ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

こどももオトナもいっしょにみました!!

2024-09-16 17:55:09 | 対話型鑑賞

みるみるの会9月例会① 海とあそぶアート展

美術館HP   https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年9月15日(日)11:00~11:20

場所:浜田市世界こども美術館 

1作品目

鑑賞作品「海を守るクジラとカメ」 作家:sobolon(ソボロン)

参加者:幼児(4歳くらい)~孫と一緒のお祖母さんまでこどもとオトナ約10名+みるみるメンバー1名)

ファシリテーター:春日美由紀

作品選定の理由

 7月13日から開催されているこの企画展で私たち「みるみるの会」の月例会を開催するのは3回目となる。

 7月の月例会に参加したが、夏休みに入ったばかりの日曜日で、多くの家族連れで賑わっており、企画展会場でアート鑑賞会を行うスペースを確保するのは困難だなと感じたことを覚えている。それでもと開始前に会場にいた皆さんに参加を呼びかけたが、皆、思い思いの活動に向き合っていて飛び入りの参加者はおられなかったので、オトナだけでの鑑賞会を行ったのは先の嶽野さんのレポートの通りである。

 8月も同様の状況だったことを津室さんのレポートが伝えている。

 長期にわたったこの企画展は来館者参加型となっている。特に子どもにはワクワクする仕掛けがいたるところにある。その活動に参加している我が子の様子を画像に収めたり、一緒に取り組んだりするオトナ(親)の姿が多くみられたので、最終回となる9月はなんとか、今日この時間にこの会場にいる子どもたちに参加して欲しいと考え、会場を何度も見回った。5階のスロープを下った先にある部屋の奥にはテーブルと椅子があり、子どもたちが万華鏡を作ったり、テーブルに海から拾ってきた様々な物を並べたりして楽しんでいた。そこの部屋の壁には大きな作品が2つ並べて展示してある。この作品は、はっきりとした色調でクジラやカメ、魚たちが海の中で泳いでいるようにみえる。クジラやカメ、魚は分かりやすい形態をしており、そのもの自体が大きいので、ちょっと離れたテーブルからもよくみえるし、テーブルで活動に取り組んでいても、声をかければ手を止めて、考えたり、話したりしてくれるのではないかと考え、作品というより、この場所でやろうと決めた。

鑑賞会の様子

 5階のエレベーターホールから「今から、この下の部屋で、みんなでおしゃべりしながら作品をみていこうという会をやりますので、よろしかったら参加しませんか?子どもさん大歓迎です。もちろん親さんも、ご一緒に。いかがですか?」と声をかけた。1度だけでなく、スロープの中ほど、下、でも同様の声かけをした。会場となるスペースに着いた時にも声かけをした。ありがたいことに、部屋の奥には子どもたちがたくさんいて、各々の活動に取り組んでいた。傍らに親さんの姿もあった。声かけに誘われて移動して来てくださった家族の姿もあった。また、テーブルについていた親子さんも声かけに反応してくださったので始めることにした。

 「今から、この壁にあるこの作品について、みつけたことや感じたこと、パッとみたときの印象とか話してもらいたいなと思います。しばらく時間を取りますので、ちょっとじっくりみてください。」と声を張って伝えた。その部屋にいた総ての人が、ちょっと身を乗り出すような感じで会場がすこし「シン」とした。その空気感にうまくいきそうな手応えを感じた。

 「いかがですか?みつけたものとか、感じたことはないですか?」と始めた。

 「カメがいる。」4~5歳くらいの女の子が言う。

 「どこにカメがいるかな?」

 「あそこ。」と指さす。

 「魚がいる。」と、男の子。

 「どこにいる?」

 「あそこ。目がペットボトルのキャップ」とみつけたことを話す。

脈絡なく会話が進んでいったが、あまりコントロールせず、思い思いに話せる雰囲気を大切にすると、オトナも「クジラがいる」などの発言も出た。「黄色い魚」が好きだと言った男の子がいたので、

 「他にどんな色の魚がいるかな?」

 「赤い魚は何匹いる?」

 「オレンジの魚は何匹?」

 「じゃあ、魚は全部で何匹いるの?」

などと、そこにいる子どもの年齢に応じた問いを投げて、子どもたちが作品をよくみるように促した。また、

「10匹の魚の中で好きなのはどの魚?」と、みて考えることを「自分ごと」にする問いを投げ、誘われてこの部屋に来たのに隅っこの方にいるお孫さんと一緒のお祖母さんにも訊ねた。

