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20XX年・クエスチャン (-7-)

2010-05-28 03:27:44 | 20XX年・クエスチョン
20XX年・クエスチャン (-7-)

階段をそっと降りた。調査員が目にした物は・・・それはこの家の親族縁者だろう。
灼熱から逃れようと地下室に避難したのか。総勢35体ものミイラ化した骸であった。その中に母親だろう、いたいけな幼い子供を胸に抱いたままだった。
母子を見た二人は顔を見合わせ、涙しながら地下室を飛び出した。
隊員は本部に無線を入れ、状況を報告した。

その遺体はそのまま火葬にすべし。二人は車両からガソリンを抜き、家に火を放った。両手を合わせて、燃え尽きるまで見守っていた。
そして、調査結果が集約された。被害地は全滅において草木一本ネズミ一匹たりとも生存の可能背は無い。こう発表された。
一月後の三月。異常な気候は消滅したものの、妙な気候を残して去った。
日本列島の気候は豹変し、亜熱帯特有のじめじめした温暖な気候に包まれたのである。
列島を白一色に包み、あれ程積もっていた雪を、五メ-トルもの氷雪を僅か一週間で跡形も無く解かした。

桜の花は蕾も持たないまま春を通り越して葉桜となり、気候は真夏と化した。
幸いにも急な雪解けでの水害の被害も無かった。海水は温み、三月だと言うのに真夏の様な天候を迎えたのだ。

この異様な現象は日本だけではなかった。世界規模で気候が崩壊していた。 
秋を迎える筈の国々は秋を通り越し、一挙に極寒の寒さに襲われていた。
収穫を迎えた果物は木に実ったまま凍り、田畑の農作物は土壌ごと凍り始めた。
冬を迎えた国は例年より一際寒さが厳しく、今まで渡来した事の無い程の大寒波が襲った。貧困の家庭では暖の用意も儘ならず、体を寄せ合って凍えている。
春を迎えた国では夏の様に熱帯夜を迎え、地球が狂い出していた。

著作名霧島明こと佐伯晃は、三月半ばの締切りの原稿を七日あまり残して書き上げようとしていた。こんな日がいつまでも続く筈がないと、未だコタツを片付ける事はなかった。室内はエアコンがフル稼働し、サイドボードのシンピジウムが萎れ掛けている。
フ~ッ、やっと書き上げった・・・しかし暑い。
書き終えた「ザ・グレイス・オブ・ゴット」の原稿は450ページ。学者として、またSFを加えた「神の加護」と題した小説であった。    
その小説の中には四年前の学会で発表した論文に更なる研究の成果を加え、より真実身を帯びた小説が書き上がっていた。
早速出版社へ連絡を取った。すると、取りに行くという。その返事を断り、梱包して宅配便を呼んで送った。

そして数日間はペンの代わりに釣り竿を手に、用宗港で好きな海釣りを楽しんで居た。キャアキャア笑う甲高い声、何気なく岸壁を見た。
若い夫婦が幼稚園くらいだろうか、可愛い女の子を連れて子アジ釣りを楽しんでいる。
自然と頬が緩む。
不図、もしあの日が無かったら自分にもあんな子が生まれて居たんじゃなだろうか。
もう何年も忘れて居た一人の女性の顔が脳裏を過ぎる。              
と、言うより忘れようとしていた。彼女は賢明に引き止めたにも関わらず、自分勝手に研究室を飛び出した。そして逃避したのだ。現実から逃げ出したのだ。 
今更どの顔して連絡出来ると言うのだ。思いを抱いて道具を片付けると帰宅した。

4月、亜熱帯特有の湿々と湿気を含んだ蒸し暑い日々が連日続いて居る。
TVニュースでは、正月に始まった異常気象の話題は徐々に少なくなり、今はこの暑さが連日話題になっている。
今日は熱射病で何人倒れた、赤痢やOー157の伝染病で何人の人が亡くなった。そんなニュースばかりであった。
違うだろ、人は喉元過ぎれば暑さ忘れるって言うが、そんな事より今この地球がどうなってるのか教えなきゃならないだろ。
神宮寺勝彦は二月のTVでああ言ったが、少しは動いているのかッ。佐伯はTVのスイッチを切るとリモコンを投げた。ガヂャッ、ゴロゴロゴロ~ッ・・・ 蓋が外れて電池が床に転がって居る。相当苛ついていた。

学会を離れた佐伯には何も出来ない、その悔しさがより苛立たせていた。   
止めた止めたッ、ポイッとペンを置くと腰を上げた。納戸から釣り道具を出して部屋を出た。ムッとする暑さに空を仰いだ、咄嗟に目を細める。ギラギラと太陽の陽射しが容赦なく照らしていた。部屋に戻り、鍔の広い帽子を被ると出掛けた。

太陽は真上、道路には陽炎が立ち上ぼり、歩道を歩く婦人は日傘を持ち、ハンケチで汗を拭いながら歩いている。何処を見ても歩く者は疎らだった。
時計の針は午後3時を5分程過ぎていた。海まで20分、3時半には港に着いた。
釣り人など居よう筈が無かった。NO-7-14

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