ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

加納美術館において土門拳の写真展で「アートdeトーク」を開催しました

2022-10-10 18:24:41 | 対話型鑑賞

アートdeトーク:2022年9月25日(日)安来市加納美術館

参加者 10:30~11:30 5名(内みるみるメンバー1名)

    13:00~14:00 10名(内みるみるメンバー2名)

ファシリテーター 春日美由紀

※土門拳氏については、文中「土門」と記すことをご容赦願います。

展覧会情報 

土門拳記念館コレクション展 土門拳―肉眼を超えたレンズ― - 安来市加納美術館|島根県安来市 (art-kano.jp)

 

1作品目 土門拳「肉眼を超えたレンズ」展 ポスターメインヴィジュアル作品

2作品目 同上 中宮寺 観音菩薩半跏像

午前の部も午後の部も同じ作品を鑑賞しました。

みるみるメンバーの一人は、同じ作品でも鑑賞者が異なると、鑑賞も異なるという体験ができたのではないかと思います。

作品は、9月10日のオープニングに参加した時に決めておきました。時間的に2作品の鑑賞が可能と考え、2作品を関連付けて鑑賞することもできるように構成しました。

1作品目は日本が太平洋戦争に向かう時期に日本赤十字で看護を学んだ「若い看護婦」のポートレートです。2作品目は、中宮寺の観音菩薩座像(国宝)の頭部がメインとなるアップ画像です。

鑑賞者の皆さんが、それぞれをそれぞれに鑑賞するのか、2作品目をみるときに1作品目の作品を思い起こしながら、引き合いに出して鑑賞するのかもファシリテーターとしては興味の湧くところです。比較することを促すようなファシリテーションは避け、鑑賞の流れに委ねようと決めていました。

また、地元の写真愛好家の男性が複数参加されたので、写真の専門的なお話になりそうな気配がしました。併せて、写真にまつわる情報を与えてもらえるのではないかという期待も抱かれているのではないかと推察されたので、ことを、鑑賞を通して伝えることができるように配慮しました。

 

鑑賞会の様子

【午前】鑑賞の流れ 

①ヒロシマで戦争被害にあった人を看護している看護婦←赤十字が帽子の真ん中

②眉と目しか見えないので、性別が判然としない。タイトルが「看護婦」とあるので女性と思うが、まだ、性別が歴然としない年頃か。

③悲しい目。戦場で負傷した人たちを前にして不安、戸惑い、のようなものも感じられる。

④戦地には立っていない。これから立つ。看護学校の卒業式(戴帽式)か何か。戦地に立っていたら、こんな風に前を向けないのでは?悲惨な戦場、私なら目をそむけたくなる。

⑤マスクをして救護にあたるということが最新鋭なのでは?もしかしたらエリートかも?

⑥看護婦であることは自明。決心や強い気持ちは目の中にある白い点から感じる。制帽やマスクを身につけ、第1歩を踏み出そうとしている。

⑦こんな居住まいの人だと安心して看護してもらえる。人からどう見られるかも考えて、身だしなみを整えているところが、若いのにすごいと思う。写真に撮られていてもぶれない芯の強さを感じる。

⑧目線の先が黒い背景になっているので、写真を見る人の見方で如何様な見方もできる。強さも、悲しさも、決意も・・・。

【午後】

①白を強調したくて黒い背景にした。白い人物が浮かび上がる。

②瞳を光らせる、従軍看護婦、鋭さ、自分の命もなくなるかも知れない。

③どんな状況で撮影したのか?今から、戦地に赴く前。覚悟や決意が目から感じられる。

④汚れのない、まっさらな帽子とマスクを身につけ、看護婦としてのスタートを切る。

⑤マスクの下の口元は口角が上がっているようにみえて微笑んでいる?しかし、目には緊張感がうかがえる。

⑥口元は優しい、目は厳しい。

⑦目に白い点(キャッチ)が入っていて、自然にみる人の目線がそこに行くように写真に撮られている。

⑧左目が二重で温かみを感じる。右目は一重で不安や鋭さ、厳しさを感じる。この目がこれからを物語っている。

⑨若さ、化粧っ気がない。

⑩帽子やマスクがどう変化していくのか、戦地に赴いて、そういうことを想像、連想する。

⑪ほっぺが子どもらしい、ゴツゴツしていない。まだ幼さが残っている年頃。

⑫マスクの柔らかさと帽子の立ち上がり、質感の違い、人物が立体的にみえる。

⑬知的で賢そう。帽子や衣服やマスクを時間をかけて隙なく身につけている。そのことから、見た目からも整ってみえるように身支度ができる、そういうことが気遣える、若くしてできるので、賢そうだと思う。