 「あの赤い魚。」と話されたので「どこがお気に入りですか?」と重ねて尋ねると「小さいから。」と答えてくれたので「赤い魚は6匹いますが1番小さい魚がお気に入りだとお話してくださいました。」とパラフレーズした。続けて

 「魚は何でできているかな?」

 「このモノは何かな?」

と、素材に関わる問いも投げた。

 「プラスチック」と男の子が応えてくれたので

「このプラスチックは新しい?それとも古い?」と少し考える問いを投げた。しばらく考える時間が流れた。作品の脇に砂浜で回収した作品の素材となっている様々なプラスチックでできた物やゴム長靴が入れてある透明なケースが置いてあるので、そちらを示しながら

 「あの中に入っているものが、この作品の素材になったもののようです。」と紹介した。よく話してくれる男の子が駆け寄ってみてくれたので

 「何があった?」と近くに寄って訊ねると

 「プラスチックでできたものや長靴」と答えてくれた。

「これらの海から拾ってきたプラスチックなどでこのクジラやカメや魚が作られているということについて何か考えられることはないですか?ちょっと、子どもさんには難しいかも知れないので、オトナの方に考えていただけたらと思います。」と、この作品の核心になりそうなことについて最後考えてもらって終わることにしようと考えた。オトナが答えるより先に、さっきの男の子が

 「魚にもよくないから、人間にもよくない。」と言った。

 「どういうことか、もうちょっと話してくれる?」と伝えると

 「魚が食べて、その魚を人間が食べるから。」と言った。

 「プラスチックは無くならないので、簡単に捨ててはいけないな。」というオトナの声もあった。

 「今日はこの作品を皆さんとみてお話して行きましたが、海から拾った主にプラスチックで出来ているということで、このプラスチックが海やクジラ、カメ、魚とどんな関係にあるかについて、少し考えていただくことができたのかな?と、思います。ありがとうございました。」と告げて締めくくった。約20分の鑑賞だった。

振り返り

 今日の鑑賞会はそこに居合わせた子どもやオトナをどれだけ鑑賞会に巻き込むことができるか、というものだったので鑑賞の中身より

 ①活動に興味をもってもらって参加を促す。

 ②話しやすさ、何でも言える雰囲気。

 ③子どもの発言にオトナが触発される。

 ④海洋ゴミについて考えることができればよい。

で進めたので概ね成功したのではないか?と思う。終わったときに松山から来ていた男の子が「おもしろかった。」と話してくれたのが何よりの成果だったと感じている。

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気になるプラスチック

2024-09-01 19:13:39 | 対話型鑑賞

みるみるの会8月例会 海とあそぶアート展

美術館HP   https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年8月18日(日)11:00~11:30

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「ウミプラウミプラプラ」 小山一馬 2024

参加者:来館者1名 みるみる会員3名 美術館関係者1名 

ファシリテーター:津室和彦

 

はじめに

 盆近くの日曜日で,同じ展覧会の前回7月例会よりも多くの来館者で賑わっていました。また,美術館が用意しているワークシートを手に,家族で真剣に解答している人も多く,「絵をみてお話ししませんか。」と声をかけるのもためらわれるような状況でした。

 前回も参加された男性1名と会員3名,石見美術館の学芸員1名の計5名の鑑賞者で,小さく集まって鑑賞を開始しました。

 縦40cm横30cm程度の小さな作品のため,それぞれが腰を屈めて近づいて見る時間を少し長めに取りました。

1 鑑賞者の主な発言とファシリテーターの発言(〇=鑑賞者 F:ファシリテーター)

◆小さいからこそ 惹きつける

〇貼ってあるものが全部ちっちゃい。

〇縦・横きれいに並んでいる。

〇ひとつひとつの小ささと,作品全体としての小ささも気になる。

〇具体的な形があるものとわからないものがある。

〇プラスチックのものばかり。

F:タイトルには「ウミプラウミプラプラ」とついていますが,全部プラスチックなのでしょうか・・。

◆小さいことの意味は?素材はゴミなのか?

F:海で見つけたちっちゃなプラスチックを使った作品だということですが,そのことから考えられることは?

