MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1918 医師会は責任を果たしているのか?

2021年07月28日 | 社会・経済


 新型コロナウイルス感染症への対応が、全世界の、そして日本の最も緊急でしかも最大の政策課題となって、すでに1年半の月日が経とうとしています。この間、パンデミックは第3波、第4波と世界を襲い、ここ日本でも国民の安全と経済の安定の狭間で一進一退の政策調整が行われてきました。

 国内でも、コロナ制圧のゲームチェンジャーと目されるワクチン接種は徐々に軌道に乗りつつあるようですが、変異を続け感染力を増しつつあるウイルスを前に、首都圏や関西圏などではコロナに対応できる病床は未だひっ迫しており、医療崩壊の恐れもまだまだ無くなったわけではありません。

 感染拡大や医療崩壊を防ぐには、国民の行動抑制がどうしても欠かせない。そうした観点から、オリンピックの中止をはじめとした大規模イベントの制限や飲食業界への規制など、歯に衣着せぬ物言いで政府や関連事業者等に厳しい注文を付けてきたのが日本医師会の中川俊男会長です。

 一方、国民皆保険制度のもと、世界でも有数の病床数を誇っていた日本の医療も、今回の新型コロナ感染症はその脆弱性を改めて浮き彫りにしています。

 様々な形でしかも相当高額の支援策が講じられてきているにもかかわらず、日本の地域医療の中心的な機能を担う民間の医療機関は、コロナに対して効果的に機能していないのではないか。こうした批判の声が高まる中、まさに当事者を代表する医師会のトップは、民間の医療機関や医師の責任と貢献をどのように考えているのでしょうか。

 7月19日の日本経済新聞日曜版の「時論」において、同紙編集委員の大林尚氏が(民間医療機関の利益を代表する立場にもある)中川会長への果敢なインタビューを試みているので、参考までにその一部を採録しておきたいと思います。

 東京都では4度目の緊急事態宣言にもかかわらず新規感染者が止まらず病床のひっ迫も収まっていないという現実がある。医療界として「ここまでの対応に何が足りなかったと考えるか?」との質問に対し、中川氏は「医療圏の実情に即し、公立・公的病院か民間病院かを問わず、重症者はどこ、中等症はどこといった機能別の病床確保が必要だ」と話しています。

 感染力が強いウイルスが侵入してくるこれからは(感染症ゾーンと通常医療ゾーンを分ける)ゾーニングを完璧にする必要がある。しかし、(民間の)小規模な病院ではゾーニングをしようにも人的・物理的な限界があるというのが氏の認識です。

 つまり、(これを意地悪く解釈すれば)病院だからと言ってどこでもコロナ患者を受け入れられるというものではない。通常の地域医療を支える医師会としては、これまでどおりコロナ対応は設備の整った大病院に任せたいということでしょう。

 また、受診者の減少に伴う医療機関の経営難の訴えを背景に、全診療科の初診・再診料が引き上げられたことについて、「コロナ対策名目の補助金を含め、コロナとの関連が薄い医療機関にお金が行くのは問題ではないか」との質問に対し、中川氏は「感染対策はコロナ患者を受け入れていない医療機関も同様にしている。」と応じています。

 「(コロナによって)負担が増え、人員配置が必要になっている。コロナ患者を治療する病院が目立つが、後方支援機能を担う民間病院や診療所は発熱外来やワクチン接種でコロナ医療を支えている」というのが氏の主張するところです。

 また、そうは言っても「(全部の医療機関に)まんべんなくお金をつけるのはおかしいのではないか?」との問いに対して、中川氏は「(コロナは)すべての医療機関が面で支えている。重症病床の患者が回復期に入り、退院基準を満たしても(療養機能を担う)病院に行けないことはあったが、かなり改善した。(補助金や医療費の上乗せによって)中小病院の後方支援機能は強化された」と答えています。

 そして、その後に続けた「診療報酬の一定の加算や補助金は過剰ではない。医療費自体が平年よりかなり減っている。小児科と耳鼻科の患者が激減しており、倒産を心配しなければならないところもある」という部分が、中小医療機関や診療所を会員に抱える医師会としての本音の部分なのでしょう。

 そこで、インタビュアーはさらに「受診抑制には「不要不急の医療」があったという仮説が成立しませんか?」と突っ込んでいます。(医療費の多くが自治体持ちとなる)小児科や、(アレルギー性鼻炎や難聴対応などの多い)耳鼻科を中心に、必要性の薄い医療が行われていたのではないかという指摘です。

 中川氏はこれに対し、「受診抑制ではなく受診控えだ。」と返しています。
「少しなら減らしてもいいという受診は(確かに)あったかもしれない。だが、かかりつけ医への受診は健康チェックや病気予防など様々な観点から役に立つ。糖尿病などは受診を控えて症状が重くなったというデータがあるし、がん検診(の受診者の減少)も心配だ。」「受診が過剰だったと結論を出すのは拙速だ。」というのがこのインタビューにおける中川氏の見解です。

 インタビュアーはそこで、「地域医師会を束ねる立場として医療機関の連携へリーダーシップを十分に果たしたとお考えか?」と中川氏に尋ねています。

 中川氏の回答は、「就任当初は民間病院批判も強かったが、実態を明らかにするにつれ頑張っている事実が理解された。」というもの。氏によれば「(最終的に現在では)400床以上の民間病院の8割はコロナ患者を受け入れている。小規模病院は後方支援機能を果たしている」ということです。

 さて、(いずれにしても)今回の新型コロナへの感染拡大によって、日本の医療制度や病院・診療所の機能を問い直す機会が増え、(特にコロナ治療に消極的な開業医が続出したことで)診療所の利害を重くみる日本医師会に厳しい目が注がれたのも事実だと、そのまとめに記事は指摘しています。

 人口あたり病院・病床数が多いのに治療体制の脆弱性があらわになった主因は、重症治療に特化する大学病院などと後方支援を担うべき中小病院との連携不足にある。本来、その連携強化と機能分担を指揮する先頭に立つのが医師会長の役割(であるはず)だというのが記事の訴えるところです。

 確かに、医師会は何のためにある組織なのか。会員からの会費で運営されている以上、その利益を代表する立場で発言し影響力を及ぼすのは当然であり致し方ないとしても、地域医療の維持を人質に社会的責任に目をつぶっていては国民からの信頼を失うことにもなりかねません。

 そうした中、一方で医師会は一致団結し、コロナ治療と直接の関係がない診療所などの収入減を補うため、異例の診療報酬引き上げは(しっかりと)実現させたと記事は言います。

 これなどは、医師会のまさに「政治力」のなせる業と言えはしないか。医師会ばかりでなく、そこに依存し(利害関係の下で)安易に金をつけた政権与党と厚労官僚にも問題があるとこの論考を結ぶ記事の視点を、私も興味深く、そして厳しく深く受け止めたところです。


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