人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

【木防己湯】は 脳梗塞に有効

2010-05-31 | 日記

 

木防己湯の適応は原文では 痰飲が原因の 喘満・心下痞堅・煩渇の症となっている。

従ってこれまでは 喘咳・肺脹・肺原性心臓病などで本方の証がある時にのみ 
この処方が用いられて来た。

その後、憶老師が神経系統の疾患である手足の震えに用いて良い結果を得た。 

彼は亦試みに脳梗塞で肢体が浮腫むものに用いたら、 
肢体の浮腫には明らかに効果があった。 

肢体に浮腫の無い者には未だ使っていないが、 
この方の脳梗塞に対する影響は知らなかったのである。 

しかし、今ではCTやMRIが出来てからは脳梗塞に対する影響を調べることが
出来るようになった。 

ここ数年来の技術によって、我々はこれをカプセル化して患者に長期間服用させて 
臨床観察が出来るようになった。 

肢体に浮腫が有る者に限らず、浮腫が無い者でも服薬一ヵ月で、
症状の好転のみならず血栓 の縮小或いは消失が観察された。 

時には病歴の古い患者にも明らかな好転が見られた。 
木防己湯が脳梗塞に対して有効であることを証明したことで 
一歩の進歩があったと思う。 

木防己湯木防己人参桂枝生石膏の組成からなり、 
方義は益気健胃・除去痰飲である。 

脳梗塞の病因病機は 痰於の阻滞であり、 
古来から痰飲と於血は同源であると言う認識もある。 

一部の化痰薬は同時に活血化於作用もある。 
本方の木防己は利水化痰のみならず、 同時に於血を除去するのかも知れない。 

生石膏には清熱・止煩渇以外に痰飲と血液を希釈する「解凝」作用がある。 
ある患者では服薬後、コレステロールが低下したり、 
血液の粘稠度が低下したことがこれを証明している。 

これより木防己湯には益気化痰作用の他に益気活血作用もあって 
脳梗塞治療に結び付くのかもしれない。 

しかし、以上の様なことは大部分想像に過ぎず、 
これ以上のことは今後の研究に待たれるものである。               
                                              
                                                                   中国中医薬報 1995.3.20

http://youjyodo.la.coocan.jp/geocities/mycoment/53.html?fbclid=IwAR0q9lWsEb4EhIuy7CnJWRtIfEWjjTTaOoepELWOurAwTpSbT1g_E0yQ-zc

難治性心不全, 妊婦の浮腫, 木防己湯の臨床


『勿誤薬室方函口訣』よ~む ②

2010-05-27 | 日記

242.当帰六黄湯
当帰 生地黄 熟地黄 黄柏 黄芩 黄連 黄耆
 此の方は陰虚火動の盗汗を治する方なれども、総べて血分に熱ありて自汗盗汗する者に効あり。また眼中翳膜を生じ膿水淋漓、俗に所謂膿眼に効あり。また血虚眼の熱ある者に宜し。

243.当帰四逆湯(宝鑑)
当帰 附子 桂枝 茴香 柴胡 芍薬 茯苓 延胡索 川楝子 沢瀉
 此の方、柴胡、附子と伍すること古方の意に非ざれども、姑く四逆散の変方と見做し、腹中二行通りに拘急あり、腰胯に引きて冷痛する者を治す。此の方の一等甚だしく腰脚冷痛する者を止痛附子湯とするなり。

244.導滞通経湯
木香 白朮 桑白皮 陳皮 茯苓
 此の方は気閉より来たる水気に効あり。呉又可の所謂気復などの症、数日浮腫する者、また久病の者、一旦に浮腫する者は、皆「気不宣通」に係る。皆此の方に宜し。

245.導水茯苓湯
茯苓 麦門冬 沢瀉 蒼朮 桑白皮 紫蘇葉 檳榔子 木瓜 大腹皮 陳皮 縮砂 木香 灯心草
 此の方は大剤にして濃煎せざれば効なし。是れ劉教諭茝庭の経験なり。「要如熬阿刺気酒」の義未詳。此の方の目的は「徧身如爛瓜之状、手按而搨陥、手起随手而高突」と云ふ言なり。若し爛瓜の状の如にして手按じて高突すること能はず、或は毛竅より瘀水溢出する者は虚候にして死期近きに在り。此の方虚実の間にあれば、此の場を合点して、諸水腫日を経て愈えず、爛瓜の如き者に用ひて効あり。

246.托裏消毒散
人参 川芎 芍薬 黄耆 当帰 白朮 茯苓 白芷 金銀花 甘草 桔梗 皁角刺
 此の方は『千金』内補散と伯仲の剤なれども、内補散は托膿を主とし、此の方は消毒を兼ぬ。故に毒壅の候を帯ぶる者、此の方を与ふるを佳とす。余は内補散の条に弁ず。

247.桃仁承気湯
大黄 芒硝 桃仁 当帰 芍薬 牡丹皮
 此の方は『傷寒論』の変方にして、其の証一等緩なる処に用ゆ。作者の趣意は、胃実の症にして、下剤を与へず、夜に至りて発熱する者は、熱血分に留まる者なり。下剤を与へざれば瘀血となる。此の方を用ゆべしと云へども、此くの如き証は、矢張、本論の方が宜しきなり。また既に下して後、昼日熱減じ、夜に至りて熱出づる者、瘀血行らざる故なり。此の場合にて此の方及び犀角地黄湯を用ゆべきなり。此の症、下を失し、自ら下血する者は甚だ危篤に至る、或は暴に下血して、手足厥冷し、絶汗出で、一夜を経ずして死す。故に血を見ざる前に、此の方及び犀角地黄湯を斟酌して用ゆべし。吾門にては大黄牡丹皮湯の一等軽き処を腸癰湯、騰竜湯とし、桃核承気湯の一等軽き処を桂枝桃仁湯及び此の方とするなり。

248.桃仁湯
桃仁 牡丹皮 当帰 芍薬 阿膠 滑石
 此の方、呉氏は邪血分を干す者に用ゆれども、吾門にては水分、血分、二道に渉る者に用ゆ。故に猪苓湯の証にして邪血分に波及する者は此の方を用ゆ。また水、血と結んで血室に在る者、大黄甘遂湯を以て攻下の後、此の方を与ふる時は工合至りて宜しきなり。

249.大保元湯
川芎 黄耆 人参 桂枝 甘草 白朮
 此の方は痘瘡、元気虚して起脹する能はざる者を主とすれども、凡べて小児虚弱にして、五遅五軟の兆あり、他に余症なき者に用ひて、三味の保元湯より効優なり。吉村扁耆は三味の方は痘疹より反て慢驚風に効ありと云ふ。試むべし。

250.大百中飲
遺糧 牛膝 甘草 黄連 檳榔子 人参 大黄 桂枝 黄芩 沈香 川芎 杜仲
 此の方は『療治茶談』に載する如く、黴毒の沈痾痼疾になりて奈何ともすべからざる者に効あり。其の中、上部の痼毒に宜し。下部の痼毒は七度煎に宜し。また身体痼毒ありて虚憊甚だしき者は葳蕤湯に宜し。本邦唐瘡の治方に奇験方と称する者数方あれども、此の方第一とす。

251.導水湯
蒼朮 茯苓 檳榔子 木瓜 茅根 猪苓 沢瀉 厚朴
 此の方は導水茯苓湯の軽症を治す。和方に導水、疏水、禹水と称する者数方あれども、此の方最も簡便にして古方に近し。

252.桃花湯(松原)
桃花 大黄
 此の方は『外台』桃花一味の方より出で、腹水を去るに即効あり。また能く酒毒を下すなり。

253.大神湯
茵蔯蒿 大黄 人参 山梔子 茯苓 縮砂 黄芩 甘草
 此の方、黄胖の重症に用ゆ。黄胖は大抵平胃散加鉄砂、針砂湯、瀉脾湯加竜蛎の類にて治すれども、重実の症に至りては此の方を宜しとす。また虚症に至りては六君子湯莎朴蜜を宜しとす。

254.大寧心湯
大黄 茯苓 粳米 竹筎 黄連 知母 石膏
 此の方は薩州医員喜多村良沢、癇火を鎮するの主方とす。『千金』温胆湯の症にして実する者に用ゆ。柴田家にては小児陽癇、煩渇甚だしき者の主方とす。

礼部(れ)
255.羚羊角湯(外台)
木通 陳皮 厚朴 呉茱萸 乾姜 羚羊角 附子
 此の方は気噎にて食餌咽につまり下らざる者に用ゆ。飲膈の者には効なし。一士人、疝にて飲食を硬塞する者あり。此の方にて効を得たり。古方、膈噎に辛温の剤を用ゆるは、其の辛味を以て透達するの意なり。羚羊角、噎を治するも亦古意なり。

256.羚羊角湯(得効)
羚羊角 桂枝 附子 独活 芍薬 防風 川芎 生姜
 此の方は筋痺と云ふを目的とす。一婦人、臂痛甚だしく、肩背の筋脈強急して動揺しがたき者、此れを用ひて治す。羚羊、附子と伍するは前方と同旨にて格別の活用あり。

257.連理湯
人参 白朮 乾姜 甘草 黄連 茯苓
 此の方は桂枝人参湯と表裏にて、裏寒に表熱を挟んで下利する者は彼の方なり。陰下に在り陽を上に隔して下利する者は此の方なり。此の意にて傷寒のみならず諸病に用ゆべし。

258.連葛解醒湯
黄連 葛根 滑石 山梔子 神麴 青皮 木香
 此の方は酒客の久痢に効あり。俗に疝瀉などと唱ふるもの真武湯、七成湯等を与へて効なきとき、腸胃の湿熱に着眼して此の方を用ゆべし。また酒毒を解すること葛花解醒湯より優なり。

259.連翹湯
桔梗 甘草 連翹 木通 紅花
 此の方は本邦唖科の経験にて、類方多くあれども、此の方を是とす。胎毒の虚症にあり、若し内攻の勢あらば『千金』五香湯を合して用ゆ。実するもの即ち馬明湯なり。

260.連翹飲
連翹 牛蒡 柴胡 当帰 芍薬 木通 黄芩 甘草
 此の方は痘疹の余毒を治す。大連翹飲よりは簡にして用ひ易し。若し毒深き者は大連翹飲の方に本づきて加減すべし。

261.連珠飲
茯苓 桂枝 白朮 甘草 当帰 川芎 芍薬 地黄
 此の方は水分と血分と二道に渉る症を治す。婦人失血或は産後、男子痔疾下血の後、面部浮腫、或は両脚微腫して、心下及び水分に動悸あり、頭痛眩暈を発し、または周身青黄浮腫して黄胖状を為す者に効あり。

曽部(そ)
262.続命湯
麻黄 桂枝 当帰 人参 石膏 乾姜 甘草 川芎 杏仁
 此の方は偏枯の初起に用ひて効あり。其の他、産後中風、身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者、または後世、五積散を用ゆる症にて熱勢劇しき者に用ゆべし。

263.走馬湯
巴豆 杏仁
 此の方は紫円の元方にて、一本鎗の薬なり。凡そ中悪、卒倒、諸急症、牙関、噤急、人事不省の者、此の薬を澆ぐときは二三滴にて効を奏す。また打撲、墜下、絶倒、口噤の者にも用ゆ。

264.増損四順湯
人参 附子 乾姜 甘草 竜骨 黄連
 此の方は四逆湯の症にして寒熱錯雑する者を治す。故に復元湯、既済湯の一等重き処に用ゆ。また下痢不止の語に注意して、凡そ理中、四逆を与へて下利止まざる者に用ゆ。古方、竜骨、黄連と伍する者は下利を収濇するの手段なり。断痢湯の方意も亦同じ。

