トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

なぜ日本は無謀な戦争をしてしまったのか

2021-08-15 21:10:17 | 歴史諸随想

 終戦記念日に限らず、戦後一貫して日本の言論界は、「なぜ日本は無謀な戦争をしてしまったのか」という問いを繰り返し続けてきた。国民的作家と謳われた司馬遼太郎も、自身の従軍体験から「こんな愚かな戦争を日本人はどうしてやってしまったのか」を問い続けた。
 司馬の体験談としてよく知られるのが、大本営将校が本土決戦時には民衆など構わず戦車で「轢っ殺してゆけ」と言ったことかもしれない。私もこれを聞いた時はいかに戦時といえ、その冷酷さに慄然とさせられたが、後にこの件は司馬の創作だったことがwikiの「司馬と戦車」に解説されている。

 それでも、「こんな愚かな戦争を日本人はどうしてやってしまったのか」論は現代まで続いている。それに対し、拙ブログに大変鋭い見解が寄せられたので、ぜひ紹介したい。

Re:司馬さんの嘘 (motton)
2020-12-22 15:42:58

司馬さんの世代は、少年時代の良き日本の姿と戦中から戦後直後との乖離を消化できていないのでしょう。
「なぜ日本は無謀な戦争をしてしまったのか」という問いの答えを探して、その根を乃木将軍に求めたのだと思います。そのストーリーに肉付けしたのが「戦車の嘘」でしょう。

問いが間違いなのです。問いを間違えるように戦後の言論界が誘導されました。
(歴史家の目線で)素直に考えるといいのです。戦争には相手がいます。相手が望むなら、こちらの意志とは関係なく戦争になるのです。そして基本的には戦争は「勝てる」と思う方(大きな国の方)が仕掛けるのです。
だから、日米戦でもっとも一番重要なのはアメリカ(ルーズベルト)の意志です。これがはっきりしないと、答えが出るわけが無いのです。

そして国力に劣る国の戦略・戦術は万全とはいきません。貧すれば鈍すで、何かを捨て高いリスクを背負って賭けにでなければなりません。
普通の国なら、最初から失敗します。日本は、ちょっと成功していまいました。成功を続ければ勝てそうなくらいに。アメリカは半年で勝てると思っていたそうですが、日本は4年近く粘ったのです。
その結果、最初から失敗していれば、単純に敗因を国力の差だと認識できたのですが、ちょっと成功してしまったので、敗因を無能な政治家や軍人に求めてしまったのです。

アメリカの政治家や軍人が日本より優秀だったわけではありません。その後、朝鮮やベトナムやアフガンや中東で醜態を見せたアメリカが対日戦だけで優秀なわけはないのです。(対日戦だけ正義というわけでもないのです。)

そもそも、朝鮮戦争で中共が参戦するまで、満州・朝鮮の地政学的意味を理解していませんでした。日本が戦う意味すら理解していないほど無能でした。
しかし、アメリカは国力のゴリ押しで多少の間違いはカバーできしまうのです。

アメリカは日米戦の一方でイギリスから通貨の覇権を奪うべく行動していました(ブレトン・ウッズ協定)。西太平洋の覇権を日本から奪うというアメリカの戦略はそういう世界戦略の一部です。後世の歴史家はそう見るでしょう。

しかし、当事者はなかなかそうは考えられません。自分たちの無力さが突きつけられるので。だから何か自分たちの内部に原因を求めようとしてしまうのです

 このコメントは目からウロコだった。日本の言論界では未だにこのような見解は出来ない。もちろん先の戦争が勝算のない無謀な戦争だったことは明らか。しかし、“無謀な戦争”というならば日露戦争も同じだ。しかし日露戦争を“無謀な戦争”という識者は左派にもいない。
 世界史でも“無謀な戦争”は幾らでもある。紀元1世紀のユダヤ戦争さえ、強大なローマ相手に戦ったユダヤ民族は“無謀な戦争”を行ったと解釈できるが、どのようにしたら同胞は危機を避けられたのか?と考えたユダヤ系知識人はいるだろうか?

