ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

安来市加納美術館「へいわってどんなこと?」展 あーとdeトーク

2022-09-25 18:46:52 | 対話型鑑賞

2022.8.7(日)11:00~11:40 安来市加納美術館 鑑賞会 

「へいわってどんなこと? 浜田桂子 絵本原画展(2022年7月16日~9月4日)」にて

参加者:美術館職員2名、 みるみるメンバー4名、 一般1名 計7名

ファシリテーター:房野

鑑賞作品: 「ちいさな島のおおきなまつり」 浜田桂子 新日本出版社 2017年

安来市加納美術館での鑑賞会2回目は浜田桂子さんの絵本の原画展でした。

展示室の壁にぐるりと、絵本の1ページ目から文章のついていない原画の状態で展示されています。絵本ですので、ひとつの物語の中でお話の一場面として見る、という見方もできますし、 浜田さんの絵は具象で、シンプルではあっても1枚から多くの物語が想起されるような見ごたえのある作品ばかりでした。その中から私は心惹かれる1枚を選び、「絵画作品」として鑑賞しました。

選んだ作品は沖縄県の小さな島、竹富島に伝わる種子取祭をテーマにした絵本の1ページ目。まだ、「祭り」につながる要素はない絵でしたが、島の何気ない日常の、人々のつましい生活という基盤があるからこそ、非日常の「祭り」がより際立つのでしょう。そんな島の人々の暮らしを、たくさんのモチーフが物語っていました。 「平和」をテーマにした浜田さんの絵本には、悲惨な「戦争」について描かれた絵本もありますが、みんなの笑顔や日々の幸せが持続することこそが、「平和」なのだと、この絵本から感じました。また、私は以前オンラインみるみる鑑賞会でファシリテートした安野光雅作「旅の絵本 日本編」が心に浮かび、似たテーマを含むこの作品で、あの時のリベンジを果たしたいとも思いました。前回の反省から「しっかりディスクリプションすること」「たくさんあるモチーフが並立するだけにならないように、焦点化していくこと」「そこからどう思う?」と解釈へつなげることを心がけようと思いました。

 

<鑑賞の流れ>

(1)たくさんのモチーフのディスクリプションからフレーミング、フォーカシングへ

(①~フレーミング、パラフレイズ、ファシリの投げかけなど)

①物や建物から風土や土地柄について

屋根にシーサーの置物が乗っており、赤い屋根で白漆喰、低い平屋の家屋の様子から、すぐに沖縄ということに気づき、皆さんがたくさんの「沖縄」らしさを見つけました。水牛、色や日差し。道の白さから未舗装でも、きれいなのは、掃除をしている住民がいるから。

②人々の様子について

ランドセルを背負った子どもたち、陰の濃さや長さから朝の登校の様子。草刈りをしている男性、花の手入れをしている女性、涼しい朝方に一仕事している様子、バイクは何かの朝の配達かも? 朝の活動が見えるから一日の始まり。

③「人の様子から何か気づくことは?」

朝の挨拶など声を掛け合っている。 人々の目線があっている。作業を止めて顔を上げて笑顔で声をかけている。近所の知り合い同士。

④「あったかい関係性ということですね。」

地域の温かさを感じる。同じような帽子をかぶっている人がいることから、同じ地域の関係ある人々。地域の民芸品なのかも。

⑤「地域という言葉が出ましたが、コミュニティがあると感じたのでしょうか。」

ここでは子どもと年配の方が多い。時代は近代で父母は仕事に出ているのかもしれない。いろんな世代が一緒に暮らしている。そんな朝の始まりを描いているのでは。

 

