政治家「又市征治」という男

元政治記者の私が最も興味を持った政治家、それが又市征治だった。その知られざる人物像に迫る。

20兆円の男

2007年07月08日 | Weblog
 又市征治は、福祉予算をひねり出そうと、特別会計を徹底的に調べ上げた。
 調べれば調べるほど出てくるのは、驚くほどずさんな実態だった。国会もまともに監視をしない莫大な金は、大きな腐敗も生んでいた。この特別会計は、各省庁が既得権益として抱え込んだ「余剰金」「積立金」「繰越金」など様々な名目の金が埋められていた。また不透明な金の流れは、利権や天下りの温床となっていた。

 「これだけの金をまわせば、増税や負担増などしなくても良い。いや、もっと国民の生活に還元できる。いま苦しんでいる人々を救うことができる。」又市はそう確信していた。

 又市の試算では、少なく見積もっても10年間で総額65兆円を繰り出すことが可能だった。これは一般会計の純支出の約2年間分に匹敵するほどの膨大な金額である。

 しかし前述の通り、自民・公明・民主はこれに消極的だったし、共産党も、防衛費と公共事業の見直しというワンパターンの主張を繰り返すだけだった。彼らを動かさなければ、折角の財源も動かすことはできなかった。

 又市が最初に特別会計に注目したのは、行政監視委員会に所属していたときだった。この行政監視委員会は、幅広く行政をチェックすることを目的とし、どの大臣にでも質問をすることができた。そこで、又市は省庁の無駄遣いや天下りについて追及を重ねたが、そこで必ず背後に浮かび上がる特別会計の存在に目を向けるようになったのだ。
 その後、同じ党の田嶋陽子の辞職により、又市は田嶋が担当していた決算委員会に所属することになる。予算で優位権を持つ衆議院に対して、参議院は決算を重視する。そこで又市は、決算という「実際に金がどう使われたか」を徹底的に調べ上げていったのだ。

 又市は毎回のように特別会計に関して質問に立ち、徹底的に追及した。又市は質問回数が多い議員だが、その中でも特別会計についてだけで計50回以上の質問を行っている。
 こうした又市の質問には最初、与党などからは心ないヤジが飛んだが、次第に雰囲気は変わっていったという。又市が具体的な問題点を次々と明らかにするたび、逆に与党からも「本当か」「そりゃひどい」という声が漏れ始めた。それどころか、又市の発言中、しきりにメモを取る他党の議員も目に付くようになった。それほど又市の追及は説得力を持っていたし、影響力を持つようになっていた。
 
 そこで又市は各党に、ある提案をする。
 委員会としての「警告決議」と「措置要求決議」をあげようとしたのである。決算は否決したところで復元することはできない。与党が多数であり否決されることもないが、今のままではダメだということは誰もが感じていた。又市はそれを形にして内閣に突きつけようとしたのだ。

 「警告決議」が採択されれば、内閣は次の予算編成でこの決議内容を反映させなければならないことになる。また「措置要求決議」は警告よりは弱いが、これも無視はできない。それほど重要な決議だった。

 ただし、この決議は委員長による提案、全会一致が原則だった。つまり与党も納得させなければ効力を持たないのだ。又市はこの決議をまとめるために奔走した。もちろん難色を示す議員もいたが、この問題に徹底的に取り組んできた又市の知識と説得力は、並みの議員の及ぶところではない。
 結果、平成16年、17年の2度にわたって、参議院決算委員会は、内閣に対する警告決議と措置要求決議を採択した。もちろん自民から共産、無所属まで全会一致の決議だった。 

 その決議を反映させた平成18年度予算には、5年間で合計20兆円を特別会計から一般会計に繰り入れることが盛り込まれた。
 又市は、実に20兆円もの財源を捻出したのだ。又市の特別会計への着目については以前、自民党幹事長だった武部勤が「無駄はない。」と断言し、公明党幹事長だった冬柴鐵三が「一円も出ない。」と笑ったことがあったが、それから、僅か1年半で又市は、これだけの金を繰り出すことを政府与党に認めさせたのである。

 その数年前「100億の男」とかいうテレビドラマがあったが、私は密かに又市を「20兆円の男」と呼んでいる。増税も負担増も国民に課すことなく、20兆円もの財源を生み出す、これは偉業と言うしかない。

 ときの総理だった小泉純一郎は「改革の成果だ」と胸を張ったが、財務大臣の谷垣禎一は本当の功労者を知っていた。谷垣は又市に感謝を述べたという。

 「この財源は、又市さんのおかげです。ありがとうございました。」

 財務官僚も次々にお礼を言いに又市のもとを訪れた。しかし又市の答えはこうだった。

 「あなた方に、礼など言われたくない。」
 
 又市は怒っていたのだ。
 なぜか。又市がこの特別会計に切り込んだのは、福祉のためであり、国民生活を守るためだった。ところが財務省は、この20兆円を全て国の借金の返済に充ててしまい、一円も国民に還元しなかったのである。

 年金の国庫負担率を法律どおり、3分の1から2分の1に引き上げるのに年間2兆5千億円が必要だというが、又市の捻出した財源はそれを上回る年間4兆円である。ただちに国庫負担率を引き上げてもまだ1兆5千億円ものお釣りが来るはずだった。しかも、又市が主張したのは、5年で20兆円ではなく、10年で65兆円である。それを結局、省庁の抵抗で大きく目減りさせておきながら「成果だ」と誇る小泉内閣に、又市は怒っていたのだった。

 私は長く取材をしてきたが、又市征治ほど、国民の暮らしを真剣に考えている政治家はいない。
 幼い頃から苦労に苦労を重ねてきた人間だからこそ、今そこにある国民の苦しみが分かるのだろう。その又市が、まだ特別会計には財源が埋まっているという。

 何の苦労にも縁のない生活をおくってきた二世・三世の政治家たちが、一層の増税で、まだ国民を苦しめようと企てるようなご時世だからこそ、又市の存在は重要さを増していると言えるだろう。
(敬称略)

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