもいいですが・・・。

かくして、国連事務総長というのは、高度の政治的中立性を求められるため、クオリティの高い仕事をすればするほど、多くの国から褒め称えられると同時に、多くの国から批判される宿命にあります。かつて、二代目の事務総長ダグ・ハマーショルド氏は、ある議場でいくつかの大国から公衆の面前で罵倒されたとき、顔を紅潮させながら沈黙を守り、あとで側近に、「これが仕事を達成した証しだ」と告白したことがあったそうです。本当に大変な仕事です。とても、私には務まりそうもありません。誰も私にやれとは言っていませんが。


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憲章7章と制裁決議

2006-10-15 | 国際社会

昨日(米国東部時間14日午後)、国連の安全保障理事会は、北朝鮮の核実験への対抗措置として、経済制裁を主な内容とする決議を全会一致で採択しました(報道記事採択時の協議内容と決議全文)。この安保理決議は、すべての国連加盟国を法的に拘束するので、今後北朝鮮を除く191カ国の全加盟国が、北朝鮮に対する大量破壊兵器の製造・開発に関する全ての物品・サービス・資金の流れを完全に途絶させ、関連する北朝鮮の海外資産も凍結させることになります。ちなみに、この決議が採択された直後、オブザーバーとして安保理に参加していた北朝鮮の国連大使は、「この決議を拒絶する」と言っていましたが、この決議は、上述の通り、北朝鮮以外の191カ国が一方的に実施するもので、北朝鮮の合意を必要とせず、北朝鮮が「拒絶」したくてもできないものです。

このような重大な制裁措置を決定する場合、安保理は徹夜で協議することも少なくないのですが、今回は比較的スムーズに理事国が合意に達しました。その理由は、米中露という今回のキー・プレイヤーが早い段階で、「憲章第7章に基づく制裁措置」を取るという基本的な方向性で一致することができ、その後は7章の枠内で、その内容をどの程度厳しいものにするかという細部の詰めにに、議論の焦点を絞れたからだと思います。ということで、今日はこの国連憲章7章の話題を取り上げたいと思います。

 

国際連合(国連)が、第二次世界大戦の直後に、大戦の惨禍を二度と繰り返さないことを主な目的として設立されたことは、一般によく知られている通りです。そこで、まず戦争を起きないように予防するためには、外交の活発化など外交的手段を確保しておくことが必要になるわけですが、かりに戦争が起きてしまった場合に、それを解決するための物理的な手段も事前に用意しておく必要性が、当時の国際社会で認識されるようになりました。

こうした事情があったため、当時の米英ソなどの主要国と、原加盟国は、将来、かりに戦争行為(類似行為含む)を引き起こす国が出てきた場合、その国に対してその不法行為を物理的に止めさせるために、経済制裁と軍事制裁という強制手段を執行することで合意し、この内容を国連憲章の7章の中に盛り込むことになりました。そういう意味で、国連憲章第7章は、国連の創設目的を体現する「憲章の背骨」ともいえる重要な箇所になります。ちょっと条文を見てみます。

第7章 平和に対する脅威、平和の破壊、及び侵略行為に関する行動
・39条 
安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。
・40条 
事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。
・41条 
安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
・42条 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

 

実は、第7章は51条まであるのですが、43‐51条は技術的な細則や制裁と関係しない規定内容なので、ここでは割愛させていただきます。さて、上記の概要を見てみると、39条は侵略行為等の認定(判定)について規定されています。これは、世界のどこかで不穏な動きがあれば、それが制裁の対象となる行為なのかどうかを、安保理理事国が国際法上の規則に照らして認定するという条項です。ここで、「平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為」のいずれかの認定をされてしまうと、次の40条以降の対抗措置の対象とされます。ちなみに今回、北朝鮮の核実験は、「平和に対する脅威(a threat to the peace)」と認定されました。