⑭軍がモデルを使って撮影し、看護婦の募集用に使ったのではないか。

⑮リアリズムの写真家の土門だからそれはない。ただ、時期から考えても戦争に赴く前である。※キャプションに制作年が記されていて、その時代が若干話題となる。

⑯戦争を宣伝するもの。

⑰若者たちを奮起させるためのもの。

⑱リアル。結団式。多くの同士がいる。その中の一人。代表する姿、目線の先には壇上で語る人がいて、その人をみている。

⑲緊張感と共に、共感もある。こんな風に決意をもって仕事に行きたい。若い人が頑張っているなら、私も頑張らないと、という、気持ちにさせる。

ファシリテーターの1作品目の鑑賞会の感想

 戦争が背景にある作品なので、そのことが後半話題になるのかと思っていましたが、参加者の皆さんは、作品そのものをよくみて、そこから考えられることを話してくださいました。従軍するために訓練を受けた看護婦の像ですが、その目に宿る光(白い点)に職に対する決意や高邁な理想、信念といったものを多くの方が感じておられたように思います。それが、戦意高揚や国威啓発につながっていく見方もあったかも知れませんが、今回の鑑賞では、この成人ともつかない女の子自身のパーソナルな部分が話題の中心でした。一部、プロパガンダ的な見方も出ましたが、それに追従する発言は無く、土門のリアリズム描写が一人の女の子の新たな一歩を踏み出す、その時の精神性に光を当てたものとして参加者の皆さんはとらえられたように思います。

 

2作品目

【午前】鑑賞の流れ

①美しさ、妖しさ。指のしぐさや唇の様子から。一般の仏像のイメージと違う。

②色っぽい。舞妓さんのように指を曲げるしぐさ、柔らかい。さっきの作品は目を上げていたけど、こっちは目を下げている。★2作品の比較発言

③しなやかな指。仏像は神々しい、キラキラしいものだが、これは神様もリラックスして考え事をしているよう。モデルは女性なのかな。誰かを写し取っていると思う。

④1作品目は「婦」がなかったらどちらか分からない感じだったけど、こちらは中性のはずなのに女性性を感じる。

⑤すべてを包み込んでくれる、口角が上がっている、何でもやっていいよ、穏やか、怒ることもなく、微笑んで、受け止めてくれるイメージ。

⑥静かな、怒らない、なで肩、いかつくない、あの手に叩かれても痛くない気がする。

⑦このポーズ、グラビアアイドルのポーズ。それを土門が82年前に撮っている。

⑧普通だと仏像は見上げるけど、これは、見下ろしている感じで、だから人っぽい。仏様というより普通の女の人っぽい。

⑨両性具有ではなくて女性性。包み込んでくれる、相手を否定しない処断しない。そこがグラビアアイドル的。この切り取り方を80年前に土門がやり、それが現在のカメラマンに刷り込まれているかも?初代グラビアアイドルかも?

【午後】鑑賞の流れ

①有名な仏像。笑っている。黒と白の対比。指や鼻梁が金属質に見えて、冷たさや涼やかさを感じる一方、笑っているので優し気で温かみもある。

②仏像、優しく凡人に話しかけてくれているよう。目元や口元、手の感じから。仏師の彫った作品のすばらしさを土門が引き出した。素晴らしさに気づかせた土門。

③色っぽさ。金属なの?冷ややかだけど艶めかしくて色っぽい。手や指の様子から。

④化粧中?指で口紅を塗り終わった瞬間。

⑤芸者、芸妓 伏し目がち。

⑥中性的

⑦完全な立体感、手が語りかけている。

⑧色っぽさ、口元。女性とは分からないが、色っぽさや艶めかしさを感じる

★どんなことを語りかけてくれていると思うか?

⑨平和を訴えている。優しい気持ちで人と争わず、平和な世界を・・・。

⑩男の仏像かも知れない。隣と比べると指が太い。スマートではないかもしれない。

⑪土門の撮り方。小料理屋の女将さん。たおやか、包んでくれて、芯の強さもある。愚痴を聞いてくれそう・・・。

⑫顔の切り取り方。光背を排することで仏像であることを排して対話している土門。私たちも同じようにこの像と会話している。1作品目は帽子やマスク、赤十字のマークなどで属性を伴った看護婦をみていた。★2作品の比較発言

⑬女性的と感じたのはなぜなのかと考えて、唇や冷たそうに見える指のしぐさが女性らしさが際立っていると感じた。普段は近づきにくい、遠い存在の仏像に近づけた気がする。

⑭わざと線を減らして表情を作る。シンプル。

⑮無駄がない。眉頭に鼻梁のライン。男性だとゴツゴツしている。おでこに縦皺もないので、何でも聞いてもらえそう、優しい印象。

ファシリテーターの2作品目の鑑賞会の感想

 1作品目より、より土門の写真の構図(切り取り方)が際立つ作品だと思いましたが、そこにはあまり焦点を当てず、作品そのものを「みて・考える」ことに注力しました。参加者の多くは対話型鑑賞の経験者なので「みる・考える・話す・聴く」を各自がグルグル回してお話してくださったように思います。ただ、作品鑑賞が積みあがったり深まったりしたかというと、そこは今一歩だったように思います。しかし、初参加の地元の写真愛好家の男性陣が2作品目にも参加してくださり、鑑賞を通して、少しずつ思考の枠を広げて考えておられる様子がみられたのがうれしかったです。

