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人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:茵蔯蒿湯

2019-05-31 | 日記


これもあまり使わないんですが、大事なんですね。
何故あまり使わないかと言うと、それはさっぱりした病症があまりないという事です。
茵蔯蒿湯はかなり強い瀉薬だからです。単独に使い続けるとかなり危険です。
現実にずっと使っている人は、他の薬、例えば小柴胡湯等と一緒に使ったりします。
小柴胡湯と茵蔯蒿湯を併せて使うと、非常に強い胆管系の消炎作用になります。
それでもまだ、大柴胡湯よりマイルドかなと言う感じです。
茵蔯蒿湯は非常に強い利胆作用です。
利胆作用があると、肝だろうかと思ってしまいがちです。
胆は肝に属しています。しかし利胆作用は肝の作用ではないんです。
大抵の場合混乱していますね。帰経が書いてありますね。脾胃肝胆と。
一番先にあるのが主作用です。だから脾に主に作用します。

東洋医学的に肝胆が全身にどう作用しているか、
私もまだ完全に説明できないのですが、肝だったら解りやすいですね。
化学工場としての働き、あらゆるものを合成分解することです。
これは西洋医学の考え方と同じです。それともう一つ、
交感神経系としての働きが肝の作用にあります。そうするとなると、
胆汁分泌能は脾に属します。何故、 脾に属すかというと、
胆道が膵に開いているからです。胆汁と言うものは、
本質的には食物が腸管に入ってきた時に応じて出て来て、消化を助けるのです。
胆汁は本来消化に預かるのです。だから胆汁の色は黄色なのです。
胆道の胆汁分泌能がやられると、黄色になってくるのです。
脾の色は黄色だからです。茵蔯蒿湯はここに作用するのです。
この作用は経験的に、ウルソより間違いなく強いです。

結構、茵蔯蒿湯でなくて茵蔯五苓散として使っているのが多いです。
よく使っているのが原発性胆汁性肝硬変です。
大低あの病気は、診断がついてから何とかならないかと言って来ます。
北海道に戻って以来、ずっと診ている患者さんが何人もいますが、
いまだに一つも進行しないで皆元気に通ってきています。
こういう患者さんが年々少しずつ増えてきています。
ほとんど茵蔯五苓散を使っていますが、あまり黄疸なんかも出ていない場合は、
梔子柏皮湯を使っている人もいます。
この茵蔯蒿という非常に強い利胆作用のあるものと山梔子ですね。
山梔子もこれまた大変な薬ですね。

これも最初のうちで覚えておいてほしいのは、
漢方の中で副作用を出す数少ない薬の一つが、この山梔子です。
柴胡や黄連も黄芩と一緒になると副作用を出しやすいのですが、それと熟地黄です。
漢方の中でたった二つだけ中枢神経に影響を与える薬があります。
他の薬はほとんど影響を出さないのですが、その一つが実は山梔子で
もう一つは天麻です。この二つだけは脳に直接影響を与えます。
ほかの薬は中枢に作用するのは体からのフィードバックです。
天麻は中枢を抑制する作用ですが、山梔子は網内系を活性化するのです。
脳内のミクログリアなどを賦活することで、中枢神経に症状を出すことがあります。
天麻はうまく使えば使いやすいのですが、山梔子の中枢に対する作用は
邪魔になることが多いのです。

ミクログリアを刺激するのはあまり良いことではないのです。
たまにあります。お年寄りに山梔子の入った製剤を出すと良くあるのは、
幻覚が見え出すんですね。最近、「天井に蛇がとぐろを巻いているのが見える」等と
言い出したりしたことがあります。何人かいましたが、
山梔子の入らない処方に切り替えたらおさまりました。
結構あります。脳に対してもそうですから、いろいろ他の部分にも、
網内系を賦活するみたいな急迫反応を起こすことがあるのです。
それを見越して使う場合もあるのですが、
それを解っていないと大抵は患者さんの信用を失うことになります。

さりげなくいろいろなものに入っています。
実は加味逍遙散みたいなものに入っていますね。
もちろん、黄連解毒湯なんかも入っていますね。
あるいは温清飲なんかも入っていますね。
あと清肺湯や辛夷清肺湯にも入っています。
意外とさりげなく入っています。

ひどい時は飲んだ途端に、震えが止まらなくなったり、結構すごい症状を出します。
消炎作用として、どうしても急迫反応を起こしても使いたいときは、
もしかしたら強い反応が出ることもあるよと
患者さんに十分納得させて使うこともあります。
もしあまりひどい様だったら、連絡してくださいとか、
半分にして飲んでくださいと言うと、大抵は減量すると良いことがあります。
それを目的として出した場合は、減量したりするのは良いのですが、
目的としないで出した場合に、急迫反応が出たときは止めなければなりません。

