MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1063 認知症の現状

2018年05月10日 | 社会・経済


 1972年、作家の有吉佐和子が発表した「恍惚の人」は、文学作品として日本で初めて「認知症」(当時は「老人性痴呆症」と呼ばれていましたが)の問題を扱い、年間売り上げ194万部の大ベストセラーとなりました。

 高度経済成長下にあった当時、(笑い話のひとつとして)「ボケ老人」などという言葉が口にされることはあっても、世の中に「高齢に伴う痴呆」の症状を深刻に考えるような風潮はほとんど見られませんでした。

 しかし、この作品が発表された翌年には森繁久彌主演で映画化されるなど、その関心の高さから「恍惚の人」は当時の流行語にもなりました。日本では、まさにこの作品がきっかけとなって、痴呆や高齢者の介護問題にスポットが当てられるようになったと言えるでしょう。

 一方、高齢化が急激に進む現在の日本では、この認知症の問題が(地域における介護の問題と併せて)大きくクローズアップされています。

 65歳以上の高齢者の認知症患者数についてみると、平成24(2012)年時点で462 万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15.0%)が認知症と診断されているのに対し、13年後の平成37(2025)年にはこの数が約700 万人となり、5 人に1人が認知症を発症する時代が訪れると推計されています。

 認知症の広がりに関する問題は、日本ばかりでなく、今や全世界で取り組むべき課題となっているとも言えます。

 実際、認知症に関しては根本的な治療方法も未だ見つかっておらず、発症の仕組みすら解明されていない状況です。予防方法も明らかにされていない中、認知症を発症する人々が増えることで膨らむ社会的・経済的コストをどうするのか?

 3月12日の日本経済新聞では「認知症と闘う」と題した特集によって、世界で増える認知症への対応に切り込んでいます。

 記事は、国際アルツハイマー協会の推計に基づき、認知症と診断された人の数が2015年時点で全世界で4680万人とされ、これが2030年には7470万人に、2050年には1億3150万人にまで膨らむと見込んでいます。

 地域別に見ると、日本を含むアジア太平洋地域が最も多く、2015年時点で2290万人であったものが2030年には1.7倍の2850万人に、2050年にはさらに1.7倍の6720万人に及び世界の認知症患者の約半数を占めるに至るということです。

 人数では、北米・中南米からなるアメリカ地域も多く、2015年の940万人から中南米を中心に増え続け、2030年には1580万人、2050年には2990万人と2015年の約3.2倍まで増加する見込みとされています。

 記事によれば、最近の研究で、こうして認知症が急激に増えて行く原因は(どうやら)高齢化だけにあるのではないことが判ってきたということです。同協会では、所得が高い国々に比べ、低所得の国での認知症患者の発症増加が著しいと分析しています。

 国際アルツハイマー病協会の推計では、こうして広がる認知症に対応するため世界で要したコストが既に約8180億ドル(約86兆円)に達していると記事はしています。

 一方、厚生労働省の推計では、日本国内で認知症により要したコストは合計14兆5千億円(2014年)で、(そのうち)医療費は1兆9千億円に過ぎないが、介護費が6兆4千億円(44%)、家族などの負担が6兆2千億円(43%)に及び、福祉財政や家族の家庭生活を圧迫している様子が伺われるということです。

 こうした中にあって、英国やオランダ、ドイツ、スウェーデン、さらには米国などでは、認知症の有病率や発症率が減少しているという報告もあると記事は指摘しています。何が原因かは(現時点では)はっきりしませんが、教育や投薬などの効果が検証されているということです。

 しかしながら、(少なくとも現状では)一旦、認知症になってしまったら、症状を前提として生活の質を上げるための努力を惜しまないくらいしか、その後の人生を快適に暮らす方法が見当たらないのも現実です。

 各国が連携して認知症の原因の解明や治療法の開発を進めることはもちろんですが、(記事も指摘するように)まずはそれぞれの国で認知症の人や患者を支える仕組みづくりが急務になっていると、私も改めて感じるところです。
 



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