国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

ロシアの闇

2006-11-26 | 地域情勢

私は1966年生まれなので、ソ連という国がどんな国だったか、多くのさまざまな記憶があります。感覚的なイメージで言うと、ブレジネフ書記長の時代は生気のない灰色のイメージ、その後のアンドロポフ書記長の時代は、この人の前職がKGBの議長だった事情や、在任中に大韓航空機撃墜事件があったために、なにやら暗黒のイメージがあります。

その後チェルネンコ氏を経て、ゴルバチョフ書記長に政権が渡り、ソ連は改革解放政策へ一気に舵を切るとともに、冷戦への敗北を認めて米国と和解し、冷戦に幕を引きます。しかし、この改革開放路線が国内の経済的、政治的な大混乱を生み、それがもとで共産党指導部の中にも制御不能の分裂が生じるようになって、最終的にソ連は国家として消滅することになります。

ロシアとなってからは、ソ連時代の暗いイメージから脱却して、右往左往しながらも、必死に市場経済制へ移行し、政治の面でも複数政党制を導入して、まともな選挙をするなど、明るい普通の国のイメージに切り替わったような感じがありました。政府自身も、政府が国家を私物化する計画経済、独裁制を打ち捨てて、国民が国家の主人公となる市場経済、民主制へ移行しようとする明確な意思を持っていたように思います。

 

しかし、プーチン氏が大統領になってからのロシアは、明らかに様子がおかしい感じがします。ロシアという国が、かつてのソ連のような暗黒の国家に回帰しようとしているかのような感じさえします。たしかに経済制度としては市場経済を導入していますが、エネルギー産業のような基幹産業がプーチン大統領の側近や取り巻き連中に牛耳られる動きが目立つなど(関連記事)、市場経済に必須の自由競争の要素が消えつつあり、もはやロシアの経済制度が市場経済制と言えるのかどうかも、だんだん分からなくなってきたような気がします。

そして、いわゆる"先進国"として信じられないことに、今のロシアでは、反体制派と目される人々が、国内で、また海外へ逃げても次々と殺される事件が相次いでいます。先月には、チェチェン紛争について政権の方針を批判していたジャーナリストが、モスクワの自宅で殺害されました(関連記事)。また、今週は元情報部員とされる男性が、亡命先の英国で毒を盛られて殺害されました。こうした手法は、旧ソ連の情報機関KGBがやっていたやり方と同じであることが前々から指摘されていますが、今回亡くなった元情報部の男性は、遺書の中で政権の関与をはっきり明記しているようです(関連記事)。

 

政治制度としての民主制、独裁制、また経済制度としての市場経済制、計画経済制というものを、かつて私は形式的な統治制度としか思っていませんでした。しかし、いくつかの独裁制や計画経済制を採用している国を訪れ、そこで生活をするにつれて、こうした制度は形式的なものではなく、政府が国家というもの、また国民というものをどのように捉えているかという国家の意思によって導かれる、実体を伴った支配制度であると思うようになりました。

つまり、もし政府が、国民こそが国家の所有者であり、政府は国民の僕(しもべ)であることを認めるのであれば、国民が自由に経済取引を行うことができる市場経済制が導かれ、また国民が自由に政府を選択できる民主制(複数政党制)が導かれることになります。当たり前のことと言われればその通りなのですが、最初に制度が設定されるのではなく、最初に政府の意思があり、そこから制度が導かれるのです。そして、どちらかと言うと、経済制度が政治制度を導き、その逆は稀であるということも指摘できるかと思います。

 

一方、もし政府が、政府が国家の所有者であり、国民を政府の僕として利用するつもりであるならば、おのずと独裁制が導かれます。経済制度としては、二つの行き方があります。一つは、政府に忠実な財閥だけに市場を独占させて、市場の利益を吸い上げる、形式だけの権威主義的な市場経済制が導かれる場合であり、もう一つは、政府が経済活動を完全に管理する計画経済制が導かれる場合です。今のロシアは前者に近く、昔のソ連や中国、今の北朝鮮は後者と言えます。両者に共通している点は、政府が国民経済を私物化して、政府の都合に合わせて国民の利益を恣意的に搾取しているところです。

ちなみに、計画経済制というのは、もともとマルクスやレーニンが想定していたものとしては、市場経済制によって生じる経済格差を是正し、国民の生産活動による利益を、国民の間で公平に分配する仕組みとして考案されたものでした。しかし、ソ連や中国などで実際に社会に導入した結果、理論上に想定していたものとは、様相が全く異なる極めて不公平で不適正な制度に変質してしまいました。

その理由は、たとえば一億人の国民が生み出した利益を公平に分配するのに、同じ一億人の国民自身が利益の分配に参加することは物理的に不可能で、どうしても一握りの官僚が利益の分配に当たらざるを得なかったという点に見出すことができます。この利益分配のプロセスに、意図しなかった過誤や恣意的な不公正がどんどん入り込み、結果的に分配が著しく不公平・不適正になってしまったということです。

