私はエネルギー問題の専門家ではないのですが、ここ一ヶ月くらいの間に、日本のエネルギー安全保障の問題は、素人目にも、少しおかしな方向へ傾いていっているように見えます。
一つは、ロシア・サハリン州で開発が進んでいた「サハリン2」という石油・天然ガス開発プロジェクトの計画が頓挫したことです。このプロジェクトは、三井物産と三菱商事が他の欧州企業とともに、これまで一兆円近くの資金をつぎ込んで開発を進めてきたのですが、先月20日になってロシア政府が環境問題を理由に、急に開発の中止を申し入れてきたのです(報道)。しかし、この中止要請の本当の理由は、すでに報道でご存知の方も多いと思いますが、ロシアがこの計画に、自国企業を参入させたいからだと言われています。
プーティン大統領は、これまでも政権から独立した動きを取るエネルギー関連企業を政治力で潰すなど(ユコス事件)、国内のエネルギー権益を、自らの支配下に置いて権力基盤の強化を図るような傾向があり、今回のサハリン2の計画中止要請も、たしかに環境問題も一部影響しているようですが、主に政治的理由によるものと見た方が妥当なようです。ご参考までに、この問題の背景について、かつて鈴木宗男議員とともに連座した元外交官の佐藤優さんという人が、ロシアの専門家として一つの見解を示しています。ちなみに、ロシアが一大産油国だということは意外と知られていないようですが、埋蔵量では世界第七位、産出量では何と世界第二位の位置にいます。それだけに、今回の一件は、日本が原油の中東依存から脱却しようとしていた矢先の出来事であり、日本の政府、産業界にとってインパクトが大きいように思えます。
もう一つは、日本政府が事実上開発権を握ってきたイランの「アザデガン油田」の開発権が、イラン政府の意向によって無効にされかけている問題です(報道)。イランは、石油埋蔵量で世界第二位、産出量で第四位であるだけでなく、日本にとっても石油輸入先で第四位(総輸入量の15%)の大事な取引先です。ですから、日本政府も、イランと激しく対立するアメリカからの猛反対や、イランの核開発疑惑による国際社会の圧力に逆らってまで、この案件を進めてきた背景がありました。
しかし、ここにきて、イランは、ロシアや中国への開発権譲渡などを理由に、この日本にとって極めて重要なアザデガン油田の開発権を、日本から取り上げつつあります。実は、この背景には、イランの一方的な政策変更だけでなく、日本がアメリカへの遠慮などから、なかなか実際の開発に着手しなかったという日本側の事情もあり(報道)、日本としては、アメリカに逆らってでもこの権益を守るか、アメリカと一体となってほかの地域での権益確保を図るかという二者択一を迫られている側面があるようです。
ここ数日、原油先物価格が一時的に下落していますが、大勢においては、石油価格は世界的に需給が逼迫して、上昇傾向にあると言われています。その理由としては、主要な産油国が集中する中東地域の慢性的な治安悪化による供給不安と、中国とインドを筆頭とする途上国における石油需要の爆発的増大という二つの要素が挙げられています。
いまのところ、この二つの要素が石油価格の下落を促す方向へ方向転換する兆候はなく、また日本は、エタノールのような新たなエネルギー資源の開発においても、他の先進国に比べて遅れを取っています。あれほど、無理して汗を流したイラクも、まだまだ石油採掘の話どころではありません。今後、このエネルギー安全保障をめぐる行き詰まりをどのように打開すべきか、日本は正念場を迎えているように見えます。
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