検診難民：3

Ｚ医院の検査結果を持って、Ｓ医院のVIPへ行った。

ここは杭州一レベルの高い病院と言われているだけあって、VIPの予約電話もなかなかつながらず、相方が何度も電話をかけてくれて、ようやく取れたのだ。
Ｓ医院はちょうど私の家からは町の反対側になる上、渋滞する町の中心部を通過しなければならないため、タクシーで30元以上、片道45分もかかってしまう。

ただでさえつわりで一日中船酔い状態の身体に、タクシーでの移動がこたえたのか、病院の入口ですでにふらふらで、倒れそうな私…。
相方にひきずられるようにして、人でごったがえすロビーを抜けてVIPの窓口へ。

午後の診察の一番めで、少し早めに来たので最初は閑散としていたのだが、診察時間が近くなると次々と患者がやってきて、待合室はあっという間に満員になってしまった。

産科なので、みんな妊娠6ヶ月以上の妊婦さんとその付き添い家族である。
一番目といっても看護婦さんが名前を呼んでくれるわけでもなく、銀行のように整理券があるわけでもないので、早い者順ということらしい。
一般の方では診察を待つ患者が診察室までなだれ込んできて、スキあれば割り込もうとするので、まるでバーゲンセールのワゴンに群がるおばちゃんのように押し合いへし合い、しなければならないのだが、
さすがVIPの方は、診察室には一人ずつしか入れないようになっていた。

そのうちお医者さんが来て一番に診てもらったのだが、
先生ははじめっから：
「なんで病院に来たの？社区衛生保健所に行きなさい。」の一点張り。
それはわかっているけど、外国人なんだから病院で検査してもらいたい、と言っても
「妊娠6ヶ月までは社区衛生保健所に行くのが中国の規則です。貴方の会社の従業員だってうちで大勢出産しているけど、こんな初期に来るなんて聞いたことがない。」とガンとして譲らない。

Ｚ医院での検査結果を見せて、産科でしかできない検査もあるそうなのでこちらでお願いできないかと言っても、結果をちらっと見ただけで、
「6週間なのにもうエコーを撮ったの？今は尿検査だけで十分よ。」と言われてしまう。

中国と関わって10数年、杭州生活6年。
いつもなら医者のこんな態度も、「あ～もう、中国だからしょうがない。」と思って気にしないことに慣れてしまっているのだが、

つわりで弱って座っているのもやっとの私の方を見ようともせず、話をちゃんと聞いてもくれない医者の態度に、
怒りを通り越して呆れてしまった。

「3×歳で初めての妊娠なら、帝王切開ね。」と勝手に決め付けてカルテに書いてしまうし、
一応内診をするからと相方を外に出して2人きりになったときなんか、
「日本人ねぇ。私の娘も日本に留学したいとか言ってたけど、そんな必要ないでしょ。やめさせたのよ。」とこっちが聞きたくもない話をされて、

「わざわざ高い診察料を払ってきた患者に、そんな態度を取るなら金返せよ！！」

と怒鳴りたくなるのをこらえるので精一杯だった...。

相方はそれでも私のためを思って、先生に
「社区に行く必要があるなら、一度行って話をしてきます。ただ定期検査はやっぱり病院で受けさせてほしい。お願いします。」と頼んでくれた。
先生は「…どうしても、って言うならうちに来てもいいけど、その代わり毎回電話で予約とって、VIPの診療費払って下さいよ。」「本当は病院には6ヶ月まで来る必要なんてないのよ。」…と明らかに迷惑顔。

初期の検査の通院なんて、病院からすればきっと大して儲からないから来てほしくないのがホンネなんだろう、きっと。

診察が終わってからも、尿検査の結果が出るまで1時間半も廊下で待たされて、すっかり参ってしまった。
来ている患者も患者で、付き添いの家族や親戚がソファーを占領して、うるさくくっちゃべっている横で、何人もの患者が座ることもできず、立ったまま待たされているのだ。

それを注意しない、そして検査結果が出ても知らせてもくれない看護婦の態度も最悪！！。
受付の予約電話がどんどん鳴る音が聞こえるのだが、看護婦はその度に無表情で受話器をちょっと上げ、すぐに切ってしまうのを目撃！

…道理で、相方が何度電話しても、つながらなかったワケだと納得。

設備は「VIP」かも知れないが、
医者も看護婦も患者もおよそ「VIP」とはほど遠かったＳ医院。
こんな「VIP」なのに、診療費はＺ医院の3倍近くするのだ。

中国の病院になんか、何も期待しちゃいけない。
それはよくわかっていたつもりだったけど、つわりで心身ともに弱り果てているときに、どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

なまじＺ医院で親切にしてもらっただけに、情けなくて、くやしくて、
もう帰りのタクシーでは言葉も出なかったのだった…。（続く）