いずれにしろ、政府が国民の経済活動を管理する計画経済を導入するためには、国民の経済的な欲求を徹底的に封殺する必要があり、そのためには独裁制(一党制)を導入して、国民が政治活動に参入して統治制度を変更するような試みを阻止しなければならなくなります。そのため、経済制度としての計画経済制は、政治制度としては、おのずと独裁制を必要とします。これが、第二次大戦後、計画経済性を採用した国が、例外なく独裁政を採用した理由とも言えます。

 

ロシアは、その母体であるソ連の末期以来、政治制度としては民主制、経済制度としては市場経済制へ舵を切ったはずでした。しかし、プーチン大統領が政権を握るようになると、その経済制度は、形としては市場経済制を維持しつつも、政府が市場活動の大きな部分を占める財閥を支配下に置くようになり、もはや実質的には市場経済制とは言えないものに変質しつつあります。

当然、こんな不公平なことをすれば、公正な自由競争を望む市場のプレーヤーから文句を言われるようになります。そうなると、これらの批判を封じるために、反政府勢力に有形無形の圧力をかけ、時には政敵を消すような、外見な形式は民主制でも、内面の実質は独裁制の政治制度を採用せざるを得なくなっていきます。

そのような意味では、プーチン政権のやっていることは、実に分かりやすく辻褄が合っているのですが、こんな恣意的な統治をやっていれば、長期的には国民経済の生産能力を落とし、外国からも信頼を失って投資も冷え込むことになります。今のところ、どうにかWTOへの加盟も内定し、チェチェン紛争も外見上鎮静化しているように見えますが、政治と経済の根幹的な部分は、すでに少しずつ腐りかけているように見えます。なんか今のロシアが、消滅する少し前のソ連とダブって見えるのは、私だけでしょうか・・・。


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ミルトン・フリードマン

2006-11-22 | 経済・社会問題


ちょっと日数が経過してしまった話題ですが、先週末、新古典派経済学におけるシカゴ学派の巨匠、ミルトン・フリードマンが亡くなりました。私は経済学についてはド素人なので、彼の学説に対しても完全に理解しているとは言えず、また精密な経済学上の議論もできないのですが、彼の主張した学説は、実に多くの示唆に富んでいたように思います。

彼の言わんとしたことは、ものすごく単純化して言うと、市場(マーケット)というのは、社会におけるモノやサービス等の流通、つまり需要と供給を自動調整する自律機能を持っているのだから、余計なことをやらずにただ放っておけばすべてうまく行くのだ、だから景気対策についても、財政政策は百害あって一利なしで、金融政策だけやればよいのだ、ということではなかったかと思います。当然のことながら、フリードマンはこの学説を数理的に証明した上で主張しており、この彼の経済政策に対する考え方は、一般にマネタリズムと呼ばれています。

 

少し補足しながら進めますと、ここで言う財政政策とは、政府から市場へお金を流す歳出面で言えば、社会保障や公共事業の政策であり、市場から政府にお金を吸い上げる歳入面で言えば、主に税制を指します。また金融政策とは、通貨供給量の調整と公定金利の調整を指します。今日の世界の多くの政府と中央銀行は、これらの政策手段をうまく使い分けて、インフレやデフレにならないように、また特に深刻な不況に陥らないように、景気変動の波の揺れ幅を抑えながら、緩やかな経済成長を達成しようと努めているのが実状だと思います。一方、マネタリズムというのは、財政政策は市場の機能を歪めるだけという立場に立って、原則的にこれを排し、金融政策だけで景気対策を図る考え方です。

 

もともと、今の先進国の多くが資本主義経済に脱皮していった近代においては、アダム・スミスも説いた市場の需給自動調整機能に全幅の信頼を置いていたので、ほとんどの国は景気対策として財政政策を採用することを真剣に考えることはしませんでした。しかし、失業などの労働問題が大きな社会問題になると、政治目的からも社会保障政策を重視する国が出てくるようになり、1929年のアメリカのバブル崩壊に端を発した世界恐慌で、失業問題が国家経済に壊滅的な打撃を与えるようになると、公共事業で雇用を創出しながら、社会保障を拡充するなど、各国の景気対策における財政政策の比重が飛躍的に高まるようになりました。

このときの破滅的とも言える失業問題は、当時の政権担当者たちに、市場には需給を自動調整する機能はあるが、現実世界では賃金は簡単に下がらないので、市場に失業問題を解決する機能はほとんどないということを知らしめることになりました。このような大混乱の中、メイナード・ケインズは、財政政策と金融政策をミックスすることによって、市場の利点を引き出しながら失業問題に対応するというケインズ経済学の考え方を主張して、注目を浴びるようになりました。

 

