MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2355 育休は「休暇」ではないんだけど…

2023年02月03日 | 社会・経済

 岸田文雄首相が1月27日の国会答弁で、賃金上昇やキャリアアップに向け、産休や育児休業中のリスキリング(学び直し)を「後押しする」と発言したことについて、ネット上では「育休中に学び直しなんでできない」「育休は休暇じゃなく、24時間働いているのにどうやって学び直すんだ」など批判が噴出。炎上の様相を呈していると報じられています。

 岸田首相は自民党の大家敏志参議院議員の「(育休中のリスキリングにより)キャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になるのでは?」との質問に答え、「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししてまいります」と答弁しています。

 これに対し、子育てを経験した(経験している)女性たちからは、「この発想ってまさに育児する気のない育休男性のもの」「自民党は育児の実態を知らないらしい」といった厳しい声が(次々と)上がっているということです。

 母親にとっての育休は休みなんかじゃない。そこで「就職のための学びなおしをしろ」なんてことを平気で言い出すのは、そもそも(世の男どもに)育児をするつもりがないからだ…といったところでしょうか。

 批判を受け、首相は翌日の衆議院予算委員会において、「私自身も、3人の子供の親です。子育てというものが、経済的時間的、さらには精神的に大変だということ、これは目の当たりにしましたし経験もいたしました」と自負したうえで、「本人が希望した場合には、それをしっかりと、後押しできる、そうした環境整備を強化していくということ」と言い訳をしています。

 確かに主旨は分かりますが、しかし(いったん火がついてしまった)今となってはそれも「後の祭り」「焼け石に水」というもの。自身が子育てに参加してこなかったことは既に「バレバレ」だというネット上の指摘には、思わず笑ってしまいました。

 さて、1999年の「男女共同参画社会基本法」の成立以来、この日本でも多くの企業で産休や育休制度などが整備され、結婚、出産、育児による退職者も減少傾向にあるとされています。

 日本の労働力人口比率は、団塊の世代の労働市場からの退出などによって1992年の64%から2012年の59.1%まで低下したもののその後反転し、2019年には62.1%まで回復したとされています。その間、男性の労働力人口比率はほぼ横ばいで推移しているのに対し、女性は48.2%から53.3%に上昇しているということです。

 こうした動きに伴い、かつて問題視されていた女性就業率の「M字カーブ」も次第にフラット化しているとされています。とはいえ、この間、男女の賃金格差は決して縮まっているわけではなく、育児のために(30代前後で)キャリアの中段を余儀なくされている女性が多いことに関して問題視する声が大きいことも事実です。

 こうした状況を踏まえ、1月31日の総合経済情報サイト「東洋経済オンライン」に、国際エコノミストの武居秀典氏が『「活躍する女性」世界共通の敵は既得権おじさん』と題する論考を寄せているので、参考までにその概要を残しておきたいと思います。

 日本では、新規女性就業者が増えるとともに、出産や育児で仕事を辞める女性が減ることによって労働力人口が下支えされている。こうして生まれた女性就業者の増加は日本経済にとっても好ましいものだが、「真の女性活躍」という観点からは、注意しなければならない点が2つあると武石はこの論考に記しています。

 そのひとつは、(一口に就業者と言っても、女性には)非正規雇用が多いことだと氏はしています。2021年時点での非正規雇用の割合は、男性21.8%(652万人)に対し、女性は53.6%(1,413万人)。もちろん、非正規雇用でも「女性活躍」といえるのではないかとの意見もあるが、考えるべきはこれが「目指すべき姿か?」ということだというのが氏の認識です。

 非正規雇用は、様な働き方のひとつであり自ら選択する人もいるが、20代30代の女性では、正社員として勤務したいが非正規雇用しかないという人が多いといわれている。正規雇用へのハードルが高く実質閉ざされているのであれば、女性就業者の地位が硬直化し、望ましい状態とはいえないということです。

 もうひとつは、企業の役員や議員・官僚など「重大な意思決定に関わる層」に女性がまだ少ないことだと氏はしています。『役員四季報』を見ると、日本の上場企業役員に占める女性の割合は、2012年の1.6%から2022年には9.1%まで上昇している。しかし、各国主要企業と比べれば、フランスの45.3%、イギリスの37.8%、アメリカの29.7%に対し、日本は12.6%とかなり見劣りする水準にとどまっているということです。

 日本企業は、女性活躍に向けた諸制度の整備や本格活用が欧米諸国に比べて遅れたため、現時点でのこうした結果はやむをえないのかもしれない。しかし、今後5年10年の単位見れば、結婚や出産・育児がキャリアの直接的な妨げにならなくなった世代の女性がきちんと部長や役員に昇進し、欧米並みの姿を見せられるかどうかが試されているというのがこの論考における氏の見解です。

 家事や育児の負担が過度に女性に偏る傾向が変わらない中で、疲弊していく女性たちが生まれはしないか。管理職に昇進した優秀な女性たちが、「おじさん」を中心とした意思決定層の旧態依然とした考え方ややり方、特にその排他的な雰囲気に触れ、嫌気がさしてそれ以上の昇進を望まなくなるのではないか。

 さらに今の日本では、「制度を整えたのに、女性活躍が進まないのは女性の問題」という声も出てきそうだと氏は話しています。当然ながら、こうした見方は何の解決にもならない。女性に責を負わせるのではなく、社会全体として「寛容度」を高めていくにはどうすればよいかを真剣に考え、対策をとっていく必要があるというのが(こうした問題に対する)氏の見解です。

 さまざまな「分断」が強まり、社会の寛容度が低下している現在、閉塞感が強まり先行き不透明な世の中で、国や企業がレジリエンスを高め成長を続けるには、女性を含めた「多様性」がカギになると氏はこの論考に綴っています。

 日本でも「真の女性活躍社会」の実現までの道のりは決して楽なものではない。そこを乗り越えるためには、まずはこの問題が制度や女性の問題ではなく「社会構造・意識に起因する寛容度」の問題であり、その寛容度を高める努力が日本経済再活性化のカギであることを(社会全体で)再認識することが重要だと考える武居氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。



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