ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

オンライン鑑賞会をVTSJ同窓会メンバー+有志で開催しました

2021-08-29 11:42:14 | 対話型鑑賞


台風の中でしたが、オンラインなので不安なく開催できました。島根、山口のメンバーを中心に米子からも初参加の方もいらっしゃって、楽しいひと時となりました。

2021.8.9 19:00~
オンライン鑑賞会(みるみるの会+VTSJメンバー+有志)16名
鑑賞作品:ゴッホ「靴」
ファシリテーター:春日美由紀・房野伸枝
レポーター:春日美由紀

 コロナ禍にあって、リアルで対話型鑑賞を開催するのは困難である。そこで、本会(みるみる会)もオンラインでの鑑賞会を開催している。今回は、我が会だけでは鑑賞メンバーが集まらないので、VTSJ(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ・イン・ジャパン)のメンバーと私たちの会の活動に興味を持ってくださった方々が集まり、台風の中ではあったが、オンラインで開催した。
 参加者が10名を超えたのでブレイクアウトルームを作成し、2ルームで同じ作品を鑑賞することにした。
 ファシリテーターは私(春日)とみるみるの会のメンバーの房野さん。
 当日の私のルームでの様子をレポートしたい。

▼春日のルームでの対話型鑑賞
対話の流れ(アルファベットは参加者の発言 ※はファシリテーター)
A)靴がある。しばらく放置されたような靴。
A)向かって左側の靴の上部が折れ曲がっていて、硬い感じ。固まっているようにみえることから。
※)どのくらい放置されていると思うか?
A)難しい
※)1~2日くらい?
A)もっと長い
B)愛着のある靴かな?向かって左側の靴はあえて折っている。折れているところはボロいけど、つま先は艶が
ある
※)つま先の艶とは?
B)つま先の白いところ。光ってみえる。大切にしている。
※)ケアしている。メンテナンスしている。大切に使っていることが分かる。
C)逆で、メンテナンスされていない。向かって右の靴のつま先のところは「パカッ」と口が空いているよう。ちゃんと直せていない。と言うか、直せない。
※)直せない?
C)直したくても、直すお金がない。
※)どこからそう考える?
C)こんなにボロボロになるまで履いている。履かなきゃいけないのは、お金が無くて新しいのを買えない。
※)他にも履きこんでいる、くたびれている、と感じるところはあるか?
C)向かって左側の折れ曲がったところの内側の布が剝がれている。長く履きこんだ証拠。
※)お金がない。新しい靴が買えない。
D)靴ひもがヨレヨレ
※)紐のどの部分?
D)向かって右、ヨレヨレヨレ~~~。クルリンとなっているのは何でなんだろう?
※)靴ひもの形状からも長年使いこんだ感じがする
E)靴ひもに気を取られている。泥水かなんかついてカピカピ。枝が水分を失ったような感じ。断面が枝っぽい。
先端は触覚みたい。枯れた感じがする。
※)枯れ枝のように靴ひもがみえる。水分がない感じ。そこからも経年劣化を感じる。
※)向かって右側に靴が話題になっているので、右の靴をみていこう。
F)スニーカーかと思っていたけど、木があるようにみえるので、かかとのある靴?左側の靴も左足にみえる。
※)右?木がある?
F)ヒール?スニーカーじゃなくて革靴
※)かかとのある革靴。1対の靴ではなくて、左側の靴が並べられている?新しい意見が出てきた。
G)ヒールがある靴。安全靴(つま先に金属板の入っている)。労働する人、肉体労働者が履くような靴。くたびれているのも納得。
※)かかとの発言から安全靴。労働者の履く靴という意見が出てきた。他には?
H)ヒールがありそう。不思議なのは接地部分に光がさしている。ヒールの底が削れて浮いている?そこからも
使い込まれた感じがする。
※)かかとがすり減って、真っ平じゃないから、光が差し込んでいる。
※)使い込まれている。長く履かれている。古い。経年。ハードワークされた靴。
※)向かって左の靴もみてみよう。折れ曲がって内側の布が剥がれているという意見が出ていた。
I)左右の古さ。経年。左右?左と左にみえる。
※)どこから?
I)ひもを通す穴の数が違う。通し方も違う。違和感がある。物としては古い。左の靴が人みたいにみえて、折れ曲がった部分が隣の靴に肩寄せているようにみえる。
※)なんで、肩寄せているようにみえる?何を言わんとしている?
I)違う人が履いていたもので、思い出?
※)左右が別々の人の靴で、左の靴が右に寄りそう、慕う、労うようにみえる?
I)肩を組んでいるようにみえる。
※)別々の靴説2人。
J)靴ひもの通し方が違う。左側のL字型の紐が右にピトって、くっつこうとしているけど、右は「フン」としている。
 コミュニケーションとしては、目が合わない。左が「好き」右が「嫌い」と言っているよう
※)ラブロマンスの話が出てきた。でも、冷たい素振り
J)靴ひもを通す穴が目にみえる。靴ひもは髭。別の方をみている。左は目はみえない。うつむいていて。
※)髭ということは右は男?左は女?
J)左も女性にはみえない。靴が男物だから。
※)男物の靴だから男女差は感じない。女性感はないということ。
※)靴なのに擬人化して考えている。2足、両方みて考えられること。関係性など、どうか?
K)描かれているタッチがゴッホっぽい。人のようにみえてきて、男性同士。尊敬する作家との関係?
※)ゴッホっぽいのはどこから?
K)ハイライトの付け方、画面の左隅のタッチから
※)男性同士の好き嫌い?
K)好きな作家に振られる
※)ゴッホの人生にも照らし合わせて考えてくれた
L)お互い思い合っている。先輩後輩の間柄。右が新人、左が先輩。左がいたわっている。まあまあ落ち着きなさい。そんなにトンガってないで・・・。
※)周りの様子と関連付けながら、靴の話をしてくれた
M)靴を人に見立て、なかなか面白い。そんなにストーリー性があるかなあ・・・。靴は靴として描いている。場所が気になっていて。日本の玄関のようなところではない。作業員が仕事を終えて、作業場の倉庫のようなところにポンと置いた。
※)作業場のようなところ?
M)影と光がはっきりしている。倉庫の隅。でも、根拠はない。判断する材料はない。
※)明るいところ、暗いところ?
M)右から光がさしている。上は暗い。少し奥行きがあって奥は壁になっている
※)その他、周りの様子についても
N)光源の位置、靴のかかとの光から、光は右から。背景の影(陰)は画家が勝手に作った。下3/4はリアルで、上1/4は靴を目立たせるための背景、意図的に描かれた背景
O)靴より後ろの背景は自然光、人が住んでいる気配がない、屋内で自然光、屋根に穴が開いている?昔誰かが住んでいて、たまたま靴が転がっていて、それを並べて描いた
※)画面には靴しかない、靴の関係性について考えた。

