MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯4 アベノミクスの行方

2013年05月30日 | 社会・経済

 先日、三井物産戦略研究所の寺島実郎さんに、直接お話を聞く機会がありました。伺ったのは、アベノミクスの行方についての興味深い概観です。

 現在の日本の株価は、昨年の12月以降、外国の機関投資家による約10兆円の投資に依存して動いているだけで、その間の国内投資家による投資は3.65兆円の売り超しとなっている。つまり、日本人は今回の景気の動きを信用していないというのが現状に対する寺島氏の認識です。
 さらに、外国からの投資は大型流動株に限られており、あくまでマネーゲームとしての「買い」に終始しているだけで、実体経済の持ち直しを反映しているものではない。つまり、現在、市場に流入している資金は、決してアベノミクスが導く日本経済の伸びしろに期待したようなものではないということです。

 そこに「悪魔のシナリオ」があるとすれば、最初のハードルは6月中旬。ヘッジファンドの決算期、利益確定のためのドカンとした売りに、市場がどれだけ持ちこたえられるかというところにあるだろうと氏は予想しています。
 外国人が出て行った荒れ野原に呆然と立ち尽くす日本人投資家の姿は、誰もが見たいものではない。そこで、この10兆円を補完するため、約110兆円に及ぶ年金財源の運用の一部を株に振り向けるという「禁じ手」を示唆する向きもあるが、これは将来に向けあまりにリスクが高い政策論だというのが寺島氏の見解です。

 円安の影響もあり原材料費がこの半年で20%も高騰しているのに対し、中間財はわずかに3.5%、消費財に至っては2.2%しか上がっていないという現実を見ると、国内企業の利益は益々圧縮され労働分配率を上げられるような状況にないことは明らかだと氏は言います。
 実際、3月以降で見ても、日本の可処分所得は0.2%の減、現金給与総額は0.8%の減となっており、所得が伸びていない以上、原材料費の上昇を最終消費財の価格に転嫁することが難しいのはまちがいない。当然、企業は生産コストの圧縮のため雇用を見直すことになり…これでは悪循環以外の何者でもないということです。

 さて、それではこうした環境の中、成長戦略は何を目指すべきなのか。
 まずは、既得権益に踏み込んだ大胆な規制緩和と、マクロエンジニアリングのビジョンを持つことだと寺島さんは改めて指摘しています。
 世の中の仕組み(ソフト)を変えるのだという意思を内外にアピールすることと、ハードとしてインパクトのある国土づくりの方向性を示すこと。端的に言うと、日本の「未来」のあり様を内外に示さなければならない時が来ているということです。

 資金を市場に呼び込む、日本を魅力的な市場にしていくためにも、高齢者や女性の能力をもっと活用し、「いよいよ変るんだ」というダイナミックな空気を国民の間に作っていくこと。政権が変わり、停滞していた物事が動き出す。そうした空気感を内外に強く印象付けることが「成長戦略」のカギになるのかなと、今回、寺島氏のお話を聞いていて改めて感じた次第です。



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