〇作家が自ら海岸で拾ったものを素材としている。 

〇分解されにくいプラスチックごみ,環境問題というキーワードがあった。

〇鮮やかな色は,もともとの色か?脱色したものに着色したものか?風化したものをそのままにしてあるものもある。

〇プラスチックは2億年後くらいまで残るという話を聞いたことがある。警鐘を鳴らす意味があるのでは。

〇小さい素材から,マイクロプラスチックの問題を考えてしまう。作品も小さい。

〇小さいから生き物の口にもはいるし,浜の砂の中にも混じりやすい。

〇この作品に使われている素材をすべて集めても,手のひらに乗るくらいの量だろうけど,浜にはいくらでもあると考えられる。

〇1つだけ人間の形をしているものがある。そのことで,プラスチックごみを人間が作り出している,われわれ人類の行いと関連があるものだという見方に,自然となる。

〇ストローの断片や薬のPTP(プレス・スルー・パック)シートなど,人の営みによって生まれたものだ。

F:色鮮やかだが自然のものじゃないし,自然に還りにくい。そのことを感じさせるために着彩もしたかもしれない。身近なものでもあるが,自然の中ではマイクロプラスチックという害のあるものになってしまう。

F:(プラスチックを)放出してしまったとかするべきでないのにしてしまったとかいう発言がありましたが,じゃあこの作品はよくないもの,よくないことを表しているのでしょうか?

※ブース全体が,海洋ゴミを用いた作品で構成されていることから,環境問題を意識した作品なのではないかという前提めいた感覚は,鑑賞者が皆抱いていたかもしれません。細かくみていくことで,鮮やかなものと色褪せたもの,小さな人型,ひとつだけの貝など,小さいことや海洋ゴミについての様々な見解が語られました。

◆小さいものを並べていることに意味がある

〇ぱっと見,すごくきれいだなと思った。

〇ちっちゃく,かわいらしく,ポップ。ポストカードや待ち受けや装飾にも使えそう。

〇楽しかったり視覚的にきれいだったりしたものを集めるなら,全部カラフルなものにする気がする。色褪せたものがあることで画面的にもメリハリが出る。すべてがカラフルな色で表現されていないことに意味があるのかも。

F:色褪せたものと鮮やかなものが混在していることの意味は?

〇鮮やかなものは新しいもの,色あせているものは古いものと連想するので,時間の流れを感じる。

F:環境問題は置いといて,ひとつの作品としてみたときに感じられることとか考えられることはないですか。

〇ごみと思われるようなものを再構成するという表現は20世紀のいろいろなジャンルに見られる。プラスチックの出現時期を考えると,ここ数十年の比較的新しい表現。 ただ表現の仕方としては,博物学的に並べるというのは古い方法を踏襲している。 自然界で2億年残るという話もあるが,それほどもたずに違う形で分解され,また新しい環境がでてくるかもしれない。

F:ちょっと前の時間,ずっとこの先の時間も考えさせられるのですね。

〇小さな,同じようなサイズ感の中に人型のものがあるということは,人間といろんなものが共存しているような世界にも感じる。人間が環境に影響を与えているということを訴えるならば,人間(人型)だけ大きくし真ん中に置くことも考えられる。翻って環境問題とは別の見方もあるかなと思う。

F:やっぱり環境問題がありそうだけれど,それだけではなく,プラスチックは人間が創り出したもので,中でもまだ歴史が浅いものではないか。ずっと残るものかもしれないし,そうではないかもしれないとか。人と,人間が創り出した人工物であるプラスチックとの関りについて,考えられたかと思います。

2 会員等4名との振り返り

F:環境問題的な話にはなるだろうけれど,それだけに終わらないよう,話題を展開していきたいと考えていた。浜辺にはたくさんのゴミ,とりわけプラスチック類が多く,人間の営為が自然に影響を与えているという現代的な問題については,意見が出ると予想していた。そのうえで,プラスチックという素材の特性,並べ方,拾ったものならではの風合いなど,この作品ならではの意味や価値について話し合えるようにしていこうという構想だった。

〇作品の「小ささ」について

・海洋ゴミというと,ポリタンクや家電品のような大きなものを連想したが,作中のプラスチックをすべて合わせても,掌に載るような小ささだった。

〇ゴミを素材としていることや環境問題の視点について

・小さいから捨てていい訳ではない,小さいからこそ訴えるものがあるのではないか。

・次代を担う子どもたちが目にする作品なので,作品から問題点を感じ取って欲しいのではないか。

・そもそも海の漂着物ばかりの鑑賞空間なので,漂着ゴミの文脈から離れるのはむずかしい環境だった。

〇1つの作品として見ることの大切さ

・「色・形・質感」などの造形要素にもっと着目した鑑賞ができるようにファシリテーターの意図的な整理が必要であった。

・「きれい」「並べられている」というような発言を捉えて,造形要素や表現に関する話し合いに移行していくようなファシリテーションができたのではないか。

・「色についてはいかがですか」という問いは投げかけたが,・・・・

3 おわりに

 「海とあそぶアート展」という展覧会のコンセプトからも,海洋ゴミという困りごとについての話し合いにはなると予想していました。しかし,作品は,見たところ身近で楽しいものであるし,海で拾い集めたものを作品に仕立てるという作家独自の行動や発想,個性を強く感じてもいました。これら相反したり関連したりするコンセプトや感覚を,鑑賞者から引き出し,多様な考えを交流する場になればと思いながらファシリテーションを進めました。