その茵蔯蒿と山梔子に大黄が加わっています。
もちろん一応ターゲツトとしているのは、
肝のクツパー細胞等に働きかけて炎症を抑えることです。
それから胆汁がうっ帯していたらそれを取り除きます。大黄も強い薬です。
茵蔯蒿はそれ程でもないですが、大黄は山梔子のそういう作用を増強させます。
そんなに沢山使う薬ではありませんが、非常に大事な薬です。

腹証についてですが、これも繰り返しやってください。
強く押すと痛いです。強く押さないで下さい。
術者の気が高まってくると、胸脇苦満や心下痞があれば、
手掌を置くだけで患者さんは顔をしかめます。
あるなと思ってあらためて触ってみます。

そっと触ってそっと力を入れて行っても、
本当に胸脇苦満や心下痞があれば、必ず手で触ります。
そっと触るのが良いのですが、それが心もとない時は、左手掌を置いて、
そのうえを右手拳でトントンと軽く叩くと、デファンスが左手掌に触れます。
軽く叩くのですよ。強く叩くと誰でも痛がります。それが慣れてくると、
触るだけでも患者さんが顔をしかめますし、こちら側の手にも感じられます。

第2回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda02.htm

[参考]: 茵蔯蒿湯 , 茵蔯五苓散

方剤:小半夏加茯苓湯

2019-05-30 | 日記


これもそんなにたくさん使わない薬です。
現実に使おうとしたら、首から上に出てくる浮腫に使います。
本当に水腫です。まぶたの腫れとかに使います。
炎症を伴わないものに使います。そのくらいですね。
つわりに使うこともありますが、そんなに多くないです。
これを理解するときに一番大事なことは、
要するに水の病症の一番基本の薬だと言うことです。
水の病症の一番強いと言うか、一番はっきりした薬は別にあります。
それは五苓散です。五苓散に勝る水の薬はありません。
実は水にだけ働きかけるのは不可能なのですが、
表向き水だけをターゲットにしている薬です。
ところが小半夏加茯苓湯は、水の病症が起きる一番基本的パターンを意識しています。

水は何の異常で病症を起こすのか?という事を説明します。
気血水は、よく弁証に使われますが、気血水だけで弁証するのは本当は間違いです。
更に気血水を並べて書くのも間違いです。
三陰三陽みたいに、あるいは太陰、少陰、厥陰みたいに、
気血水があるような書き方をするのは間違いです。
気は生命エネルギーです。血は生命エネルギーを運びます。
水は無生物です。前回にも気の問題はお答えしましたが、
延々とお話しするのは時間がないので、ずっとこの講義が終わるまで、
時間をかけて理解していただきたいと思います。
気は生命そのものです。気血水はすべて物質であります。
決して気は架空のものではありません。

気は生命力そのもので、人間が生きているその事が気で、
気の力を受けて生命そのものを動かしているのが血です。
この気、血の力で動かされている無生物が水です。
だから、水は単独で病むことは絶対にないのです。無生物だからです。
気が病めば水が病む。血が病んでも水が病む。
気が病めば血も病む。気が病まなくても、血単独で病むことはあり、
気血両方とも生命現象です。
でも気が病めば血は影響を受けますが、血が病んでもわずかに気に影響するだけで、
それもかなり経たないと影響が現れません。
そうすると水の病症を起こすのは、一番基本は気が病んで水が病む事です。
その事を意識しているのが小半夏加茯苓湯です。

半夏は気を動かす薬の代表です。気の滞りが起きて水が滞ります。
一応、茯苓は水を動かす薬の代表的なものです。
もちろん水だけを動かすのは不可能です。
水を動かす薬は、全部、同時に気か血か、または気血一緒に動かしています。
一応、茯苓とか白朮は水を動かす薬の代表です。
要するに何らかの気の滞りがあると言うのは、こころが関係します。
こころは体と一体ですね。こころが病めば体が病む、
体が病めばこころが病むと言う様に別々ではないのです。
ただ精神的なものでも、水の滞りが起きます。
物質的な気の滞りでも、水の滞りが起きます。
どこかにガスがあるとか、あるいは、例えば肺の働きがちょっと悪いとき、
気の滞りが起きて水が滞ることがあります。
いろいろな理由で気の滞りが起こったとき、普通は血の滞りが起きるのですが、
血を通り越して、いきなり気の滞りが水の滞りを起こしてくるのが、
小半夏加茯苓湯の状態です。

