MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2541 おかしいことを「おかしい」と言えない組織 ①

2024年02月11日 | 社会・経済

 最近、「思考停止」という言葉をしばしば耳にするようになりました。

 「なぜこんな状況が放置されたのか?」「常識的に考えておかしいと思わなかったのか?」…後になって振り返れば「普通じゃない」状況だったのに、その時組織の中にいた人間は気が付かない。そうした状態は時に(狂気となって)社会全体を覆い、ナチスによるホロコーストや中国の文化大革命などの大きな悲劇を生みだしてきたのでしょう。

 しかし、それは決して遠い「過去のできごと」という訳ではありません。人類は、過去に学ぶことなくこうした過ちを繰り返している。

 昨年の日本でも、東京オリンピックに絡む贈収賄事件や、ジャニーズの性加害問題、ビッグモーター、宝塚歌劇団、日大アメフト部など、企業や組織のコンプライアンスにかかわる不祥事が後を絶ちません。これらもまた、同族村の村人たちが思考停止に陥り、声を上げることができなかったことによるものなのでしょう。

 一般に「思考停止」とは、(文字どおり)考えることを止めてしまう状態のことを指しています。 「ただ惰性的に動いているだけ」「ルーティンをこなしているだけ」など、行動に自らの判断・意思が伴っていない、自分の意思による判断を放棄してしまった状態を「思考停止」と呼ぶようです。

 因みに、この「思考停止」とよく似たものに、「フリーズ(freeze)」とか「茫然自失」とかいった状況もあるようです。茫然自失とは、驚きや悲しみにより自分を見失ってしまった状態のこと。大きなショックで頭が真っ白になり、「何も考えられない」という精神状況は確かにあるような気がします。

 しかし、これは(「考えられない」という自覚がある分)いわゆる「思考停止」とはちょっと違った状況なのかもしれません。「思考停止」は停止している本人にその自覚はない。そしてそれ故に、さらに危険な状態と言えるかもしれません。

 「ルールに従っていればそれでいい」…そうした状況が無自覚に続けば、次第に「ルールを守ること」自体が目的化して、ルールが目指した理念が忘れ去られてしまう場合もあるでしょう。

 しかし、そのルールは常に「最適解」ではありえない。何が「正解」かは、時や場所、状況によって常に変わるものであり、様々な事情に合わせてその都度自分の頭で考え、修正していく必要があるはずです。

 でも、常にそうしたことを考え、判断していくのは面倒だし、結果への責任も伴う。そうなれば答えは簡単で、誰かが決めたルールに従えばいいということになるのでしょう。目的を忘れルールに盲目的に従うほど楽なものはない。そして、そうした意識が(自己防衛的に)思考停止を促しているのかもしれません。

 前置きが少し長くなりました。近年の日本における(こうした)様々な事件や不祥事の多発に関連し、昨年暮れ(12月28日)の「弁護士JPニュース」に、アクアナレッジファクトリ株式会社代表で経営コンサルタントの角渕渉氏へのインタビュー記事(『「世界一不安で不満で不幸」な日本の労働者… 科学も示す「悲しき体質と不正」の “密”な関係』)が掲載されていたので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 思えば昨年は、コンプライアンス違反に起因する企業・組織の悪辣な実態が次々と明るみになった年だった。こうして、一般常識では考えられないような不祥事が起こる元凶はどこにあるのか。

 ジャニー(喜多川)さんという絶対的な権力者が上にいたジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)、ビッグモーターであれば創業一族。ナチスのヒトラーのような(こうした)絶対的な権力者がいる体制下では、人は上から言われたことに対して逆らうことができなくなる。それは言い換えれば「思考停止状態」になるということだと、角渕氏は話しています。

 ハンナ・アーレントというアメリカの政治哲学者が書いた、『エルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについての報告』という一冊。副題に「悪の陳腐さの報告書」とあるように、ユダヤ人600万人大虐殺を指揮したアイヒマンは、実はどこからどうみても悪魔のような人物ではなかったことが記されていると氏は言います。

 そして氏によれば、そんな彼の大きな問題は、“無思想性”だったこと。彼には思想がなかった、つまり、思考停止状態だったということです。

 完全な無思想性…それが彼をあの時代の最大の犯罪者の一人にした素因だった。アイヒマンは思考を停止したただの凡人であり、上から言われたことを(それがどれだけ残虐なものか想像すらせず)思考を停めて言われたようにやっただけだったと氏はしています。

 翻って、ジャニーズ問題に関係した人、ビッグモーターの工場関係者、マスコミ…どの組織、関係者もみんな思考停止の状態だったのではないか。目には見えない大きな圧に抗うことができなかったというのが氏の認識です。

 おかしいとわかってはいても、考えることを自体を放棄している。だからとんでもないことなのに、実行されてしまう組織。どうすれば、そんな組織になることを防げるかと言えば、それは「外からのガバナンス」をかける以外に方法はないと氏は話しています。

 一方、それは逆に言えば、こうした状況を「内側から改善」するのは不可能だということ。例えば、ナチスドイツの場合は連合軍に占領された。ビッグモーターには今、外から大きな力が入っている。ジャニーズの場合はBBCという海外の報道から指摘があり、重いふたが開かれた。外からのガバナンスをかける。こういう組織の場合にはそれが絶対に不可欠だとする角渕氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

(【#2542 おかしいことを「おかしい」と言えない組織 ②】 に続く…)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