 構成要素が多い(細かくて多数の素材の集合体)作品ではありますが,ミクロとマクロの視点でみることで,様々な考えが語られたと思います。

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こども美術館の構造を生かしたり 浜田の情景を描いたりした 2作品を鑑賞しました

2024-08-04 19:45:31 | 対話型鑑賞

浜田市世界こども美術館「海とあそぶアート展」鑑賞会

美術館HP   https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年7月21日(日)11:00~12:00   

1作品め:「はじまりの森」〜虹色の雨〜  関野宏子 吉竹宏泰 作

ファシリテーター:嶽野志乃

参加者:一般参加者(60代男性)1名  みるみる会員3名   計4名

 「(作品が)ずっと長く続いている。どこまで続いているのか。」という発言からスタートしました。その後は、作品について見つけたものやそこから思うことなどが続きます。

〈参加者の発言より〉

 ・廊下の奥まで続いている

 ・ヘビのようである

 ・カラフルな色から元気をもらえる」

 ・長い形やカラフルな色(虹色)からヘビを連想させる。虹は昔ヘビの化身と言われていた

 ・長いものがところどころ形が変形しているのは、変化やここからの成長を感じさせる

 ・天井近くにある白いモノは、形や柔らかそうな感じから雲のようである。チャックでどんどん繋げていけ 

  そうだ。

 ・カラフルな糸がぶら下がっていて、雨のようだ。その先に木でできた葉のオブジェがある。よく見るとリ

  ンゴやドングリの形もある。

 その後は、”繋がり、連鎖、作品の世界観”などモチーフから考えることなどの話題が増えてきました。

 ・奥にあるオブジェもかわいらしい

 ・そのオブジェは長いヘビのようなものがつながっている先にある

 ・神様を例えているのでは

 ・ぶら下がっているヒモにも目がついていてかわいらしい

 ・かわいくユーモラスに表現して親近感がある

 ・奥のオブジェも可愛らしく作ってある。ほんわかした感じ

 ・ジブリのようである

 ・奥の壁に山のようなものがある。そう考えると床に表現してある模様は川の流れのように見える

 ・廊下は川の流れのように演出している。その両脇に樹に見立てたオブジェがある。奥には海の波を体感で

  きる作品が展示してあり、その先は海をテーマにした展示コーナーである

 鑑賞の後半になって、作品の全体像を全員で共有できたように感じました。

 ・もし、この展示会場でなかったら(廊下や照明等の制約がなかったら)、制作者はどのように表現しただ

  ろうか?」など、最後は制作者の意図や思いについても話題になり、鑑賞会を閉じました。

(みなさんの発言をまとめてみました)

 ・長く続くモノ→自然界での水の流れや命の循環

 ・カラフルな色、形→生命力、多様性、進化や変化、増殖(子孫繁栄)

 ・展示の構成→連鎖、自然界の関係性

 ・かわいらしい表現→親しみ、子ども達も好きそう

(ファシリテートを終えて)

 長く続くモチーフから鑑賞が始まりましたが、私は「奥にあるオブジェ(座っているヘビのようなモチーフ)から会話が始まるだろう」と予想していたので、少し驚きましたし新鮮でした。どこまで続いていくのか?みんなで移動しながら鑑賞してもおもしろかったかもしれません。モチーフの色や形、構成などから様々な意見が語られ、それが積み重なって今回の解釈につながったように思います。しかし、もっと鑑賞者の思いや考えを深堀りできる問いかけや対話ができれば良かったなと思います。

 参加者の皆様の発言を大切にして、表情や雰囲気を感じ取りながら全体の流れを方向づけたり進めたり…とファシリテートは忙しいなと思いますが充実感がありました。鑑賞者の皆様に感謝です。ありがとうございました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2作品め:「瀬戸ヶ島」  ディビット・スミス 作

ファシリテーター:嶽野志乃

参加者:一般参加者5名(60代男性2名、女性1名、80代女性1名、90代女性1名)

    みるみる会員3名   計8名

 対話型鑑賞があることを館内放送していただくと、5名の方が参加してくださり、とても嬉しかったです。最初に、対話型鑑賞について簡単に説明しました。「参加者の皆さんで一つの作品を見て、思ったり気づいたりしたことを話したりお互いに聞いたりしながら鑑賞を楽しみましょう。」

 しばらく作品を見る時間を取った後、前列の男性が挙手してくださいました。「まるでゴッホみたいです

」「どのあたりからですか?」「なんだか色の感じが」という話題から始まり、その後も積極的で様々な視点からの発言が続きました。

〈参加者の発言〉

・ピカソのようである

・イカ釣り船の明かりがついているから夜?海や空の色合いから夕方?

