goo blog サービス終了のお知らせ 

トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

ホモセクシャルの世界史 その一

2014-06-12 21:10:19 | 読書/欧米史

 先日、『ホモセクシャルの世界史』(海野弘著、文藝春秋)を読了した。タイトルだけで“やおい”が喜びそうな書だが、著者は資料文献を丹念に調べた上、男の同性愛について真摯に考察している。世界史と銘打っても論考の対象は欧米のホモセクシャルの歴史であり、東洋には言及されていない。歴史教科書で必ずと言ってよいほど名が載っている世界史の著名人のエピソードも豊富であり、この人もホモセクシャルだったの??というケースも多く見られた。裏表紙には解説と共に14人の名があり、これら全て引用したい。

英雄アキレウス:ギリシア一の美少年として育った勇士の親友との絆
アレクサンドロス大王:東方遠征を機に開放的になった、香しい体臭を放つ色白の王
カエサルニコメデス王の稚児でもあった勇猛なる軍人
ハドリアヌス帝:深く愛した少年は神になり、アンティノウス信仰が興る
ダ・ヴィンチ:男色の告発を受けたサルタレッリ事件
ミケランジェロ:男への愛と禁欲の狭間で引き裂かれたカトリック教徒
アンリ三世:パリ・ファッションの先駆けとなった女装趣味の王

フランシス・ベーコン:妻には遺産を与えなかった少年愛者
オスカー・ワイルド:現代のスケープゴードとなった世界一有名なホモセクシャル
アルチュール・ランボー:錯乱と逸脱の美を追求した酔いどれ詩人
オイレンブロク公第一次世界大戦の引き金となったホモスキャンダル
D.H.ロレンス:ホモセクシャルな欲望におののき、性の戦争を作品化した作家
ディアギレフ:美しい男たちのカルト、20世紀バレエの創造者
ケーリー・グラント:ハリウッド・ゲイ社会の華麗なる二枚目

 オイレンブロク公とディアギレフの名はこの本で初めて知ったが、フランシス・ベーコンやD.H.ロレンスまでもがホモセクシャル視されていたとは驚いた。『チャタレイ夫人の恋人』の著者である後者には、何となく女好きのイメージがあったので全くの予想外だった。他にもホモセクシュアルの有名人が大勢登場している。近代欧米では作家や詩人のような売文業はもちろん、映画、美術業界などの職業にはホモセクシャルが多かったことが描かれていた。

 古代ギリシア時代、同性愛が盛んだったのは知られているが、ギリシア古典研究では同性愛に触れることはずっとタブーだったそうで、20世紀後半にようやく解説されるようになったらしい。
 アキレウスには無二の親友パトロクロスがいるが、この2人は強い友愛関係にあったのは確かだろう。ホメロスの『イーリアス』には同性愛そのものは書かれておらず、親友として語られているに過ぎない。これによってホメロスの時代にはまだギリシアの愛、つまり同性愛は始まってなかったと考えられている。

 これに対し、ホメロスは語らなかっただけなのだ、という説もある。ホメロス以降になると、アキレウスとパトロクロスは同性愛の仲として書かれるようになったという。さらにアキレウスの方が後者よりも3歳ほど年下とか。アキレウスには女装のエピソードもあるが、これまた『イーリアス』には出てこないという。これらの話をこの本で初めて知った。
 息子が戦で命を落とすのを危惧した母の命でアキレウスが女装し、スキュロス島に身を隠していたエピソードは面白い。完全な男優位社会の筈の古代でも、母の命は絶対だったのだろうか?たとえ女装願望があったとしても今時の息子なら、母のこんな無茶な命令には決して従わない。ある意味過保護ママの元祖かもしれないし、アキレウスも母(女神テティス)には従順なのだ。
その二に続く

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る