MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1214 技能実習生という「ごまかし」

2018年11月10日 | 社会・経済


 10月24日に開会した秋の臨時国会における最も大きな問題の一つが、外国人労働者の受け入れ拡大に向け新たな在留資格を創設する出入国管理法の改正です。

 現在、日本国内で就労する外国人労働者はおよそ128万人とされていますが、私たちが街中でしばしば目にする外国人労働者は、勿論、正規の就労ビザで来日し仕事をしている人ばかりではありません。

 留学生の「資格外活動」のアルバイト約29.7万人や、技能実習生として業務に従事している25.8万人という数字もこの128万人には含まれているということです。

 政府は、人手不足による失速を懸念する経済界の強い要請を背景に外国人労働者の入国条件を緩和し受け入れ拡大を目指しています。

 一方、立憲民主党を中心とした野党各党は、現在の技能実習生の制度は失踪者や不法在留者が相次ぐなど問題点が多いと指摘しており、現状の問題を解決せずに外国人労働者をさらに受け入れるのは認められないとの立場をとっています。

 11月7日の参議院予算委員会では、所管の山下貴司法務相が立憲民主党の長妻昭代表代行の質問に答え、今年1月から6月までの技能実習生の失踪者が4279名に及んでおり、昨年1年間では過去最多の7089人の失踪が認められたことを明らかにしました。

 問題を報じるいくつかのメディアによれば、失踪者数が増加しつつあるだけでなく追跡調査もきちんとされておらず、きつい労働から逃れた実習生はその多くが日本国内で比較的負荷の小さい(例えばコンビニなどの)軽作業の仕事に就いているということです。

 さて、こうした「失踪」ばかりでなく、賃金や就労環境などの深刻な問題が様々に指摘されている外国人の技能実習制度について、11月6日のYahoo newsに神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が「5年間で延べ2万6千人失踪-外国人技能実習制度は異常すぎないか」と題する論評を寄せいています。

 法務省が2018年2月に発表した『平成19年に外国人の研修・技能実習の適正な実施を妨げる「不正行為」について』によれば、失踪した外国人実習生は2012年には2005人だったものが2016年には505人に倍増し、2013年からの5年間で延べ2万6千人に達しているということです。

 ちなみに2018年1月1日現在の不法残留者数は6万6,498人に上り前年同期比1.9%増。この不法残留者数の約10%を占めるのが、技能実習生として入国した外国人で、6,914人と前年同期比6.1%増とされています。

 中村氏によれば、1982年の入管法の改正により制度が始まった当初は、発展途上国に進出する日本企業が現地従業員を一時的に国内の工場などで訓練させるために用いられたということです。

 つまり、国内工場での実習研修が終われば海外工場での従業員として帰国することが前提だった。しかし、その流れが大きく変わったのが、1990年の団体管理外国人研修生の受け入れ開始と1993年の研修1年間に加えて技能実習の1年間、合計2年間の在留を認める「技能実習制度」の施行だったと氏は説明しています。

 1980年代後半にバブル景気を迎えると、日本では「きつい、汚い、危険」の3K職場が敬遠されるようになり、産業界は人材確保のために外国人労働者導入を政府に求める事態となった。

 そこで政府は方便として「彼らは(あくまで)短期的な実習生で外国人単純労働者ではない」と言い張り、多くの外国人労働者の導入を進めたということです。

 こうして「労働者」であるにも関わらず「労働者ではない」という存在を作り上げてしまったところにこの問題の本質的な「ごまかしが」あるというのが、この論評における中村氏の認識です。

 そうした中、さらに法務省、経済産業省、厚生労働省、外務省などの権益が複雑に絡み合い問題を複雑化させた。その隙間を縫って、受け入れを管理する団体が問題を隠蔽して「公的ピンハネ屋」と揶揄されるような構造に育ったことなどが、現在の悲惨な状況を生んだということです。

 実際、法務省によれば、2017年に不正行為を指摘された受け入れ機関は213団体に及び、(2015年の273、2016年の239からは減少しているとはいうものの)多くの機関が不正行為を行っていると氏は指摘しています。

 この中で最も多いのは、全体の50%を占める労働時間や賃金不払等に係る労働関係法令の違反に関する「不正行為」で、中には「暴行・脅迫・監禁」の事例なども見受けられるということです。

 そして、大量の失踪を発生させている背景には、こうした悪質な受け入れ団体や受け入れ企業の存在があると中村氏は指摘しています。

 問題の多さから2016年に実習制度が改正され、人権侵害行為などに対する罰則の強化や「外国人技能実習機構」の創設による審査や認可の厳格化が行われるようになった。しかし、政府はあくまでも彼らを(一時的な)「実習生」だと言い張っていることに変わりはありません。

 こうした状況を前に、中村氏は「いつまでも言い換えでごまかすのは止めて、外国人労働者制度に統一し、きちんと労働者としての権利擁護を行うべき時期にかかっている」とこの論評で主張しています。

 1980年代末から1990年代の「研修生・実習生」制度を導入した時期とは、日本を取り巻く経済環境は大きく変化している。外国人労働者の受け入れに反対する一方で、海外でも悪評の高いこの実習制度を継続させることは、将来の外国人労働者確保にとって大きな障害になるということです。

 中村氏によれば、今回の政府の外国人労働者の受け入れ緩和の方針を受け、既に中小企業の中には独自に海外の大学や専門学校に日本人と同等の給与や待遇で「正社員」としての求人をかける動きも出てきているということです。

 この際、30年以上も前の制度を「つぎはぎ」して存続させるのではなく、諸外国の制度も参考して外国人労働者の受け入れ制度を確立する時期に来ているとこの論評を結ぶ中村市の指摘を、私も改めて興味深く受け止めました。



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