ケインズ経済学の考え方は、壊滅状態にあったアメリカ経済を復活に導いたため、一時は経済運営の方法として、世界中の多くの国々から評価されるようになりました。しかし第二次大戦が終わって、先進各国の経済成長が一息ついた1970年代に入ると、ケインズ経済学の政策を導入していた先進国の一部で、スタグフレーションというインフレと不況の症状が同時に現出する奇妙な経済現象が発生するようになりました。ここで出てきたのが、フリードマンらの提唱するマネタリズムという金融政策に依存した経済運営の方式で、財政政策と金融政策の両方を併用するケインズ経済学を、市場の健全な働きを阻害する邪道な政策であるとして、激しく批判するようになりました。

マネタリズムの考え方は、その後サプライサイド経済学といった市場の供給面が経済パフォーマンスを決定するという経済政策の考え方に強い影響を及ぼし、この考え方は、当時スタグフレーションにはまっていたアメリカでは「レーガノミクス」という形で、またイギリスでも「サッチャリズム」という形で、それぞれ当時の指導者の名を冠されて導入されていきました。これらの国々のサプライサイド経済学に基づく経済政策は、フリードマンのマネタリズムと内容的に同じものではありませんでしたが、財政規模を縮小することによって民間市場を相対的に拡大し(いわゆる「小さい政府」の経済政策)、市場の生産性をブーストして、税収の確保と経済成長を同時に達成することを狙っていました。

しかし、この試みは、特にアメリカでは、冷戦下での軍拡によって財政支出が異常にかさむなど、政策の実証研究を不可能にする要素が多々出てきたため、当初の政策目標の多くを達成することなく終わりました。ただし、この間、先進諸国からはスタグフレーションの症状が消えていきましたので、マネタリズムの正当性が、部分的に証明されたということは言えるのかもしれません。

ちなみに、この時代、日本はスタグフレーションの影響下にはありませんでしたが、レーガン大統領やサッチャー首相と親しかった中曽根首相は、当時のトレンドに影響を受け、国鉄(現JR)、電電公社(現NTT)、専売公社(現JT)などの公共機関を次々と民営化しています。また言うまでもなく、このマネタリズムの潮流は、先般の小泉さんによる郵政民営化とも無関係ではありません。

 

これらケインズ経済学とマネタリズムの考え方は、今もそれぞれ高く評価されるとともに、それぞれ批判もされており、議論は決着していません。日本は伝統的にケインズ経済学的な景気対策を信奉していますが、小泉さんや安倍さんはマネタリズムの源流である新古典派的な市場重視の政策を積極的に取り入れる立場を取っています。アメリカについて言えば、共和党は新古典派に近く、民主党はケインズ経済学に近い立場です。

これらケインズ経済学とマネタリズムの二つの考え方の特徴は、世間的なふつうの言い方をすれば、ケインズ経済学は市場と政府を同じくらい信用しており、マネタリズムは市場を信頼し、政府を信頼していない考え方だと言えます。また、ケインズ経済学は弱者救済に熱心に見えるようで、政府の一方的で高圧的な税制を容認する政策であり、マネタリズムの政策は弱者切り捨てに見えるようで、政府の強権から国民を守る政策であるとも言えます。

また、マネタリズムの要素を強化すると、政府の経済に対する統制が必然的に緩くなっていき、ケインズ経済学の要素を強化すると、政府の統制が自ずと強くなっていくということも言えます。さらには、マネタリズムの要素を極限まで強化すると社会の弱肉強食が徹底しますが、ケインズ経済学の要素を極限まで強化すると究極的には市場が消滅し、政府が経済を完全に統制する計画経済に至るということも言えるかと思います。

このことからも、資本主義の市場経済の国が政治体制として民主政を採用し、社会主義(共産主義)の計画経済の国が独裁政を採用するのは偶然ではないということが、改めて分かります(ケインズ経済学は計画経済ではありませんが)。ですから、この問題を突き詰めていくと、経済政策の問題を超えて、政治体制や政治思想、個人の人権と公益のバランスの問題にも発展し、究極的には個人の社会的な価値観にも行き着くことになります。

 

実は、ミルトン・フリードマンの両親は、ウクライナ出身の労働者階級のユダヤ人で、彼が移住先のアメリカで経済学者の卵として研鑽を積んでいたとき、彼の親戚の一部はスターリンの圧政や、ヒトラーのホロコーストで命を落としたと言われています。そして、フリードマン自身は、その自由の国アメリカで血のにじむような努力をして、15歳で大学を卒業した後、34歳の若さでシカゴ大学の教授になっています。そのため、彼の独特のルーツと激しい生き様が、政府に対する強い不信感と、市場に対する厚い信頼を最大の特徴とするマネタリズムの根本思想を形成したと言われることもあります。