・あれ(丸くて赤い形)は太陽?月?

・信号があるのでは?

・お祭りの日かなと思う

・雲が気になる

・これは浜田の漁港である

・海の上から描いた?(と考えられる構図である)

 

・船の形をデフォルメしている→働く船の格好良さを強調している感じがする

・万国旗のような海の色合い→海(浜田の海も)は世界とつながっていると連想できる

・山肌の険しい感じと人工物との対比→人が開拓してきた歴史

・華やかで明るい色合い→港の生き生きとした感じが表現されているのでは

・時間が特定しにくい感じ(カラフルである。写実的ではない独特の表現)がするのは、作者が心惹かれたも

 のを全て書き込んだからではないか?魅力的に思ったものを、時間帯に関係なく描き込んだのではないか?

・作者は海外の人なので、自国で見たことのない空や雲に感動したのではないか?

・やっぱり雲が気になる

 など、たくさんの意見や考えを述べていただけました。また、「様々な意見が聞けてよかった」「1つの絵に対して人それぞれ感じ方が異なるものだとわかった」「じっくりと鑑賞させていただいてよかったです。」などの感想もいただけました。

〈ふりかえり〉

 ふりかえりでは、鑑賞後半に、”やっぱり雲が気になる”と話題にしていただいたことについて、どんな問いかけや進め方が考えられたか?アドバイスいただきました。私もこの質問からどう進めてよいか迷うところでしたが、

・どこが気になるのか?話してもらうとよかった。

・みなさんで考えてみませんか?と提案してもOK。

・最後にもう一度、皆さんの話しを聞いてどう思いますか?と意見を述べてもらうのも良い。

など沢山教えていただき勉強になりました。

 また、積極的な発言があることで、その発言に頼ってしまったり、聴く一方になってしまったりという時間が長くなったことについて

・作品のどこからそう思うか?と問う

・全体の時間配分を考えて今までの流れを整理する時間をもつ

・鑑賞者からの疑問や問いは、どこに疑問を感じるか?など”作品を見て本人が考えること”を言葉にしてもら

 うこともできる。

とアドバイスしていただきました。

 鑑賞の進め方を工夫することで、話して聞けて、いろんなことがわかって楽しいという時間を皆さんと共有できると良いなと思いました。また、鑑賞者の皆さんがご自分の考えをもう1歩深く考えたりできるきっかけを作れるように、発問や対話を意識したいと思います。勉強になりました。ありがとうございました。

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桜 三昧

2024-07-05 23:13:01 | 対話型鑑賞

浜田市世界こども美術館「生誕120年記念 橋本明治展」鑑賞会

美術館HP   https://www.hamada-kodomo-art.com/

日時:2024年6月16日(日)11:00~11:25   

作品:『朝陽桜』の「試作」・「大下図」 浜田市世界子供美術館蔵 、 「縮図」 島根県立美術館所蔵の3点  (1968年頃)橋本明治 画 

ファシリテーター:房野伸枝

参加者:一般参加者2名  美術館職員4名  みるみる会員1名   計7名

 

コロナ禍以降「みるみるの会」の月に一回の鑑賞会が、浜田市世界こども美術館をお借りして復活。その2回目は浜田市出身の日本画家「橋本明治」の生誕120年を記念した展覧会です。

今回はフライヤーのキービジュアルにもなっている『朝陽桜』を鑑賞作品として選びました。この作品は皇居松の間の大杉戸に描くことを委嘱され、福島県の「滝桜」を何度も取材して完成させたとのことです。皇居の本物をみることはかないませんが、「縮図」作品は大きさが違っていても、最終的な作品と同じ構図、図柄だそうです。第2展示室の壁面には『朝陽桜』の「試作」「大下図」「縮図」の3点が並んで展示されています。画面いっぱいの桜の花の絵を、その制作過程もみながら鑑賞することができるようになっています。モチーフは桜のみですが、3点を一緒に隅々までよくみて、その微妙な違いに気づくことができれば、この作品の解釈も進むのではないかと考えました。下記はその鑑賞の概要です。
※〇鑑賞の流れの説明   ・参加者の意見   (F):ファシリテーター