265.増損理中丸
人参 白朮 乾姜 甘草  枳実 茯苓 牡蛎 栝楼根
 此の方は理中丸の症にして、心下結満、或は胸中気急、結胸に類して其の実は虚気上気して胸部を圧迫する者を治す。『活人書』の枳実理中湯は此の方の一等軽き者なり。

266.蘇恭一方犀角湯
犀角 羚羊角 射干 沈香 木香 丁香 石膏 麦門冬 竹筎 麝香 人参 茯苓
 此の方は脚気衝心、膈熱甚だしく因悶する者を治す。また傷寒膈熱の症にも用ゆ。即ち紫雪と同意なり。

267.蘇子湯
紫蘇子 乾姜 陳皮 茯苓 半夏 桂枝 人参 甘草
 此の方は『千金』紫蘇子湯の類方にして、虚気上逆して気喘する者を治す。蓋し紫蘇子湯に比すれば利水の効あり。半夏、乾姜と伍するは心下の飲を目的とするなり。

268.息奔湯
桂枝 呉茱萸 桑白 半夏 葶藶子 人参 甘草
 此の方は延年半夏湯の症の如く、脇下に飲癖ありて、時々衝逆して呼吸促迫、気喘、絶せんと欲する者に宜し。蓋し半夏湯に比すれば塊癖は軽くして上迫の勢強しとす。或は人脇下の左右を以て二方の別とするは肺積の名に泥むものと云ふべし。

269.捜風解毒湯
防風 遺糧 金銀花 木通 薏苡仁 木瓜 皁角子 白鮮皮
 此の方は解毒剤の元祖にて、黴毒の套剤とすれども、汞薬を服するの後、筋骨疼痛する者に非ざれば効なし。尋常の黴瘡なれば香川の解毒剤を隠当とす。

270.壮原湯
人参 蒼朮 茯苓 破胡紙 桂枝 附子 乾姜 縮砂
 此の方は元、中満腫脹が目的にて皷脹の薬なれども、陰水にて桂姜棗草黄辛附湯、真武湯の類を投じ、腹満反て甚だしく、元気振はず小便不利する者に用ひて効あり。すべて附子剤、此の方の類を用ゆる腹満皷脹は、腹平満して大便秘せざる者なり。平満の処へ下剤をやると益ます早く脹をなす者なり。厚朴七物の類を始め、下剤を与へる脹満は、つんぽりと脹るものなり。是れを腹満陰陽の別とす。

271.桑白皮湯(脚気論)
桑白皮 沈香 防已 木通 厚朴 茯苓 檳榔子 郁李仁 紫蘇葉 生姜 犀角
 此の方は磐瀬元策の家方にて脚気衝心腫気の衝心状になりたるに用ゆ。唐侍中一方、犀角旋覆花湯に比すれば利水の力強く、沈香豁胸湯に比すれば降気の力乏しとす。

272.瘡瘍解毒湯
連翹 檳榔子 桔梗 鬱金 丁香 沈香 木香 金銀花 紅花 甘草
 此の方は一切腫瘍に用ゆれども、其の中、胎毒に属する者に効あり。連翹湯の一等重き者にして、五香連翹湯よりは稍や軽しとす。

273.桑白皮湯(東郭)
桑白皮 呉茱萸
 此の方は『外台』卒喘の主とす。凡そ急迫、喘気を発し、困悶する者を治す。また此の意にて諸方に合して用ゆべし。『導水瑣言』に三日坊を治すと云ふも此の症なるべし。有持桂里は此の方酒にて煎じざれば効なしと云ふ。

津部(つ)
274.通脈四逆湯、通脈四逆加猪胆汁湯
甘草 乾姜 附子(甘草 乾姜 附子 猪胆汁)
 二方共に四逆湯の重症を治す。後世にては姜附湯、参附湯などの単方を用ゆれども甘草ある処に妙旨あり。姜附の多量を混和する力ある故通脈と名づけ、地麦の滋潤を分布する力ある故、復脈と名づく、漫然に非ざるなり。加猪胆汁湯は陰盛格陽と云ふが目的なり。格陽の証に此の品を加ふるは白通湯と同旨なり。

275.追風通気湯
当帰 木通 芍薬 白芷 茴香 枳実 甘草 何首烏 烏薬
 此の方は気血流注して癰瘡をなさんと欲する者を解散す。就中痛甚だしき者に効あり。打撲仙気等、対症の薬を与へて効なく、痛反て劇しき者に用ゆ。後世にては流注毒実証の者に此の方を用ひ、虚症の者に『正宗』の益気養栄湯を用ゆるなり。

276.通関湯
桔梗 甘草 人参 茯苓 薄荷 防風 荊芥 乾姜 白朮
 此の方は喉痺の脱症に用ゆ。凡そ喉痺の症軽き者は桔梗湯、重き者は苦酒湯、危劇の者は桔梗白散にて、大抵治すれども、脱候の者に至りては此の方に附子を加へざれば効なし。

277.通経導滞湯
香附子 芍薬 当帰 川芎 地黄 陳皮 紫蘇葉 牡丹皮 紅花 牛膝 枳実 甘草 独活
 此の方は瘀血流注を治す。また婦人風湿疼痛、年を経て血分に関係する者に効あり。また瘀血流注の甚だしき者に至りては桂苓丸料加附子将軍か桃核承気湯加附に非ざれば効なし。

278.頭風神方
遺糧 金銀花 蔓荊子 玄参 防風 天麻 辛荑 黒豆 川芎 灯心草 芽茶
 此の方は結毒の頭痛或は耳鳴者に効あり。また結毒の眼に入りて痛む者を治す。何れも結毒紫金丹を兼服するを優とす。此の方、惟に湿毒のみに非ず、他症脳痛、或は耳鳴等の症に用ひて効あり。

禰部(ね)
279.寧肺湯
人参 白朮 当帰 地黄 川芎 芍薬 甘草 麦門冬 五味子 桑白皮 茯苓 阿膠
 此の方は八珍湯の人参を去り、五味、麦門、桑白、阿膠を加ふる者にして、肺痿虚敗の者、または咳嗽数年を経て血虚骨立する者を治す。栄衛倶に虚し発熱と云ふが目的なり。若し熱無く虚敗する者は炙甘草湯加桔梗を佳とす。阿膠は潤燥緩急の能ありて、肺部を潤し咳嗽を緩むるのみならず、痢に用ゆれば裏急を緩め、淋に用ゆれば窘迫を解き、其の他諸失血、帯下に用ゆ、皆潤燥を主とするなり。

奈部(な)
280.内補散
桂枝 白芷 人参 桔梗 川芎 甘草 防風 厚朴 当帰
 此の方は癰疽及び痘疹補托の主剤なり。揮発の力弱なる者には反鼻を加ふべし。癰疽に限らず一切の腫物、初め熱ある時は十味敗毒湯を用ひ、潰るや否や分明ならざる時は托裏消毒飲を用ひ、口潰ゆることを見定め、其の虚実に随ひて此の方を与ふべし。

281.内疎黄連湯
黄連 芍薬 当帰 檳榔子 木香 黄芩 山梔子 薄荷 桔梗 甘草 連翹 大黄
 此の方は癰疽発熱強き者に用ゆ。余は主治の如し。多味なれども、癰疽内壅の症に至りては、調胃承気湯、凉膈散よりは用ひ工合宜し。若し此の方の応ぜざる者は『千金』五利湯に宜し。

牟部(む)
282.無礙丸
莪朮 三稜 大腹皮 木香 檳榔子 生姜
 此の方は脾気横泄と云ふが目的にて、腹中に伏梁の如き堅塊ありて脹満し四肢浮腫をなす者に効あり。若し此の症にて虚候ある者は変製心気飲加附子か『三因』の復元丹を与ふべし。

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『勿誤薬室方函口訣』よ~た ①

2010-05-27 | 日記

与部(よ)
204.薏苡附子散料
薏苡仁 附子
 此の方は散にて瞑眩に堪へがたき故、料とするなり。胸痺急劇の症を治す。また腸癰、急に脱候を現はす者にも用ゆべし。

205.抑肝散
柴胡 甘草 川芎 当帰 白朮 茯苓 釣藤鈎
 此の方は四逆散の変方にて、凡べて肝部に属し、筋脈強急する者を治す。四逆散は、腹中任脈通り拘急して胸脇の下に衝く者を主とす。此の方は左腹拘急よりして四肢筋脈に攣急する者を主とす。此の方を大人半身不遂に用ゆるは東郭の経験なり。半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは、心下より任脈通り攣急動悸あり、心下に気聚りて痞する気味あり、医、手を以て按ぜば左のみ見えねども、病人に問へば必ず痞と云ふ。また左脇下柔なれども少筋急ある症ならば怒気はなしやと問ふべし。若し怒気あらば此の方効なしと云ふことなし。また逍遙散と此の方とは二味を異にして、其の効用同じからず。此処に着目して用ゆべし。

206.薏苡仁湯(明医指掌)
薏苡仁 当帰 芍薬 麻黄 桂枝 甘草 蒼朮
 此の方は麻黄加朮湯、麻黄杏人薏苡甘草湯の一等重き処へ用ゆるなり。其の他、桂芍薬知母湯の症にして附子の応ぜざる者に用ひて効あり。

207.抑肝扶脾散
人参 白朮 茯苓 竜胆 白芥子 山楂子 陳皮 青皮 神麹 黄連 柴胡 胡黄連 甘草
 此の方は肝実脾虚を目的とす。其の人、気宇鬱塞、飲食進まず、日を経て羸痩し、俗に所謂疳労状をなす者に効あり。小児なれば浄府散の虚候を帯ぶる者に宜し。

208.薏苡仁湯(正宗)
薏苡仁 冬瓜仁 牡丹皮 桃仁 芍薬
 弁は腸癰湯の条に詳らかなり。

209.抑気散
烏薬 紫蘇葉 陳皮 檳榔 縮砂 沈香 香附子 枳実
 此の方は気剤の冠とす。正気天香湯、大烏沈散は無形の気を散ずるを主とす。此の方は胸膈痰飲窒碍を主とす。若し腹裏拘急を主とするときは柴胡疏肝湯に非ざれば効なし。

太部(た)
210.大青竜湯
麻黄 桂枝 甘草 杏仁 生姜 大棗 石膏
 此の方、発汗峻発の剤は勿論にして、其の他、溢飲、或は肺脹、其の脈緊大、表症盛んなる者に用ひて効あり。また天行赤眼、或は風眼の初起、此の方に車前子を加へて大発汗するときは奇効あり。蓋し風眼は目の疫熱なり。故に峻発に非ざれば効なし。方位は麻黄湯の一等重きを此の方とするなり。

211.大柴胡湯
柴胡 黄芩 芍薬 半夏 生姜 枳実 大棗 大黄
 此の方は少陽の極地に用ゆるは勿論にして、心下急、鬱々微煩と云ふを目的として、世の所謂癇症の鬱塞に用ゆるときは非常の効を奏す。恵美三伯は此の症の一等重きに香附子、甘草を加ふ。高階枳園は大棗、大黄を去り、羚羊角、釣藤、甘草を加ふ。何れも癇症の主薬とす。方今、半身不遂して不語するもの、世医中風を以て目すれども、肝積、経隧を塞ぎ、血気の順行あしく、遂に不遂を為すなり。肝実に属する者、此の方に宜し。尤も左脇より心下へかけて凝り、或は左脇の筋脈拘攣し、これを按じて痛み、大便秘し、喜怒等の証を目的とすべし。和田家の口訣に、男婦共に櫛けづる度に髪ぬけ年不相応に髪の少なきは肝火のなす処なり、此の方大いに効ありと云ふ。また痢疾初起、発熱、心下痞して嘔吐ある症、早く此の方に目を付くべし。また小児疳労にて毒より来たる者に、此の方加当帰を用ひて其の勢を挫き、其の跡は小柴胡、小建中の類にて調理するなり。其の他、茵蔯を加へて、発黄、心下痞鞕の者を治し、鷓鴣菜を加へて蚘虫熱嘔を治するの類、運用最も広し。