40-42条は強制力を伴う対抗措置について規定しています。40条は暫定措置を規定しており、こうした不法行為をやめるように呼びかける勧告・警告措置を一般的には指しています。これが無視された場合、次の41条の経済制裁に進み、それでも無視されたら42条の軍事制裁へと進んで行きます。ちなみに、侵略行為などに対する軍事制裁においては、侵略を行った加害国の戦車や艦艇などが被害国の領内に駐留していれば、国連加盟国は相互の合意に基づいて多国籍軍(国連軍に近いもの)を編成してこれを物理的に叩き、撤退を強制させるか、その存在自体を消滅させることになります。こうした最高レベルにまで達した軍事制裁の事例としては、イラクがクウェートを侵略した行為に対する"湾岸戦争(1991年)"のケースがあります。

このように、不法行為の認定から始まって、暫定措置、経済制裁、軍事制裁と、対抗措置のレベルを徐々に上げて、物理的な圧力を増し加え、対象国に不法行為を放棄させるように促す仕組みを、一般に「集団安全保障制度(collective security system)」と呼んでいます。ですから、憲章第7章を適用するということは、この集団安全保障制度を稼動させることを意味しており、特定の国に対して物理的な圧力を加えることを意味しています。だからこそ、不法行為を行った国は必死になって抵抗しますし、安保理の議論も白熱するわけです。

 

そして、この7章の規定と同じくらい重要なのが、安保理がどのように不法行為を認定し、どのように制裁を決定して行くかという、その表決方式です。こちらは安保理の内規を定めた憲章第5章の中の27条に規定されています(27条3項の後半は制裁と関係ないので割愛します)。

第5章 27条
1項 安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2項 手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。
3項 その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。

この内容を平たく言うと、安保理というのは常任理事国5カ国と、非常任理事国10カ国(2年で改選)の計15カ国で構成されており、39条の不法行為の認定や、40‐42条の対抗措置の決定といった実質事項の決定には、15か国中9カ国以上の賛成票を要し、なおかつ、その賛成票の中にすべての常任理事国の5票の賛成票を含んでいることが、表決の条件として課されているということです。

つまり、これはどういうことかと言うと、実質事項の決定には、常任理事国すべてが賛成するとともに、非常任理事国の4カ国以上が賛成しなければならないということです。ですから、これは裏を返して言うと、常任理事国の米・英・仏・露・中の5カ国は、あらゆる動議を自国の1票で葬り去ることができるということです。この常任理事国の権利を、世間では拒否権と呼んでいます。

 

この拒否権の問題があるために、今回の北朝鮮の制裁決議に関しては、アメリカが中国を必死に説得し、中国も国際社会の中で浮き上がらないように、互いにギリギリの妥協をしました。当初、アメリカは、第7章("Chapter VII")という幅の広い表現をそのまま決議で使おうとしたのですが、それだと41条の経済制裁から42条の軍事制裁に容易にエスカレートしてしまうということで、中国は7章41条("Article 41, Chapter VII")と経済制裁に限定した表現にするようアメリカに迫り、両国がともに妥協して、合意に達したということが伝えられています。

また、今回安保理で目立ったのは、安保理議長の任にあった日本の大島・国連大使の活躍です。安保理の議長というのは、常任、非常任に関係なく1ヵ月ごとのローテーションで各理事国に回ってくるのですが、まったく偶然にも、この10月は非常任理事国に入っていた日本に議長の順番が回ってきていました。ですから、日本の影響力は、非常任理事国として大変限定的なものではありましたが、議長として各理事国の調整に回ることができ、今回の問題におけるプレゼンスをしっかり確保することに、ある程度成功したと言えます。今回の様子を見ていると、国益というのは、派手なスタンド・プレーではなくて、このような地道な努力の積み重ねによって、増進されるものではないかという気がしました。

参考: 国連憲章(和文)国連憲章(英文)


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常識破りのグラミン銀行

2006-10-14 | 経済・社会問題

今年のノーベル平和賞が、バングラデッシュのグラミン銀行(Grameen Bank)と、その総裁、ムハマド・ユヌス氏に授与されました(報道解説)。この銀行のすごいところは、世界最貧国の一つともいえるバングラデシュの中のさらに最貧地域に住む一般市民に、平均総額約7千円程度のお金をローンとして貸し、それで一般市民の家内制手工業的な仕事を手助けして(一例として、借りたお金でミシンを買ってもらって、服を縫製・販売してもらい、現金収入を確保させる等のサポート)、結果的に彼らの生活水準を引き上げ、銀行側も無理な手段を使わずにほぼ100%の返済率を確保し続けているところです。