血がからむと、下半身にいろいろな症状を出しやすいのですが、
血が滞らないと、確かに上半身に水の病症を出しやすいみたいですね。
だから顔のむくみに効くのでしょう。これはあまり使われてはいない薬です。
妊娠初期なんかもそうなんでしょうね。つわりなんかに使われるのは、
そういうことなのかな…。
つわりの出る頃の御婦人の体は、まったく別の体に変るのです。
要するにそれまでの体質が逆転するぐらい、劇的にかわりますね。
当然そういう時は、すごく激しく気の方が変動するのでしょう。
多分、血は変動しないのかも知れないです。
血の変動よりも気の変動の方が激しいので、その為に水が上がってくるのでしょう。
どうもそういう感じがします。とにかく生命そのものに大きな気の滞りが起きたとき、
水だけがパッと反応した時に小半夏加茯苓湯の証になります。
あまり多くは使いません。腹証について。三黄瀉心湯のところで出てきましたが、
衝脈のこと(鳩 尾から上に突き上げる症状)ですが、
これは又、別の機会にお話しします。

振水音(空気と水が一緒にグルグルッと鳴る)についてですが、
水を動かす薬は皆これに似た特徴があります。
水の病症かなと思ったら、必ずお腹を触ってみる事です。
これも繰り返し慣れないとダメです。

最初の時、気の話しを聞かれましたが、タッチングを繰り返すことと返事をしました。
ずっと学びに来ている方は解るのですが、
まだ術者の気の力が足りないと簡単には出せないのです。
気の力が出てくると、腹に触った瞬問、ガスが動き出すようになるのですが、
最初のうちはかなり触らないと出てきません。
慣れないうちはうんと触っているうちに、
何だか解らなくなってしまうことがあるのですが…。
長い問、繰り返し触っているうちに解る様になりますし、
動かすことも出来るようになります。

慣れてくると、手を置いただけで空気と水が一緒に動き、
グルグルッと鳴り、振水音が出てきます。
茯苓合半夏厚朴湯証もそうですね。
非常に特徴的にグルグルッと空気と水が一緒に動くのが感じられます。
最初のうちはうんとなでて、やっと一回聴こえるぐらいですが。
覚えていられるとよいと思います。

第2回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda02.htm


https://mbp-japan.com/ishikawa/kanpou-fukunoki/column/1700201/
http://kenseidou.net/chuuihouzai-kaisetu278.pdf

医薬品情報:小半夏加茯苓湯

方剤:三黄瀉心湯

2019-05-29 | 日記



これはあまり使わない処方です。
私のところに通っている患者さんの1000何人の中に、
三黄瀉心湯を処方している人は一人位です。
それはすごい瀉薬だからです。徹底した瀉薬で、
単独で延々と使い続けるのはあまりよくないのです。
臓まで瀉してしまいます。私のところでたった一人使っている人も、
半夏瀉心湯と半々に使っています。

漢方の風邪の場合は、熱さましはほとんど使わず、
温める薬しか使わないと言う話しをしました。
しかし、三黄瀉心湯は本当に冷やします。
三黄瀉心湯を単独で使ったのは1O回くらいでしょうか。
本当に脳卒中の急性期で、意識が朦朧として、
鼻血が止まらないという状態の時です。
それでも薬として考えるのは非常に大切なことなのです。

瀉心湯とは黄芩黄連を含むものを言います。強い消炎剤です。
本当に冷やします。
どこを冷やすかと言うと、心を冷やします。

ここで心について説明します。大部分の教科書は微妙に問違っています。
東洋医学でいう心は、いわゆる西洋医学でいう
心不全を起こす心臓のことと少々違うのです。
心不全の状態の心臓は、東洋医学では肺のことを言います。
ここが大部分の教科書で問違っているところです。

それは経験的に言えるのです。私は自分が経験したことだけをお話しします。
心と肺の問題については、薬味を分析すれば説明できますが、
それについてはそのうちお話しします。
心が衰えるとどうなるかと言うと、知的能力が衰えるのです。

要するに心とは何かと言うと、一つは脳、それから冠血管です。
冠血流や脳に行く血流、内頚動脈や椎骨脳底動脈、これらを支配しているのが心です。
東洋医学で言う心とは、心臓の機能の中の、いわゆる拍動している心臓にみられる、
心不全症状を起こす心臓のことは言わないのです。心拍出にからまないのです。