212.桃核承気湯
芒硝 大黄 桂枝 甘草 桃仁
 此の方は傷寒蓄血、少腹急結を治するは勿論にして、諸血証に運用すべし。譬へば吐血、衂血止まざるが如き、此の方を用ひざれば効なし。また走馬疳、齗疽、出血止まざる者、此の方に非ざれば治すること能はず。癰疽及び痘瘡、紫黒色にして内陥せんと欲する者、此の方にて快下するときは思ひの外揮発する者なり。また婦人、陰門腫痛或は血淋に効あり。若し産後悪露下ること少く腹痛者と、胞衣下らずして日を経る者とは、此の方を煮上げて清酒を入れ、飲み、あんばい宜しくして、徐々に与ふべし。また打撲、経閉等、瘀血の腰痛に用ゆ。瘀血の目的は必ず昼軽くして夜重き者なり。痛風抔にても昼軽くして夜痛みはげしきは血による者なり。また数年歯痛止まざる者、此の方を丸として服すれば験あり。其の他、荊芥を加へて痙病及び発狂を治し、附子を加へて血瀝腰痛及び月信痛を治するが如き、其の効挙げて数へがたし。

213.大陷胸湯
大黄 芒硝 甘遂
 此の方は熱実結胸の主薬とす。其の他、胃痛劇しき者に特効あり。一士人、胸背徹痛、昼夜苦楚忍ぶべからず、百治効なく自ら死せんとす。大陷胸湯を服する三貼にして霍然たり。また脚気衝心、昏悶絶えんと欲する者、此の方を服して蘇生せり。凡そ医者死地に臨んでまた此の手段無くんばあるべからず。また留飲に因りて肩背に凝る者に速効あり。是れよりして小児の亀背などにも此の方を用ゆることあり。其の軽き者は大陷胸丸に宜し。また小児亀胸にならんと欲するときは此の方を早く用ゆれば効を収むるものなり。

214.大黄黄連瀉心湯
大黄 黄芩 黄連
 此の方は上焦瀉下の剤にして、其の用尤も広し。『局方』三黄湯の主治、熟読すべし。但し気痞と云ふが目的なり。

215.大承気湯
大黄 厚朴 枳実 芒硝
 此の方は胃実を治するが主剤なれども、承気は即ち順気の意にて、気の凝結甚だしき者に活用すること有り。当帰を加へて発狂を治し、乳香を加へて痔痛を治し、人参を加へて胃気を皷舞し、また四逆湯を合して温下するが如き、妙用変化窮りなしとす。他は『本論』及び呉又可氏の説に拠りて運用すべし。

216.桃花湯(傷寒論)
赤石脂 乾姜 粳米
 此の方は『千金』には丸として用ゆ。至極便利なり。膿血下利、此の方に非ざれば治せず。蓋し後重あれば此の方の主にあらず。白頭翁湯を用ゆべし。若し後重して大腹痛あるに用ゆれば害を為す者なり。また此の方、赤石脂禹余糧湯に対すれば、少し手前にて上にかかりてあり。病下焦に専らにして腸滑とも称すべきは赤石脂禹余糧湯に宜し。

217.当帰四逆湯(傷寒論)
当帰 桂枝 芍薬 細辛 大棗 甘草 木通
 此の方は厥陰表寒の厥冷を治する薬なれども、元桂枝湯の変方なれば、桂枝湯の症にして血分の閉塞する者に用ひて効あり。故に先哲は、厥陰病のみに非ず、寒熱勝復して手足冷に用ゆ可しと云ふ。また加呉茱萸生姜は後世の所謂疝積の套剤となすべし。陰★(やまいだれに頽)の軽きは此の方にて治するなり。若し重き者は禹攻散を兼用すべし。

218.当帰四逆加呉茱萸生姜湯
当帰 桂枝 芍薬 細辛 大棗 甘草 木通 呉茱萸 生姜
 弁は前に見ゆ。

219.大建中湯(金匱)
蜀椒 乾姜 人参 膠飴
 此の方は小建中湯と方意大いに異なれども、膠飴一味あるを以て建中の意明了なり。寒気の腹痛を治する。此の方に如くはなし。蓋し、大腹痛にして胸にかかり嘔あるか、腹中塊の如く凝結するが目的なり。故に諸積痛の甚だしくして、下から上へむくむくと持ち上ぐる如き者に用ひて妙効あり。解急蜀椒湯は此の方の一等重き者なり。また小建中湯の症にして一等衰弱、腹裏拘急する者は『千金』大建中湯を宜しとす。

220.大黄附子湯
大黄 附子 細辛
 此の方は偏痛を主とす。左にても右にても拘ることなし。胸下も広く取りて胸助より腰までも痛に用ひて宜し。但し烏頭桂枝湯は腹中の中央に在りて夫より片腹に及ぶものなり。此の方は脇下痛より他に引きはるなり。蓋し大黄附子と伍する者、皆尋常の症にあらず、附子瀉心湯、温脾湯の如きも亦然り。凡そ頑固偏僻抜き難きものは皆陰陽両端に渉る故に非常の伍を為す。附子、石膏と伍するも亦然りとす。

221.大半夏湯
半夏 人参 蜂蜜
 此の方、嘔吐に用ゆるときは心下痞鞕が目的なり。先に小半夏湯を与へて差えざる者に此の方を与ふべし。大小柴胡湯、大小承気湯の例の如し。蓋し小半夏湯に比すれば蜜を伍するに深意あり。膈咽の間、交通の気、降るを得ずして嘔逆する者、蜜の膩潤を以て融和し、半夏、人参の力をして徐々に胃中に斡旋せしむ。古方の妙と云ふべし。故に此の方能く膈噎を治す。膈噎の症は、心下逆満して、つふつふと枯燥してあり、此の方必ず効あり。若し枯燥せざる者は水飲にてなす膈にて効なし。また胃反、膈噎ともに食にむせび気力乏しきに、此の方に羚羊角を加へて用ゆ。羚羊角の能は『外台』羚羊角湯の条に弁ず。

222.大黄牡丹湯
大黄 牡丹皮 桃仁 冬瓜子 芒硝
 此の方は腸癰膿潰以前に用ゆる薬なれども、其の方、桃核承気湯と相似たり。故に先輩、瘀血衝逆に運用す。凡そ桃核承気の証にして小便不利する者は、此の方に宜し。其の他、内痔、毒淋、便毒に用ひて効あり。皆排血利尿の効あるが故なり。また痢病、魚脳の如きを下す者、此の方を用ゆれば効を奏す。若し虚する者、駐車丸の類に宜し。凡そ痢疾久しく痊えざる者は腸胃腐爛して赤白を下す者と見做すことは後藤艮山の発明にして、奥村良筑、其の説に本づき、陽症には此の方を用ひ、陰症には薏苡附子敗醤散を用ひて、手際よく治すと云ふ。古今未発の見と云ふべし。

223.大黄甘草湯
大黄 甘草
 此の方は所謂南熏を求めんと欲せば必ず先づ北牖を開くの意にて、胃中の壅閉を大便に導きて上逆の嘔吐を止どむるなり。妊娠悪阻、不大便者も亦効あり。同じ理なり。丹渓、小便不通を治するに、吐法を用ひて肺気を開提し、上竅通じて下竅も亦通ぜしむ。此の方と法は異なれども理は即ち同じきなり。其の他一切の嘔吐、腸胃の熱に属する者、皆用ゆべし。胃熱を弁ぜんと欲せば、大便秘結、或は食已即吐、或は手足心熱、或は目黄赤、或は上気、頭痛せば胃熱と知るべし。上冲の症を目的として用ゆれば大なる誤はなし。虚症にも大便久しく燥結する者、此の方を用ゆ。是れ権道なり。必ず柱に膠すべからず。讃州の御池平作は此の方を丸として多く用ゆ。即今の大甘丸。中川修亭は調胃承気湯を丸として能く吐水病を治すと云ふ。皆同意なり。

224.当帰芍薬散
当帰 芍薬 茯苓 白朮 沢瀉 川芎
 此の方は吉益南涯得意にて諸病に活用す。其の治験『続建殊録』に悉し。全体は婦人の腹中★(「疞」の6画目の「一」なし)痛を治するが本なれども、和血に利水を兼ねたる方故、建中湯の症に水気を兼ぬる者か、逍遙散の症に痛を帯ぶる者か、何れにも広く用ゆべし。華岡青洲は呉茱萸を加へて多く用ひられたり。また胎動腹痛に此の方は★(「疞」の6画目の「一」なし)痛とあり、芎帰膠艾湯には只腹痛とありて軽きに似たれども、爾らず。此の方は痛甚だしくして大腹にあるなり。膠艾湯は小腹にあって腰にかかる故、早く治せざれば将に堕胎の兆となるなり。二湯の分を能く弁別して用ゆべし。

225.当帰建中湯
当帰 桂枝 芍薬 生姜 甘草 大棗 膠飴
 弁、小建中湯の条下に詳らかにす。方後、地黄、阿膠を加ふる者、去血過多の症に用ひて十補湯などよりは確当す。故に余、上部の失血過多に『千金』の肺傷湯を用ひ、下部の失血過多に此の方を用ひて、内補湯と名づく。

226.大黄甘遂湯
大黄 甘遂 阿膠
 此の方は水血二物を去るを主とすれども、水気が重になりて血は客なり。徴難と云ふ者は一向不通に非ず。此の症に多くある者なり。然し婦人、急に小腹満結、小便不利する者に速効あり。また男子、疝にて小便閉塞、少腹満痛する者、此の方尤も験あり。

227.大建中湯(千金)
1.黄耆 人参 当帰 桂枝 大棗 半夏 生姜 芍薬 附子 甘草 2.膠飴 黄耆 遠志 当帰 沢瀉 芍薬 人参 竜骨 甘草 生姜 大棗
 弁、前『金匱』大建中湯の条に見ゆ。同名にて遠志、竜骨の入る方は、桂枝加竜牡湯の症一等重く、精気虚乏の者に与へて効を得しことあり。

228.当帰湯
当帰 芍薬 半夏 厚朴 桂枝 乾姜 人参 黄耆 蜀椒 甘草
 此の方は心腹冷気絞痛、肩背へ徹して痛む者を治す。津田玄仙は此の方より枳縮二陳湯が効有りと言へども、枳縮二陳は胸膈に停痰ありて肩背へこり痛む者に宜し。此の方は腹中に拘急ありて痛み、それより肩背へ徹して強痛する者に宜し。方位の分別混ずべからず。

229.大三五七散
細辛 防風 乾姜 烏頭(天雄) 山茱萸 山薬
 此の方は陽虚風寒入脳の六字が主意にて、一夜の内に口眼喎斜を発し、他に患ふる処なく、神思少しも変らぬ者に効あり。医、大抵中風の一症として治風の薬を与ふれども効なし。是れは一種の頭風なり。重き者は時々紫円にて下すべし。また外に苦処なく唯だ耳聾する者に効あり。若し熱有りて両脇へ拘急し、耳聞へ難き者は小柴胡湯の行く処なり。諸病、耳鳴り或は頭痛して足冷ゆる者に用ひて妙効あり。

230.大膠艾湯
川芎 阿膠 甘草 艾葉 当帰 芍薬 地黄 乾姜
 此の方は芎帰膠艾湯と主治同じ。蓋し乾姜を加ふる処に深意あり。地黄、乾姜と伍するときは、血分のはたらき一層強くなるなり。咳奇方、治血狂一方も同旨なり。