(2)ディスクリプションから作品の解釈へ

⑥「たくさんのモチーフを発見しましたが、それからどんなことを考えましたか?」

右上にぼんやりした空間があるのはどんな意味があるのか?と考えている。温かい雰囲気を感じるとともに、緑から黄色にかけての色は季節の芽吹きを感じる。

⑦「全体を見て、描かれ方に気付いたことは?」

道は絵の外へ続いているので、この先はどのように想像しますか?という作者のメッセージなのでは。この先もきっと明るい、プラスの印象を見る人に考えてほしいのでは。

沖縄独特の鮮やかな赤もあるが、緑の優しい感じをぼんやり描いている。はっきり描くところと、あえてあいまいに描くことで、この道の先や生活をイメージさせる描き方をしている。

右角の黄色の色から、こちらから朝日がさしていて、あえて説明的に描かず、見えていないところも想像させている。

左下は暑い感じ、右上は少し涼しい感じがする。

⑧「人工的なものというよりは、自然とか、空気、温度を感じるということですが、その描き方から感じることは?」

最新の文明が潤沢ではないが、この暮らしはかけがえのないもので、ここにいる人がそれを大切にしていて、これからも大切にしていきたいということが丁寧に描かれている。つましい暮らしだが、豊かで牧歌的な感じ。文明に侵されていない。癒されに行きたいな、と感じる。

心の豊かな人々のふれあいが描かれている。

⑨「自然や動物が豊かに暮らしている、現代的なテクノロジーはないが、つましく豊かで幸せな、そういう空間がここに満ちている。見ているだけで癒される、行ってみたいと思わせるような空間だと私も感じました。ヤギや蝶々など、リアルに鮮やかに描かれているけれども、あいまいで温かい緑の空間が描かれていて、この先もみる人に考えてほしい、というメッセージを感じ、いくらでも見続けていたい作品でした。」

<振り返り>

・フレーミングとフォーカシングからサマライズと進めるとよい。

・鑑賞が進むと沖縄特有の色の鮮やかさから地元愛や柔らかさに解釈が変化していった。

・朝か、夕方か、という反対の意見が出たが、対話を進めるうちに朝という解釈になっていった。朝か夕方で絵の見方が変わった。

・ファシリが⑥で解釈に進もうとシフトチェンジしたが、そのタイミングは早すぎた。右上の余白の空間の描かれ方など、気づいている鑑賞者もいたので、もっとしっかりディスクリプションをするとよかった。

・右上の空間についての意見から見方が変わったという意見が多数あった。

・音や会話も感じる良い作品であった。

  この作品からは、「共生」「持続可能な豊かな暮らし」を感じました。発展や拡大を求めてきた私たちの生活は本当に豊かで幸せなのか?ウクライナで戦争が続く今、自分たちの生活にも思いを巡らせ、「幸せ」について考えることができた鑑賞会になったと思います。

コロナ禍以降、私にとっては3年ぶりの美術館でのリアル鑑賞会でした。やっぱり参会しての対話はいいなあ・・・今回この作品に出会えて、この空間を共有することができて幸せなひと時でした。 この機会を与えてくださった加納美術館の皆様、ご一緒できた皆様、本当にありがとうございました。

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「島根県造形教育研究会研修会」福先生の講演会と春日さんの鑑賞会に参加しました!

2022-09-19 13:31:35 | 対話型鑑賞

令和4年度 島根県造形教育研究会の研修会に参加してきました

日時:令和4年8月1日(月)

会場:島根県大田市民会館

正田 裕子 レポート

○会場の様子

  開会前より多くの参加者が来場し,研修の期待で熱気にあふれる状態でした。3年ぶりの対面での研修に大きな期待を寄せる言葉があちらこちらから聞こえてきました。

 

○「対話型鑑賞で獲得する『生きのびる力』」講演会 京都芸術大学教授 福のり子先生

以下,個人の感想です。

(1)心に残った言葉

「ナビゲーターは,交通整理・場づくり・まとめ役・火付け役」

 オープンで平等な学びの場である対話型鑑賞。ナビゲーターの役割を改めて自覚しまし

た。鑑賞者の学びが広がるように,精力的に実践に努めたいと思いました。

「できることを今までよりもう少し意識してやってみよう」

オープンクエスチョンで対話をつなぐ場は,鑑賞の多様な意見を歓迎するものであり,思考に根拠(客観)を求めるものであること。ナビの問い直しが,鑑賞者に深い思考を促す。納得です。