〇参加者7名中5名が初めて対話型鑑賞会に参加するため、まずは桜の描かれ方を一つ一つディスクリプション(描写)することから始めました。
・桜の花の絵
・枝が斜めに伸びているから、この元には幹があることが分かる。枝自体が太いので、その幹はかなり太いだろう。ということは、樹齢を重ねた大きな高い木だということが分かる。
・中心の幹は描かれず、そこから伸びている枝と花が大きく描かれている。
(F)枝の様子からわかることは何かありますか?どんな桜でしょう?(さらに桜をよくみることを促す)
・枝ぶりから枝垂桜ではない。
・桜の木全体が描かれているのではなく、クローズアップしている。
・木全体を描かないということは、花が満開だということをしっかりアピールしたいのでは。
・満開
(F)3点とも満開ですか?
・「大下図」は葉が見えることから、葉桜になろうとしている。花びらが散ってはいないので、散る直前くらい?よくみるとそれぞれの絵のつぼみの数が違う。満開ではあるが、「試作」は8部咲きくらい。「試作」は花の間に枝がたくさん見え、つぼみも多いが、大下図は枝がほとんど見えないくらいに花が咲いている。・仕上げるまでに時間がかかるから、描きはじめのころは花が咲き始めた頃で、描いているうちに満開になっていったのかも。時間の経過が見える。
・下絵図の花は、花びらが一枚一枚描かれず、塊でまとまっている。大下図や本画の方は、花の形、花びらの一枚一枚がはっきり描かれている。
・大下絵図は、花を描いた紙を貼っている。花のバランスをみるために、工夫したのではないか。花びらをしっかり描きたいという気持ちの表れなのでは。
(F)これはみたままを描いているのでしょうか?花をみて気づかれることは?
・花ならおしべやめしべがあるが、これはそれが描かれていない。単純化されている。
(F)確かに。また、花の形をよくみると、どの花も正面を向いていませんか?(ほんとだ~という声が上がった)

〇情報の提供   

(F)この作品は皇居を飾るために依頼されたものだそうです。
・皇居ということは、海外の来賓をもてなすこともあるかもしれない。その際に日本を象徴するにふさわしい花として桜をモチーフにしているのでは。満開の桜を日本人の象徴としたのでは。
・花が全て正面を向いて満開の桜でおもてなしの気持ちを表したのでは。
・色の数が少ないので、これが大きくなると同じ色彩がたくさん迫ってくるように見える。皇居という大きな場所でとても映えるように描かれたのではないか。だから、おしべやめしべなどを省いたのでは。
(F)訴える力のあるデザイン化されたものということですね。

〇情報提供以降、それまでの意見をコネクトしながら表現方法から解釈へ進む


・花の大きさ、形が全部同じなのはどうしてだろう?
・見たままを描くというのではなく、色や形をシンプルにして、印象を強くするためでは。そのことで日本を象徴する花だということを表現したかったのでは。
・幹の色がこちらのほうが濃い。あちらは花が多く、幹の色も薄い。花をメインに強調しようとしたのでは。
・桜の花が淡いので、幹の色を実際のものよりシャープに濃くするほうが、互いを引き立てている。
(F)花と幹の色のコントラストを強くして、花を引き立てて印象を強めているということでしょうか。本来桜の幹の色は灰色っぽいものが多いが、これらは黒々と描いてあり、とても力強い印象がする。幹が苔むしている様子から、長い年月をかけて大きく太く成長したということもわかり、力強くのびのびとした木、花の美しさや繊細さで、日本の象徴として描かれたように感じる。皆さんのお話を伺っていると、そんな風にこの作品がみえてきました。

<参加者の感想>  
・絵の鑑賞の仕方もいろいろあって奥深いと思いました。今までは、自分の感覚で「好き」「嫌い」で見ていました。
・参加する前と後で、作品の印象がガラリと変わっておもしろかったです。
・こんな見方ができるのか!!と、とても感動しました。勉強になりました。参加してよかったです。ありがとうございました。
・他の人の意見を聴くことができ面白かった。他の作品でもやってほしい。
・人前で発言することは苦手なのでうまく対話することはできませんでしたが、他の方の絵の見方を聞き、自分とは違った発想を知ることができて面白かったです。始める前に何分程度予定しているか教えてもらえると嬉しかったです。
・目的をもって鑑賞することの面白さがありました。参加された方の鑑賞の仕方が学べたし、感性の違いに興味をもちました。