231.断痢湯
半夏 乾姜 人参 黄連 附子 茯苓 甘草 大棗
 此の方は半夏瀉心湯の変方にして、本心下に水飲あり、既に陰位に陥りて下利止まざる者を治す。また小児疳利の脱症に用ひて効あり。疳利は黄連、附子と伍せざれば効を奏せず。また痢病諸薬効を奏せず、利止み難き者、此の方を用ひて験あり。

232.唐侍中一方
檳榔 生姜 陳皮 呉茱萸 紫蘇葉 木瓜
 此の方は脚気衝心の主方なれども虚症には効なし。大抵胸満気急し、其の気上衝せんと欲する者に効あり。若し此の方を用ひて其の腫、益ます盛んになりてくるは木茱湯を兼用すべし。実する者、有持桂里は大黄を加ふ。其の効速やかなりと云ふ。若し偏身洪腫して心下苦悶する者、辻山崧は越婢湯を合して用ゆ。余は朮苓を加へて双解散と名づく。『朱氏集験』には桔梗を加へて鶏鳴散と名づけ、脚気の套薬とす。

233.当帰鶴虱散
当帰 鶴虱 陳皮 人参 檳榔子 枳実 芍薬 桂枝 生姜 大棗
 此の方は蚘虫にて心痛止まざる者を治す。鶴虱、倭産効なし。森立之の説に従ひて蛮名「セメンシーナ」を用ゆべし。若し此の方を用ひ蚘虫去るの後、心痛猶ほ止まざる者は甘草粉蜜湯特効あり。

234.当帰大黄湯
当帰 芍薬 桂枝 乾姜 呉茱萸 人参 大黄 甘草
 此の方は桂枝加芍薬湯の変方にて、温下の剤なり。俗に所謂疝積にて腰背より肋下へさしこみ痛む者、此の方の目的なり。若し心下堅満して胸膈までも及ぶ者は、方後に云ふ仲景方の枳実、茯苓を加ふる者を用ゆべし。其の方『千金』方名なし。吾門、十味当帰湯と名づく。此の方及び十味当帰湯は脊へ廻りて痛む者を主とす。疝にて腹や腰に廻るものは多くあれども脊に廻る者は少し。此れ着眼の第一なり。凡そ『千金』『外台』に冷気と云ふ者は、上は痰飲を指し、下は疝気を云ふ。仲景は淡飲を寒飲と云ひ、疝気を久寒と云ふ。

235.当帰白朮湯
白朮 茯苓 甘草 当帰 茵蔯蒿 猪苓 枳実 前胡 杏仁 半夏
 此の方は心下及び脇下に痃癖ありて発黄し、大柴胡湯加茵蔯、或は八神湯、延年半夏湯の諸挫堅の剤、攻撃の品を施せども寸効なく、胃気振はず、飲食減少、黄色依然たる者に用ひて往々効を奏す。『三因』には酒疸とあれども諸疸に運用して飲癖を主とすべし。

236.大連翹飲
連翹 荊芥 木通 防風 牛蒡子 甘草 蝉退 当帰 芍薬 柴胡 黄芩 山梔子 滑石 車前子
 此の方は元、痘疹収靨の期に及んで余毒甚だしく、諸悪症を現ずるを治する方なれども、今、運用して、大人老★(「嬾」の「束」なし)、血分に瘀滞ありて身体種々無名の悪瘡を発し、諸治効なき者に与へて奇効あり。若し熱毒甚だしき者は犀角を加ふるを佳とす。

237.導赤散
地黄 滑石 木通 甘草 灯草
 此の方は心経実熱ありて、或は声音発せず、言語すること能はず、或は口眼唱斜、半身不遂する者を治す。此の症、肝風と混じ易し。『小児直訣』及び『局方』導赤散円の条を熟読して了解すべし。傷寒に用ゆる導赤各半湯も此の意を得て与ふべし。故友熱田友奄、中風不語に導赤各半湯を与へて奇効を得しと云ふ。心胞絡の実熱に着眼したるなり。

238.大防風湯
地黄 当帰 芍薬 川芎 黄耆 防風 杜仲 蒼朮 附子 人参 独活 甘草 牛膝
 此の方、『百一選方』には鶴膝風の主剤とし、『局方』には麻痺痿軟の套剤とすれども、其の目的は脛枯腊とか風湿挟虚とか云ふ気血衰弱の候が無ければ効なし。若し実する者に与ふれば反て害あり。

239.大七気湯
三稜 莪朮 桔梗 桂枝 陳皮 藿香 甘草 香附子 益智仁
 此の方、後世にては積聚の主剤とすれども、莪稜は破気を主とす。堅塊の者は檳鼈に非ざれば効なし。故に古方、積聚の方多く此の二品を用ゆるなり。此の方は腹中に癖気ありて飲食に嗜忌あり、或は食臭を悪み、動もすれば嘔吐腹痛を発し、須臾にして忘るるが如きものに効あり。また蚘を兼ぬる者に檳榔を加へて用ゆ。後世所謂神仙労などの類は、余此の方に神仙散を兼服せしめて往々効を奏せり。

240.当帰飲子
当帰 芍薬 川芎 地黄 白蒺藜 防風 荊芥 何首烏 黄耆 甘草
 此の方は老人血燥よりして瘡疥を生ずる者に用ゆ。若し血熱あれば温清飲に宜し。また此の方を服して効なきもの四物湯に荊芥、浮萍を加へ長服せしめて効あり。

241.当帰拈痛湯
白朮 人参 苦参 升麻 葛根 蒼朮 防風 知母 沢瀉 黄芩 猪苓 当帰 甘草 茵蔯蒿 羗活
 此の方は湿熱血分に沈淪して肢節疼痛する者に用ゆ。其の初め、麻黄加朮湯、麻黄杏人薏苡甘草湯等にて発汗後、疼痛止まず、反て発熱、或は浮腫する者に宜し。青洲は附子剤を用ひて、反て劇痛する者に用ゆ。世に皮膚黎黒の人、または黒光りある人、多くは内に湿熱ある故なり。此くの如き病人に遇はば、淋病また陰癬の類はなきやと問ふべし。必ずあるものなり。左すれば愈いよ湿熱家にて脚気などと称し、腰股、或は足脛少しづつ痛をなし、歩行に妨たげあって難ぎする者なり。此の方を用ゆるときは必験あり。

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『勿誤薬室方函口訣』ち~か ②

2010-05-27 | 日記

101.腸癰湯(集験方)
薏苡仁 冬瓜仁 牡丹皮 桃仁
 此の方は大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用ひがたき者に用ゆ。或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後、此の方を与へて余毒を尽すべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の所治多し。

102.竹筎温胆湯
柴胡 陳皮 半夏 竹筎 茯苓 香附子 枳実 黄連 人参 桔梗 麦門冬 甘草 生姜
 此の方は竹葉石膏湯より稍や実して、胸膈に鬱熱あり、咳嗽不眠の者に用ゆ。雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚だしき者に効あり、不眠のみに拘るべからず。また『千金』温胆、『三因』温胆の二方に比すれば、其の力緊にして、温胆、柴胡、二湯の合方とも称すべき者なり。且つ黄芩を伍せずして黄連を伍する者、龔氏格別の趣意あること深く味ふべし。

103.治小児愛吃泥湯
黄芩 陳皮 白朮 茯苓 甘草 石膏 胡黄連 使君子
 此の方は吃泥のみに限らず、小児喜びて壁土、瓦坯、線香、生米、茶葉などを食し、肚大青筋、鼻を搐し、爪を咬み、頭を揺がし、髪竪ちて穂を作す者、多くは脾虚して津液乏しく、胃熱去らざるの致す処、此の方を服して効あり。また此の症にて面黄、肌痩、四肢無力者は虫積に属するなり。大七気湯加檳榔を与ふべし。

104.治肝虚内熱湯
羚羊角 半夏 当帰 防風 天麻 茯苓 酸棗仁 人参 白朮 釣藤鈎
 此の方は沈香天麻湯の証にして内熱ある者に用ゆ。此の証の一等軽き者は抑肝散なり。また大人、類中など肝に属する者は此の方に宜し。若し陰分に渉る者は解語湯を用ゆべし。方意皆相類す。

105.治婦人骨蒸労熱云々方
川芎 当帰 芍薬 香附子 麦門冬 白朮 牡丹皮 地骨皮 生地黄 五味子 甘草
 此の方は婦人骨蒸初起に与へて逍遙散より其の効捷かなり。骨蒸とは熱の内に強く骨を蒸す如き形状に見ゆる故に名づく。『外台秘要』に専ら出づ。『遵生八箋』に焼骨労と云ふ。同病なり。眼あたりの通称と見ゆ。六味丸、滋陰降火湯の症などは腎虚労傷より根ざす者なり。此の方は血鬱に因るものなり。

106.治小児風痰云々方
射干 大黄 檳榔子 牽牛子 麻黄 甘草
 此の方は麻杏甘石湯の症にして、風痰壅盛する者に宜し。馬脾風の初起に用ひて間間効あり。

107.治上熱下寒嘔吐方
呉茱萸 乾姜 黄連 人参
 此の方は呉茱萸湯の変方にして、上熱を目的とす。吾が門、近年、此の方に本づきて、上熱下寒の者に直ちに呉茱萸湯に半夏黄連を加へて特効あり。

108.治皷脹一方
琥珀 沈香 茯苓 地黄 犀角 三稜 莪朮 蘇木
 此の方は敗血流れて水気に変ずる者を治す。但し産後敗血より出づる水気には東洋の琥珀湯なり。皷脹をなす者には此の方に宜し。

109.丁附理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮 丁香 附子
 此の方は虚寒の噦逆を治す。就中、下利後の噦逆に効あり。中焦を理する力ある故なり。また反胃の虚証、小児吐乳の脱候に運用すること有り、何れも中焦を目的とす。

110.治肺積右脇硬痛方
陳皮 香附子 檳榔子
 此の方は右脇の硬痛を治す。若し飲を兼ぬる者は良枳湯に宜し。若し熱気ある者は小柴胡湯加青皮芍薬を与ふべし。以上三方、左脇の硬痛には効なし。左脇にある者は和肝飲、柴胡疎肝湯、四逆散呉茱萸茯苓、延年半夏湯の類選用すべし。大抵、病左右を論ぜざれども、脇痛は治方を異にせされば効なし。先輩、呉茱萸、良姜を以て左右を分つ、一理ありと云ふべし。

111.治血狂一方
当帰 芍薬 川芎 地黄 乾姜 紅花 大黄 桂枝
 此の方は烏巣の『本邦老医伝』に出づ。血狂は大抵、三黄瀉心加辰砂、桃核承気湯にて治する者なれども、数日を経て壊症になりたる者は此の方に非ざれば効を収め難し。四物湯に桂枝、乾姜を加へたる処に妙処ありと知るべし。

112.治酒査鼻方
黄連 大黄 山梔子 芍薬 紅花 甘草 地黄
 此の方は三黄瀉心湯に加味したる者にて、総じて面部の病に効あり。酒査鼻に限るべからず。若し瘡膿ある者は、大弓黄湯に宜し。清上防風湯は二湯より病勢緩なる処に用ゆ。

113.治脹満方
香附子 陳皮 川芎 茯苓 蒼朮 檳榔子 厚朴 枳実 黄連
 此の方は分消湯より簡便にして、脹満の初起に効あり。婦人には別して宜し。此の方より一等重きを分消湯とす。また一等進んで虚に属する者を行湿補気養血湯とするなり。

114.治喘一方(艮山)
茯苓 枳実 半夏 乾姜 木香
 此の方は降気破飲を主とす。東郭の一方と緊慢の別あり。譬へば胸痺に橘皮枳実桂枝湯と茯苓杏仁甘草湯の別あるが如し。破飲の力を緊にせんと欲すれば此の方を用ゆべし。降気を専らにせんと欲せば後方を用ゆべし。