 何度も書いているが、歴女でも多くの女性と同じく私は軍事に弱い。熊本在住の歴史ブロガーさんから戦争について興味深いコメントを頂いたので、こちらも紹介したい。

Unknown (鳳山)
2020-07-26 23:18:47
勝ち目がなくても様々な理由で起こるのが戦争で損得勘定で戦争が起きないのなら人類の歴史に戦争は存在しないと思います。リベラルの学者に多いんですが、歴史に対する理解が低すぎますね。

◆関連記事:「危機と人類
アラブが見たヒロシマ
平和勢力の持つ核兵器は脅威ではない

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

32 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (mobilis-in-mobili)
2021-08-15 21:55:00
ABCD包囲網で輸出入の道を断たれ、ジリ貧よりは、と一発勝負に出てしまったのだ。
しかしアメリカはこれを手ぐすね引いて待っていた。悪いことに、それまで日本は戦争して負けたことがなかったために初戦の大勝に酔ってしまい、泥沼に踏み込んでしまった。本来は一撃して即時有利な条件での講和に持ち込むべきだったのに❗
mobilis-in-mobili さんへ (mugi)
2021-08-16 21:38:42
 歴史というものは常に後世から検証する学問であり、悪く言えば後知恵でああだこうだ論評するものです。後世からみれば「当たり前」「常識」でも、当時を生きていた人々にはそうではなかった。返って後世の人々の方が事情を知っている有様。

 本来は一撃して即時有利な条件での講和に持ち込むべきだったのに……と私も思います。しかし出来なかった。それが出来たならば、あの体制と敗戦はありませんでした。例え日本が一発勝負に出なくとも、機会を見てアメリカは攻撃したと思います。ベトナム、アフガン、イラクのように(どれも宣戦布告なし)。

 他国の例としてユダヤ戦争を挙げましたが、自民族の行いを自省したユダヤ系知識人はいるでしょうか?シカリオイのようなテロリストが跋扈、ローマ人を標的にしていれば懲罰を受けるのは当たり前でも、ローマの帝国主義が悪いと言い続けています。
意思決定の過程の詳細 (IT)
2021-08-16 23:22:23
なぜ日本は無謀な戦争をしてしまったのか、という問題について、国同士の関係を擬人化して論ずることで答えるのは時に有用ですが、基本的に危険な方法だと思います。法治国家としての日本が開戦したということは、責任者が何らかの過程を経てそれに同意したということですから、そのミクロな意思決定の過程を、たとえ面倒でもしっかり跡付け、そこから教訓を汲み取るのがよいと思います。

最近になって、戦後の一億総懺悔的思考停止から自由な世代の歴史学者が緻密な仕事をされているようで、あの戦争に向けた意思決定のかなり詳しい部分が分かってきたように思います。たとえば、森山優という方の
森山優、日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」、新潮選書、2012
はとても優れた仕事だと思いました。

ここで描かれているのは、陸軍と海軍の政治的縄張り争いが、国家の戦略的意思決定を麻痺させた過程です。その背景には、指揮系統がはっきりしない明治憲法の問題がありました。さらに、鎖国が長かった日本では、外国の動向を肌感覚で理解している人が少なく、この意味で米国育ちの松岡洋右が果たした負の影響は大きなものがあります。

具体的に意思決定を跡付けることで、ではどうすればいいか(よかったのか)、という建設的な議論ができます。

陸軍と海軍の政治的縄張り争い、などと言うと現代では関係ないもののように思えますがそうでもありません。上位のレベル(国家の戦略的利益)を無視して、またはそれには想像が及ばず、目先の損得や身内のライバルへの憎悪にひたすらこだわる、という点では、現代の日本の知識人もまったく変わりありません。自称外国通がしばしば不当に大きな発言力を持ちがちなのも同じですね。我々日本人の大半は、結局、ほとんど何も学んでいないということです。
Re:mobilis-in-mobili さんへ (motton)
2021-08-17 11:18:08
>本来は一撃して即時有利な条件での講和に持ち込むべきだったのに

