昨日(米国東部時間14日午後)、国連の安全保障理事会は、北朝鮮の核実験への対抗措置として、経済制裁を主な内容とする決議を全会一致で採択しました(報道記事/採択時の協議内容と決議全文)。この安保理決議は、すべての国連加盟国を法的に拘束するので、今後北朝鮮を除く191カ国の全加盟国が、北朝鮮に対する大量破壊兵器の製造・開発に関する全ての物品・サービス・資金の流れを完全に途絶させ、関連する北朝鮮の海外資産も凍結させることになります。ちなみに、この決議が採択された直後、オブザーバーとして安保理に参加していた北朝鮮の国連大使は、「この決議を拒絶する」と言っていましたが、この決議は、上述の通り、北朝鮮以外の191カ国が一方的に実施するもので、北朝鮮の合意を必要とせず、北朝鮮が「拒絶」したくてもできないものです。
このような重大な制裁措置を決定する場合、安保理は徹夜で協議することも少なくないのですが、今回は比較的スムーズに理事国が合意に達しました。その理由は、米中露という今回のキー・プレイヤーが早い段階で、「憲章第7章に基づく制裁措置」を取るという基本的な方向性で一致することができ、その後は7章の枠内で、その内容をどの程度厳しいものにするかという細部の詰めにに、議論の焦点を絞れたからだと思います。ということで、今日はこの国連憲章7章の話題を取り上げたいと思います。
国際連合(国連)が、第二次世界大戦の直後に、大戦の惨禍を二度と繰り返さないことを主な目的として設立されたことは、一般によく知られている通りです。そこで、まず戦争を起きないように予防するためには、外交の活発化など外交的手段を確保しておくことが必要になるわけですが、かりに戦争が起きてしまった場合に、それを解決するための物理的な手段も事前に用意しておく必要性が、当時の国際社会で認識されるようになりました。
こうした事情があったため、当時の米英ソなどの主要国と、原加盟国は、将来、かりに戦争行為(類似行為含む)を引き起こす国が出てきた場合、その国に対してその不法行為を物理的に止めさせるために、経済制裁と軍事制裁という強制手段を執行することで合意し、この内容を国連憲章の7章の中に盛り込むことになりました。そういう意味で、国連憲章第7章は、国連の創設目的を体現する「憲章の背骨」ともいえる重要な箇所になります。ちょっと条文を見てみます。
第7章 平和に対する脅威、平和の破壊、及び侵略行為に関する行動
・39条 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。
・40条 事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。
・41条 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
・42条 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
実は、第7章は51条まであるのですが、43‐51条は技術的な細則や制裁と関係しない規定内容なので、ここでは割愛させていただきます。さて、上記の概要を見てみると、39条は侵略行為等の認定(判定)について規定されています。これは、世界のどこかで不穏な動きがあれば、それが制裁の対象となる行為なのかどうかを、安保理理事国が国際法上の規則に照らして認定するという条項です。ここで、「平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為」のいずれかの認定をされてしまうと、次の40条以降の対抗措置の対象とされます。ちなみに今回、北朝鮮の核実験は、「平和に対する脅威(a threat to the peace)」と認定されました。
40-42条は強制力を伴う対抗措置について規定しています。40条は暫定措置を規定しており、こうした不法行為をやめるように呼びかける勧告・警告措置を一般的には指しています。これが無視された場合、次の41条の経済制裁に進み、それでも無視されたら42条の軍事制裁へと進んで行きます。ちなみに、侵略行為などに対する軍事制裁においては、侵略を行った加害国の戦車や艦艇などが被害国の領内に駐留していれば、国連加盟国は相互の合意に基づいて多国籍軍(国連軍に近いもの)を編成してこれを物理的に叩き、撤退を強制させるか、その存在自体を消滅させることになります。こうした最高レベルにまで達した軍事制裁の事例としては、イラクがクウェートを侵略した行為に対する"湾岸戦争(1991年)"のケースがあります。
このように、不法行為の認定から始まって、暫定措置、経済制裁、軍事制裁と、対抗措置のレベルを徐々に上げて、物理的な圧力を増し加え、対象国に不法行為を放棄させるように促す仕組みを、一般に「集団安全保障制度(collective security system)」と呼んでいます。ですから、憲章第7章を適用するということは、この集団安全保障制度を稼動させることを意味しており、特定の国に対して物理的な圧力を加えることを意味しています。だからこそ、不法行為を行った国は必死になって抵抗しますし、安保理の議論も白熱するわけです。
そして、この7章の規定と同じくらい重要なのが、安保理がどのように不法行為を認定し、どのように制裁を決定して行くかという、その表決方式です。こちらは安保理の内規を定めた憲章第5章の中の27条に規定されています(27条3項の後半は制裁と関係ないので割愛します)。
第5章 27条
1項 安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2項 手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。
3項 その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。
この内容を平たく言うと、安保理というのは常任理事国5カ国と、非常任理事国10カ国(2年で改選)の計15カ国で構成されており、39条の不法行為の認定や、40‐42条の対抗措置の決定といった実質事項の決定には、15か国中9カ国以上の賛成票を要し、なおかつ、その賛成票の中にすべての常任理事国の5票の賛成票を含んでいることが、表決の条件として課されているということです。
つまり、これはどういうことかと言うと、実質事項の決定には、常任理事国すべてが賛成するとともに、非常任理事国の4カ国以上が賛成しなければならないということです。ですから、これは裏を返して言うと、常任理事国の米・英・仏・露・中の5カ国は、あらゆる動議を自国の1票で葬り去ることができるということです。この常任理事国の権利を、世間では拒否権と呼んでいます。
この拒否権の問題があるために、今回の北朝鮮の制裁決議に関しては、アメリカが中国を必死に説得し、中国も国際社会の中で浮き上がらないように、互いにギリギリの妥協をしました。当初、アメリカは、第7章("Chapter VII")という幅の広い表現をそのまま決議で使おうとしたのですが、それだと41条の経済制裁から42条の軍事制裁に容易にエスカレートしてしまうということで、中国は7章41条("Article 41, Chapter VII")と経済制裁に限定した表現にするようアメリカに迫り、両国がともに妥協して、合意に達したということが伝えられています。
また、今回安保理で目立ったのは、安保理議長の任にあった日本の大島・国連大使の活躍です。安保理の議長というのは、常任、非常任に関係なく1ヵ月ごとのローテーションで各理事国に回ってくるのですが、まったく偶然にも、この10月は非常任理事国に入っていた日本に議長の順番が回ってきていました。ですから、日本の影響力は、非常任理事国として大変限定的なものではありましたが、議長として各理事国の調整に回ることができ、今回の問題におけるプレゼンスをしっかり確保することに、ある程度成功したと言えます。今回の様子を見ていると、国益というのは、派手なスタンド・プレーではなくて、このような地道な努力の積み重ねによって、増進されるものではないかという気がしました。
参考: 国連憲章(和文)、国連憲章(英文)
ランキングに参加しております。もしよろしければ、ポチッとお願いします。