振り返り
・同じ作品を何度も繰り返してみることの意味。片方ずつの靴であることに気づけた。考えがスパイラル・アップ、みえ方が広がる感覚、行って戻って、行って戻って、そんな体験をした。
・靴。ただの靴。これで40分も鑑賞できるのか?と、最初は思ったけれど、皆さんの話を聴いていると、絵が膨らんでくる、みればみるほど豊かになっていく。
・1足の靴なのか別々の靴なのかと問われたときに、無茶苦茶みた。セットだったら?と考えて根拠を探した。
・こんな作品、まじまじ、じっくりとみることはできない。でも、みんなと一緒だったからみることができた。
・靴が別々という視点がなかった。一人でみたら絶対気づけない。
・「それをみて、どう思いましたか?」と、問われることで、よりよくみて、考えることができた。

ファシリテーターの振り返り
 8月7~8日に山口市のYCAMでナビゲーターキャンプの講座があり、それを受講している方が多く参加されたので、その学びが実践につながるように心がけた。情報は出さないことにして、詳細な観察からのディスクリプションができるように丁寧な進行を行った。初参加の方もおられたので、発言のしやすさや雰囲気づくり(これはオンラインだとなかなか難しい)、初参加の方の挙手を見逃さないようにし、全員が発言するよう促した。今回は、靴の持ち主ではなく、靴自体を擬人化した発言が出て、初めての展開だった。その解釈も靴の使われ方とリンクするようなもので興味深かった。
コメント
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