115.治打撲一方
川骨 樸樕 川芎 桂枝 大黄 丁香 甘草
 此の方は能く打撲、筋骨疼痛を治す。萍蓬、一名川骨、血分を和す。樸樕骨疼を去る。故に二味を以て主薬とす。本邦血分の薬、多く川骨を主とする者も亦此の意なり。日を経て愈えざる者、附子を加ふるは、此の品能く温経するが故なり。

116.治頭痛一方
黄芩 黄連 大黄 半夏 枳実 乾姜 呉茱萸 甘草
 此の方は半夏瀉心湯の変方にして濁飲上逆の頭痛を治す。胃虚に属する者は半夏白朮天麻湯に宜し。心下痞、不大便なれば此の方にて一下すべし。

117.治喘一方(東郭)
茯苓 厚朴 桂枝 杏仁 紫蘇子 甘草
 弁は上に見ゆ。発喘の時、大抵の薬、激して悪し。唯だ此の方と麻黄甘草湯とは激せずして効を収めやすし。

118.治吃逆一方
半夏 粳米 竹筎 茯苓 胡椒 乾姜
 此の方は橘皮竹筎湯の反対にて、裏寒の吃逆に用ひて効あり。胡椒、乾姜を多量にせざれば験なし。

119.治狂一方
厚朴 大黄 枳実 黄芩 黄連 芒硝 一角
 此の方は大承気湯の変方にして、発狂の劇症に用ひて宜し。和田東郭屡しば経験すと云ふ。病緩なる者は下気円を宜しとす。

120.治水腫皷脹方
厚朴 枳実 茯苓 附子 蒼朮 木通 甘草 当帰 川芎 黄連 独活 紅花 香附子
 此の方は分消湯よりは一等重くして瘀血を兼ぬる者に用ゆ。然して行湿補気養血湯に比すれば稍や実する者なり。一婦人、血分腫にて『本事後集』の一方にて効なき者、此の方にて効を得たり。

121.治骨硬一方
縮砂 甘草
 骨硬の方、衆治あれども、此の方簡便にして捷効あるに如かず。若し急なれば象牙の末を服するも佳なり。また柑皮を黒焼にして服すべし。

122.治癬一方
忍冬 樸樕 石膏 芍薬 大黄 甘草 当帰
 此の方は竹中文輔の家方にて、疥癬、痛甚だしき者を治す。其の効十敗湯に優なること万々なり。

123.治頭瘡一方
忍冬 紅花 連翹 蒼朮 荊芥 防風 川芎 大黄 甘草
 此の方は頭瘡のみならず凡べて上部頭面の発瘡に用ゆ。清上防風湯は清熱を主とし、此の方は解毒を主とするなり。

124.治肩背拘急方
青皮 茯苓 烏薬 香附子 莪朮 甘草
 此の方は旧同僚中山摂州の伝にて、気鬱より肩背に拘急する者には即効あり。若し胸肋に痃癖ありて迫る者は延年半夏湯に宜し。唯だ肩背のみ張る者は葛根加芎黄か『千金』独活湯を用ゆべし。

125.沈香解毒湯
藿香 連翹 沈香 木通 桜筎 黄芩
 此の方は五香連翹湯の軽き症に用ゆ。疔瘡は大抵十敗湯加菊花大黄に宜し。若し熱毒甚だしき者は黄連解毒湯加牛蒡子に宜し。下剤の宜しからぬ処が此の方の主なり。

126.治婦人癥瘕塊痛
芍薬 元胡索 木香 乾漆 莪朮 五霊脂 肉桂
 此の方は婦人脹満血蠱に属する者を治す。『霊枢』の所謂「蔵府の外に在りて蔵府を排して胸脇に郭し皮膚に脹る」と云ふ症には効なし。是れは分消湯などの之く所なれども難治の者なり。徐霊胎が膨膈、同じく極大の病なれども、膨は治すべしと云ふは、此の方及び鼈甲湯等の治する症を言ふなり。

利部(り)
127.理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮
 此の方は理中丸を湯にする者にして、理は治なり、中は中焦、胃の気を指す。乃ち胃中虚冷し、水穀化せず、繚乱吐下して、譬へば線の乱るるが如きを治する故に、後世、中寒及び霍乱の套薬とす。余が門にては、太陰正治の方として、中焦虚寒より生ずる諸症に活用するなり。吐血、下血、崩漏、吐逆等を治す。皆此の意なり。

128.苓甘姜味辛夏仁湯
茯苓 甘草 五味子 乾姜 細辛 半夏 杏仁
 此の方は小青竜湯の「心下有水気」と云ふ処より変方したる者にて、支飲の咳嗽に用ゆ。若し胃熱ありて上逆する者は後方を用ゆべし。

129.苓甘姜味辛夏仁黄湯
茯苓 甘草 五味子 乾姜 細辛 半夏 杏仁 大黄
 弁は上に見ゆ。

130.竜胆湯
竜胆 釣藤鈎 柴胡 黄芩 桔梗 芍薬 茯苓 甘草 蜣螂 大黄
 此の方は一名竜鬚湯と云ふ。『巣源』にも見えて、晋以前より小児の套剤と見ゆ。吐乳、驚癇の初発、此の方に如くはなし。此の症にて心下急迫あれば大柴胡加羚羊角甘草効あり、其の一等軽き者を抑肝散とす。都て大人小児の癇症に活用すべし。

131.鯉魚湯
鯉魚 蒼朮 生姜 芍薬 当帰 茯苓
 此の方は婦人血気薄弱、或は年長じて懐孕し、子胞の為に養を奪はれ、身体虚して水気を生じ満身浮腫する者を主とす。若し血気虚せず水腫を為す者は『産宝』防已湯に宜し。また雛脚と名づけ、但足部に水気ある者は脚気の治法にて宜し。

132.竜骨湯
竜骨 茯苓 桂枝 遠志 麦門冬 牡蛎 甘草 生姜
 此の方は失心風を主とす。其の人、健忘、心気鬱々として楽しまず、或は驚搐、不眠、時に独語し、或は痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯とするなり。

133.理中加二味湯
人参 乾姜 甘草 白朮 当帰 芍薬
 此の方は元、霍乱の腹痛を治する方なれども、中気不足して腹痛拘急し、腫々の症を生ずる者を治す。理中湯は胃中を乾かす方なり。建中湯は胃中を湿す方なり。此の方は一燥一潤、其の中を得たり。

134.六君子湯
人参 蒼朮 茯苓 甘草 半夏 陳皮
 此の方は理中湯の変方にして、中気を扶け胃を開くの効あり。故に老人脾胃虚弱にして痰あり飲食を思はず、或は大病後脾胃虚し食味なき者に用ゆ。陳皮、半夏、胸中胃口の停飲を推し開くこと一層力ありて、四君子湯に比すれば最も活用あり。『千金方』半夏湯の類数方あれども、此の方の平穏に如かず。

135.良姜湯
良姜 木香 檳榔子 茯苓 人参 肉豆蔲 呉茱萸 陳皮 縮砂 乾姜
 此の方は久下利の症にして、断痢湯の如く上焦の不和にも非ず、真武湯の如く下焦の不足にも非ず、唯だ陳寒凝結して腹内★(「疞」の6画目の「一」なし)痛し、飲食これが為に化する能はざる者を治す。

136.理中安蚘湯
白朮 人参 乾姜 茯苓 烏梅 蜀椒 甘草
 此の方は胃中虚冷して吐蚘する者に宜し。若し胃中熱ありて吐蚘する者は清中安蚘湯なり。寒熱錯雑して吐蚘する者は烏梅丸なり。若し吐甚だしく、以上の諸薬下す能はざる者は、寒熱を論ぜず甘草粉蜜湯を与ふべし。また吐蚘して痛甚だしきものは椒梅湯大いに効あり。また蚘に泥まず、胃中寒飲ありて喜唾止まざる者、此の方を用ひて効あり。

137.竜胆瀉肝湯
竜胆 黄芩 当帰 沢瀉 山梔子 車前子 木通 甘草 地黄
 此の方は肝経湿熱と云ふが目的なれども、湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚だしく、或は目赤耳鳴の者は、小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。若し湿熱表に熏蒸して諸瘡を生ずる者は、九味柴胡湯に宜し。若し下部に流注して下疳、毒淋、陰蝕瘡を生ずる者は此の方の主なり。また主治に据りて嚢癰、便毒、懸癰及び婦人陰癃痒痛に用ゆ。皆熱に属する者に宜し。臭気の者は奇良を加ふべし。

138.理気平肝散
柴胡 芍薬 枳実 甘草 烏薬 香附子 川芎 木香 青皮
 此の方は柴胡疎肝湯に烏薬、木香を加へたる者にて、其の源は四逆散に出づ。二行通り拘急して、上、胸脇下に迫り、腹痛、下利、微咳等をなす者、四逆散なり。一等進んで上部に迫り、気逆、胸痛をなし鬱塞する者を柴胡疎肝湯とす。今一等進んで、身体強急、痙状の如く、神気鬱々楽しまず、物に感動しやすき者、此の方の主なり。

139.利膈湯
半夏 附子 山梔子
 此の方は名古屋玄医の工夫にて古梔附湯に半夏を加へたるものなり。其の説『医方問余』に悉し。膈噎の初起に用ひて効あり。此の方甚だ服し難きを以て、吾門にては甘草乾姜湯を合して用ゆるなり。『楊氏家蔵方』には仲景の梔子乾姜湯を二気散と名づけ膈噎に用ゆ、即ち此の方と同意なり。

140.竜騰飲
大黄 黄芩 黄連 川芎
 此の方は三黄瀉心湯に川芎を加へたる者にて、気痞上逆する者に即効あり。血症には紅花を加ふるを佳とす。

141.良枳湯
茯苓 桂枝 甘草 大棗 半夏 良姜 枳実
 此の方は苓桂甘棗湯に半夏、良姜、枳実を加ふる者にて飲癖の痛あるものに用ゆ。苓桂甘棗湯の澼飲に効あるは辻山崧の経験なり。また呉茱萸と良姜と左右を分つことは、和田東郭精弁あれども、其の実は岡本の『燈下集』に出づと云ふ。考ふべし。

留部(る)
142.瘰癧加味
貝母 夏枯草 栝楼根 牡蛎 青皮
 此の方は陳修園の創意にて、加味逍遙散に合して用ゆ。余が門には症によりて小柴胡湯或は順気剤に合して用ゆるなり。

遠部(を)
143.乙字湯
柴胡 大黄 升麻 黄芩 甘草 当帰
 此の方は原南陽の経験にて、諸痔疾、脱肛、痛楚甚だしく、或は前陰痒痛、心気不定の者を治す。南陽は柴胡、升麻を升提の意に用ひたれども、やはり湿熱清解の功に取るがよし。其の内、升麻は古より犀角の代用にして止血の効あり。此の方は甘草を多量にせざれば効なし。

和部(わ)
144.黄芩湯
黄芩 甘草 芍薬 大棗
 此の方は少陽部位、下利の神方なり。後世の芍薬湯などと同日の論に非ず。但し同じ下利にても、柴胡は往来寒熱を主とす、此の方は腹痛を主とす。故に此の症に嘔気あれば柴胡を用ひずして後方を用ゆるなり。

145.黄芩加半夏生姜湯
黄芩 甘草 芍薬 大棗 半夏 生姜
 弁は上に見ゆ。

146.黄連湯
黄連 甘草 乾姜 桂枝 人参 半夏 大棗
 此の方は胸中有熱、胃中有邪気と云ふが本文なれども、喩嘉言が「湿家下之舌上如胎者、丹田有熱、胸中有寒、仲景亦用此湯治之」の説に従ひて、「舌上如胎」の四字を一徴とすべし。此の症の胎の模様は、舌の奥ほど胎が厚くかかり、少し黄色を帯び、舌上潤ふて滑かなる胎の有るものは、假令腹痛なくとも、雑病乾嘔有りて諸治効なきに決して効あり。腹痛あれば猶更のことなり。また此の方は半夏瀉心湯の黄芩を桂枝に代へたる方なれども、其の効用大いに異なり、甘草乾姜桂枝人参と組みたる趣意は桂枝人参湯に近し。但し彼は恊熱利に用ひ、此れは上熱下寒に用ゆ。黄連の主薬たる所以なり。また按ずるに、此の桂枝は腹痛を主とす。即ち『千金』生地黄湯の桂枝と同旨なり。