アメリカに講和の意思が無い(太平洋の覇権のために軍事的or経済的に日本を潰すまでやるという意思があった)ので、ありえないです。
そもそも、国力が10倍の大国に対して、「一撃して有利な条件」とか、もうその時点でおかしいのです。
逆に考えてみればよく、例えば今の韓国に一撃されて不利な条件で講和させられるのは、日本政府が極めて無能である場合でしかないわけで。

アメリカの太平洋艦隊を無力化した上で、欧州戦線でドイツが優勢になってアメリカがそちらに注力する情勢にするしかなかったわけですが、前者を一時的とはいえ達成したのは、日本が優秀だったのかアメリカが無能だったのか。

アメリカを主人公とする世界史においては、西太平洋の覇権を持っていた日本との衝突は必然です。日本がそこに存在したことが悪かった。
日本は、それから逃れるため(アメリカの攻撃意思を挫くため)に、大陸に進出したりドイツと組んだりしたわけです。(石原莞爾の満州国は、手法は問題だけれども、戦略は正しい。)
しかし、それゆえにアメリカが座して黙認するはずがなく、「日本がアメリカに挑戦するため」だとすり替えて圧力を掛けたのです。

だから、戦後になって、アメリカの太平洋の覇権が確立すれば日米が争う理由はなくなったのです。日本も資源と市場(と対共同盟)が得られれば、(自尊心は傷つくものの)無理をする必要はなくなったのです。
(かといって、戦前に日本が自分からアメリカの軍門に下るのは無理。アメリカが共産主義の脅威を正しく認識して対共同盟を提案していれば可能だったかもしれないが、ホワイトハウスに赤のスパイがうじゃうじゃいる以上、無理。)
Re:意思決定の過程の詳細 (mugi)
2021-08-17 22:49:19
>IT さん、

 森山優氏の著書『日本はなぜ開戦に踏み切ったか ―「両論併記」と「非決定」―』は未読ですが、ネットレビューを見るとなかなか興味深い書のようですね。

 陸軍と海軍の政治的縄張り争いが、国家の戦略的意思決定を麻痺させたこと、指揮系統がはっきりしないこと等は結構知られていると思いますが、松岡洋右が米国育ちだったことは初めて知りました。威勢のいいことを言っていたので、何となく日本で生まれ育ったイメージがありましたが、wikiで見たら松岡はアメリカを第二の母国と呼び、英語を第二の母語と呼んでいたとは。そしてクリスチャンだった。

 戦後になっても日本では各省庁の政治的縄張り争いが続いていますよね。国家の戦略的利益を無視、目先の損得を優先し、何よりも省益を大切にする。高級官僚に限らず現代日本の知識人も学派争いというか、ライバルへの憎悪は激しいものがあります。
 自称外国通がしばしば不当に大きな発言力を持ちがちなのは、明治から続いています。幸いなことにネットの普及で自称外国通のおかしさが徐々に知られるようになりました。外国人とロクに付き合えず、会話もほとんどできない「自称外国通」は珍しくないようで。

 ただ、mottonさんがコメントされていますが、アメリカを主人公とする世界史においては、西太平洋の覇権を持っていた日本との衝突は必然で、日本がそこに存在したことが悪かったのは確かでしょう。日米開戦からは教訓を汲み取るべきですが、知識人の間でも学閥争いがあるし、こちらもかなり難しいと悲観的になります。
Re:Re:mobilis-in-mobili さんへ (mugi)
2021-08-17 22:52:01
>motton さん、

