MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1075 動き出すシェアリングエコノミー

2018年05月25日 | 社会・経済


 住宅宿泊事業法(民泊新法)が6月15日に施行され、自宅の空き部屋などを旅行者に有料で貸し出す「民泊」がいよいよ本格的に解禁されます。

 新法は、民泊を営む事業者に対し自治体への届け出を義務づけており、安全管理や宿泊者名簿の作成などを求めています。

 このため、民泊のプラットフォーマー最大手のAirbnb(エア・ビーアンドビー)Japanでは、6月15日以降、ホームページに掲載されるすべてのリスティングにおいて民泊新法の届出番号、旅館業の営業許可、その他許認可を義務付けるとしており、届出番号などが確認できない場合は非掲載とする方針を発表しています。

 また、シェアリングエコノミーの本格的な幕開けとなる新法の施行を目前に、株式市場においても民泊関連銘柄への資金の流入が活発化しているということです。

 例えば、業界ナンバーワンの不動産情報検索サイト「ホームズ」を運営する東証1部上場の「LIFULL」では、国内で圧倒的な会員数を誇る楽天グループの基盤を活用し民泊市場の開拓を目指すとして市場の注目を集めています。

 また、ジャスダック上場の総合不動産デベロッパー「プロパスト」は、投資用不動産販売・管理のシノケングループと業務提携した民泊プロジェクトを立ち上げ話題を呼んでいます。

 さて、新法の施行に伴い生まれる新しいマーケットへの期待感からこうして沸き立つ関係業界ですが、先日、保険業界におけるシェアリングエコノミー普及の本格化にむけた取り組みの状況を、損保ジャパン日本興和㈱の企画開発部の方からうかがう機会がありました。

 改めて説明するまでもなく、現在、話題となっている「シェアリングエコノミー」とは、事業者が持つ遊休資産をインターネット上のプラットフォームを介して個人間で共有したり、交換したりして利用する経済の仕組みを指すものです。

 その領域としては、例えば土地や家などの空間であったり、道具や洋服などのモノであったり、自動車や自転車などの移動(配達)手段であったり、家事やITスキルなどの人材などであったりするほか、クラウドファンディングによる資金調達などを含む場合もあるようです。

 現在、こうした(シェアリングエコノミーの)のマーケットは急速に拡大しており、矢野経済研究所の推計によると2016年に503億円であった国内の市場規模は、2021年度には1071億円にまで拡大すると予測されています。

 勿論、国内ばかりでなく、シェアリングエコノミーの広がりは先進国をはじめとした世界各国に及んでいますが、サービス業態への規制が強くまた保守的な消費者が多いとされる日本では、諸外国に比べて普及が遅れているとの指摘もあります。

 そうした中、損保ジャパンでは、日本におけるシェアリングエコノミーの普及を阻害する要因の一つとして(事業者や消費者の間に)「事故やトラブルへの対応についての不安」が大きいことを挙げています。2016年の調査では(阻害要因として)この種の不安を挙げた人は米・英で概ね3割だったのに対し、日本では半数を超えていたということです。

 こうした状況を受け、政府ではシェアリングエコノミーの普及に対応する制度面での体制づくりに努めています。

 今回の民泊新法もその一つですが、新しいビジネスモデルの導入に当たりグレーゾーンとなっている部分を整理し制度を整えることによって、事業者やプラットフォーマー、さらには事業活動を受け入れる自治体などの不安を解消しようというものです。

 しかし、そうした制度面での補強だけで、シェアリングエコノミーへの心配が払しょくされたり、安定的な運営が確保されたりするものではありません。そこで、損保ジャパンを含めた損保業界では、そこに保険業務の(新しい)マーケットがあると見ているということです。

 基本的に、「リスク」と「保険」の間には高い親和性があると担当者は話しています。シェアリングエコノミーの導入によって発生する新しいリスクに対応した保険商品を提案し普及させることで、シェアリングエコノミーのプラットフォーマーや提供者、利用者の安心や安定的な利益の確保を担保できると考えているということです。

 損保ジャパンでは、既にそうした観点からAirbnb社との包括連携協定を締結し、苦情対応などのほか貸し手がこうむる可能性のある損害に対する保険商品の提案を行っているということです。

 さらに、メルカリ社が提供する自転車シェア事業「メルチャリ」に関しても、同社と協定を結び、安心安全なサービス提供にむけたモデルの構築に取り組んでいるとしています。

 さて、プラットフォーマーが核となって需要と供給をつなぐシェアリングエコノミーの市場は、(おそらく)今後も拡大の一途を辿ることでしょう。

 一方、マーケットの拡大によって生じるリスクやコストは、シェアされるコト・モノの利用者や提供者ばかりでなく、周辺の第三者や社会そのものに及ぶ可能性もあると考えられます。

 例えば、民泊であれば周辺地域の治安の悪化や環境の悪化による資産価値の低下、ライドシェアであれば交通渋滞の増加や事故の増加などもあるかもしれません。

 こうした(ある意味副次的な)コストを社会全体で負担していくことが果たして適切なのか。もしそうでなければ、誰が、どのような形で担っていくのか。

 規制によって参入のハードルを高くしていくことは簡単ですが、「規制緩和」の動きの中でそれがベストな「解」とも思えません。

 シェアリングエコノミーの在り方を研究する中で、こうしたリスクヘッジのシステムについてもさらに知恵を絞っていく必要があるのではないかと、今回の話を聞きながら私も改めて考えたところです。




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