147.黄連阿膠湯
黄連 黄芩 芍薬 阿膠 鶏子黄
 此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病、陰分に陥りて、上熱猶ほ去らず、心煩或は虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。また少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉止まざる者と痘瘡煩渇寐ざる者に活用して特効あり。

148.黄耆建中湯
桂枝 芍薬 甘草 生姜 大棗 膠飴 黄耆
 此の方は小建中湯の中気不足、腹裏拘急を主として、諸虚不足を帯ぶる故、黄耆を加ふるなり。仲景の黄耆は大抵、表托、止汗、祛水の用とす。此の方も外体の不足を目的とする者と知るべし。此の方は虚労の症、腹皮背に貼し、熱なく咳する者に用ゆと雖も、或は微熱ある者、或は汗出づる者、汗無き者、倶に用ゆべし。『外台』黄耆湯の二方、主治薬味各少し異なりと雖も亦此の方に隷属す。

149.黄土湯
阿膠 黄芩 黄土 甘草 白朮 附子 地黄
 此の方は下血陰分に陥る者、収濇するの意あり。先便後血に拘らず脈緊を以て用ゆるが此の方の目的なり。吐血衂血を治するも此の意にて用ゆべし。また崩漏緊脈に効あり、また傷寒、熱血分を侵し、暴に下血する者、桃核承気湯、犀角地黄湯等を与へて血止まず、陰位に陥り危篤なる者、此の方を与へて往々奇験を得たり。

150.黄耆茯苓湯
黄耆 茯苓 当帰 川芎 桂枝 芍薬 白朮 地黄 人参 甘草
 此の方は即ち後世の十全大補湯なれども、『千金』が旧き故、古に本づくなり。八珍湯は気血両虚を治する方なり。右に黄耆、桂枝を加ふる者は、黄耆は黄耆建中湯の如く諸不足を目的とす。故に『済生』の主治に虚労不足、五労七傷を治すと云ふ。また瘡瘍に因りて気血倶に虚し羸痩する者、此の方の之く処あり。流注瘰癧等の強く虚するに用ゆ。此の方と人参養栄湯に桂枝を伍する者は八味丸の意にて、桂枝にて地黄の濡滞を揮発するなり。先考済庵翁曰く、薜己、諸病証治の末に此の方と補中益気と地黄丸、四君子湯の加減を載する者は、万病共に気血を回復するを主とするの意なりと。此の旨にて運用すべし。

151.黄連橘皮湯
黄連 陳皮 杏仁 麻黄 葛根 枳実 厚朴 甘草
 此の方は時毒の一証にて、頭瘟になれば柴胡桔石、牛蒡芩連の之く所なれども、其の邪、肌膚を侵して赤斑を発し、心煩下利する者に用ひて効あり。其の一等劇しき者を『六書』の三黄石膏湯とす。また其の邪、陰分に陥り内攻せんと欲する者は『温疫論』の托裏挙斑湯とす。此の三方にて大抵時毒の斑は治するなり。

152.黄連解毒湯
黄連 黄芩 黄柏 山梔子
 此の方は胸中熱邪を清解するの聖剤なり。一名倉公の火剤とす。其の目的は梔子豉湯の証にして熱勢劇しき者に用ゆ。苦味に堪へかぬる者は泡剤にして与ふべし。大熱有りて下利洞泄する者、或は痧病等の熱毒深く洞下する者を治す。また狗猫鼠などの毒を解す。また喜笑不止者を治す。是れも亦心中懊憹のなす所なればなり。又可氏は此の方の弊を痛く論ずれども実は其の妙用を知らぬ者なり。また酒毒を解するに妙なり。『外台』の文を熟読すべし。また『外台』に黄柏を去り大黄を加へて大黄湯と名づく。吉益東洞は其の方を用ひし由、証に依りて加減すべし。

153.和解湯
芍薬 桂枝 甘草 乾姜 蒼朮 茯苓 半夏
 此の方は傷風中寒などの軽邪に用ひて効あり。和気飲は此の方の一等重き処に用ゆ。

154.和気飲
蒼朮 茯苓 陳皮 白芷 甘草 当帰 厚朴 川芎 芍薬 桔梗 半夏 桂枝 枳実 乾姜
 弁は上に見ゆ。

155.黄耆湯
黄耆 人参 鼈甲 当帰 地黄 茯苓 陳皮 川芎 芍薬 蝦蟆 半夏 柴胡 使君子 生姜
 此の方は浄府散と表裏の方にて、浄府は血気に少しも虚なく、心下或は両肋下、或は右、或は左に凝りありて攣急あり、腹堅くして渇をなし、或は下痢をなし、或は下痢せずとも、発熱つよく脈も盛んなるを標的とす。此の方は既に日数を経て血気虚耗する故、発熱の模様も骨蒸と云ふて内よりむし立つる如くなり。且つ盗汗出づるなり。此の蒸熱、盗汗と五心煩熱とを、此の方の標的とすべし。故に小児疳労の虚証にて、後世の所謂哺露丁奚などと云ふ処に用ゆるなり。また婦人の乾血労、疳より来たる者に活用して奇効あり。是れ旧同僚小島学古の治験なり。

156.和肝飲
当帰 芍薬 三稜 青皮 茴香 木香 枳実 柴胡 縮砂
 此の方は柴胡疎肝湯同種の薬なれども、脇下の硬痛には此の方を優とす。其の中、左脇下の痛に宜し。右に在る者は小柴胡湯に芍薬青皮、或は良枳湯の類、反て効あり。

157.和中飲
枇杷葉 藿香 縮砂 呉茱萸 桂枝 丁香 甘草 木香 莪朮
 此の方は関本伯伝の家方にて傷食の套剤なり。夏月は傷食より霍乱を為す者最も多きを以て、俗常に暑中に用ゆる故に中暑の方に混ず。中暑伏熱を治するには『局方』の枇杷葉散を佳とす。今、俗間所用の枇杷葉湯は此の方の藿香、丁香を去り、香薷、扁豆を加ふる方なり。

加部(か)
158.葛根湯
葛根 麻黄 桂枝 芍薬 甘草 大棗 生姜
 此の方、外感の項背強急に用ゆることは五尺の童子も知ることなれども、古方の妙用種々ありて思議すべからず。譬へば積年肩背に凝結ありて其の痛時々心下にさしこむ者、此の方にて一汗すれば忘るるが如し。また独活、地黄を加へて産後柔中風を治し、また蒼朮、附子を加へて肩痛、臂痛を治し、川芎、大黄を加へて脳漏及び眼耳痛を治し、荊芥、大黄を加へて疳瘡、黴毒を治するが如き、其の効用僂指しがたし。宛かも論中、合病下利に用ひ、痙病に用ゆるが如し。

159.葛根加半夏湯
葛根 麻黄 桂枝 芍薬 甘草 大棗 生姜 半夏
 此の方は合病の嘔を治するのみならず、平素停飲ありて本方を服し難く、或は酒客外感などに、反て効を得るなり。其の活用は上に準ずべし。

160.葛根黄芩黄連湯
葛根 黄芩 黄連 甘草
 此の方は表邪陥下の下利に効あり。尾州の医師は小児早手の下利に用ひて効ありと云ふ。余も小児の下利に多く経験せり。此の方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらず、古人酒客の表証に用ゆるは活用なり。紅花、石膏を加へて口瘡を治するも同じ。

161.甘草瀉心湯
半夏 黄芩 乾姜 人参 黄連 大棗 甘草
 此の方は胃中不和の下利を主とす。故に穀不化、雷鳴下利が目的なり。若し穀不化して雷鳴なく下利する者ならば、理中、四逆の之く処なり。『外台』水穀不化に作りて清穀と文を異にす。従ふべし。また産後の口糜瀉に用ひ奇効あり。此等の苓連は反て健胃の効ありと云ふべし。

162.甘草乾姜湯
甘草 乾姜
 此の方は簡にして其の用広し。傷寒の煩躁吐逆に用ひ、肺痿の吐涎沫に用ひ、傷胃の吐血に用ひ、また虚候の喘息に此の方にて黒錫丹を送下す。凡そ肺痿の冷症は、其の人、肺中冷、気虚し、津液を温和すること能はず、津液聚りて涎沫に化す。故に唾多く出づ。然れども熱症の者の唾凝りて重濁なるが如きに非ず。また咳なく咽渇せず、彼は必遺尿小便数なり。此の症に此の方を与へて甚だ奇効あり。また病人、此の方を服することを嫌ひ、欬なく只多く涎沫を吐して、唾に非ざる者は桂枝去芍薬加皀莢湯を用ひて奇効あり。また煩躁なくても但吐逆して苦味の薬用ひ難き者、此の方を用ひて弛むるときは速効あり。

163.甘草湯(傷寒論)
甘草
 此の方も亦其の用広し。第一咽痛を治し、また諸薬吐して納まらざる者を治し、また薬毒を解し、また蒸薬にして脱肛の痛楚を治し、末にして貼ずれば毒螫、竹木刺等を治す。

164.乾姜黄連黄芩人参湯
乾姜 黄連 黄芩 人参
 此の方は膈熱ありて吐逆食を受けざる者を治す。半夏、生姜、諸嘔吐を止どむるの薬を与へて寸効なき者に特効あり。また禁口痢に用ゆ。

165.甘姜苓朮湯
甘草 白朮 乾姜 茯苓
 此の方は一名腎着湯と云ひて、下部腰間の水気に用ひて効あり。婦人久年、腰冷帯下等ある者、紅花を加へて与ふれば更に佳なり。

166.甘遂半夏湯
甘遂 半夏 芍薬 甘草 蜂蜜
 此の方は利して反て快と心下堅満が目的なり。脈は伏して当にならぬものなり。一体心下の留飲を去るの主方なれども、特り留飲のみに非ず、支飲及び脚気等の気急喘ある者に用ひて緩むること妙なり。控涎丹も元来此の方の軽き処にゆく者なり。また此の方、蜜を加へざれば反て激して功なし。二宮桃亭壮年の時、蜜を加へずして大敗を取り、東洞の督責を受けしこと有り、忽諸すべからず。

167.乾姜人参半夏丸
乾姜 人参 半夏
 此の方は本、悪阻を治する丸なれども、今、料となして、諸嘔吐止まず、胃気虚する者に用ひて捷効あり。

168.甘草粉蜜湯
甘草 米粉 蜂蜜
 此の方は蚘虫の吐涎を治するのみならず、吐涎なくとも心腹痛甚だしき者に用ゆ。故に烏梅丸、鷓胡菜湯などの剤を投じて反て激痛する者、此の方を与へて弛むるときは必ず腹痛止むなり。凡べて虫積痛を治するに薬の苦味を嫌ひ、強いて与ふれば嘔噦する者、此の方に宜し。論中、毒薬不止の四字、深く味はふべし。故にまた衆病諸薬を服して嘔逆止まざる者に効あり。一婦人、傷寒熱甚だしく嘔逆止まず、小柴胡を用ひて解せず、一医、水逆として五苓散を与へ益ます劇し。此の方を与へて嘔速やかに差ゆ。即ち『玉函』単甘草湯の意にして更に妙なり。