その他に、心には一切の熱いものを生み出す作用があります。
そうすると心を瀉さなければならない時は、どう言う状態かと言うと、
心の熱が上がったとき、あるいは脳内に熱が上がったとき、
又もう一つは心の子分である小腸に熱(炎症)を持つときです。

面白い話しがあります。
それらの他に、心には赤いものを生み出す作用があると言うことです。
血液が赤いのは、実は心の力なのです。
骨髄はどこの臓に属するのか、非常に問題があります。
骨は腎に属するのは本当のようですが、骨髄がどこに属するのか、
まだ私は完全には見極めていないのですが…。
あまり骨髄疾患は、南富良野の山の中の診療所まで、来てくれないのです。
症例を診れば解るはずですが…。

ただ一つ言えるのは、骨髄だけが血を造っているのではないということです。
成人したら確かに骨髄が血を造っています。
しかし、生物の発生学上、一番最初に見えるのは心臓の拍動です。
そしてこの段階で顕微鏡レベルで小腸が認められます。
この段階で骨髄はまだ認められません。
このときに血は、どうも小腸で作られているらしいのです。
ただどうやって造血作用が、骨髄に変わっていくのかと言うのは、
私もまだ解らないのです。
要するに心の子分としての小腸が血液を造っていて、
血の色は赤色になると思われるのです。

三黄瀉心湯証と言うのは、要するに心そのものが、
何らかの形で直接に熱を上げているのです。
炎症があってもよいのですが。
心の熱が、心そのものの原因により、一番熱を上げるのは夏バテの時です。
真夏と言うのは、この図(資料)にある様に体の内も外も、衛気も営血も、
心や小腸の支配を受けているということを示しています。
要するに体の中に、熱を生み出しやすい状態になっています。
その時にあまりにも外気が上がり過ぎると、心がオーバーヒートして、
いわゆる夏バテになります。オーバーヒートしてしまって、
それが脳に行くとフラフラになるのですが、
それはアッと言う間にやられたときですね。

これがジワーツと来た時にどうなるかというと、
一般的に陰陽五行の関係で、腎が焼かれるのですが、
もう一つ別の臓が別の理由で焼かれます。
それは陰陽五行なしで診断されます。解剖学的関係です。
図のごとく、肺が心の上に布団のようにかぶさります。
心の下には胃があります。胃の裏側には脾があります。
脾は先に言ったように膵のことですね。

ここでちょっと話が横道にそれます。
五臓六腑の名称は、杉田玄白が解体新書を訳していたときに、当てはめました。
本来は五臓六腑の言葉が先にあって、杉田玄白が解剖した際、
西洋医学の解剖学的臓器に当てはめたのですね。
本来は五臓六腑と言うのは、単なる一個一個の臓腑ではなくて、
一つの臓器と関連する大きな機能群なのです。
杉田玄白はそれを理解しないで名称を当てはめてしまったため、
間違えてしまったのです。
更に臓器そのものも間違って、脾と訳したのです。
皆さんは解剖実習をし たので解っていると思いますが、膵は探しにくい臓器です。
大網に覆われていて見落としやすいです。
いわゆるMi1zは 解りやすいのでこれを脾と名付けてしまったのです。
それで混乱しています。脾は消化器系の総称なのです。
ちなみに西洋医学で言う脾臓は、東洋医学では肝に属します。
話しを戻します。

心の熱が上がるとどういう事になるかと言うと、
一つは肺が焼かれ、うんとひどくなると肺の症状を出します。
幸いなことにそんなにひどくないと、肺は外気と通じていて熱を放出するのですが、
脾や胃はもろに熱を受けて焼かれます。
これはもう五行相関ではなく、解剖学的な関係です。

夏バテのとき、最初は頭がボーツとして食欲がなくなり、
胃腸がやられて、熱で焼かれている状態です。
夏バテでなくても心の熱を上げるのは何でしょうか。
それは腎水の不足です。右図の様に理解してみると解りやすいのです。
下にバーナーがあり、上にお釜があって水が入っている状態です。
これで腎の水があれば安定するのですが、
腎水が不足するとそれだけで空焚き状態になり、オーバーヒートします。
逆に心火がうんと弱くなると、体全体が冷えます。そして腎水があふれてきます。
腎水が増えただけでも心火が弱ったのと 同じ状態になります。

お年寄りで顔が赤くなる人がいます。
それは腎水不足で空焚き状態になっているのです。
心火がそんなに衰えないで腎水不足のお年よりは意外に元気で、
そして顔が赤くなっています。 やっぱり心熱が相対的に上がった状態です。
そういう時に、下手をすると脳卒中になることがあります。
当然便秘気味になりますし、血圧も上がります。鼻血も出たりします。
こういう時に使うのが瀉心湯です。