ふつう最も貧しい国の最も貧しい人々にお金を貸したら、100%返ってこないと考えるのが常識です。しかし、グラミン銀行は、貸出時に借り手とじっくり話をして信頼関係を築き、最後も強制手段のような無理を一切使わずに、ほぼ100%近い返済率を確保しています。そして、もっとすごいことは、こうした成功を20年近くも維持していることです。さらに、もっともっとすごいことは、このグラミン銀行の手法は、いまやマイクロ・クレジット(小規模融資)という途上国開発の一事業部門として定型化し、世界中に普及して、いまや世界60カ国の約4000万世帯もの支援対象に広く普及しているということです。

 

私も国際協力の世界の端っこでご飯を食べてきましたが、この世界では、イベント・プロデューサーのような常識を破る企画力や性善説に基づく楽観主義と、会計監査役のような緻密さと性悪説に基づく現実主義の両方の資質がなければ、うまくやっていけないことを痛感しています。国際協力の世界には、慢性的な資金不足の問題があり、既存のルールに固執する組織や個人がおり、陰湿な足の引っ張り合いのようなものも時にはあって、前者のセンスがどうしても必要だと思わされます。

しかし同時に、数億単位のお金をめぐって利害関係者がうごめき、犯罪まがいの悪事が横行しそうになることもあり、後者のセンスもどうしても必要だと思わされます。ですから、グラミン銀行を創設し、維持しているユヌス氏という人も、いきなり大成功したように見えますが、おそらく陰では様々な辛酸を舐めた末に、あのような耐性の高いスキームを打ち建てることができたのではないかという気がします。

 

これまでの実績を考えると、今回の受賞は遅すぎたくらいではないかと思います。たしかに、マイクロ・クレジットは世界中に普及し始めており、特定の組織と個人に、その功績を帰すには、他の類似団体からクレームが付く可能性もあるのかもしれませんが、今回の受賞は関係者すべてに対して与えられたものとして理解して良いかもしれません。

最後に一つなぞなぞです。グラミン銀行は、主に家庭の主婦に融資して、一家の大黒柱である旦那さんには、お金をあまり貸さないそうです。なぜだか分かりますか? ― 旦那さんに貸すと、すぐに飲んでしまうからだそうです。女性の方が、物事を長期的に考える力があり、現状を打開する意欲と覇気があるとのことです。男よりも女に貸す、これは理論ではなく、実践で明らかになった一つの原則だそうです。面白いですね。


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『24』と現実

2006-10-12 | 一般

私はふだんあまりテレビは見ないのですが、久しぶりに長時間テレビを見て、ちょっと疲れてしまいました。そう、『24』です。ここ数日、深夜にバージョン4を放映していたので、見ていた人もいると思います。いい歳して恥ずかしいですが、私も録画しつつ、結局全部見てしまいました・・・。

有名なテレビ・シリーズなので、詳細を説明する必要はないと思いますが、話の筋書きとしては、圧倒的な国家的危機に対して、対テロ機関のエージェントが命からがら立ち向かって行くというストーリーが、24時間のリアルタイムで進行していくというお話です。だいたい1時間に一回、大きな見せ場があって、4‐5時間に一回、あっと驚く大ドンデン返しが仕込まれており、1つのバージョンが総計24時間もの長さに渡るのですが、いったん見始めると途中でやめるということが大変難しいということは、多くの人が口を揃えて言っています。

 

― かつて私が、アメリカの大学院で国際関係論などを勉強していたとき、安全保障論の世界では有名なR教授という先生の授業を受ける機会に恵まれました。この先生は、同時多発テロが起きるはるか前に、アメリカの対テロ政策のレポートを議会やホワイトハウスに出して警告を発したりするなど、その道ではかなり有名な人で、国防総省やCIA(中央情報局)の顧問も長年務め、現場の実務に通じた人でした。