169.甘麦大棗湯
甘草 小麦 大棗
 此の方は婦人蔵躁を主とする薬なれども、凡べて右の腋下臍傍の辺に拘攣や結塊のある処へ用ゆると効あるものなり。また小児啼泣止まざる者に用ひて速効あり。また大人の癇に用ゆること有り。「病急者食甘緩之」の意を旨とすべし。先哲は夜啼客忤、左に拘攣する者を柴胡とし、右に拘攣する者を此の方とすれども、泥むべからず。客忤は大抵此の方にて治するなり。

170.陷胸湯
大黄 黄連 甘草 栝楼仁
 此の方は大陷胸湯と小陷胸湯との間の薬なり。故に一医、中陷胸湯と名づく。結積、胸中或は心下にありて拒痛する者を治す。此の飲食不消は胸中に邪ある故なり。中脘に満などあれば益ます宜し。また小児食積より胸中に痰喘壅盛する者を治す。若し嘔気ある者は、半夏、甘草を加ふべし。

171.甘竹筎湯
竹筎 黄芩 人参 茯苓 甘草
 此の方は竹皮大丸料の一等軽き処に用ゆ。産後煩熱ありて下利し石膏など用ひがたき処に宜し。他病にても内虚煩熱の四字を目的として用ゆれば中らざることなし。甘淡音通ず。淡竹なり。

172.高良姜湯
良姜 厚朴 当帰 桂枝
 此の方は心腹絞痛を主とす。故に只腹痛のみにては効なし。少しにても心にかかるを目的とす。且つ痛みも劇しき程よろしきなり。是を以て大小建中の治すること能はざる処に奇中す。良姜は温中の効あり。安中散に伍するは是れと同じ。乾姜に比すれば其の力一等優なり。また厚朴と伍して下利を止どむ。故に虚寒下利腹痛の症、真武などにて効なき者を治す。有持氏は疝痢の腹に満ある者を目的として用ゆ。腹満なき者は当帰四逆、真武などの之く処とす。また『奇効良方』の良姜湯は此の方の証にして、一等腹に凝結ありて下利不食するものなり。

173.加味理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮 麦門冬 茯苓
 此の方は理中湯の症にして、咳嗽、吐痰、或は煩渇微腫する者を治す。『千金』に理中湯の加減種々あれども、此の方を尤も古に近しとす

174.解急蜀椒湯
蜀椒 乾姜 附子 半夏 甘草 大棗 粳米
 此の方は大建中と附子粳米湯とを合したる方にて、其の症も二方に近く、寒疝心腹に迫りて切痛する者を主とす。烏頭桂枝湯と其の証髣髴たれども、上下の分あり。且つ烏頭桂枝湯は腹中絞痛、拘急転側を得ざるが目的とす。此の方は心腹痛、水気有りて腹鳴するを目的とす。また寒疝、腹痛、腹満、雷鳴して嘔吐する附子粳米湯の之く処あり。然れども此れは彼より其の症つよし。また此の方は附子粳米湯の症にして痛心胸に連らなる者を主とす。此の方は亦蚘痛を治す。

175.楽令建中湯
黄耆 芍薬 桂枝 麦門冬 陳皮 甘草 当帰 細辛 人参 柴胡 茯苓 半夏 大棗 生姜
 此の方は即ち『千金』黄耆湯にて『金匱』建中諸類を総括する剤なり。虚労寒熱あるものの套方とす。但し肺痿寒熱ある者には効なし。肺痿なれば『聖済』人参養栄湯を用ゆべし。

176.香蘇散
香附子 紫蘇葉 陳皮 甘草
 此の方は気剤の中にても揮発の効あり。故に男女共気滞にて、胸中心下痞塞し、黙々として飲食を欲せず、動作に懶く、胸下苦満する故、大小柴胡など用ゆれども反て激する者、或は鳩尾にてきびしく痛み、昼夜悶乱して、建中、瀉心の類を用ゆれども寸効なき者に与へて、意外の効を奏す。昔西京に一婦人あり、心腹痛を患ふ。諸医手を尽くして愈すこと能はず。一老医此の方を用ひ、三貼にして霍然たり。其の昔征韓の役、清正の医師の此の方にて兵卒を療せしも、気鬱を揮発せしが故なり。但し『局方』の主治に泥むべからず。また蘇葉は能く食積を解す。故に食毒、魚毒より来たる腹痛または喘息に紫蘇を多量に用ゆれば即効あり。

177.甘露飲
生地黄 乾地黄 天門冬 麦門冬 枇杷葉 黄芩 甘草 石斛 枳実 茵蔯蒿
 此の方は脾胃湿熱と云ふが目的にて、湿熱より来たる口歯の諸瘡に用ひて効あり。若し上焦膈熱より来たる口歯の病は加減涼膈散に非ざれば効なし。此の方は、調胃承気や瀉心加石膏などを用ゆる程の邪熱にもいたらず、血虚を帯びて緩なる処に用ゆるなり。また黄疸腹満に此の方を用ゆるは、茵蔯蒿湯等を用ひて攻下の後、湿熱未だ全く除かざる者に宜し。房労には更に効なし。

178.解労散
柴胡 芍薬 枳実 甘草 鼈甲 茯苓
 此の方は四逆散の変方にて所謂痃癖労を為す者に効あり。また骨蒸の初起に用ゆべし。真の虚労には効なし。また四逆散の症にして腹中に堅塊ある者用ひて特験あり。

179.乾地黄湯
地黄 大黄 黄連 黄芩 柴胡 芍薬 甘草
 此の方は大柴胡湯の変方にして、熱血分に沈淪する者に効あり。故に余門、熱入血室を治する正面の者を小柴胡加地黄とし、変面の者を此の方の治とするなり。また傷寒遺熱を治するに、参胡芍薬湯を慢治とし、此の方を緊治とするなり。

180.香芎湯
石膏 桂枝 川芎 甘草 薄荷 香附子
 此の方は『中蔵経』の香芎散に本づきたれども、張子和の工夫一着高くして偏頭痛には奇効あり。若し此の症にして肩背強急して痛む者は『本事方』の釣藤散を佳とす。

181.加味四物湯(正伝)
当帰 麦門冬 黄柏 蒼朮 地黄 芍薬 川芎 五味子 人参 黄連 知母 牛膝 杜仲
 此の方は滋血、生津、清熱の三功を兼ねて諸痿を治す。凡そ痿証の初起は『秘方集験』の一方に宜し。若し凝固にして動き難き者は痿躄湯を用ゆべし。また筋攣甚だしき者は二角湯を用ゆること有り。若し壊症になり遂に振はざる者は此の方に宜し。蓋し此の方は大防風湯とは陰陽の別ありて、彼は専ら下部を主とし、此の方は専ら上焦の津液を滋して下部に及ぼす。其の手段尤も妙なり。

182.香砂六君子湯
人参 蒼朮 茯苓 甘草 半夏 陳皮 香附子 縮砂 藿香
 此の方は後世にて尊奉する剤なれども、香砂の能は開胃の手段にて別に奇効はなし。但し平胃散に加ふるときは消食の力を速やかにし、六君子湯に加ふるときは開胃の力を増すと心得べし。また老人、虚人、食後になると至りて眠くなり、頭も重く、手足倦怠、気塞がる者、此の方に宜し。若し至りて重き者、半夏白朮天麻湯に宜し。

183.加味逍遙散
柴胡 芍薬 茯苓 当帰 薄荷 白朮 甘草 生姜 牡丹皮 山梔子
 此の方は清熱を主として上部の血症に効あり。故に逍遙散の症にして、頭痛面熱、肩背強ばり、鼻衂などあるに佳なり。また下部の湿熱を解す。婦人の淋疾、竜胆瀉肝湯などより一等虚候の者に用ひて効あり。凡べて此の方の症にして寒熱甚だしく胸脇に迫り、嘔気等ある者は、小柴胡湯に梔丹を加ふべし。また男子婦人偏身に疥癬の如き者を発し甚だ痒く、諸治効なき者、此の方に四物湯を合して験あり。華岡氏は此の方に地骨皮、荊芥を加へて鵞掌風に用ゆ。また老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通ぜぬと云ふ者、何病に限らず此の方を用ゆれば大便快通して諸病も治すと云ふ。即ち小柴胡湯を用ひて津液通ずると同旨なり。

184.加味犀角地黄湯
犀角 地黄 芍薬 牡丹皮 当帰 黄連 黄芩
 此の方は即ち『千金』犀角地黄湯方後の加減に本づきたる者にして、諸失血に用ひ易し。方後に「若吐紫黒血塊胸中気塞加桃将」とあれども、此の如き症には桃核承気湯を用ゆるを優とす。辻崧翁は犀角を升麻に代へて治血の套剤とす。亦『千金』に拠る者なり。

185.加減凉膈散
大黄 黄芩 桔梗 石膏 薄荷 連翹 山梔子 甘草
 此の方は凉膈散よりは用ひ易く、口舌を治するのみならず諸病に活用すべし。古人凉膈散を調胃承気の変方とすれども、其の方意は膈熱を主として瀉心湯諸類に近し。故に凉膈散の一等劇しき処へ三黄加芒硝湯を用ゆるなり。

186.香朴湯
厚朴 木香 附子
 此の方は寒気腹満を治す。中寒、或は霍乱吐瀉の後、間此の症あり。大抵は厚朴生姜甘草半夏人参湯の一等重き者と知るべし。

187.行湿補気養血湯
人参 蒼朮 茯苓 当帰 芍薬 川芎 木通 厚朴 大腹皮 萊菔子 海金砂 木香 陳皮 甘草 紫蘇葉
 此の方は皷脹の末症に用ゆるなり。弁、前の治皷脹一方条下に見ゆ。

188.加減逍遙散
当帰 芍薬 白朮 柴胡 茯苓 胡黄連 麦門冬 甘草 黄芩 秦艽 木通 地骨皮 車前子
 此の方は婦人血熱固着して骨蒸状に似たる者効あり。就中小便不利、或は淋瀝する者に宜し。

189.加味升陽除湿湯
防風 芍薬 茯苓 葛根 甘草 紫蘇葉 山楂子 独活 木香 乾姜 桂枝 生姜 蒼朮
 此の方は桃花湯、白頭翁湯の後重にも非ず、また大柴胡湯、四逆散の裏急にも非ず。一種湿熱より来たる処の類痢にて裏急後重する者に効あり。後世、痢疾の初起後重甚だしきにただの升陽除湿湯を用ゆれども効なし。此の場合は葛根湯にて発汗すれば後重ゆるむ者なり。

190.加味四君子湯
人参 白朮 茯苓 甘草 白扁豆 黄耆 生姜 大棗
 此の方は下血止まず、面色萎黄、短気心忪する者を治す。四君子湯と理中湯は下血虚候の者に効あり。肛門潰爛して膿血を出す者は直ちに四君子湯に黄耆、槐角を加へて宜し。友松子の経験なり。また痛ある者は四君子に黄耆建中湯を合し、白扁豆、砂人を加ふるに宜し。即ち朱氏二妙散是れなり。

191.加味胃苓湯
蒼朮 茯苓 猪苓 沢瀉 厚朴 陳皮 紫蘇葉 香附子 木香 白朮 生姜
 此の方は水穀不化より来たる水気治す。傷寒差後に用ゆることあり。また痢後風には別して効あり。

192.行気香蘇散
柴胡 陳皮 木香 烏薬 紫蘇葉 蒼朮 川芎 独活 枳実 麻黄 甘草
 此の方は香蘇散の症にして、滞食を兼ね、邪気内壅して解せざる者に効あり。往年金局吏原健助なる者、平素疝塊あり、飲食これが為化する能はず、時々外感して邪気遷延し、医、諸外感の薬を投じて解せず、余此の方を与へて愈ゆ。後外感毎に此の方にて百中す。後世の方策も亦侮るべからず。