 

Dさん(みるみるメンバー:午前午後とも参加)

・午前と午後で、同じ作品を違うメンバーで鑑賞する楽しさを味わえました。

・作品をいろんな角度から鑑賞する面白さを、参加者の皆さんも感じていただけたのではないかと思います。

・ひとつの作品を観ながら思うことを伝えあっているだけなのですが、心の中で様々なことが起きているのが面白いなと思います。

・私自身の変化は、仏像彫刻を観る目が変わったことです。今までは苦手でしたが、県美の仏像展に行こうかと思っています。

Sさん(みるみるメンバー:午後の部のみ)

・今回、対話型鑑賞経験者と未経験者、また年代もバラバラかつ、一般参加の人はそこで人間関係ができていたりと、今までにない、色んなところに引っ張られる要素が多い鑑賞だった。引っ張られつつも、ファシリテーターが逆に「どう思われますか?」と聞き返すなどして、対話をフラットな雰囲気に保っていたのが非常に勉強になりました。

・2作目は仏像を思い切りトリミングしたもので1作目と対照的だったこともあり、2作目は実際のモチーフにとらわれない、かなり自由な見方ができたと思いました。他者の発言からの発見や、思ったことを膨らませるという発言ができたことで、大人数でみるという醍醐味を味わえた鑑賞になりました。

 

参加者の感想

Kさん(写真愛好家):午前の部参加:グラビアアイドルの発言をされた方

・とても面白い企画で、なるほどそういうふうにのも楽しいものと改めて思いました。

Nさん

・写真は「看護師」「菩薩」と分かっているので、深―く考えていくのが私には難しかったです。ただ、菩薩さまと分かっているのに色っぽい女の人(日本髪の人)にみえたのは、流石写真家の腕かなあと。

・言いそびれたけど、菩薩さまは誰かに質問されて「うーん、そうよねえ」と考えているようにもみえたのでした。

Iさん

・今回も自分の感じたことを自由に発言したり、他の方の意見をきくことで見方がどんどん変わるというより広がっていくのが面白かったです。

・写真作品は2回目でした。新しい発見があって被写体が美術作品だと、まずその被写体そのものの芸術性をみて感じること、それを踏まえてその被写体を写し撮ったカメラマンの意図や技量を感じ取ること、この二つが鑑賞の要素となっているなと思いました。

芸術作品でないリアルな看護師さんが被写体の作品では感じなかった視点でした。

・なので、今日の二つの作品を比較すると、芸術作品が被写体の写真の鑑賞の方がハードルが高いなと思いました。

・あと、正解を導こうとする傾向の参加者の発言をファシリテーターが上手に汲み取って鑑賞の視点を広げておられて流石だと思いました。

 

全体を通してのファシリテーターのふりかえり

 対話型鑑賞体験の異なる方たちがともに作品を鑑賞していく時、どのような配慮が必要なのか、今回、色々と気づくことがありました。

 初参加の方は、鑑賞法に興味があるというより、展覧会に付随する活動なので、何か新たな情報や知識がもらえるのではないかという期待を抱いて参加しているように思われました。そこを、そうではなくて、自分たちが能動的に鑑賞をしていくのだということに気づいてもらいながら、発言を促し、作品の見方に何か「正解」があるのではないかと考えていることから解放できればよいと思いました。

 どんな作品でも制作されたものなので技術的なことが話題になることがありますが、写真作品はその側面が強いように思います。また写真愛好家の方も多いので、そのような方の参加もあったのですが、技術的な話ではなく、作品そのものを「みる」ことができるように働きかけました。

そのために「どこからそう思ったのか」を繰り返し問い、そのことについて「あなたはどう考えるのか」と、自分が鑑賞の主体であることが、何となくでもいいので感じられたらよいなと思いました。

1作品目はタイトルと制作年しか記されていないキャプションだったため、手元にある資料やパンフレットを何度も繰りながら情報を探している参加者の姿がみられたので、「資料に頼らず、まずはご自分の目で、作品をじっくりみてください。」と声をかけました。

初めの頃はみえたことについて話す時も断定的な言い方でしたが、徐々に、「~~だと思う」や「言われた通りに~~~」など、他者の意見を聞きながら考えている様子が発言からもうかがえました。それは、多くの対話型鑑賞経験者の皆さんに依るところが大きかったです。

初体験の方が2作品目にも参加し、発言をされ、終わった後にも、作品について談笑する姿が見られたときに、目標のいくらかは達成できたのではないかなと思いました。

ただし、録音を聴き返した時に、ファシリテーター自身の応答の声にやや問題があることに気づきました。それは、情報や知識にもとづいた話をされている参加者の発言に対して、若干緊張した硬い声音で応答しているというファシリテーターの姿勢です。今後はどんな時もオープンでフラットな対応を心がけたいと思います。

 

対話型鑑賞の貴重な実践の場を提供してくださった安来市加納美術館様に感謝します。

 

 

 

 

 

 

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