あくまで心の熱症状で、心が上がっているのです。
だから補瀉は対立概念ではないという言い方をします。
虚実も対立概念ではないと言いましたね。
そのことをよく理解しないと、
何故最初に言った三黄瀉心湯をあまり使わないのか、
という理由が解らなくなります。

臓器は本質的には最初が実で1OO%です。
生まれて成長し完成されたら、五臓はその人その人で100%です。
だから臓の症状が何か出てきたら、実際は必ず本質的に臓は虚していきます。
人体の臓は大体二倍半くらいの容量があります。
だから腎臓を一つあげてもよいし、冠状血管が一本詰まっても大丈夫なのです。
肝臓だったら半分あげられます。
ほとんどの臓器はそういう余力を持っているのです。

橋本病を西洋医学的に考えると解りやすいです。
橋本病の初期を考えると、橋本病は甲状腺がダメになっていくにもかかわらず、
初期は甲状腺機能亢進の症状を出します。
そして甲状腺の容量が少なくなっていきます。

臓が損なわれても・・例えば1O%くらい・・
体の中に入って見た訳ではないので表現しにくいのですが、
多分10%か20%ぐらい損なわれても、おさまれば自然回復すると思われます。
それより損なわれるとだんだん減っていくのです。

例えば心が90%ぐらいになって、10%ぐらい損なわれると家来に症状を出します。
小腸の症状、脳の症状、冠状動脈、頚動脈、
あるいは椎骨脳底動脈の症状を出していきます。
臓が虚していく時、腑が実している様な症状を出すのですが、
実際的には臓が虚しているのです。最終的にダメになるかどうかは言い切れませんが、
そこで腑を瀉していきたいのですが、瀉し過ぎるとまずいのです。
腑に作用する薬はやり過ぎると臓までやられるのです。
だから徹底した瀉薬を単独で延々と使うときは、
どこかで少しセーブして使わなければならないのです。
だから三黄瀉心湯は、やたら使う処方ではないのですが、急迫症状が出ているときに
パッと短期間使って効かせることは出来るのです。

瀉心湯でぜひ説明しておきたいことがあります。
最初に小柴胡湯で問題になったのですが、副作用の事です。
黄芩を含む処方で、間質性肺炎との関係が言われています。
ずっと私は漢方をやってきて思うのですが、実際に間質性肺炎を起こしているのは、
小柴胡湯、半夏瀉心湯、三黄瀉心湯あるいは他の柴胡剤です。

確かにいずれにも黄芩が 入っています。
では、それでは黄芩が原因かと言うとそうではありません。
黄芩だけが原因であれば、黄芩の中の何の成分が問質性肺炎を起こしているのか、
現代医学的に黄芩に含まれている何の成分が原因かつきとめて解明できるはずです。
疫学的に確かに黄芩が入っているので、黄芩ではないかと思うのですが、
これは違うのです。違うのですと言ってしまいましたが、
独断と偏見に近いのですがこれは大事なことなのです。

生薬畑を見に行った人はいますか? とても大事なことなので見に行ってください。
もちろん製剤になったものも見なければなりませんが、
その元の生薬はどんな姿をしているのかを見て下さい。
黄芩の花を見たことがあるでしょうか。すごくやさしい花です。
こがね花と言います。決して悪さをする様な花ではありません。

例えばトリカブト、黄連は毒々しい花です。どちらもキンポウゲの仲間で猛毒です。
その場で食べるとそんなに長くは生きていられないはずです。
黄芩は何かを包んで運ぶ作用なのです。
母親の愛情を思わせるような、そんな花です。

ところが実はそれが問題なのです。
これはいろいろな説があります。私は最初から思っているのですが、
黄芩そのものが消炎剤としての作用を持っていると言うよりも、
どうも消炎剤でも何でも、だだっ子でもあやすように運ぶのです。
そして運ばれたものが悪さをするのです。
黄芩と一緒でないと柴胡も黄連もそんなに強い効果も出せないし、
悪さが出来ません。

例えば黄連湯という処方があります。
これは半夏瀉心湯の黄芩が、桂枝に変った処方です。
それだけなのですが、半夏瀉心湯は結構悪さをします。
黄連湯も間質性肺炎として問題にされていますが、
しかし、まず問質性肺炎は起こさないようです。
実際に半夏瀉心湯は、瀉心湯としての心への作用がありますが、
黄連湯は胃内への作用しかありません。