その一方で、フリードマンは、自由競争を尊ぶアメリカで、競争に負けてしまった人たちには冷淡だったという話も聞いたことがあります。たとえば、職にあぶれた黒人の青年を、「努力が足りない」という一言で片付けたという逸話も残っています。たしかに、フリードマンは経済学者として自立した後も、アメリカ国内で転職を余儀なくされるほどの深刻なユダヤ人差別に遭っており、そのようなことを言うだけの努力はしてきたのかもしれません。しかし、地球上のすべての人が、フリードマンのような天賦の才能に恵まれているわけではありません。世の中には、どれほど頑張っても人生がうまく行かないということで、泣いている人たちも大勢いるのです。そのことを、フリードマンに聞いてみたいと思っていましたが、もう永遠の世界へ旅立ってしまいました・・・。

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ジャイアンとしてのアメリカ

2006-11-17 | 経済・社会問題

現在、ベトナムのハノイでは、APEC(アジア太平洋国際協力会議 Asia Pacific Economic Cooperatioon)という国際会議が開催されています。これまで閣僚級会合が開催され、明日から首脳会議が始まる予定なので、すでに安倍さんもハノイに入ったようです。

APECは、アジア・オセアニア諸国・一部地域(台湾含む)、アメリカ諸国、ロシアをメンバーとして、貿易・投資の自由化と円滑化、経済技術協力の推進、安全保障の確保について話し合うことを目的にした、緩やかな政府間協議体です。カチッとした国際機関でもなければ、不定期会合を繰り返す単なる会合でもないので、協議体、もしくはフォーラムという表現が一番しっくりくるように感じます。

 

首脳会合でカウントすると、今回で14回目を数えることになったAPECですが、今回は、貿易の自由化促進、北朝鮮の核問題が主要議題となる見込みです。このうち、貿易の自由化については、休止状態のWTOのドーハ・ラウンドの再開方法のほか、APECの全参加国による新たなFTA(自由貿易協定)の構想についても話し合われているようです。

様々な議題の中でも、このAPEC参加メンバーによる新しいFTAの話は、なかなか興味深い要素を含んでいるように見えます。FTAというのは、固有名詞ではなく、二カ国以上の国の間で、関税などの貿易障壁を互いに減らし合って、互いにより好条件で貿易をするための貿易協定を指していますが、これまで無数の二国間FTAが世界中で締結されているほか、NAFTA、EUといった大規模な複数国間FTA の事例も多数あります(参考資料)。今回のAPECでは、こうしたものの一つとして、APECメンバー国がすべて参加したFTAAP(アジア太平洋FTA)というものを作ろうかという話し合いをしているのです。

 

こういう議題が話し合われること自体は、はっきり言って面白くも何ともありませんが、面白いのはこの構想が出てきた経緯です。FTAAP構想が出てきた背景には、まず最初に中国が、独自のイニシアティブを振るって、中国、日本、韓国、ASEAN諸国10カ国の13カ国で、中国を中心にしたFTAを作ろうとした経緯があるのですが、中国の存在感の大きさに脅威を覚えた日本が、この中国中心の枠組みにインドとオーストラリア、ニュージーランドを引っ張り込んで、中国のリーダーシップを中和する「東アジア経済連携協定」という構想を独自にぶち上げた経緯があります(参考記事)。

そこに、「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と、太平洋の向こう側から割って入ってきたのがアメリカで、実は今回のFTAAP構想のウラには、この巨大なアジアFTA構想に対して、クサビを打ち込みたいアメリカの思惑があるのです。ですから、アメリカにとっては、APECという枠組みは、アメリカのFTA戦略からすれば、このアジア地域のメガFTA構想に入り込むための方便なのです。そのため、FTAAP構想は、アメリカ、オーストラリアなど以外の国々は、あまり真剣に受け止められていないようです(参考記事)。

 

思えば、APEC自体も、もともとはオーストラリアやマレーシアの提唱で、東アジア、東南アジア、太平洋地域の国だけが参加する予定だったのに、途中から「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と、アメリカが割って入ってきた経緯があります。ですから、今回のFTAAP構想は、APECの立ち上げのときのアメリカの干渉と同じ性質のものと言えます。誰かが何かをやっていると、放っておかないで、かならず「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と首を突っ込んでくるアメリカ。ホント、ジャイアンみたいですね。


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ミャンマー問題

2006-11-14 | 地域情勢

国連の事務総長が退任する直前には、歴史的な国際紛争が解決に向かって一気に加速するという興味深い現象が見られることがあります。これは、おそらく退任する事務総長が、自身の功績を具体的な形にして残したいとか、次期事務総長にスムーズな引継ぎをしたいとか、様々な動機が絡んでいることが考えられますが、大国間の駆け引きが絡んでいる側面もあり、本当のところはよく分かりません。

かつて、ペレス・デ・クエヤル事務総長(1982‐91年)は、退任直前の91年の暮れに、長年続いていたカンボジア、エルサルバドルの内戦を終結させる和平合意を次々と個別に取り付けて、次のブトロス・ブトロス=ガリ事務総長(1992‐96年)に引き継いだことがありました。あいにく、ブトロス=ガリ氏は、ボスニア紛争の収拾方法をめぐってアメリカと対立状態に陥り、五年一期だけで退任に追い込まれたので、このような地域紛争の和平工作にじっくり腰を据えて取り組む間もなく、現在のコフィー・アナン事務総長(1997‐2006年)に急ぎ引き継いだ経緯があります。

