経済社会問題 #31

2006年06月25日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。


福井俊彦日銀総裁は辞任すべきだ
 6月13日、日銀の福井俊彦総裁が、村上ファンドの設立当初から1千万円の資金拠出をしており、2月に解約を申し入れたものの、解約手続きが完了しておらず、現在も投資を続けていることが明らかになった。
 翌々日の6月15日に参議院予算委員会に参考人として招致された後、福井総裁は記者会見で「自らの職責を果たしていきたい」と語り、辞任の考えが全くないことを強調した。先進各国のメディアで大きく採り上げられ、当然辞任してしかるべき大スキャンダルであるのに、福井総裁は居直ったのだ。
 福井総裁の行為には、多くの問題がある。まず、主なところを整理していこう。
 第一に、福井総裁が村上ファンドへの投資は資金拠出が日銀の内規に抵触しないとしたことだ。これは明らかにおかしい。「日本銀行員の心得」には「過去の職歴や現在の職務上の立場等に照らし、世間から些かなりとも疑念を抱かれることが予想される場合には、そうした個人的利殖行為は慎まなければならない」と書かれている。現に、世界中から疑念を抱かれているのだから、それだけでも内規違反のはずだ。
 第二は、福井総裁が参議院予算委員会で、村上ファンドへの投資で得た運用益を問われて、「清算するまで分からない」、「きちんと計数整理をしたうえでないと、答えられない」と繰り返し、回答を拒んだことだ。
 村上ファンドからは少なくとも四半期ごとに運用成績の通知がきていることが明らかになっており、総裁が答えなかったのは、何か都合の悪いことがあったとしか考えられない。百歩譲って、参議院のときには本当に資料の準備ができていなかったとしても、翌日の衆議院での質疑のときには、資料を用意できたはずだ。それをしないというのは、やはり相当な「作業」をしないと、表に数字を出せないと言うことなのではないだろうか。ただし、いくら儲けているかというのは、すでに明らかな話だ。村上ファンドは20%以上の利回りを誇ってきたのだから、99年に資金拠出してから7年間で1400万円は利益が出ているはずだ。実際には複利で運用されているのだから、利益はもっと大きいと思われる。
 第三は、なぜ2月に解約したのかということだ。福井総裁は「村上代表の当初の志が変化したと感じた」からだとしているが、村上ファンドのビジネスモデルは当初から一貫している。今年2月になって急に変わったわけではない。これはあくまでも推測だが、2月になって突然解約を申し入れた理由は、いくつかの可能性が考えられる。1つは、村上容疑者逮捕の情報を何らかのルートで事前に察知したということだ。しかし、そうだとしたら、インサイダー取引と非難されても仕方がない。2つは、3月9日に量的金融緩和の解除をする意向を固めたことにより、株価が下がるのを予測して解約をしたということだ。量的金融緩和は、金融引き締めだから、株価の下落は当然予測できる。しかし、これも当然インサイダーだ。3つは、これは可能性としては非常に小さいと思うが、福井総裁が解約したのは2月ではなく、参議院で質問があることが分かってからだというものだ。ただ、解約日を2月にさかのぼってもらうという依頼を村上ファンドにしたとすれば、運用益をすぐには公表できなかったということも説明がつく。
 第4の問題は、福井総裁が総裁就任前には、村上ファンドのアドバイザリーボードのメンバーを務めていたことだ。当時の村上ファンドのパンフレットには福井氏の名前が記されており、村上ファンドの広告塔となっていた。しかも、総裁就任後にも資金拠出をしていたことで、村上ファンドが資金を募集する際に「日銀総裁も資金を出していますよ」という営業トークを使った可能性は否定できないだろう。
 第5は、現実問題として福井総裁が株式市場に大きなマイナスの影響を与えてしまったことだ。福井総裁の村上ファンドへの資金拠出が明らかになった6月13日の日経平均株価は、同時多発テロ直後の暴落に次ぐ614円安という大幅安となった。欧米や経済新興国の株安が背景にあるから、すべてが福井総裁の責任とは言えないが、市場に福井ショックが走ったことは間違いない。
 また、福井総裁の行動に問題があっても、本業でしっかりとした業績をあげているのであれば許されるという考え方もありうるかもしれない。しかし、この3ヶ月ほど、日銀の金融政策もまた、適切とは言いがたいのだ。
 ここ数ヶ月の株価下落は、米国株の下落に連動したものだと言われるが、米国株が5月10日の今年最高値から6月12日までで7%下落したのに過ぎないのに対して、日本株は4月7日の今年最高値から6月13日までで19%も下落している。米国株の3倍近い下落率をもたらした最大の原因は、日銀による急速な金融引き締めだ。3月9日の量的金融緩和の解除以降、日銀は当座預金残高を急速に絞ってきた。その結果、マネタリーベース(現金+日銀当座預金)も減少し、5月には前年同月比で15%の減少と、過去一度も経験のない急激な引き締めとなっているのだ。
 つまり、6月13日の株安は、日銀の金融引き締めで、株価が下落基調にあったところに、福井総裁の村上ファンドへの資金拠出問題が重なって生じたと考えられるのだ。言ってみれば、「ダブル福井ショック」で株価が下落したことになる。金融政策のトップとして、この責任は重大だろう。
 ここまで書けば、十分かもしれないが、私が福井総裁が辞任すべきだと考える最大の理由は、福井総裁が海賊型資本主義の信奉者であることが今回明らかになったことだ。
 福井総裁は、2月になって村上良彰容疑者の志に疑問を抱いたと言ったが、逆に言えば、2月まではその姿勢を評価していたことになる。村上ファンドがニッポン放送株を買い占めたときも、福井総裁がファンだと公言する阪神タイガースの親会社、阪神電鉄株を買い占めた時も、福井総裁はそれを支持していたことになるのだ。
 福井総裁は、村上ファンドの顧問をしていただけでなく、総裁就任前にはゴールドマンサックスの顧問も務めた。さらに、日本振興銀行の木村剛会長とも懇意にしている。「株主価値の向上」を旗印に、「会社は株主のもの」という誤った風潮を作り上げることに福井総裁は深く関与してきたのだ。
 格差社会の原因を作った海賊型資本主義に、間接的であるにせよ、お墨付きを与えてきたことの責任は大きい。その福井俊彦氏を日銀総裁に任命した小泉総理の責任はもっと大きい。
 繰り返す。福井俊彦日銀総裁は、即刻辞任し、小泉首相とともに表舞台から姿を消すすべきだ。
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