国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

計算ミス

2006-10-10 | 地域情勢

昨日の午前10時35分頃、北朝鮮政府は、初めての核実験を行いました。その声明が北朝鮮政府から出て、その地震波が測定された当初は、振動レベルがあまりに弱かったため、本当に核実験なのか疑われていましたが、技術的な失敗を伴ったものであれ、いまでは核実験であったことには違いないという見方が、関係者の間で固まりつつあります。

今後、これが核実験だったことを技術的に確定するためには、複数個所で集めた大気中の粉塵サンプルの放射能濃度を計測するなどして、一週間もかかるそうですが、状況証拠は揃ったということで、すでに国際社会は対策に乗り出しています。

 

今後の国際社会の対応としては、短期スパンにおいては、経済制裁の実行ということになるものと思われます。経済制裁の方式としては、日本にとっては二つの選択肢があり、それらの両方を追求することが可能です。ひとつは日本の国内法に基づく、日本が北朝鮮に対して行う二国間の経済制裁です。このやり方だと、他の国は北朝鮮と交易を継続できるので、あまり大きな実効性は望めませんが、決然とした政治的メッセージを送ることはできます。この方式については、これまでの制裁的な法執行措置に加える形で、新たな追加措置が今朝の閣議で決定されたようです。

もう一つのやり方は、国連の安全保障理事会の決議に基づいて、すべての国連加盟国が北朝鮮に対して行うマルチの経済制裁です。こちらは、北朝鮮をのぞく国連の全加盟国191カ国を法的に拘束するので、これら全加盟国が北朝鮮に対して、貿易・投資・金融・支援における全てのヒト・モノ・カネ・サービスの移動を、究極的には完全に遮断させることもでき、相当の効果が望めます。しかし、過去にはイラクや旧ユーゴスラビアのように、この過酷な経済制裁に長く耐えた国もありますし、こうした徹底的な制裁で最も影響を受けるのは、一般市民層のような社会的弱者だと言われているので、やり方には注意を要します。このマルチの経済制裁に関しては、今のところ、全ての安保理理事国が、限定的ながらも相応の厳しい対応を取ることで基本合意しているようです。

 

また、こうした短期スパンの話と並行して、長期的には、国際社会が北朝鮮に対して、軍事行動を取る方向へ検討を進めることもあると思います。こちらのシナリオは、あまり考えたくありませんが、どのような可能性があるのかということを見てみたいと思います。

一つは、国連安保理が厳しい経済制裁を課すなかで、北朝鮮が新たな一手を打ってきて、安保理が軍事制裁を検討せざるを得なくなるという可能性です。これには、おそらく中国とロシアが相当の難色を示すものと思いますが、北朝鮮の態度によっては、どうにも避けられなくなる可能性があります。しかし、その場合でも、その行動の程度は、核関連施設へのピンポイント爆撃など、限定的なものに抑制されるものと思われます。

ちなみに、中国とロシアが、ことさらに北朝鮮をかばう理由の一つは、このような制御不能の攪乱要因がアジア地域で暴れていることは、アメリカのアジアにおける覇権を少しでも削ぎ落とすうえで有益だからです。しかし、北朝鮮が正式な核保有国になることは、中国とロシアが絶対に許容できないことであり、今回の核実験によって、両国は極めて悩ましい立場に立たされることになりました。

 

もう一つの軍事オプションは、アメリカによる単独の軍事行動です。こちらは、イラク戦争のように、何らかの物証をでっち上げたり、公海上で北朝鮮船舶を挑発して戦争を始める口実を作るなど、着手するためのきっかけは無数に想定されます。アメリカは、これまでイラクから足が抜けないという理由で、北朝鮮に対して軍事オプションを取ることには消極的だったようですが、今回の核実験は、これまでの単なる核疑惑といった玉虫色の状況を一変させたように思えます。その意味では、石油利権は絡みませんが、アメリカにとって北朝鮮問題は、イラクやイランよりも重要度と緊急度の高い案件として認識されるようになったことは、ほぼ確実なのではないかと思います。

ただし、アメリカの軍事行動と言っても、全面的な侵攻などは、人的被害と財政負担が大きすぎるので、おそらく避けるのではないかと思います。むしろ、そうした全面的な方法よりも、問題の所在は政権にあるのですから、この政権を物理的にリムーブするという点に、政策手段が絞られてくるのではないかと思います。とは言っても違法な手段は取れませんから、何らかの合法的な手続を踏み、国際世論を味方に付けたうえで、そうした手段に訴えるということが、可能生としては考えられるように思います。

アメリカは、最近でこそ、こうした手法を控えてきましたが、1960‐80年代には世界中で、このような方法を頻繁に採用し、次々と「成功」させてきた実績があります。これまでの現代史の中で、アメリカがこうした手法を取って、失敗したのはキューバのカストロ議長と、最近では国家元首ではありませんがオサマ・ビン・ラディンのケースだけで、他はすべて「成功」したとさえ言われています(亡命させるケースを含む)。北朝鮮政府は、きわめて計算高いことで有名ですが、今回の核実験は、こうしたアメリカの過去の手堅い「実績」を計算にしっかり入れていたのか、いささか疑問を感じます。もしかしたら、計算ミスをしているのではないかという気もします。

いずれにしろ、私は個人的には、人が大勢死ぬ方法はやめてほしいと思っています。しかし、今回の問題は、これ以上事態を静観することは賢明ではないということを示しているようにも思いますし、国際社会の共通利益のみならず、北朝鮮市民が置かれている非人道的な状況を考えても、問題をこれ以上放置するのはどうかという気がします。問題は、その手段なのだと思います。外見上強そうな手段が効果的とは限りませんし、外見上弱そうな手段が効果がないとも言い切れません。ここは、知恵の出し所です。

 

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