経済社会問題 #30

2006年06月17日 | 経済問題
私はニッポン放送の携帯情報サイトで、その週に起こったことを中心にコラムを書いています。一週間遅れで、その記事を公開しています。世の中の流れが速いので、だいぶずれてしまうこともありますが、ご容赦ください。なお、最新版は携帯電話からニッポン放送のサイトに行ってください(こちらは有料です)。

※この記事は6月4日に書いたものです。2週間で、ずいぶん事態は変わってしまいましたが、そのまま掲載します。

村上ファンドは何をしたのか
 東京地検は、村上ファンド代表の村上良彰氏から任意で事情を聞き、6月5日の週にも村上ファンドに強制捜査に入ることとなった。昨年2月8日に東京証券取引所の時間外取引でライブドアがニッポン放送の発行済み株式の30%を取得した際に、村上ファンドがその情報を事前に入手したうえで、ニッポン放送株の買い占めていた容疑だという。証券取引法は166条で上場企業の5%以上の株式を買い集める行為を「TOBに準じる行為」と定めており、事前にその情報を知った者に対して株式の取得を禁じている。東京地検は逮捕したライブドア幹部の証言から、村上ファンドにライブドアのニッポン放送株取得の情報が伝わっていたとみているようだ。
 東京地検が描く事件の構図は、ライブドアがニッポン放送株の経営権取得を計画し、それを知った村上ファンドが事前にニッポン放送株を買い占めて、ライブドアが買収方針を公表した後に売り抜けて利益をあげたというものだ。しかし、この構図には、どう考えても無理がある。
 2月8日にライブドアがニッポン放送株を大量取得した際に堀江社長(当時)は、「リーマンブラザーズから800億円の資金調達をしたタイミングで、たまたま時間外市場に大量のニッポン放送株が売りに出ていたから、それを買っただけだ」と強弁した。しかし、常識的に考えて、そんなことがあるはずがない。ライブドアが取得したニッポン放送株は、村上ファンドが事前に買い集めていた株である可能性が極めて高い。それは村上ファンドのニッポン放送株の取得経緯からも推察される。
 村上ファンドは03年6月以降ニッポン放送株を買い集め、2004年2月に保有株式は350万余株となり、保有株が発行済み株式に占める割合は10%を超えた。村上氏はニッポン放送に対して株主価値を高めるための急激な経営改革を求めたが、ニッポン放送ののらりくらりとした対応に交渉は膠着状態に陥っていた。
 そのため、2004年3月以降は村上ファンドは小口の買収にとどめ、再びニッポン放送株を買収を本格的に開始したのは、10月20日に、25万余株を買い増したときだった。その後村上ファンドは激しくニッポン放送株を買い集め、一連の買い付けは05年1月までの約2カ月半に計32回、209万1680株に及んだ。この結果、05年1月には保有株は609万余株、保有割合は18.57%にまで高まった。
 つまり、2004年10月末ごろ、村上氏はニッポン放送株の売り先をみつけたのだと推定できるのだ。もちろん、その売り先は当時破竹の勢いだったライブドアだ。
 また、この時期、2004年12月3日にホリエモンは私のニッポン放送のラジオ番組(朝はモリタクもりだくSUN)に出演したあと、ニッポン放送の本社ビルを細かく見学して回っている。おそらくニッポン放送を「内偵」していたのだろう。
 だから、そもそもライブドアによるニッポン放送株買収事件は、村上ファンドが仕掛けたのではないかと私は思っている。投資ファンドにとって最大の課題は、取得した株式をいかに売り抜けるかということだ。昨年2月8日の大量取得も、村上ファンドがライブドアと事前に了解にもとづいて時間外市場に自社保有のニッポン放送株を売りに出したと仮定すると、すべてのことが、矛盾なく説明できるのだ。
 だから、検察は、まず2月8日にライブドアに大量の株を売ったのが誰なのかを優先して調べるべきだと思う。もしライブドアと村上ファンドの間に事前の共謀があれば、3分の1超の株式を取得するときにはTOBによらなければならないとする証券取引法27条2号に違反するため、ライブドアによるニッポン放送株の大量取得そのものが違法だったことになる。そうなったとき、初めてこの事件の本質が明らかになる。それは、ライブドアのニッポン放送株取得が国会で採り上げられたとき、いち早く「違法とは言えない」と表明した金融庁の判断が果たして正しかったのかということだ。
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