この先生の授業は、なかなかユニークで面白いものでした。ディスカッションや小テストを頻繁にやるのですが、そのテーマとして、「世界的テロを主導する国の国家元首の暗殺の是非について論ぜよ」とか、「国家的危機に際して、議会承認のない秘密の諜報工作を実施することの是非について論ぜよ」といった、日本の教育機関ではあり得ないような課題が出され、最初の頃は度肝を抜かれました。

 

あまり詳しくは言いませんでしたが、この先生は若い頃から国防総省やCIAの仕事をしていて、こうした問題を積極的に推進する立場にはいなかったものの、様々な判断を下す立場にはいたようです。それだけに話に現実味があり、この国ではこういうことが実際に行われているのだなあ、ということを驚きとともに学んだことを覚えています。

ただ、この先生は、こういうことは本当はやってはいけないという原則論を前提にした上で、それでも何千万という国民の命がかかった場合は、国家安全保障の実務に就いている者は、大変難しい決断を迫られるのだよ、君たちも心の準備をしておいた方がいいよ、ということを諭すために、こうした課題を出した側面がありました。ですから、こういう話をするときの先生の表情というのは、決して楽しそうなものではありませんでした。

 

007シリーズのような現実離れした映画が流行ったせいか、私たちはスパイや工作員のような存在を架空のものとして考えてしまいがちですが、こういう人たちは確かに世界中に数多く存在しており、国家公務員として、ちゃんと国から給料をもらっています。CIAなどでは、堂々と公募で採用活動をやっていて少し驚かされます。

こうした話は、あまり気分のいいものではありませんが、私たちの生活は、ある意味でこういう人たちのお蔭様で成り立っているところがあります。一例として挙げると、少しまえに、イギリスで大規模テロが未然に防止されたことは、まさにこういう人たちの仕事の成果と言えます。

ですから、こういう人たちを嫌うのは、ある意味で筋違いです。しかし、ユートピア的なことを言うようですが、一番良いのは、こういう仕事の必要性そのものがなくなることかもしれません。それでも、こういう工作員の人たちは、大変優秀な人ばかりですから、失業する心配もないと思います・・・。

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計算ミス

2006-10-10 | 地域情勢

昨日の午前10時35分頃、北朝鮮政府は、初めての核実験を行いました。その声明が北朝鮮政府から出て、その地震波が測定された当初は、振動レベルがあまりに弱かったため、本当に核実験なのか疑われていましたが、技術的な失敗を伴ったものであれ、いまでは核実験であったことには違いないという見方が、関係者の間で固まりつつあります。

今後、これが核実験だったことを技術的に確定するためには、複数個所で集めた大気中の粉塵サンプルの放射能濃度を計測するなどして、一週間もかかるそうですが、状況証拠は揃ったということで、すでに国際社会は対策に乗り出しています。

 

今後の国際社会の対応としては、短期スパンにおいては、経済制裁の実行ということになるものと思われます。経済制裁の方式としては、日本にとっては二つの選択肢があり、それらの両方を追求することが可能です。ひとつは日本の国内法に基づく、日本が北朝鮮に対して行う二国間の経済制裁です。このやり方だと、他の国は北朝鮮と交易を継続できるので、あまり大きな実効性は望めませんが、決然とした政治的メッセージを送ることはできます。この方式については、これまでの制裁的な法執行措置に加える形で、新たな追加措置が今朝の閣議で決定されたようです。

もう一つのやり方は、国連の安全保障理事会の決議に基づいて、すべての国連加盟国が北朝鮮に対して行うマルチの経済制裁です。こちらは、北朝鮮をのぞく国連の全加盟国191カ国を法的に拘束するので、これら全加盟国が北朝鮮に対して、貿易・投資・金融・支援における全てのヒト・モノ・カネ・サービスの移動を、究極的には完全に遮断させることもでき、相当の効果が望めます。しかし、過去にはイラクや旧ユーゴスラビアのように、この過酷な経済制裁に長く耐えた国もありますし、こうした徹底的な制裁で最も影響を受けるのは、一般市民層のような社会的弱者だと言われているので、やり方には注意を要します。このマルチの経済制裁に関しては、今のところ、全ての安保理理事国が、限定的ながらも相応の厳しい対応を取ることで基本合意しているようです。