 

アナン事務総長の場合、紛争解決分野の大きな案件としては、これまでダルフール紛争、コソボ紛争、東ティモール和平などに特に力を傾注してきた観がありますが、このうちダルフール問題については次期持ち越し、東ティモール問題はほぼ決着、コソボ紛争については大方決着する見込みでしたが、独立問題に関する協議がセルビアの国内問題の事情で来年以降にずれ込んだため、次期持ち越しとなりました。そして、これらのほかに、アナン氏が継続的に力を入れてきた問題の一つに、ミャンマー問題があります。

ミャンマー問題は、1988年に社会主義政権を倒す形で軍事独裁政権が樹立され、90年に民主的な総選挙が実施されたにも関わらず、軍政が選挙結果を無視して、選挙に勝利したアウンサンスーチー氏と彼女の政党の政治活動を禁止したために、深刻化した経緯があります。このミャンマー問題の解決が遅れている背景には、国際社会の関心の薄さが一因としてありますが、さらにその裏の背景には、カレン民族による独立紛争などの少数民族の問題、東南アジア最大の麻薬問題といった、解決に腕力(≠暴力)を要する問題に対して、現在の強権的な軍政以外の政権が、しっかり力を振るうことができるのか、国際社会の一部が不安を感じているという事情があります。アウンサンスーチー氏の政党を、国民の多くが今も支持していることは疑いないのですが、果たしてこの民主的な政党が、自分を迫害してきた軍や警察をしっかり統率して、少数民族問題や麻薬問題をしっかり管理していけるのかという点について、国際社会が少し心配をしているということです。

 

ですから、あまり安易で急速な民主化は、かえってミャンマーの国内情勢と、周辺情勢を悪化させる可能性があるため、ほかの東南アジア諸国や、中国のような地域大国も、その関与にはやや消極的なところがありました。しかし、ここ1‐2年ほどの間に軍政は、国内に駐在する各国の外交団を次々と退去させたり、首都を急に山奥の地方に遷都させたり、その行動がどんどんエキセントリックになってきて、国際社会もとみに情勢を懸念するようになってきました。

こうした国際世論を背景にして、国連はここ一年ほど、活発に現地に特使を派遣して、情勢の把握に努めるとともに、軍政とアウンサンスーチー氏との対話を重ねてきました。そして、今年9月に国連安保理は、ミャンマー問題を初めて正式な議題として取り上げ(報道)、先週末には国連特使が、それぞれ個別に、軍政とスーチー氏の双方との面会を果たすことができました(報道)。また、安保理は、年内に一定の決議を採択する意向も見せており、今後ミャンマーの民主化プロセスが、一気に加速する状況が整いつつあります。

ミャンマーの軍政も、北朝鮮ほどではありませんが、20年近く国際世論の強い圧力に耐えてきただけであって、相当タフなのですが、この問題には、人権問題もさることながら、世界全体へ悪影響が及んでいる麻薬問題も絡んでおり、安保理常任理事国も問題解決に向けて、重い腰を上げつつあります。今後、アナン氏の残りの任期中にどれほどの進展があるか、また長期的には潘基文・次期事務総長の新たなリーダーシップの下で、どれほどの進展を見ることができるのか、今後注目すべきポイントかもしれません。 


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アメリカ政界の力学変化

2006-11-10 | 地域情勢

今回のアメリカの中間選挙の結果は、 アメリカ政界に思ったよりも大きな力学変化を引き起こす可能性が出てきたようです。その根拠はいくつか挙げられますが、三つほど代表的なものを挙げますと、一つ目は民主党が上下両院を制した連邦議会の根本的な勢力変化であり、二つ目は議会の民主党指導部の方針であり、三つ目はラムズフェルド国防長官の後任人事と言えます。

 

一つ目の選挙結果ですが、昨日まで二つの州で結果が確定せず、民主党が上院を制することができるか微妙な情勢だったのですが、ここに来て両州での民主党候補の勝利が固まり、民主党が上下両院を制することが確定しました。これは、今後ブッシュ政権が、すべての法案、予算案、閣僚級人事案について、民主党の意向を尊重しなければいけなくなったことを示しています。もちろん、アメリカの大統領には、拒否権がありますが、これを乱発しても、法案を拒否できるだけで通せるわけではありませんから、結局のところ民主党の意向に沿った法案、予算案、人事案しか成立しえなくなったということになります。この根本的な変化は、内政だけでなく、イラク、北朝鮮などへの外交政策にも波及することが予想されます。

 

