ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

三ケ島中学校で対話型鑑賞を行いました

2020-03-15 23:11:00 | 対話型鑑賞

対話型鑑賞会を終えて 2020年2月7日(金)実施
 ナビゲーター 春日美由紀
 鑑賞作品「立てる像」松本竣介

埼玉県所沢市立三ケ島中学校で沼田校長先生のご厚意により、対話型鑑賞会を行わせていただきました。そのレポートです。

1振り返りから(数字は人数:AVは評価の平均値)
評価 4 3 2 1 AV 評価言
A 21 6 0 0 3.8 しっかり絵をみることができた
B 19 7 1 0 3.7 絵を見てしっかり考えることができた
C 11 4 9 3 2.9 自分の意見を言うことができた
D 15 12 0 0 3.6 友だちの意見をしっかり聞くことができた
E 11 10 4 2 3.1 友だちの意見を聞いて、自分の考えをより深めることができた
F 13 10 4 0 3.3 今までの鑑賞と今日の鑑賞は違っていた

2みんなの記述から
 「右手と左手の握られ方の違いと、彼の表情から考えられることは何ですか?」
1★戦争で焼けてなくなってしまった自分の家や、前によく使っていた場所、住んでいた地域がなくなってしまったのを思い出を思い出しながら見ている。前に見ていた景色がもう見られないという悔しい思いと、悔しいという感情がありながらも、今まで住んでいた場所が全てなくなってしまった寂しい気持ちにもなってきて、一度拳をにぎったが寂しい気持ちが勝って右手をゆるめた。
2★この人は、自分の家を見ていると思う。左手は悲しみで脱力し、右手は、少し怒りが入っている手だと思う。自分の家がなくなってしまい、悲しみが湧き上がってくると共に、呆然としている状況だと思う。また、家族もいなくなり、心配も入っていると思う。
3★表情が暗くとても疲れているようにみえる。
遠くを見つめていて、見える先には荒れ果てている風景が広がっていると思う。
荒れ果てた場所を見て絶望している。だから右手に力が入っていない。制服のようなものを着ていて、故郷に帰ってきた感じ。故郷が荒らされてしまって怒っている。だから左手に少し力が入っている。
4★この絵の中心に立っている青年は、日本の未来を見ているのだと思った。これは、青年の複雑な表情や複雑な手の握り方(一方の手はだらんとしていて、もう一方は強く握りしめている)から感じ取った。
前述には「未来が見えている」と書いたが、実際には戦争によって「無」の焼け野原となった日本の、これから歩んでいく道を想像しているのだと思った。そこから青年は、これからに期待を抱くと共に、これからの日本がどのようになってしまうのか、という大きな不安を抱いているのではないかと考えた。このような複雑な表情から、この青年は、日本の未来に対して、期待と不安を抱きながら想像しているのだと考える。
5★左手の力が入っている原因は、自分が守るものを守れなかった怒りだと思う。
右手の力が抜けているのは、あまりにも残酷な光景だったので思わず気が抜けてしまったと思う。
この人は、故郷の親の家を見ていると思う。おそらくこの人は本来戦争に行くつもりが、何かしらの理由で行けず、帰郷しようと思っていたと思う。
別の説としては、この日はこの人の誕生日で、楽しみに帰ったら、家が火事になっていて、右手の力は抜けてしまったものの、家の中にいる家族を助けなければという使命感から左手に力が入っているのではと思った。
6★男の子がみているのは、町であり、戦争によって前までにぎやかだった町が静かな町になってしまっている町をみている。それを見てとても悲しい気持ちになっている。それが右手の握り方で、左手の握り方は戦争に対しての怒りが左手の握り方になっているのだと思う。
7★この男の人は同じくらいの年の人が戦争に行く船を見ているのだと思った。左手を強く握っているのは、利き手だったからか、右手に力が入らないかだと思う。
自分だけ戦争に行けない罪悪感から手に力が入ったのだと思った。男の人は18歳くらいで、学ランを着ているのだと思った。サンダルのような靴は、ふつうの靴がこわれてああいう風になったのかもしれない。
8★自分の家があったところを見ている。
強くにぎっているのは、なにもできない悔しさ、戦争、自分への怒りをあらわしていて、弱くにぎっているのは、家などを戦争で失い、絶望しているところを表していると思う。

