南英世の 「くろねこ日記」

長期腐敗体制(安倍政治の総括)

 

『長期腐敗体制』 白井聡著 角川新書 2022年9月10日 第6刷発行 を読んだ。

著者は第二次安倍内閣成立以降の日本の政治体制を「2012年体制」あるいは「長期腐敗体制」と呼び、この時期の安倍晋三政権は、「内政も外政もただひたすら出鱈目をやっただけであり、その結果、日本の統治は崩壊した」と結論付ける。 

確かにアベノミクスなるものも、あとで振り返ればほとんど効果が見られなかったことは下に示した経済成長率のグラフからも明らかである。

また憲法学者の意見を無視して2015年には安全保障関連法を成立させ、さらにはモリカケ問題や桜を見る会問題、不祥事のもみ消しを図った官僚が論功行賞で出世、賃金は上がらず、北方問題は一ミリも進展せず、挙句の果てには統一教会問題まで噴出してきた。これでは安倍政治が「出鱈目」であったと批判されても仕方がない。

問題は、それにもかかわらず国民はなぜ自民党政権を支持してきたかということである。一般的には「野党が弱いから」「小選挙区制がよくない」などと説明される。

しかし、著者はここで独自の見解を示す。すなわち、「政権担当能力は自民党にしかないという観念に凝り固まった有権者が多数存在し、政策の中身をよく見ないで、なんとなく自民党に入れている人が多いから」であり、「思考を停止した政治的無知が根本的原因である」と主張する。

しかもこうした状況はデモクラシーが堕落したからではなく、むしろデモクラシーの本来的な状況であると述べ、民主主義というシステムに対する強烈な危機感をあらわにする。

デモクラシーは一歩間違えれば衆愚政治となる。だから、過去には参政権の拡大に反対し制限選挙の時代が長く続いた。そうしたなかで、有権者年齢の引き下げが行われた。18歳・19歳の当事者が要求したわけでもないのに18歳に引き下げられたのはなぜか。

著者によれば、若年層は思考を停止し(某広告会社の言葉でいえばB層)、なんとなく自民党を支持している人が多いからであり、有権者年齢の引き下げが自民党に有利に働くと考えたからだったと説明する。

高校の政治・経済を担当する教員は、我が身の安全のために現実的な生臭い政治のことはほとんど扱わない。真実を語ればどんな災難が自分の身に降りかかるかわからない。だからみんな委縮している。

しかし、教育には「いいものはいい、悪いものは悪い」と批判できる自由が重要である。中立とは政権を翼賛することではないはず。もちろん野党を賛美することでもない。日本が戦前の時代に逆戻りしたり、中国やロシアのようになったりする事態だけは何としても避けなければならない。

国民の半数以上が反対している国葬を、国会の承認を取り付けることもなく閣議決定だけで強行する。これが民主主義国家のすることだろうか。考えてみれば、日本では民主主義も基本的人権も自らの力で勝ち取ったものではない。根付かせるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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