二つ目は、議会の民主党指導部の方針です。新しい下院議長に内定したナンシー・ペロシ氏は、ブッシュ共和党政権と、融和的に政策協議しながら議会運営していくことを意見表明しています。実は、こういう穏やかな態度は、過激な対決姿勢をぶち上げるよりも怖いところがあり、何事も取引しないと、一切承認しないという寝技的な戦略が裏に隠されている可能性があります。

かつて、共和党が1994年に42年ぶりに上下両院を同時に制したとき、下院議長に就任したニュート・ギングリッチ氏は、かなりド派手な対決姿勢をぶち上げて、クリントン民主党政権をボコボコにいじめ抜きましたが、スキャンダル等であっという間に失速し、政界のパワー・サークルから消えていきました。 ― 「五人の子どもの母で、五人の孫の祖母」というのが、ペロシ氏の選挙キャンペーン中の口癖だったそうですが、こういう肝っ玉母さんキャラの人は、案外スケールがでかく、ブッシュ政権がその奥行きのある融和戦略に飲み込まれてしまう可能性もあるかもしれません。

 

三つ目は、ラムズフェルド国防長官の後任人事です。後任は、元CIA長官のロバート・ゲーツ氏です。この人の経歴で目を引くのは、生え抜きのCIAエージェントであるということのほか、現在「イラク検討グループ(ISG)」(解説公式サイトという共和党、民主党の両党の重鎮が参加する超党派の政策グループに名を連ねているところです。ISGは、イラクでのアメリカの国益を確保した上で、出口戦略を探る方策などを検討している政策グループですが、実はこのISGのヘッドをしているのが、現在の大統領の父親のパパ・ブッシュ政権時に国務長官を務めたジェームズ・ベーカー氏という、共和党における「国際協調派」のドンなのです。

以前の投稿で、現在のブッシュ政権の外交・国防チームには、ネオコン派と国際協調派の暗闘があるということを書きましたが、これまでブッシュ政権ではネオコン派がやや優勢でしたが、今回のゲーツ氏の国防長官就任は、国際協調派の復興の兆しを示すもので、今後、イラク政策だけでなく、北朝鮮政策にも、根本的な変化が起きてくる可能性があります。ゲーツ氏は、ベーカー元国務長官だけでなく、しばらく前に退任したアーミテージ元国務副長官にも近い人物で、国際社会のコンセンサスを重視する国際協調派の価値観を持つ人物であると言われています。それだけに、今後チェイニー副大統領のようなネオコン的価値観を持つ人の影響力低下も予想され、アメリカの外交・国防政策に大きな変化が生じる可能性があります。

少し時間が経たないと、今回の「力学変化」の波は、日本の政治・経済にまで押し寄せて来ないかもしれませんが、待ったなしの北朝鮮政策などについては、米朝の直接協議を開催するなど、大きな政策シフトが起きる可能性もあるかもしれません。


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アメリカ中間選挙

2006-11-08 | 地域情勢

アメリカの中間選挙が、民主党圧勝の様相を呈しています。今回は、連邦議会のうち、上院の3分の1、下院の全議席、また一部の州知事職が、選挙の対象となりました。最終集計結果はまだ確定していませんが、下院は民主党の圧勝、上院はほぼ拮抗の見込み(2州が未確定)、知事選も民主党が多くを制しています(報道特集)。

この結果が、アメリカの政治にどのような影響を及ぼすかというと、 まずブッシュ大統領(共和党)の今後のすべての政策に、足かせがはめられるということが指摘できます。下院は、予算案の先議権、大統領の弾劾権など、行政府をコントロールできる絶大な権力を持っています。今回この下院が、民主党の支配下に入ったということは、ブッシュ大統領は、今後自身のすべての内政、外交政策について、民主党と妥協しなければ政権運営ができなくなることを意味しています(報道)。また、民主党は、かつて共和党支配の下院が、クリントン大統領(民主党)を弾劾したことを恨み骨髄で覚えてきて、イラク政策の失政などを根拠に、ブッシュ大統領に対する弾劾手続に入る可能性も指摘されています(報道)。一言で言うと、残り二年を残したブッシュ大統領の今後は、いばらの道であるということです。

 

日本では、ブッシュ大統領のイラク政策に対する反発が強いので、もしかすると、今回の選挙結果を歓迎する空気があるかもしれません。しかし、一般論で言うと、アメリカ国内で民主党が政治力を増すことは、日本の国益にとってプラスになりません。その理由は、共和党と民主党のそれぞれの支持基盤と経済政策にあります。

一般的に言って、共和党は富裕層からの支持が厚く、経済政策は新古典派的な市場における自由競争を尊重しています。一方、民主党は中間層から貧困層からの支持が厚く、経済政策はケインジアン的な財政政策を多用する政策を信奉しています。したがって、共和党は貿易政策においては、海外でアメリカ製品が売れなくても、国内に輸入品がなだれ込んできても、自由貿易を尊重する見地からあまり文句を言いませんが、民主党は同じようなことが起きると、とくに輸入品の国内流入を抑制するために、保護主義的で、ときに報復的な貿易政策を取ることが少なくありません。

