スペイン風邪のときに、柴葛解肌湯(さいかつげきとう)という漢方薬を使って
治療した先生がおられます。
木村博昭(1866-1931)先生は、師匠の浅田宗先生(1815-1894)の父が作った
柴葛解肌湯や傷寒論出典の大青竜湯(だいせいりゅうとう)を駆使して
1人も死者を出さなかったという逸話があります。
『勿誤薬室方函口訣』(柴葛解肌湯の解説)には、麻黄湯と葛根湯の証がまだ治り切らないで小陽病に入り、嘔吐があったり、渇が甚だしく、四肢が疼き痛むものによろしい、
と書いてあります。
実際の外来では、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)を1回1包ずつ、3-4時間おきにガンガン飲みます。新型インフルエンザのときも有効でした。今回の新型コロナウイルス感染症にも有効です。
将来現れるであろう未知のウイルス感染症にも使える可能はあります。
急な高熱、グッタリして元気がなく辛い状態には是非使ってほしい漢方薬です。
当院ではインフルエンザに限らず、小児から大人まで普通に使ってきました。
現在でも適応があれば使っています。急性ウイルス感染症は時間勝負です。
2-3時間、あるいは3-4時間で次々と内服して1日で解熱にもっていく作戦で動きます。
http://n-kodomo.com/pdf/naka202007-01.pdf
※有用な可能性!, +α (方意を知らぬと加減の応用が利かない)
<黄連解毒湯>
「黄連解毒湯」は、「黄連」「黄芩」のほかに、「黄柏」「山梔子」が加わります。
どの生薬も、派手な黄色・赤の処方です。
漢方の生薬は、すべて酸・苦・甘・辛・鹹の5味に分けられて、効能も決まります。
ふつうの食品では、苦味のものは、ニガウリくらいしかありませんが、漢方薬の苦味は、本当に強烈で、とくに「黄連」などは、口に入れると、あまりの苦さに吐き気がして、あとで寒気がするほどです。
苦味は、消化管や血管など、熱で弛んだ器官を引締め、熱を冷まします。
「黄連解毒湯」は、選りすぐりの苦味薬を4種あつめた処方で、胃から「心」の身体の上部の熱気を強く冷まします。
<白虎湯>
左上から、「石膏」「知母」「粳米」「甘草」
「黄連解毒湯」がきつい黄色系なのに対して、「白虎湯」は全体に白っぽい生薬でできています。
主薬は「石膏」 「白虎湯」には、大量16グラム入ります。
鉱物の「セッコウ」そのものです。
少量、2~3グラムの「石膏」は、体表面の熱気を冷ましますが、大量の「石膏」は、肺の内部の熱気をダイレクトに冷まします。
大量の「石膏」は、よく患者さんの状態を見極めて使わないと、全身が冷えてぐったりしたり、下痢や嘔吐を起こします。
「知母」は苦味の生薬ですが、肺の内部を潤しながら熱を冷まします。
「知母」の6グラムも、やはり「肺」熱をきつく冷まします。
「粳米」は玄米です。胃から肺の体液の元を補います。
「白虎湯」は、肺の熱気を冷ますのに、もっとも強力な処方です。
だから、古典の『傷寒論』では、使い方を間違うと、全身が冷えて下痢が止まらなくなると、警告してあります。
さて、ここで冒頭のキトラ古墳の壁画の話しに戻ります。
古墳の石室の4面の壁に、西の白虎をはじめ、東の青竜、南の朱雀、北の玄武と、「四神」の絵が描いてありました。
東西南北の四方に、青・白・赤・黒の4色が配されています。
この4色には、春・秋・夏・冬の四季が対応します。
では、その四方・4色・四季に、人体の五臓を当てはめるとどうなるか?
東・青・春には肝。 西・白・秋に肺。 南・赤・夏に心。 北・黒・冬には腎となりますが、おや、五臓の最後、脾はどうなるのか?
ここらが、東洋思想の融通無碍というか、どうとでもなるところで、四方には中央、4色には黄、四季には各季節の終わりの18日間を、「土用」といって、脾と対応させます。
世間的には、ウナギを食べる夏の土用だけが、有名ですが、四季それぞれに土用があります。