>>アメリカに講和の意思が無い(太平洋の覇権のために軍事的or経済的に日本を潰すまでやるという意思があった)ので、ありえないです。

 仰る通りですね。あまりにもお粗末な願望解釈でした(汗)。今の韓国の例えは分かり易く参考になりましたが、かの国は一撃する可能性がありそうな……

 これまで日本の大陸進出は「軍国主義」の一言で片づけられていましたが、アメリカの攻撃意思を挫くため、大陸に進出したりドイツと組んだりしたわけでしたか!この見方も目からウロコです。太平洋の覇権の確立を目指すアメリカが日本と激突するのは時間の問題だったのかもしれません。

 戦後になってもホワイトハウスには赤のスパイが結構いたはずです。ハリウッドなどは赤の巣窟だし、赤狩りを実行したマッカーシーは現代でも極悪人扱いだし。
Unknown (鳳山)
2021-08-18 06:48:07
戦争は自国にその意思がなくても相手に仕掛けられれば始まるものであり、一国だけに原因を求めても本質は分かりません。
mottonさんのコメント、感銘を受けました。
国力に見合った軍備てホント大事 (牛蒡剣)
2021-08-18 20:18:09
アメリカて戦前GDPはアメリカ以外の国を全部足したくらいでしたが、軍備はたいしたことなかったんですよね。勿論あっという間に大軍備で戦争に勝ってしまうわけですけど。海軍は世界1の規模でしたけど、開戦直前では日本は約7割の規模まで強化しておりしかも、空母の保有数は上回っている状況。空母に積んでる戦闘機も日本は最新鋭の零戦がでほぼ更新がすんでる中、予算不足で複葉戦闘機が
まだ空母に乗っていたりと意外と貧乏でした。しかも太平洋と大西洋で分断されており、2.5倍の規模だったロシア艦隊を各個撃破して勝った経験があるわけですから、それより有利なわけです。
「ひょっとすると今ならワンチャンス!」
と思うひとが出てもおかしくないと思うのですよ。
まあ僅か2年で開戦時の3倍以上まで膨れちゃうんですけど。陸軍も同様で平時は20万に満たないくらい。今は単体で18万で自衛隊丸々ぐらいいますけど海兵隊も8千人程度で廃止リストラの話が何度も持ち上がるくらい。世界恐慌期には予算不足で稼働戦車が全米軍で10両を割ったころすらあったくらい。ちなみに開戦時日本陸軍は200万を超えていました。
勿論昭和18年ぐらいまでにアメリカ海軍は3倍
ぐらいになる艦隊整備法案は通過していて開戦前に
は新聞報道され日本も知っていました。陸軍だって
欧州情勢に対応するため参戦するしないにかかわらず戦車を5万両生産して300個師団1千万の大軍を編成することも、軍用機を年産10万機製造する計画も、報道されてました。・・・・・・・益々おもいませんか?
今ならワンチャンと。

というわけで平時からある程度抑止力として国力に見合った軍備て重要だと思うわけです。もし平時から日本の倍のカネ(当時のアメリカなら決して
大きな負担ではない)で軍備をしていたら最初から
日本は「どうやってアメリカを引き寄せるか?」
という方向にシフトして博打すら打つ気力すらわかなかったと思うのですよ。
鳳山さんへ (mugi)
2021-08-18 22:25:18
 平和団体が唱える「二度と戦争を起こしてはいけない」ほど、馬鹿げたお題目もないですよね。イラクは日本の真珠湾攻撃に習って耐えがたきを耐えていたのに、結局宣戦布告なしで首都を空爆されて戦争になりました。自慰と自己陶酔に酔いしれているのが日本の反戦平和団体。
牛とステーキ (madi)
2021-08-19 05:18:24
牛にステーキの焼き加減に口出す資格はない、ということですわな。

どうせいつかは戦争になっていたのだからもっとのらりくらりやってればよかったのにとは思います。

客体ではなく主体になりたいから、北朝鮮が主体思想といいだしたのは、外からみるとわかります。