193.加味小陷胸湯
黄連 半夏 栝楼仁 枳実 山梔子
 此の方は嘈雑に奇効あり。『外台』小品、半夏茯苓湯に心下汪洋嘈煩の語あり。『本事方』嘈雑に作る。これを始とす。胸のやけることなり。大抵は安中散にて治すれども劇しき者は此の方と呉茱萸湯に非ざれば効なし。

194.加味八脈散
猪苓 沢瀉 茯苓 木通 地黄 藁本 山梔子 杏仁 知母 黄柏
 此の方は鼻淵脳漏の如く臭水を流すに非ず、唯だ鼻に一種の悪臭を覚えて如何ともし難き者を治す。また鼻塞香臭を通ぜざる者に用ゆることあり。

195.加味小柴胡湯
柴胡 黄芩 人参 甘草 生姜 大棗 半夏 竹筎 麦門冬 黄連 滑石 茯苓
 此の方は一老医の伝にて、夏秋間の傷寒恊熱痢に経験を取りし方なれども、余は毎に滑石を去りて、人参飲子の邪勢一等重く煩熱心悶する者を治す。また竹筎温胆湯の症にして往来寒熱する者を治す。

196.甘連湯
甘草 黄連 紅花 大黄
 此の方は専ら胎毒を去るを主とす。世まくりと称する者数方あれども此の方を優とす。連翹を加へて吐乳を治し、銭連草を加へて驚癇を治し、竹葉を加へて胎毒痛を治するが如き、活用尤も広し。

197.甘草黄連石膏湯
甘草 黄連 石膏
 此の方、出処詳らかならざれども『本事方』に石赤散と云ひて黄連石膏の二味を末とし、甘草煎汁にて送下す方あり。東洞此の方の意にて用ゆと云ふ。今、方家、参連白虎湯の之く処の驚癇に用ゆ。また風引湯の劇しき症に用ゆ。また骨の痛に用ゆ。小児二三歳に至るまで骨格不堅、諸薬無効に此の方にて治したり。此の方は凡べて煩熱渇を主として用ゆべし。余此の方の症にして吐逆する者に小半夏加茯苓湯を合して効を奏す。

198.甘草湯(腹証奇覧)
甘草 桂枝 芍薬 阿膠 大黄
 此の方癲癇の急迫を緩むるに効あり。柴胡加竜骨牡蛎湯、紫円、或は沈香天麻湯などを投じ、反て激動し苦悶止まざる者、此の方を用ゆるときは一時の効を奏するなり。

199.加味四物湯(福井)
当帰 地黄 知母 黄柏 黄連 蔓荊子 山梔子 川芎
 此の方能く黴毒の壮熱を解す。蓋し黴毒の熱を解する者、小柴胡加竜胆胡黄連に如く者なし。若し其の人血燥して熱解しがたきものは此の方に宜し。また黴毒の熱ある者、汞剤を投ずべからず。血燥には土茯苓を用ゆべからず。楓亭よく此の旨を得たり。

200.咳奇方
麦門冬 阿膠 百合 乾姜 白朮 地黄 五味子 甘草 桔梗
 此の方は東郭の経験にて、肺痿の咳嗽を治す。若し熱に属する者は『聖済』の人参養栄湯に宜し。此の方と『景岳』の四陰煎は伯仲の方となすべし。

201.甲字湯
桂枝 茯苓 牡丹皮 桃仁 芍薬 甘草 生姜
 此の方は桂苓丸の症にて激する者に適当す。若し塊癖動かざる者は鼈甲を加ふべし。

202.香葛湯
香附子 蘇葉 陳皮 甘草 桔梗 葛根
 此の方は暑熱感冒に効あり。其の他感冒桂麻の用ひ難き者、斟酌して与ふべし。

203.加味寧癇湯
沈香 縮砂 香附子 甘草 黄連 呉茱萸 陳皮 茯苓
 此の方は予が家の経験にして、沈香降気湯の症にして一等衝逆甚だしき者を寧癇湯とす。寧癇湯の症にして一等衝逆劇しく胸中満悶するを此の方とす。橘皮、茯苓を加ふる所以は『外台』茯苓飲と同じく胸中を主とするなり。

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『勿誤薬室方函口訣』ち~か ①

2010-05-27 | 日記

知部(ち)
85.竹葉石膏湯
竹葉 石膏 麦門冬 粳米 半夏 人参 甘草
 此の方は麦門冬湯の一等熱候ありて煩悶少気、或は嘔渇咳嗽する者を治す。同一石剤なれども、此の方と竹皮大丸とは上焦に専らに、白虎湯は中焦に専らなり。麻杏甘石湯と越婢加半夏湯とは肺部に関係し、大青竜湯は特り表熱に専らにす。其の方、参照して区別すべし。また張路玉の経験に病後虚渇して小便赤き者に宜しと云ふ。今、参胡芍薬湯などを用ひて其の熱解せず小便の色とりわけ赤き者、此の方効あり。また麻疹を治するに此の方始終貫きて用ひ場あり、体認すべし。

86.猪苓湯
猪苓 沢瀉 茯苓 阿膠 滑石
 此の方は下焦の畜熱、利尿の専剤とす。若し上焦に邪あり、或は表熱あれば、五苓散の証とす。凡そ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方倶に能く下利を治す。但し其の位異なるのみ。此の方、下焦を主とする故に、淋疾或は尿血を治す。其の他、水腫実に属する者、及び下部水気有りて呼吸常の如くなる者に用ひて能く功を奏す。

87.竹皮大丸
竹皮 石膏 桂枝 甘草 白薇
 此の方、血熱甚だしく煩乱嘔逆して諸薬口に納る能はざる者に奇効あり。白薇は能く血分に之く。『千金』婦人門、白薇の諸方徴すべし。『本事方』治血厥白薇湯も同意なり。また『小品方』には桂枝加竜骨牡蛎湯の桂枝を去り、白薇、附子を加へて二加竜骨湯と名づけ、虚弱、浮熱、汗出の者を治す。

88.竹葉湯
竹葉 葛根 防風 桔梗 桂枝 人参 甘草 附子 大棗 生姜
 此の方は産後の中風虚熱、頸項強急、痙病を発せんと欲する者に用ゆる薬なれども、老人などの虚熱上部に着き、頭痛、悪寒、微咳ありて、連綿日を経る者に与へて意外の功を奏す。

89.竹葉黄芩湯
竹葉 黄芩 茯苓 麦門冬 芍薬 地黄 大黄 甘草 生姜
 此の方は竹葉石膏湯の証にして、一等虚熱甚だしく、歯焦髪落と云ふ如く、血燥の症ありて、大小便など短渋し、形容枯稿すれども、思ひの外維持の力ある者に用ひて効あり。

90.腸癰湯(千金)
牡丹皮 甘草 敗醤 生姜 茯苓 桔梗 薏苡仁 麦門冬 丹参 芍薬 地黄
 此の方は腸癰にて大黄牡丹湯など用ひ攻下の後、精気虚敗、四肢無力にして、余毒未だ解せず、腹痛淋瀝已まざる者を治す。此の意にて肺癰の虚症、臭膿未だ已まず、面色萎黄の者に運用してよし。また後藤艮山の説に云ふ如く、痢病は腸癰と一般に見做して、痢後の余毒に用ゆることもあり、また婦人帯下の証、疼痛已まず、睡臥安からず、数日を経る者、腸癰と一揆と見做して用ゆることもあり、其の妙用は一心に存すべし。

91.治脚気冷毒悶云々方
呉茱萸 檳榔子 木香 犀角 半夏 生姜
 此の方は唐侍中一方の証にして嘔吐あり、上気死せんと欲する者に用ゆ。嘔気の模様、犀角旋覆花湯に似たれども、犀角旋覆花湯は水気上部に盛んに顕れてあり、此の方は水気表に見れず、湿毒直ちに心下に衝いて嘔吐する者に宜し。

92.治腰脚髀云々方
杜仲 独活 地黄 当帰 川芎 丹参
 此の方、脚気腫除くの後、痿弱酸疼する者に宜し。後世にては思仙続断円など用ゆれども、此の方の簡便にて捷効あるに如かず。若し腫気残りて麻痺疼痛する者は四物湯加蒼朮木瓜薏苡仁に宜し。また此の方を腲腿風に用ゆることあり。何れも酸疼を目的とす。

93.沈香降気湯
沈香 縮砂 香附子 甘草
 此の方は気剤の総目なり。陰陽升降せずと云ふが目的にて、脾労の症、或は一切の病、上衝強く、動悸亢り、頭眩し、耳鳴り、気鬱する症に用ゆ。また脚気心を衝くの症に桑白皮湯或は呉茱萸湯等の苦味を苦しみて嘔吐する者に効あり。香蘇散、正気天香湯等は気発を主とす。此の方は降気を主とす。其の趣き稍や異なり。塩を入るるものは潤下に属す。或は左金丸を合するときは降気の力尤も強しとす。

94.丁香茯苓湯
丁香 茯苓 附子 半夏 陳皮 桂枝 乾姜 縮砂
 此の方は胃中不和より滞飲酸敗を生じ、遂に翻胃状をなす者を治す。生姜瀉心湯よりは一等虚候にして久積陳寒に属する者に宜し。

95.治吐乳一方
蓮子 丁香 人参
 此の方は小児胃虚の吐乳を主とす。また大人禁口痢の吐逆に運用すべし。若し吐乳して下利する者は銭氏白朮散加丁香に宜し。

96.治婦人経水不通云々方
人参 茯苓 当帰 瞿麦 大黄 芍薬 桂枝 葶藶子
 此の方は血分腫の主方なり。血分腫とは王永甫が『恵済方』に云ふ「婦人経滞化為水、流走、四肢悉皆腫満、名日血分証、与水腫相似、医不能審輒作水腫治之誤也」と、是れなり。若し虚候ありて此の方を用ひがたきときは『宝慶集』の調経散を用ゆべし。

97.沈香四磨湯
沈香 木香 檳榔子 烏薬
 此の方は冷気攻衝と云ふが目的にて、積聚にても痰飲にても、冷気を帯びて攻衝するに与ふれば一時即効を奏す。『済生方』には上気喘息を治するに養正丹を兼服してあり。

98.沈香天麻湯
沈香 益智仁 烏頭 天麻 防風 半夏 附子 羌活 独活 甘草 当帰 白橿蚕 生姜
 此の方は先輩許多の口訣あれども、畢竟、癇の一途に出でず。其の癇に抑肝散、治肝虚内熱方などを用ひ、一等病勢の強き者、此の方の主なり。また慢驚風に全蝎を加へて功を奏す。是れ陰癇に属すればなり。また大人小児共に痰喘甚だしく咽に迫り癇を発する症に用ひて奇効あり。また産後、金瘡、或は下血、痢疾、或は男女共に脱血して不時に暈絶して人事を省みず、手足麻木、或は半身瘛瘲、屈伸しがたく、或は手足の指ゆがみて伸びず、脈沈弱なるに用ひて妙なり。一婦人、不食、怔忡、胸中氷冷、眩暈足冷に与へて大効を得。此れ本、寒痰胃中に塞がりて有るより発することなれば、胸中の冷気に着眼して能く審定すべし。

99.沈香飲
沈香 木香 來菔子 枳実
 此の方は腹脹気喘の症、諸薬効なき者に用ひて宜し。虚する者は附子を加ふることあり。

100.知柏六味丸
地黄 山茱萸 山薬 沢瀉 茯苓 牡丹皮 知母 黄柏
 此の方は滋陰の剤にて虚熱に用ゆ。また腰以下血燥して煩熱酸疼する者にも用ゆ。先哲の説に、腎虚を治するに二つの心得あり。所謂腎には水火の二つ有りて、其の中に人の性により水虧けて火の盛んなる者あり、軽きときは此の方、重きときは滋陰降火の類を用ゆ。また火衰へて水泛濫する証あり、是れを八味丸とす。此の両途を弁じて、此の方の之く処は真水が乏しくして命門の火の亢る症と心得べし。