授業者から(春日から生徒たちへ)
 この作品は私のとても好きな作品で、中学3年生にはぜひ鑑賞してほしい作品のひとつです。今回三ケ島中学校の3年4組の皆さんと鑑賞会ができるときいて、何を置いてもこの作品で鑑賞会を行いたいと思いました。
 この作品の作者は松本竣介(まつもとしゅんすけ)といいます。画題は「立てる像」です。画家の自画像と言われています。1942年に発表されました。
松本竣介は元の名は佐藤俊介といい、松本家に養子に入り、俊介も竣介と改め、松本竣介と名乗るようになりました。
 鑑賞会の中でも少し触れましたが、彼は高校入学時に脳脊髄膜炎を患い聴覚を失っています。1932年ごろに郷里の岩手で徴兵検査を受けましたが、耳が聞こえないことを理由に徴兵免除となっています。
 空襲が激しくなってきた時にも、家族は松本家の故郷の島根県松江市に疎開しますが、竣介は東京に残り、わずかな画材で作品を制作し続けました。空襲にも遭いますが、自宅はかろうじて戦火を逃れています。
 皆さんが、鑑賞会で、この作品から「戦争」や「空襲」を感じ取ったのは、この作品のもつ「力」だと思います。また、彼がみている景色は「焼野原」だと思われますが、その景色の先に「4★」さんが考えたように「未来」をみていたのかも知れません。
私は、焼野原を見渡しながら、深い悲しみの中にあっても、戦争に負けず、平和を願い、未来に希望を持って生きて行こうと思っている青年の姿にみえます。それは、義務教育を終えて巣立っていく中学3年生の姿と重なるところがあるかなと思うので、中学3年生を担当したときには必ず鑑賞することにしています。

3朝鑑賞との違いについて
9★男の人の見ている景色や拳の意味、気持ちなどを、今までよりも1つの作品を長く鑑賞した為、いつもより深く考えることができたと思う。
その点が、いつもの朝鑑賞に比べて少し違ったと思いました。
10★普段の朝鑑賞とは違って絵から見えたことについて詳しく細かく考えて、想像して展開されていったと思う。
見えたこと、読み取ったことについて深く掘り下げていっていて自分や他人がどう感じたかをよく考えられたかなと思う。
普段の朝鑑賞より深く絵を色んな所から見て、考えるということをしていたと思う。
11★1つの意見から色々な言葉やその意見を細かくしていくところや、次の質問に繋げるのが上手だった。
朝鑑賞は時間が少なくて意見がそんな言えないけど、今日の授業は、時間が長くて意見が多く言えた。
12★違いが大きいのは鑑賞の態度だと感じた。今までの鑑賞では他の人がしゃべっていてうるさかったが、今日の鑑賞はうるさくせずにまじめで、自分の意見を言っていた場面が今までより多かった。
13★いつもは10分だから35分は長いと感じた。
14★深いところをしっかりとほりさげてきくことで人によってのとらえ方の違いや、また、とても静かに意見を述べていて、「し~ん」となることが初めてでびっくりした。やっぱり何か引き出すものがあるのだろうかと思った。また、久しぶりに「おもしろい」と感じた。また、いつもの絵とほぼ一緒なのにいろいろな見方が他の絵よりも出てくることが違いの一番だと思った。
15★いつもの鑑賞なら見て自分の思ったことを言うだけだったのですが今回はみんな意見を出し合ってお互いに発表しあう部分があってすごく良かったと思いました。
16★時間を長く取ったら、詳しく読み取れた。
17★どういうところからそう感じたのかについて今日ほど深く考えたことがなかった。
18★あまり大きな違いは感じませんでした。ですが、朝鑑賞では挙手制ではなく自分の発言したいときに発言する形だったので挙手制は新鮮でした。また、挙手制なことで周りの人が余計に話さないので発言する人の意見だけをしっかり聞くことができたことに違いを感じました。
19★いつもよりどんどん深くまで考えられた。
20★違いはあったと思います。自分から「ここはこうだ」と決めつけて質問されることがなく、色々なことを考えさせてくれる鑑賞でした。いつもは絵に興味がないと発言することはなかったのですが、今回は質問について真剣に考えることができました。
21★いつもの鑑賞はみんな似た意見が多かったり、一定の人が発言をしていたけど、今日の鑑賞は色々な人が意見を出していて、いつもよりも質問の内容が深かった気がした。だから、違いは少し大きいと思う。
22★いつものように絵を見て、自分の考えを発表する時間ではあったが、今回は周りの人との意見を共有するのではなかったので、朝鑑賞と同じかと思っていましたが、似て非なる物だと思いました。
23★いつもより詳しくしていて、様々なところからの見方がでてきてとても面白かった。
雰囲気もとても違い、自分の考えと、他の人の考えのちがいも考えられ、先生もいろいろ聞いてくれ、とてもやりやすかった。

授業者から
 皆さんが感じた大きな違いは「時間」でした。いつもは朝鑑賞なので10分ですが、今日は50分の授業時間の中で鑑賞したので「13★」さんのように35分を長く感じた人もいたようです。しかし、「長い」からこそ、「深く考えることができた。」と考える人も多かったです。
 また、「挙手制」だったことについても、「いつもと違う」と感じた「18★」さんのような人もいました。一方、「挙手制」だからこそ、発言者の発言に皆が耳を傾けて聴くことができたようで、「18★」さんのように「周りの人が余計に話さないので発言する人の意見だけをしっかり聞くことができた」や「12★」さんの「今までの鑑賞では他の人がしゃべっていてうるさかったが、今日の鑑賞はうるさくせずにまじめで、自分の意見を言っていた場面が今までより多かった。」と感じた人もいました。
 私はいつも美術の授業時間に対話型鑑賞をするので「長い時間」が普段です。ですから、長い時間で皆さんの考えを引き出す質問や声掛けができます。その質問に対して真剣に考えてくれた皆さんに感動しました。