「みる」という行為の複雑さ

 人が物事を「みる」時,自分の歴史や価値観を背負ってみる,見たいものをみたいようにしかみないとのこと。主観にとらわれずみるためにも,他者の視点は必要だと思いました。

「きく」という行為の意味

ACOPプログラム終了後、18歳の学生さんが,古代哲学者エピクテトスと同じ言葉を福先生に伝えられたそうです。「口が一つで耳が二つあるということは,人はしゃべる倍の量,他の人の話をきいたらよいのですね。」と。示唆に富んだ内容であり,積極的に他者の奥にあるものを「きく」ことの大切さを感じました。「もっとあなたのことを知りたい。」と思い続けられるナビでいたいと思います。

(2)「対話型鑑賞を経験すること」の意味

作品を見て対話をすることは,批判的・論理的な思考・コミュニケーション能力など多くの力を獲得する機会となる。そして,他者との集合知を得ることが,先の見えないこれからを生き抜く力となる。そんな「対話型鑑賞」はワクワク(?)からワオ-(!)の連続。

 さあ,サバイバルを生き抜くぞ。

 

 

○「対話型鑑賞体験」ナビゲーター 本会員 春日美由紀さん

作品「ファン・ゴッホの椅子」 作者:フィンセント・ファン・ゴッホ

発言者の意図をくむ言い換え・ピュアにみることから始まる思考

 多くのことを述べていく鑑賞者の発言を端的に言い換え,発言の根拠を丁寧に問い直すナビゲートが,とても参考になりました。また,作品や作者に関する知識をもつ鑑賞者に対して,客観的に「みる」「きく」ことを促すのはなかなか難しいとも考えさせられました。鑑賞者の発言を問い直し,思考を深める場をつくるために,自分自身が実践し続けることが大事ではないかと、改めて学ぶ機会となりました。

 

○研修参加者の感想(島根県造形教育研究会研修アンケートより要約)

 ・生きのびる力と対話型鑑賞がどのようにつながるのか疑問だったが,自ら学ぼうとするスイッチを入れることが可能なプログラムだと,講義を聴いて納得できた。

・他の人の意見を聞いていく中で,最初は見えなかったものがどんどん見えてきて,そこから想像が広がっていくのを実感できたことに、とてもワクワクした。作者名やタイトルを出さないのは,純粋に作品に向き合うための手立てとして必要だと思った。

・初心に帰った気がする。生徒たちと向き合ってその声に耳を傾け,対話型鑑賞を通して生徒たちの中にあるさまざまな能力を引き出すことができればと思う。                      

・対話(自己・作品対象・他者)の大切さはすべての教科につながる。「正解」があると疑わないきらいがあるこの時代,授業などで問いを立てる楽しさや有用性を児童・生徒、保護者等に発信していきたい。

○最後に

 ご多忙の中,研修講師をお引き受けくださった福先生と春日さんに心よりお礼を申します。3年ぶりの帰国の中,来県くださった福先生。示唆に富むご講演は今回も大きな気付きがたくさんありました。春日さんから,鑑賞者を大切にする姿とともに思考を促すための問いかけるスキルを改めて学ばせていただきました。

「島根県造形教育研究会研修アンケート」にもあるように,対話型鑑賞の教育的効果を実感する研修でした。「もっと対話型鑑賞を体験したい。」という多くの参加者の声は,教育現場において他者と学び合うことの必要性を肌で感じているからの意見といえるのではないでしょうか。

終わりになりましたが,研修開催にあたられた関係者の皆様、有意義な学びの機会を本当にありがとうございました。

 

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