<振り返り>
・鑑賞者7名中、会場で知って参加された方が5名で、初めて体験される方が多かったので、最初に鑑賞のすすめ方の説明をもっと丁寧にするべきだった。通常のルールに加えて、鑑賞の予定時間、作品のみかたや考え方は「多様」なので自分の感じたことを発言してもらえばよいこと、無理に発言しなくてもよいことなどを強調すれば、さらにリラックスできたのではないか。鑑賞が進むうちにそのあたりは理解してもらえたようだったが、最初は緊張感が漂っていたので、配慮していきたい。
・3点の桜の描かれ方の違いを細やかにみることで、桜の咲き方、木の大きさ、満開の桜を強調するためにどんな描き方の工夫がされているかなど、発見されたことを重ねていくことで、参加者みんなで解釈を深めていけたように思う。
・皇居の『朝陽桜』を作成するための「試作」「大下図」であるという情報提供を境に、日本を象徴するものとしての描き方に話題が移っていった。
・ファシリテーターが、パラフレイズで、「デザイン化」「テクスチャー」「コントラスト」などの専門用語を使ったが、分かりにくい参加者もいたかもしれないので、もっと平易な言葉選びをしたほうが良かった。

参加された全員の感想は「楽しかった」「まあまあ楽しかった」と評価してくれたことから、リピーターとしての参加を期待します。。コロナ禍で中断した「対話型鑑賞」の輪が広がり、アート作品を鑑賞する喜びを多くの人と共有できたらと思います。今回参加されたみなさま、協力してくださったスタッフのみなさま、楽しい時間をありがとうございました。

※「縮図」の画像は 島根県立美術館のHP収蔵品データベースでご覧になれます。

検索結果一覧 - 検索条件[作品名:朝陽桜] | 収蔵品データベース Collection Database | 島根県立美術館 Shimane Art Museum (jmapps.ne.jp)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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遊んでさわって からだで鑑賞 

2024-06-21 18:47:09 | 対話型鑑賞

日時:2024年5月19日(日)

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「みのり」富田菜摘(制作:2011年) 浜田市世界こども美術館所蔵    

材料:古着・ニットの帽子・ジーンズ・扇風機のカバー・アルマイトの椀・スピーカー部分・ビニール傘・ビ     ニール素材の布・園芸用支柱等 ※ワニの形をしていて、口の中や胴体に入ることのできる作品

参加者:7人家族(小学生兄、妹、幼児弟、父母、祖父母・こども美術館関係者1名・会員4名)合計12名 

ファシリテーター:正田裕子

対話型鑑賞の流れ

 最初に、この展示室で一番大きい作品をと見たり触れたりして、そこで感じたことや考えたことを伝えあって、楽しい時間を過ごそうと呼びかけた。(ワニの形状をした作品の開口部に興味を示したので「行ってらっしゃい。」と声をかける。)

・兄と弟は、作品の開口部から体内へ入って行き、右の脇腹の出口から出てくる。姉は開口部の前で、遠慮がちに兄弟の様子を見ている。弟は、兄に続き腹部の中に入ったり、親と兄の間を往来したりする姿が見られた。

・3人とも、名前を尋ねられたことに対して、兄、妹、弟の順番に自分の名前を言う。弟の名前が聞き取れなかったところ、母親が弟の名前を伝える。丁寧語を使って応える様子から礼儀正しい印象をもった。

・弟は、両親や祖父母もこの場にいることを発言する。兄姉、家族と一緒にやりたい気持ちが感じられた。

※以下左端は行動や発言の主体を表す

 表記例  ファ:ファシリテーター、 家族:兄・妹・弟・父・母・祖父・祖母、 大人:家族以外の大人

妹:「扇風機の羽の外の部分が付いている。」(作品のワニの上顎と下顎が重なる部分を指しながら。)

 ファシリテーターとのやりとりから、扇風機のカバーは、一般的には家庭にある物で、美術作品に付いていないということに気付く。

兄:「ワニの舌の部分に、ポケット付きのシャツがある。」「(咽頭部を指して)ここには小さな突起が付いた軍手が12個ある。」

 兄弟で、胴体の奥へ入って行く。弟は、兄の後ろで「戦闘機」「戦闘機」とくり返し言うが、ファシリテーターは洗濯機と聞き間違えていた。兄は家族の発言から、作品を「ワニ」という見立てをしていた。

