「借りた金は忘れるが、貸した金は忘れない」という言葉は、ときおりお年寄りの記憶力などを揶揄する際に使われることがあるようですが、このような表現は二重の意味で失礼です。なぜなら、すべてのお年寄りがこういう傾向を持っているわけではないですし、また、このような傾向は、老若男女を問わず、かなり多くの人に当てはまるからです。私自身も、気を付けてはいますが、友人との食事代のちょっとしたやり取りなどにおいては、その例外ではないような気がします・・・。
そして、この困った傾向は、世界のあらゆる国の国民性についても、当てはまるように思います。日本人の多くは、第二次大戦中に行ったアジア諸国における行状については、つい忘れそうになりますが、原爆や東京大空襲のことについては、いつまでたっても忘れません。一方、アメリカ人の多くは、原爆や東京大空襲については、ほとんど忘れていますが、真珠湾攻撃のことは、いつまでたっても忘れません。このように、自らの加害行為はさっさと忘れて、被害行為をいつまでなっても忘れない傾向は、日本やアメリカだけでなく、世界中のあらゆる国に共通して見られる傾向ではないかと思います。もちろん、自分が受けた被害を忘れる必要性は全くないのですが、自分が与えた加害行為を忘れてしまうのは、国際関係を不安定にさせる大変困った要素です。
この「借りた金は忘れるが、貸した金は忘れない」という傾向は、おそらく人間の本能に根ざす気質のようなものでしょうから、私たちが個人レベルや国家レベルで、こういう傾向から解放されることはないのかもしれません。しかし、私たちがこうした気質を持っているということを、自覚し、自戒することはできます。そして、そういう自覚と自戒をしっかり持つことができれば、私たちは人間関係だけでなく、外交関係についても、お互いにもっと快適な対外関係を維持できるのではないかと思います。