4今日の授業の感想
24★今日の鑑賞で、自分の意見と他の人の意見との違いがあってとてもおもしろかったです。いつもより絵に対して詳しく説明されて、考えが広まりました。友達の考えを聞いて自分の考えをまとめることができました。今日は貴重な体験をすることができました。
25★今日の鑑賞会では少年の考えている心情などを自分なりに考える事が出来て友達の意見もしっかり聞く事が出来た。この絵をみて思ったことは背景から戦争などが起きて荒れ果てた土地に一人残された男の子が失った物をみて悔しい思いをどうにか紛らわそうとしているのだと感じた。
26★自分は最初「津波」で、理由は、道が泥だらけで津波の濁流が通った後と思っていた。また、白い雲は煙で工業が発達した時代だと思い、正直、戦争の時と考えていない。また、この時は、戦後の工業が急激に増加した時代である。そう考えるともう1つとらえかたができ、灰色に染まる空をみて、町の光景が灰色空になってしまった怒りと工業化が豊かになった喜びが入り混じっているともいえる。
27★いつもは出ないような意見が出ていて面白かったです。自分が抱いた印象の根拠をいつもより考えられてとても良かったです。少し暗いイメージを抱く絵をよく見せられるので、想像しやすかったです。いつもあまり意見を言わない人が今回言っていて、その人の知らない一面を見られてよかったです。いつも抽象的な絵を見ていたので、はっきりとどのようなものが描かれているのか分かる絵をみせていただけたので、想像しやすく、とても面白い活動ができました。
28★長い時間で1つの絵を細かく見たから、多くのことに気づく事が出来た。
また、友だちの意見などを聞いて、この男の人の思っていることをより理解することができた。
29★いつもより、みんなの考えが多く述べられていたので自分の考えにそれらを足すことができて、さらに考えを広げられた。朝鑑賞では時間が短いため、あまりじっくりと絵を見ることができず、深くまで考えることができなかったが、今回の鑑賞会では多くの時間が取れ、より考えることができ楽しかった。
30★1つの絵について1時間も鑑賞したことがなかったので、いつもより深く考えることができた。色や風景、表情、所作など細かなヒントから多くの想像が生まれていると感じた。いつもより、異なった意見が多く出ていたので楽しかった。
31★いつもとは違うような感覚で鑑賞ができたので、すごく楽しかったです。
32★まわりの自分と同じくらいの人は戦争に行っているのに、彼だけが残っているのは、何か病気などがあるのかと思いました。普段の朝鑑賞はあまり自分の意見を言えないのですが、今日の鑑賞では自分の意見を言うことができて良かったです。
33★とても楽しく、いろいろな見方ができ、絵の面白さや鑑賞の楽しさを知ることができました。そして自分の考えと他の人の考えの違いを考え、そのような見方があるのだと考えさせられました。
今日はわざわざありがとうございました。

授業者から
 初対面の皆さんとうまく対話型鑑賞ができるか、少し心配でしたが、朝鑑賞を3年間続けてきたと聞いていたので、大丈夫だろうと大船に乗った気持ちで臨みました。朝鑑賞を参観させてもらった時に「挙手しない」んだと分かって、ちょっと「どうしよう?」と思いましたが、私のやり方通りに「挙手制」にしました。最初から元気に手を挙げてくれる生徒さんがいて、とても心強く思いました。きっと、私へのエールだったのだと思います。お陰で、勇気をもらって、次に進めることができました。初めての人と鑑賞をすることだけでもハードルが高いのに、その上、参観者がかなりいて、校外の方との交流に慣れている皆さんとはいえ、緊張したのも無理はないですね。でも、勇気を出して手を挙げてくれたり、指名した時でも発言してくれたりしました。そのかいあって1つの作品について深く考えることができたと感じてくれる人が多かったことがとてもうれしかったです。
作品についての読み取りは人それぞれで「26★」さんのように「津波」と考えたり、別の解釈の可能性を探ったりすることも大切な態度です。多様なものの見方ができると世界が広がります。仲間と一緒にみるのもそのためです。自分一人だったら一通りの見方しかできないかも知れませんが、友だちが意見を言ってくれることで、見方が増えていきます。今回もそのことに多くの人が気づいていました。
鑑賞会後に皆さんの書いてくれたものを読んで皆さんが真剣に鑑賞会に参加してくれていたことが伝わってきました。貴重な時間を与えていただき、感謝します。ありがとうございました。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする