MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2098 昨今のインフレ気配をどう見るか

2022年02月25日 | 社会・経済


 子どもたちに人気な駄菓子の定番「うまい棒」が誕生から実に43年間守り続けてきた10円の定価を12円に値上げすることが発表され(「うまい棒、お前もか…」と)大きな話題を呼びました。1月からはネスレ日本がコーヒーを10%、カルビーはポテトチップスを7~10%、そのほかにも醤油やマヨネーズなどの調味料、カップヌードルなどの値上げも発表されており、日本のインフレもいよいよ現実味を帯びてきた感があります。

 もちろん食料品ばかりでなく、ガソリンや灯油、電気やガスの料金など、暮らしに直結する生活物資・公共料金の価格が軒並み上昇しています。一方で、働き手の賃金はいまだ伸び悩んでおり、家計は大きく圧迫されつつあるようです。

 総務省が発表した2021年12月の消費者物価指数の上昇率は、前年同月比プラス0.8%と大幅な伸びとなり、企業の仕入れ価格でも、日銀の企業物価指数は11月にプラス9.0%と40年ぶりの高い水準を示しています。日銀は、1月18日に発表した「経済・物価情勢の展望」において、今後、「エネルギー価格の上昇による押し上げ寄与は減衰」するとした上で、2022、23年度に関してコア消費者物価は「1%程度の上昇率が続く」と予測しています。

 しかし、足元の原油市況はむしろじりじりと高歩調をたどっており、さらにロシアによるウクライナ侵攻の影響から、これから先、石燃料価格の上昇基調が大きく進む可能性は否定できません。

 現在、日本で進んでいるインフレは、原油価格や食糧などの輸入価格が上昇することで発生する(いわゆる)「コストプッシュ・インフレ」だとされています。「インフレの原因は海外にある」と考えたい気持ちもわからないではありませんが、そこには何やら今回の物価高騰を「人のせい」とでも言いたげな、政治の姿も見え隠れするところです。

 バブル経済の崩壊以降、およそ30年間にも及んできたデフレに慣れきった日本人たちは、世界的に進むインフレの動きに果たして正面から向き合っていけるのか。2月2日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、経済評論家の加谷珪一(かや・けいいち)氏が「現在のインフレを、単なる「コストプッシュ型」と思考停止していては対策を誤る」と題する論考を掲載しているので、今後の参考に小欄に残しておきたいと思います。

 日本でも物価上昇(インフレ)が顕著となりつつあるが、その原因をめぐって早くも議論が混乱している。現在、進んでいるインフレは原油価格や食糧価格が高騰し、輸入物価が上昇することで発生する、いわゆる「コストプッシュ・インフレ」だが、これだけが原因で広範囲に物価が上昇するわけではないと、加谷氏はこの論考の冒頭に綴っています。

 各国はリーマン・ショックに対応するため、大規模な量的緩和策を実施してきた経緯があり、既に市場には大量のマネーが供給されている。量的緩和策という貨幣的要因に1次産品の価格上昇というコスト要因が加わったことで、全世界的にインフレが加速していると解釈したほうが自然だというのが氏の見解です。広範囲なインフレというのは、大抵の場合、コスト要因に貨幣的な要因が加わることで発生しており、これを単なるコスト要因によるものと解釈すると事態を見誤るということです。

 氏によれば、全世界的なインフレと言えば、1973年のオイルショックを契機とした物価上昇が思い浮かぶが、当時のインフレもオイルショックだけが理由というわけではなかったということです。

 産油国による原油価格の大幅な引き上げが直接的な原因だったことは間違いなくいが、現実の社会はそれほど単純ではない。オイルショックの2年前には金とドルの兌換停止、いわゆるニクソン・ショックがあって、(突然の兌換停止で)ドルの価値は激しく減価。ドイツと日本の中央銀行は、金融危機防止の観点から市場に対して大規模な流動性の供給を実施せざるを得ない状況だったと氏は振り返ります。

 日米独のマネーサプライは1971年以降、急増し、市場はジャブジャブのマネーであふれ返っていた。このタイミングで産油国が強引に原油価格を引き上げたことから、インフレが一気に加速したというのが事の真相だということです。

 さて、懸念される今回の物価上昇も、1次産品の値上がりに加え、コロナ後の景気回復期待、新興国の経済成長による需要増、米中分断による調達コストの上昇、量的緩和策など、多くの要因が関係しているとこの論考で氏は話しています。

 インフレが進む時というのは、貨幣要因と複数のコスト要因が絡み合うものであり、単純に上がっている製品の価格を抑制しても十分な効果は得られない。供給に制限があるなかで、無理に需要を拡大するとインフレを加速させるリスクがあり、景気が悪化したからといって安易な財政出動も選択しにくいというのが氏の指摘するところです。

 インフレの厄介なところはまさにこの部分であり、それ故に各国政府はインフレ対策に苦慮してきたと氏は言います。行き場を失った市中のマネーを、(いくつものリスクをかいくぐり)経済の拡大や活性化に向けた投資にうまく誘導することができるのか。各国の経済政策担当者の力量が問われているということでしょう。

 いずれにしても、インフレは(おそらく)やってくる。短期間にどの程度進むか現時点では分からないが、仮に物価上昇が本格化した場合、対応はかなり難しくなると思ったほうがいいだろうとこの論考を結ぶ加谷氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。


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