兄:「胴体の中は、秘密基地のようだ。(二人が入っても十分な広さがある空間の奥の壁面を触りながら)壁

があること胴体に左右それぞれ小さな窓みたいな穴があるから。秘密基地とは秘密であるけれど、同時に、2%くらい他の人に分かってしまうところ。」

ファ:「内緒にしておきたいけれど、大切な人には2%分かってしまうのかな。」(周囲から和やかな笑い声あり)「他に何かあるかな。」

妹:胴体に入らず、アルマイト製のお椀で作られた目を差し示す。

ファ:「何でできているのかな」・・応えにくそうだったので、音を出したり、ファシリテーターと一緒にみたりした

妹:「目。……硬い物でできている。きらきらして、一つの物を狙っているかも。」

弟:「きらきら」「きらきら」「戦闘機」「戦闘機」・・ファシリテーターは、「そうだね。」と相づちを打つ。

ファ:「作品の外へ出ておいで。外側には何が見えるかな。」・・兄弟を作品の外側が見える場所に誘う。

兄:「ワニの脚の部分は、ズボンと靴下でできている。」・・靴下の色やテクスチャーについても言及有り。

「お腹の中には鈴の入った靴下もあった。外側は帽子でワニのウロコができている。数ある帽子の中でも背中から尻尾にかけて縫い付けてある灰色のベレー帽が特におもしろい。」

ファ:(弟に対して)「どれがおもしろいかな。」

弟:ベレー帽を指さす。

母:「祖母が普段ベレー帽を被ることが多いので、気になったのかもしれません。」

ファ:「おばあちゃんが大好きなんだね。」と3人に話しかける。弟が大きく返事をする。兄・姉は笑顔で頷く。

大人:「(胴体の中にある鈴の入った靴下の発言を受けて)この作品は、子どもが楽しむための物ではない

かと思った。「秘密基地」って言ってた胴体には、子どもがちょうど入ることができる大きさだし、出るときもちょうど子どもが出やすい大きさに作られているから、子どもが楽しめるように作られていると思う。」

ファ:「実はこの作品は、2011年の東日本大震災後に、この美術館で、作家自身が来館して、この作品を

制作していると聞いているのだが、それを聞いて何か意見はないか。」

兄:「使えなくなったものを使って、このワニはリサイクルして作られている。」(大人からどよめきがでる)

ファ:「今、使えなくなった物をワニの形として作り直して、ワニとして活かしているという発言があったが、他に意見はないか。」

大人:「これらの素材は、ほとんど布でできている。しかも、これらは、以前に人が身に付けていた古着などで、触感が柔らかい。使えなくなった物や使わなくなったものを材料としている。公園にある遊具といったら

固くて冷たい遊具だが、これは、先程の『おばあちゃんの帽子』の話にもあったように柔らかくて人に使われていたものだから「人肌」のぬくもりや優しさを感じる。だから、遊びたくなるのではないか。安心できる遊具のようだ。」

大人:「本当のワニは怖くて、口の中に入ったら大変なことになってしまうけれど、怖いことがかえって楽しいものに生まれ変わったように感じられてきた。」

ファ:「ワニを作った人も、それを聞くと『嬉しい』と言ってくれると思う。」

兄:「本当のワニは怖いけれど、このワニは親近感を感じる。」

姉:「海にある船、……子どもの用の車みたい。」

ファ:「秘密基地、船、子ども用の車など、とてもわくわくする意見を聞いて、私自身が楽しくなった。大人の皆さんの意見も聞いて、子どもを楽しませてくれる作品に見えてきた。」

兄:「どれくらい(の時間)かかって作られたのか?」

ファ:「よく知らないのだが、展覧会の前に、作家さんが来て作られたそうだ。ご家族の皆さん、どうでしたか。」

祖父:「賑やかで良かった。」

ふり返り

・名前を尋ねたり視線を子ども鑑賞者の目の高さに合わせたりするなど、話しやすい場になるように心がけた。

・家族を紹介する子どもの様子が見られたので、 家族をできるだけ対話に巻き込もうと考えた。そのためには、まず、子どもたちに作品を楽しんでもらい、その後、家族や周りの大人に発言を繋げることができるとよいと考えた。

・接触可能な作品だったため、五感で作品を鑑賞できるように、素材に触れることや音を聞くことを促した。

・大人が周りにいる中でも、発言できるように、「すごいね」「おおっ」「大発見だね」などと、発言を受け止めて、子どもの話しやすい雰囲気づくりを心がけた。

【今後にむけて】

・就学前の年中児くらいから小学校高学年くらいの子どもたちだったので、子どもにも分かりやすいを使うように心がけたい。

・子どもの発言に、何度かオウム返しをしているところがあったので、子どもにも分かる言葉を用いた言い換えができるようにしたい。

・今後、未就学児や小学校低学年の子どもたちとも楽しく鑑賞ができるようなファシリテーションをめざしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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