ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「日本の中のはまだの美術」第3回ナビ 正田レポート到着です!!

2014-08-23 09:47:44 | 対話型鑑賞
「日本の中のはまだの美術」第3回ナビ 正田レポート到着です!!


7月12日(土)みるみる定例鑑賞会              レポート 正田 裕子
会場 浜田市世界こども美術館 「日本の中のはまだの美術~感動とともに生きた人々~」
参加者:成人男女⒛数名
   ・この展覧会等で定例鑑賞会経験有りの方4名、
   ・猪熊弦一郎美術館学芸員2名
   ・石正美術館学芸委員1名を含む)

鑑賞作品1「雪の藁小屋」1962年 千金貫事(ちがねかんじ)浜田市立こども美術館蔵
2「城山のもみじ」1933年 中尾彰(なかおしょう)浜田市立松原小学校蔵
3「阿寒湖畔の樹」1960年 寺戸恒晴(てらどつねはる)浜田市立三隅小学校蔵

「シークエンスの意図」
 三作品とも「樹」を描いた作品であること、描かれている状況も描かれ方もそれぞれ異なる三つの作品を抽象度が増すように選定しました。3人ともそれぞれ石見地方の出身で、明快な色、伸びやかな筆遣いが特徴的です。
 千金氏はプロレタリア美術から転向し大地に生きる農民の姿を描き続けた作家です。この作品も雪深い山の中での農民の生活の一部である藁小屋を油彩で描き、春を予感させる明るい日差しを受けた小屋やその後ろにある木々を丁寧に描き、春の新しい農家の営みを想起させるかのようです。
 また、中尾氏の作品は、浜田の城山の中腹の山道にせり出す木々を伸びやかに描いています。小品でありながらも、フォービズムの影響を受け不安定な構図の中にも伸びやかで力強い軽快な筆致が楽しめます。自己の芸術を模索しますます精力的に作画していく頃の作品です。
 三つの目の寺戸氏の作品は、一見、人か動物とも思える複雑な枝振りの木々が四本描かれています。幹も枝も暗い灰色や濃紺とともに雪を感じる白色やライトグレイが執拗に重ねられ、この作品への思いの強さを感じます。作者の人間性や生き方が垣間見えるようです。

「鑑賞会の流れ」
 一作品目から、返しのテンポが丁寧すぎて、なかなか作品の主題へ(とナビが思っている)到着できなかったのです。その中でも鑑賞者の積極的な発言が多く有りました。
発言より
・明るい日差しから初春を思わせる季節である。
・描かれている小屋から、農家の生活の一隅であること。
・背景の雪山や木々の様子から、かなり雪深い生活を営んでいる農家の暮らしぶりを描いている。
・木々にのっている雪が溶けて、春を感じさせる。木々の枝振りより、伸びやかな新しい季節への期待を感じさせる。  
 など。ここまでで20分程度かかってしまいました。
 二作品目は、構図上の不安定さが話題になりながらも、地元の作家であることが分かっている鑑賞者の関心事として、「描かれて場所がどこなのか」ということが随分話題になりました。そこでは制作年代等の情報から描かれている場所を確定して、描かれている木々への話題を中心にもっていけるように、「そこからどのようなことを考えられるのか」とナビゲートしていく必要があったのだと思いました。場所と描き方や色使いの気づきはたくさんありましたが、そこから何が感じられるのか、推測できるか、もっと鑑賞者の鑑賞力が深まるナビゲートの引き出しを多く持てるようにしたいと思いました。
 三作品目の作品は、このシークエンスの中で最も鑑賞者の皆さんに、発言をしていただきたかった作品でした。初発より、「仏様のような姿に見えるものが描かれている」と言う発言がありました。これで、どんな風に話が展開していくのだろうかと思いつつ、まるで擬人化されているかのような木々の姿に、ナビゲーターとして「きたきた」とのっかってしまい、他の方の発言を聴くことができていなかったことに振り返りで気づきました。ここでも、対話型鑑賞の基本の問いかけ「作品のどこからそう思いましたか。」という根拠の確認であったり「もっと発言は有りませんか」「そこからどう考えますか」と鑑賞者のトピックをつなげる役目が弱かったと反省です。
 この作者のシベリア抑留の体験についての情報提供をしたり、発言のほとんど無かった方へ発言してもらうように促すことはできたものの、もっと前半より積極的に働きかけても良かったと気づきました。
「発言より」
・画面中央の四つのかたまりの内左から二番目のものが、仏様のように見える。それは、描かれている形が、腕を組んでいるように見えるから。
・画面中央の最も左が鹿に見える。描かれている形から。
・画面右側の二つが、親子に見える。高さの違いと、高い方が低い方を抱きかかえるようなポーズをとっているようだ。
作品題名「阿寒湖の樹」を確認した人から
・色から寒さが感じられる。
・画面中央奥から道が描かれていて、湖の端が描かれているよう。
・画面左上の部分に作家の特徴的な碧色が使われているから、寒さは感じるけれど極寒の寒さではない。
作者がシベリア抑留体験者であることを聞いた後から
・「シベリア抑留」を体験した人であるなら、余計に味わい深い。
・寒さが、身に凍みる作品である。  など
「振り返って」
 3作品を連続して見ていく中で、3作品目の「阿寒湖の樹」を皆さんと最もじっくり見たいと考えていましたが、前2作品に時間をかけすぎてしまい、時間をかけた割に3作品目の主題を十分話し合うことができなかったのかなと思います。そのためには、鑑賞者の発言が「事実」を言っているのか、「印象」「推測」等の「思考」を発言しているのか、見極め、端的に返せる力をつけていく必要があるのだと実感しました。もちろん、ナビする側も鑑賞者も興味関心が異なり、話ぐせ・聞きぐせはあるのですが、発言の内容の意図をしっかり聴き、発言していただいたことをつなぐことこそが自分自身のクリアしていく課題だと感じました。また、その発言をつないであらたな考えを築いていくのがこの鑑賞の醍醐味なので、貴重な鑑賞者の発言と発言をつなげていく引き出し(経験)をもっと身につけていきたいと思います。この一期一会の出会いに応えられるように、ナビ力をまだまだ磨いていきたいです。
 ご参加いただきました皆様には本当に心よりお礼申し上げます。
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