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一刻塚-(NO-12)

2009-08-15 15:55:09 | 小説・一刻塚
一刻塚-(NO-12)

「そんな馬鹿な、山田刑事も筒井警部補も皆さんも信じているんですか。いまは火星に探査機を飛ばせてクローンで動物でも人でも作れる科学の時代ですよ。
そんな祟りとか死霊とか非現実的な話しはナンセンスです」。若い大谷刑事はあざ笑うかの様に目は笑っていた。

「じゃあ君は夜中でも社に入れるのか。大谷君とか言ったね、どうなんだ」と、筒井は険しい目を向けた。
「ええ、平気です。入れます、そんなのある筈がありませんよ」と、笑いながら背中を向けた。山田刑事は大谷の前に立った。「大谷、強がりは止めておけ」。
「強がりなんかじゃありませんよ、自分が実証してみせます。自分は刑事です、あんな殺しをしたのは人間です。証拠を見せてやります」。
麻代は人の気配に後ろを見ると、いつ来たのか老人が険しい目をして立っていた。
「止めなさい、いま息子が話した事は本当だに。私は我が子が獣に変わるのをこの目で見て来た。悪いことは言わん止めなさい」。
「はい、そこまでおっしゃるなら止めます。でも自分は信じてませんよ」。

「勝手にしろ。大谷刑事、君は必要ないから帰ってくれ、私から署長に連絡しておく」「そんな、自分はただ自分の意見を申し上げただけです」。
「君の意見などどうでもいいんだ、真実はどうかと言う事だ。君は警察官でありながら山田さん一家の言う事を信じずに、今の態度はなんだ。
山田さん一家がさも嘘を言っていると言うのと同じだろ。警察官としては失格だ、そんな刑事に用はない、帰りたまえ」。
筒井の怒った口調に流石の猿渡も口を挟む余地はなかった。大谷刑事はいま気がついた様に肩を落としていた。

「では山田刑事、その社に案内願います」。筒井は気分を変えてそっと告げた。
「分かりました。父さん、鍵を貸して下さい。大谷君は先に署へ戻ってくれ」。
「済みませんでした、失礼します」怪訝そうに額に皺を寄せると出て行った。

同僚である山田刑事は申し訳なさそうにみんなに頭を下げた。
そうか、風変わりな刑事と言うのは大谷刑事の事を言うのかと筒井は勘違いしていた。そして、山田刑事の父親が持って来てくれた大きな鍵を受け取った山田刑事は皆を先にと促す様に外へ出た。

「山田さん、写真とかは撮ってもいいですか」猿渡は首に下げたカメラを見せた。
「はい、特に問題はありませんからどうぞ。猿渡さんは元警察官だったそうですね。今はフリーのジャーナリストだと聞きました、いい記事を書いて下さい」。
警察官?・・・麻代は初耳だった。驚いた様に猿渡を見上げた。
「参ったな、別に隠す積もりはなかったんだけどさ。前は筒井先輩の部下だった」
すると、麻代は数歩飛び出して筒井を見て睨んだ。
「今度は私か、山田刑事にも参ったな。確かに猿渡は警察官だった、それも私と同じキャリア組で出世頭の警視正殿だったんだよ」。
「エ~ッ!警視正って本当ですかッ!」今度は南田刑事が声をあげた。
「ああ本当だ、末恐ろしい程頭のいい奴でな。昇級試験なんか遊んでてもトントン拍子に上がって来やがる。なあ猿渡警視正殿」。

「止して下さい、昔の話です。いまは売れないジャーナリストですから」。そして、雑木林の中の狭い道を三十分ほど歩くと猿渡達は足を止めた。
そこには想像していた社とは掛け離れた大きな社が現れたのだった。

「山田さん、これが社ですか。神社と違うんですか」と、猿渡はカメラを構えた。
「ええ。これが一時塚を供養する為に建立された社です。四百年もつづいた社です。社の中央に相撲の土俵位の塚があります。開けますよ」。
と、階段の手前で足を止めると両手を揃え、一例すると階段を上がった。
その仕草を見た猿渡達も同じように合掌すると一例し、後につづいた。猿渡は麻代を連れて回廊を回って戻った。
すると、鍵が外されているにも拘わらず、扉を開ける事もなく筒井達は猿渡を見ていた。中で何かあった事はその様子で見て取れた。
そっと前に出ると格子から中を覗いた、中は薄暗く、周りの格子から差し込む光りに次第に目が慣れた。
そして、見えたのは山田刑事が言う様に相撲の土俵程もある、こん盛りとした塚だった。そして右に視線を向けた。唖然と格子から離れた。

「先輩、あれはもしかしたら?・・・」その言葉に麻代は格子に近付いた。
キャッ!・・・麻代は真っ青になって猿渡の胸に抱き着いた。
NO-12-22



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