こうした国内産業への保護政策がアメリカで取られるようになると、アメリカを最大の輸出先とする日本経済は大きな損害を受けます。これまでも、民主党が行政府や立法府で勢いを増したときは、対米輸出に依存する日本の関連企業はいつも煮え湯を飲まされてきました。こうした事情があるために、もうすでにこの種の懸念を指摘する報道も出てきており、関連する日本企業は、すぐにも対策を打ち始めるのではないかと思います。

しかし、外国の選挙結果が、ここまで細かく報道されるというのは驚きですね。結局、好き嫌い、良い悪いに関係なく、日本という国はアメリカと固く結びついているということなんでしょうね。 ただ、こうした民主主義(複数政党制)と資本主義(市場経済制)を信奉する大国と、日本が固く結びついているということは悪いことではないですね。とくに、日本が、中国やロシアのような政治・経済の自由度が低い大国に地理的に近接していることを考えると、悪いことではないと思います。


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フセイン裁判

2006-11-06 | 国際社会

サダム・フセイン前イラク大統領が、イラクの国内法廷で死刑判決を受けました。今後、上訴審に進み、そこでも同じ判決が出れば、判決は確定し、刑の執行を待つ身になるものと思われます(報道)。

私は今回の判決を、少し残念に思っています。理由は二つあります。一つは、こうした非人道的な独裁者に死刑判決を出すことが、今後国際社会の一つのトレンドになると、無慈悲な独裁者が相次いで政権を握るような多くの開発途上国、紛争国で、法の名を借りた際限のない報復合戦のようなものが、国際社会の中でも容認されるようになっていくような気がするからです。

もう一つの理由は、この判決を北朝鮮やミャンマー、スーダン等々の政治指導者たちが見ていて、政権から滑り落ちたらオシマイだと、ますます政権に固執して独裁化を進めるようになり、結果的にそうした国の国内状況と国際情勢が、さらに悪化していくような気がするからです。

 

実は、国際社会には、「国際刑事裁判所(ICC, The International Criminal Court)」という、国際刑事法を中立的な立場から適用する国際裁判所が2002年に設置されており、既にいくつかの事案について審理を始めています(公式サイト解説Wikipedia。現時点で、いかなる国も、このICCの規程に同意すれば、いつでも事案を持ち込むことができる用意が整っています

ただ、イラクはICCの規程に同意していませんし、審理対象がICC設立以前に起きた事案だったため、今回は国内裁判所で審理することになったのだろうと思います。ICCには、完全に中立的な司法機関としての特徴が備わっているため、理論上は、テロリスト支援国家がこれに加盟して、対テロ戦争を展開する他の加盟国の国民を訴えるようなこともできます(自らに有利な判決を導くことはできませんが、理論上、訴訟を起こすことが可能だということです)。こうした「両刃の剣」のような性質を持っているため、アメリカなどは当面参加しないようですし、この点が加盟国をあまり増やせない理由だとされています。

しかし、こうした問題点は、今後ICCが適用できる数々の国際刑事関連条約を審議・採択したり、ICCで判例を蓄積したりして、時間と手間はかかると思いますが、徐々に克服していくことは可能ではないかと思います。いろいろ問題点はありますが、今後はICCをもっと活用していくことが望まれます。ちなみにICCの最高刑は終身禁固刑です。

今回のフセイン裁判の結果は、ちょっと複雑な気持ちにさせられました。


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北朝鮮への複合的アプローチ

2006-11-03 | 地域情勢

北朝鮮政府が、六カ国協議の枠組みに復帰することに合意しました。実際の次期会合の開催は、今月下旬ころが見込まれています。このニュースは、日本の安全保障にとってプラスの話ですが、あまり手放しで喜んでいられない要素もあります。

それは、六カ国協議が、果たしてその所期の目的を達成することができるのかという問題です。六カ国協議の主な目的は、北朝鮮に核兵器の開発・製造を完全に放棄させることですが、最近は六カ国協議を開催すること自体も難しい状況にあり、ここ1‐2年は、あたかもオリンピックのように「参加する(させる)ことに意義がある」かように、その目的のハードルをどんどん下に落としていかざるを得ない状態になっています。

 

そんな状況にあるため、アメリカをはじめ、北朝鮮以外の五カ国は、今度の協議の場でも、北朝鮮に核開発の放棄を再び本気で迫るつもりではあるでしょうが、北朝鮮が事実上の核保有国となったいま、これら五カ国は、六カ国協議はもはや本来の目的は達成できないのではないかという現実的な展望も持ち始めているのではないかと思います。

六カ国協議で、その目的をなかなか達成できないのは、およそ二つの理由によるものと思われます。一つは、関係五カ国の国益の間に互いに共有できる要素が少なく、構造的に合意形成が極めて難しいため、効果的な対北朝鮮「包囲網」のような政策を打ち出しにくいということです。もう一つは、北朝鮮が、この五カ国の国益の違い、協議での訴求点の微妙なズレを利用して、その間隙を突き、自国にとって不利な政策が形成されることを巧みに防いでいるということです。これら二つの理由は、コインの裏と表のような関係にありますが、この六カ国協議に生来的に内蔵されている構造的な問題が、そのままその弱点になっています。

