瀧澤美奈子の言の葉・パレット

政を為すに徳を以てす。たとえば北辰の其所に居りて、衆星の之に共(むか)うがごときなり。

渡り鳥の不思議、冬眠の不思議

2012年12月15日 | 新聞連載「自然のふしぎ」のページ
明日は衆院選。各候補者の声が町に響いています。経済の長い低迷に悩む日本に、国民はどのような選択をするのでしょうか。そんなことを考えながら帰宅すると、オリーブを短く刈り込んだ生け垣からピピーっという可愛らしい声を上げて、2羽の小鳥が飛び立ちました。メジロです。毎年この時期、我が家の同じ生け垣をねぐらにしているメジロファミリーがいるのです。玄関前のこと、人の出入りが結構あるのですが、なぜか居心地がいいようです。夏は山間部で過ごし、冬越しのために東京都市部までやってくるのでしょう。

 人間界の騒々しさをよそに、動物たちは彼らの工夫で生き抜いています。とくに厳しい冬は、動物たちにとって、もっとも知恵の出しどころ。先月と今月の新聞連載は、そんな動物たちの不思議な習性、「渡り鳥」と「冬眠」をテーマにしました。



 渡り鳥は、春は繁殖地を求めて北上し、秋には冬越しのために南下します。毎年何千キロもの長い距離を移動する渡り鳥の飛行ルートや目的地は、だいたい決まっています。地図も持っていないのに、どうやって道を間違えずに、目的地まで長距離を移動できるのかが、長年の謎です。

 太陽や星の位置から方角を知ったり、地上の目印や地形、あるいは匂いを覚えていたり、地球の磁場(地磁気)を感じて方角を知ったりと、複数の情報から判断しているようです。
 とりわけ不思議なのは方角。人間なら方位磁針を使わないと分かりませんが、鳥たちは、「方角を感じる」ことができるのです。これは、私たち人間にはない特別な能力です。
 現在も研究が続いていますが、渡り鳥には地磁気のわずかな変化を、体内の化学変化のしくみを使って「見る」能力があるという説が有力視されています。具体的には、渡り鳥の網膜にある光色素が「ラジカル対機構」という量子力学的な効果で地磁気に反応し、その情報が脳の前頭葉にある「cluster N」という場所で処理されていることを確認した論文などがあります。
http://www.nature.com/nature/journal/v461/n7268/full/nature08528.html#B2




 鳥は何千キロも飛んで暖かい土地に移動することができますが、そのようなことができない哺乳類のなかには秋の終わりから春まで寝て過ごす動物がいます。「冬眠」です。
 冬眠をする動物は、クマ、シマリス、ヤマネなどですが、日が短くなり、寒くなってきたのを感じると、体が自然に冬眠モードに切り替わるのだとか。
 冬眠に関しては、たくさんの解明されていない謎がありますが、とくに不思議なのは、冬眠中の動物に、がんや感染症などの病気を起こさせようとしても、病気にならず、それどころか、冬眠する動物のなかには、平均寿命より何倍も長生きする個体がいるのだそうです。冬眠には健康維持と若返りの効果があるかもしれないということで、ヒトへの応用も視野にいれた研究が行なわれています。
 また、ヒトは冬眠こそしませんが、冬眠モードに似た身体状態への切り替えが起きているのではないか、それがとくに著しいのが、冬にけだるく気分がすぐれない季節性鬱と関係しているのではないかという説もあるそうです。秋に食欲が増して、冬はなんとなく気だるいというのは、誰しも経験のあるもの。半年間も寝て過ごすなんて、いいなあとヤマネのことを考えたことがありますが、いつか、人類は冬眠をコントロールすることによって自らの食料問題を回避しようとする日が来るのでしょうか。


参考文献:『冬眠の謎を解く』近藤宣昭著(岩波新書)
『冬眠する哺乳類』川道武男ほか編(東京大学出版会)
 
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