 

また、こうした短期スパンの話と並行して、長期的には、国際社会が北朝鮮に対して、軍事行動を取る方向へ検討を進めることもあると思います。こちらのシナリオは、あまり考えたくありませんが、どのような可能性があるのかということを見てみたいと思います。

一つは、国連安保理が厳しい経済制裁を課すなかで、北朝鮮が新たな一手を打ってきて、安保理が軍事制裁を検討せざるを得なくなるという可能性です。これには、おそらく中国とロシアが相当の難色を示すものと思いますが、北朝鮮の態度によっては、どうにも避けられなくなる可能性があります。しかし、その場合でも、その行動の程度は、核関連施設へのピンポイント爆撃など、限定的なものに抑制されるものと思われます。

ちなみに、中国とロシアが、ことさらに北朝鮮をかばう理由の一つは、このような制御不能の攪乱要因がアジア地域で暴れていることは、アメリカのアジアにおける覇権を少しでも削ぎ落とすうえで有益だからです。しかし、北朝鮮が正式な核保有国になることは、中国とロシアが絶対に許容できないことであり、今回の核実験によって、両国は極めて悩ましい立場に立たされることになりました。

 

もう一つの軍事オプションは、アメリカによる単独の軍事行動です。こちらは、イラク戦争のように、何らかの物証をでっち上げたり、公海上で北朝鮮船舶を挑発して戦争を始める口実を作るなど、着手するためのきっかけは無数に想定されます。アメリカは、これまでイラクから足が抜けないという理由で、北朝鮮に対して軍事オプションを取ることには消極的だったようですが、今回の核実験は、これまでの単なる核疑惑といった玉虫色の状況を一変させたように思えます。その意味では、石油利権は絡みませんが、アメリカにとって北朝鮮問題は、イラクやイランよりも重要度と緊急度の高い案件として認識されるようになったことは、ほぼ確実なのではないかと思います。

ただし、アメリカの軍事行動と言っても、全面的な侵攻などは、人的被害と財政負担が大きすぎるので、おそらく避けるのではないかと思います。むしろ、そうした全面的な方法よりも、問題の所在は政権にあるのですから、この政権を物理的にリムーブするという点に、政策手段が絞られてくるのではないかと思います。とは言っても違法な手段は取れませんから、何らかの合法的な手続を踏み、国際世論を味方に付けたうえで、そうした手段に訴えるということが、可能生としては考えられるように思います。

アメリカは、最近でこそ、こうした手法を控えてきましたが、1960‐80年代には世界中で、このような方法を頻繁に採用し、次々と「成功」させてきた実績があります。これまでの現代史の中で、アメリカがこうした手法を取って、失敗したのはキューバのカストロ議長と、最近では国家元首ではありませんがオサマ・ビン・ラディンのケースだけで、他はすべて「成功」したとさえ言われています(亡命させるケースを含む)。北朝鮮政府は、きわめて計算高いことで有名ですが、今回の核実験は、こうしたアメリカの過去の手堅い「実績」を計算にしっかり入れていたのか、いささか疑問を感じます。もしかしたら、計算ミスをしているのではないかという気もします。

いずれにしろ、私は個人的には、人が大勢死ぬ方法はやめてほしいと思っています。しかし、今回の問題は、これ以上事態を静観することは賢明ではないということを示しているようにも思いますし、国際社会の共通利益のみならず、北朝鮮市民が置かれている非人道的な状況を考えても、問題をこれ以上放置するのはどうかという気がします。問題は、その手段なのだと思います。外見上強そうな手段が効果的とは限りませんし、外見上弱そうな手段が効果がないとも言い切れません。ここは、知恵の出し所です。

 

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