そういうことなら、六カ国協議なんかやめてしまえということも考えられそうなのですが、それができないところが、この問題の悩ましいところです。なぜなら、北朝鮮の核問題において、この六カ国の一国でも抜けた状態で合意を作ったとしても、その実効性が担保されないからです。また、どこか他の国が余計に入ってきても、さらに利害関係が錯綜して、もっと意思決定が難しくなるだけだからです。 ですから、現状維持しかないのが実情であり、当事者以外の五カ国は、こうした構造的なジレンマを織り込んだ上で、外交をやっています。

 

しかし、関係国が、こうした六カ国協議の問題点に悩みながら、他に何もしていないのかというと、そうではないように思います。とくにアメリカと中国は、それぞれ独自のイニシアティブで、またもしかしたら時には互いに協議しながら、北朝鮮の将来的な政権移行について、真剣に準備を進めているのではないかと思われます。こうした話は、当然のことながら、ふつうは絶対に報道ベースには乗ってこないのですが、中国サイドの動きは、ここに来て少しずつ西側メディアに取り上げられるようになってきています(報道1報道2)。

この政権移行のシナリオが、どのようなものか、また最終的に実現するかどうかは未知数ですが、アメリカの政策イニシアティブと、中国のそれとではまったく違う内容であることは容易に想像されます。関係五カ国のうち、アメリカは、韓国と日本の同意をもとに、ソウルを中心にした民主主義(複数政党制)、資本主義(市場経済)の親米国家を、朝鮮半島を統一する形で成立させることを狙っているように思われます。

一方、中国は、ロシアの支持を取り付けつつ、半島を分断させたままの状態で、ピョンヤンに穏健な一党制の親中国家を成立させることを狙っているものと思われます。おそらく現実的に考えれば、アメリカが妥協して、中国のプランを大筋合意し、何年後かに半島統一の国民投票を南北両国で実施することを条件付けるような折衷案で妥協が図られるようなシナリオも考えられます。なぜなら、国民投票をすれば、南北両国の国民の総意として、かなりの高い確率で、半島の統一が実現すると思われるからです。そして、半島が統一されれば、韓国経済からの市場の圧力で、北半分にも市場経済制が浸透・導入されることなり、結果的にアメリカの意向もほぼ達成されることになるからです。 

 

このような政権移行のシナリオは、その計画の上でも、実現可能性の上でも、まだまだ未知数のところがありますが、政権の移行自体は、全世界のほぼすべての国の政府と、また誰よりも北朝鮮のすべての一般市民が、強く望んでいるものではないかと思います。したがって、そのプロセスさえうまく運べば、その実現可能性は決して低くないように思います。ただし問題は、この政権移行のための政策を、北朝鮮の現政権を脅すようなアプローチで進めると、ほぼ確実に彼らは激昂し、制御不能な方向へ暴走していくということです。国際社会は、北朝鮮の恫喝に左右されてはいけませんが、暴発したときのリスクを計算しておくことは大切だと思います。この辺は、以前もリンクを張らせていただいたことのある専門家の方が、関係者の人々の見解を紹介しています。

このような高いリスクがあるため、現政権に無理強いするような方法は、なかなか難しいかもしれません。ですから、一時的に中国などが政権関係者に安全な亡命先などを提供するような申し出をして、合意の上で退出してもらうということも有り得るでしょう。しかし、その場合も、後から国際刑事法を駆使して関係者を訴追することは可能ですので、様々な実効性の壁はあっても、完全に無罪放免になるということにはならないように思われます。この点については、現在の国際刑事裁判の世界的趨勢、過去の様々なケース(チリの軍政、旧ボスニア紛争、ルワンダ内戦、リベリア内戦、カンボジア内戦等の政治指導者に対する刑事訴追)を考えても、北朝鮮の現政権幹部が、国際的な刑事訴追をまったく受けないということは、極めて考えにくいように思われます。

ですから、北朝鮮問題の解決には、おそらく複眼的な思考が必要なのだと思います、一方では六カ国協議で粘り強い外交努力を継続し、もう一方では政権移行の準備をして、さらに国際的な刑事訴追のための証拠集めを今からはじめておく、といった具合です。これらの政策を、ときにはリンクさせながら、ときには相互に分離させながら、同時進行させていくというのが、問題解決のために望ましいように思われます。おそらく、こうしたことは関係国、特にアメリカと中国では、すでに着手しているものと思われます。また、日本政府としても、アメリカと協力・連携して、拉致問題の解決を、こうした政権移行プロセスの中に織り込んでいくような水面下の外交努力をしていく必要もあるのではないかと思います。


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