要するに全身に運ぶのが黄芩なのです。
柴胡も同じで、黄芩と一緒になって始めて、非常に強い消炎作用を示します。
黄芩が入らないと、単なるトランキライザー的作用程度です。
うんと少量の柴胡は、この前言ったように補剤というか、
気力を持ち上げる作用があります。
ただ生薬畑は季節季節で見に行くと、
ああこれはこうかなとか、いろいろ見えてくるものなのです。
私の診察室には製品化した生薬が80品目ぐらいはあります。
解らなくなると取り出して眺めたり、臭いを嗅いだりするのですが
なんとなく解ってきます。だから製品としての生薬も、
原生植物として見るのも大切です。

本来、漢方薬は食べ物なのです。
元の食材としてどう言うものなのか見ることも必要です。
三黄瀉心湯は、黄連黄芩二つの消炎作用を大黄で更に強めているのです。
大黄は大黄甘草湯のときお話しした様に、いわゆる中枢神経鎮静作用があります。
黄連、黄芩、大黄の三つとも黄の字があり、三黄瀉心湯と言うのですが、
ちなみに瀉心湯は苦いです。
「良薬口に苦し」というのはこのことから言われます。
要するにこういうのを強めてあるのが三黄瀉心湯です。
解らない所があったらお聞き下さい。解っていることはお話しします。
解らない所は解らないと言います。

第2回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda02.htm

黄芩の花と根


商品一覧 : 三黄瀉心湯


方剤:茯苓飲

2019-05-27 | 日記


次は茯苓飲です。茯苓と似た薬がいっぱい入っているのですが、
敢えて茯苓飲と名付けて茯苓を主薬にしてあるというのは、
やはりこの処方が一番茯苓らしいからでしょうね。

人参は気を補い、黄耆は肺を補い、白朮は利尿作用で、茯苓は一応水を助けるのです。
強心作用は人参や黄耆の方が多いのです。
これは心が拍動している部分の心肺機能で酸素を取り込み、血液を全身に回す作用です。

それから本来の「心」というのは冠状動脈と内頚動脈からの脳循環です。
茯苓はどう作用するのかと言うと冠血流とは言えないし、山梔子や天麻の様に
脳関門を通って脳に入ったりしないので脳循環とも言えないのですが、
でも明らかに茯苓を使うと心神が正気に戻ると言うような感じがあるのです。

丁度、逆のことがあります。脳死状態になると2週間以内に必ずMOFになって、
どんな治療をしようが死んでしまいます。茯苓はこの逆をやる様なのです。
要するに脳の活力が少し低下して、いわゆるMOFまでは行かないで、
もっと軽い臓器不調とでも言える様な感じになって、
いろいろな臓器が元気が無いという状態の時に、
茯苓を使うとすごく全体がシヤキッと締まって来るのです。
茯苓そのものが何かしているという感じではないのです。
利尿作用は確かにあるのですが、ほんの少量加えても何か引き締まってくるのです。
おそらく多臓器不調になっているのを改善するのだと思います。
※ MOF< multiple organ failure (多臓器不全)

人参等は基本的な潜在的な心不全等を補おうとはしているのですが、
刺激する薬も入っているので徹底的に弱っている状態ではないのです。
枳実が陳皮と一緒に入っており、ほとんど動かす作用になります。
陳皮は枳実と一緒になると刺激する作用になります。
そして乾姜ではなくて生姜が入っており、
陳皮、枳実、生姜とみんな刺激する薬として働きます。そういう薬が使えるから、
そういう薬に反応するだけの物を体力として持っている筈なのです。

でも、何となく指令塔があまりうまく働いていないので全体的に不調になっており、
それをちょっと一方で亢め、一方で刺激しながら茯苓でキチッと引き締めるという
それだけの薬なのです。こういう茯苓飲の状態になると、
やはり脳や脾、肺の働きが落ちて、気の働きが悪くなって水の不調がおきます。
でも、茯苓飲だけの患者さんはあまり来ないですね。水だけの停滞の段階が多いのです。

茯苓飲合半夏厚朴湯の状態になると気も不調になり、患者さんとして医療機関に来ます。
だから茯苓飲の診断は難しいです。これが確実に出来るようになったら、
かなり力が上がったと言って良いでしょう。茯苓飲は、一応水の異常がありますが、
水毒というほどではないので、舌を見てもそんなに強い水毒が出ていません。
厳密に言えば水毒傾向だなあとか水が滞っているなあぐらいの感じです。
防已黄耆湯のように舌が分厚くなるような状態ではありません。
非常に強い冷えがある訳でもなく、お腹の痞えも軽いのです。

