温室効果ガス削減をめぐる国際会議COP19が23日、新興・途上国を巻き込んだ温暖化対策の2020年以降の次期枠組みとして「自主目標方式」を導入することを決定し閉幕した。自主的に参加した国だけに強制的に温暖化ガスの削減幅を割り振るしかなかった「京都議定書」からの大きな転換であり、一定の成果といえる。ただ、自主目標では自国に甘い目標設定をするのではないかという疑念もあり、新たな枠組みの下で、温暖化防止にほんとうに効果のある削減が実現できるかどうかが課題となる。各国の国益をかけた交渉の難しさに、あらためてため息の出る思いで見ている。
一方、このような「表」の動きとはべつに、気候変動への適応という文脈のなかで、各国政府と国際機関、そして科学者による、「地球観測データを活かした国際協力」がはじまっている。タイムリーに地域に必要な観測情報や技術の提供を行うことで、おもに発展途上国の環境リスクを低下させようという国際協力プログラムである。日本政府もアフリカとアジアで取り組みを行っているが、一般的にはあまり知られていないと思うのですこし紹介してみたい。
21世紀は「水の世紀」といわれる。しかし、たとえばアフリカでは渇水リスクが高いにもかかわらず5%の水資源しか使われていない。貯水や洪水対策が必要だ。だが、どうやったらよいか。投資に見合った成果を出すためには、いつ、どの場所が、どのように水に対して脆弱かという観測データが欠かせない。
観測データを政策に役立たせるには、さまざまな手段で得た膨大なデータを情報として活かすノウハウが必要だ。人工衛星で得たデータ(土地利用形態の把握、植生、重力計測による土壌の保水量、河川の状態、気温、降水量、標高などの地理情報)と地上で得た観測データ、また貧困層がどこに住んでいるのか、開発のリスクにさらされている地域はどこかといった社会データを組み合わせることにより、その地域に必要な水資源対策に役立てる手法である。
観測データをアジアやアフリカでの洪水や渇水など水資源管理に役立てるプログラムは、東京大学の地球観測データ統融合機構のイニシアティブによるもの(出資は文科省)で、アジアに関してはAWCI(Asian Water Cycle Initiative)、アフリカに関してはAfWCCI(Africa Water Cycle Coordination Initiative)というプログラムである。現地研究者のキャパシティビルディング(能力開発)を含めた国際貢献という側面と、膨大な観測データをタイムリーな水資源管理に役立てるノウハウの開発という先端研究との接点に存立している。科学技術を用いた外交の一部とも位置づけられる。
ただ、本当に発展途上国で必要とされる対策を行うためには、地域の実情に合わせた提案(研究)でなければならない。その意味もあって、25-27日にかけてアジア、アフリカ各国から関係者を招き、東京大学でAWCI、AfWCCIの初のジョイントシンポジウムが開催された。
このシンポジウムはGEOSSも主催者となった。GEOSS(
http://www.earthobservations.org/geoss.shtml)とは、世界89カ国の科学者や機関が集めた地球観測データを風通しよく流通させ、お互いに使いやすくしようという政府間の取り組みであり、日本は主要参加国として立ち上げから10年間主導的役割を果たしている。
このようなプロジェクトを見るにつけ思うのは、「科学的な事実に基づいた合理的な選択には国境がない」ということである。観測データを公開し、相互に流通させることができれば、そこから導かれる「やるべきこと」は誰の目からみても明らかである。イデオロギーも経済も国益最優先も通用しない。裏を返せば、だからこそGEOSSへの協力の程度にせよ、国によって濃淡があるともいえる。そうした事情もふまえると、データの積み重ねだけで世界を変えていくというのは無理にしても、個々の課題に対しては是々非々の議論の土台として観測データがさらに重視されることを期待したい。