だから何を見るかと言ったら、やはり望診でその人の正気が「少し落ちているな。」
と言う事を把える事です。正気が落ちていてそれで頑張っていると、
見せかけの興奮状態が出てきます。その場合は桂枝茯苓の組合せになるから、
これは分かり易いのです。興奮したり落ち込んだり、精神の不安定状態が出てきます。
桂枝茯苓丸や苓桂朮甘湯がそうです。茯苓飲だけの場合は「正気が違うかな。」
という感じがあり、そのために何となく体に元気が無いという状態です。

あとは前にも言いましたが、
術者の気が亢まってくればお腹に手を置いただけで分かります。
水の動くのが感じ取れるのです。大体心下部あたりですが、
たまに右下腹部に在ることもあります。左下腹部は私はあまり記憶が無いですね。
手からの気というのはすごいのです。例えば当帰芍薬散の人はお腹を痛がるのですが、
手を置いているとその痛みが消えるのです。
本来、血と水の働きが悪くなって痛みが出ているのでが、
術者の気が伝わると痛みが消えるのです。
茯苓飲の人は術者が手を置いた途端に水が動くのを感じます。
茯苓飲合半夏厚朴湯の人は気と水が同時に動きます。
これは水泡が動くのが感じられます。
茯苓飲の場合は水だけがスーツと動くのが感じられますが、
こちらの方がはるかに難しいですね。

茯苓飲の人もまず医療機関には来ません。
茯苓飲という処方はついでにしかしたことはありません。別の人に付いて来て、
ついでに見てほしいとか言う場合にしか処方をしたことはないですね。
茯苓飲単独の人はわざわざ医療機関にこなで、町の薬局に行って
「一寸調子が悪いのですが、何か薬ありませんか。」
と言って薬を飲んでいるかもしれません。
茯苓飲合半夏厚朴湯になるとちょっと強い症状が出てきます。
胸の痞とかお腹がゴロゴロするとかですね 
その場合は私がお腹をちょっと触るとグルグルと鳴ります。
場合によっては患者さん自身がびっくりするぐらい、
お腹が動いて鳴りますのですぐ分かります。だから、
茯苓飲合半夏厚朴湯の人ぐらいからお腹を触ってマスターして行けば良いと思います。

疾患として茯苓飲は胃の病気に使うのですが、本来は正気の低下に作用します。
その為に茯苓飲という名前が付いているのです。
生薬で1gから3gぐらい茯苓を使うと本当に引き締まってくるのです。
茯苓は上薬ですのでまず副作用は出しませんし、簡単に加える事が出来ます。
因みに人参も上薬ですがやたらと出すと胃実になり過ぎて、
お腹がバンパンに張って来たり、更にひどい場合はクッシング病様になったり、
血圧が上がり過ぎたりすることがあります。

また、黄耆は合わない人が居て、飲むとかえって具合が悪くなったりすることがあり、
その人によって合ったり合わなかったりすることがあるのですが、
茯苓はほとんどそういう記憶がないですね。
この人は全体にバランスが悪いのではないかと思える人には
大抵エキス剤に茯苓を原末でちょっと加えてあげるだけで結構良い結果を出します。
今日はこれで終わります。


第11回「札幌下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda11.htm

コタロー茯苓飲エキス細粒

ツムラ茯苓飲エキス顆粒(医)

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方剤:五虎湯

2019-05-26 | 日記


次は五虎湯です。これもあまり難しくない薬です。
麻杏甘石湯に蒼白皮が加わっているものです。
この名前はちょっと良く分からないです。
石膏があって、全部で五味なので五虎湯にしたのかも知れません。
万病回春ぐらいになるとあまり訳が解らないです。
あまり良い名前ではないですね。何か誇大広告みたいな名前が多くて、
多分三国志か水滸伝に出てくる五虎将という考え方から来ているのでしょう。
要するに偉い五人の将軍を五虎と言うのです。
五つの良く効く薬味から成っているぞというのでしょうね。
悪口を言っていますけれど良い薬です。

麻杏甘石湯は気道に良く効くのですが、麻黄湯、麻杏薏甘湯と同じで、
どちらかと言ったら急性疾患で、気道に限らずに使います。
麻黄湯は気道の症状がなくても、発熱、悪寒だけにも使います。
麻杏甘石湯は気道に使いますが、咳が出なくても一旦発汗、解熱した後も、
熱感と悪寒が続いている時にも使います。それをもっと
すっきりはっきり気道に向けるために蒼白皮を加えたのが五虎湯です。
陽病の時は遷延性の気管支炎の時に使います。
慢性気管支炎ではなくて外から入ってきた気管支炎が遷延した時に使います。
陰病の時は逆に慢性気管支炎がもともとある人が、
急性炎症症状を出したときに使います。

この五虎湯という症状になると陽病も陰病も近づいてくるのです。
症状も似ていて、陽病と陰病の区別が出来るのは問診ぐらいです。
いつも咳をしているなら慢性気管支炎の急性憎悪だし、
いつもは風邪をひかないのに、今回風邪をひいたら、
いつまでも咳が取れないといったら遷延しているのだなと判断します。
ほとんどかかっている場所は同じです。
ただ五虎湯の咳が単純であるならば良いのですが、そうでない場合が多いのです。
麻杏甘石湯の場合は咳き込んでも必ずしも痰はないのですが、
五虎湯ぐらいになるとわずかに痰が出てきます。
でも痰が絡む咳ではないのですが、五虎湯だけの状態と言うのは意外に出会いません。
遷延性の気管支炎にしろ慢性気管支炎の急性憎悪にしろ五虎湯だけで治まる状態なら、
わざわざ五虎湯を使わなくてもそれまでの治療で、
あるいは自然経過で治ってしまうことが多いのです。

五虎湯を使わなければならない時は、気道に何らかの他の所見があります。
大抵の場合は麦門冬湯を加えて五虎麦門冬湯として使うか、
二陳湯を加えるかして使います。
又、滋陰至宝湯や清肺湯や辛夷清肺湯を加えることもあります。
滋陰降火湯等はあまり加えるものにならない様です。

どれにすればよいかは咳を聞けばすぐ分かります。
麦門冬湯だけの状態なら炎症はなく、
大逆上気という状態で非常に痰の切れにくい咳をします。
要するに、炎症が加わっていると五虎湯や麻杏甘石湯の状態になります。
炎症があるというのは何らかの熱症状があるという事です。
そして五虎麦門冬湯は咳き込んで咳き込んで顔が真っ赤になって、
痰がちょっと切れると楽になり、聞いていると痰が切れる音が聞き取れます。
これは聞き取るしかないのです。
例えばすごく弱っている人ならそういう咳は出来ません。
五虎麦門冬湯等は結構丈夫な人に使います。
五虎二陳湯の場合はどんどん咳き込んで、咳をするたびに水性の痰が出ます。
出ても出ても後から水性の痰が出て来て、自分で肺の中おぼれているという状態です。
麦門冬湯は痰を切れやすくしてやり、
二陳湯は水を引かせて痰の量を減らしてくれるのです。
それで非常に楽になります。
五虎麦門冬湯は昔の人の経験方によく載っているので、良く使う先生は結構居るのです。
ただ僕のところに来る人は五虎二陳湯の人が結構多いのです。
五虎麦門冬湯を使う先生は多いからだと思います。
五虎二陳湯は使いきれる先生が少ないみたいです。

「いや?、漢方を使う先生の所に行っているんですが良くならなくて。」
という人が 来たら五虎二陳湯の人が多いですね。
それでスパッと治まった経験が何人かあります。
清肺湯は麦門冬湯のお年寄り版です。五虎湯と滋陰至宝湯との組合せになると、
柴胡が入っているので何らかのアレルギーとか自己免疫疾患の肺線維症、
あるいは特発性間質性肺炎がある様な状態に使います。
辛夷清肺湯は良く話を聞くと分かるのですが、胸部にレントゲン所見がはっきり出ます。
膠原病等がある訳ではなくて、肺の下の方がつぶれているのです。
話を聞くと蓄膿症があり、これは鼻汁が肺に下って行くのです。
あるいは歯が悪くて誤飲等して、食べたものが下に下って行くという病態です。
そういう状態の時、五虎湯と辛夷清肺湯を合方します。
五虎湯は単味で使うのは非常に少ないのですが。
インフルエンザの時期に数例あるかなという程度です。むしろ急性気管支炎の遷延や、
慢性気管支炎の急性憎悪の時に五虎湯は非常に良く使います。
ちなみに二陳湯や麦門冬湯と五虎湯の組合せは子供が同じ状態になった時は、
五虎湯でなくて麻杏甘石湯との組 合せの方が良い場合もあります。
五虎麦門冬湯と五虎二陳湯が骨格なのですが、
これは繰り返し使っていって感覚で覚えるしかないのです。非常に使い手のある薬です。

第9回「札幌下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda09.htm

[参照]:喘息の治療