Flora Yin Wong - Cold Reading (アルバムレビュー/感想）

洋楽レビュー/感想 2023



雄大な自然の美しさや自然現象の驚異や神秘的な体験を前にした時の
「息を飲むような美しさ」と「思わず畏怖してしまう感じ」や
「根無し草のような感覚」や「エントロピー」などを表現＆描写している
ダークアンビエント/エクスペリメンタル作品の、
Flora Yin Wong 「Cold Reading」のレビュー/感想。







◆Flora Yin Wong - Cold Reading
中国とマレーシアのハーフでロンドン育ちの女性プロデューサー/DJの「Flora Yin Wong」の新作なんですが、
父と訪れた自身のルーツとなるクアラルンプールや、
冬の京都、韓国の山寺での一夜のスピリチュアルな体験などの、
東アジア/東南アジアでの経験や出来事を
超現実主義的でコンクレートなサウンドデザインと
ストーリーテリングで表現＆描写にしており、
雄大な自然の美しさや神秘的な体験を前にした時の
「息を飲むような美しさ」と「思わず畏怖してしまう感じ」が同居していて、
圧倒的なまでに深遠で神秘的であると同時に、
驚異的なまでに幽玄で美しい…

根無し草のような感覚や虚無感とエントロピーの上で
幽玄に響くヴァイオリン・ソナタの圧倒的なまでの神々しさは
畏怖するような美しさと安堵感みたいなものがあるし、
雑木林の中を進んでいたら突如嵐になって神秘的な光景が見られた的な
途中で暴風雨の中で走る足と小川の中を歩く音などの自然の音をループさせている「Meadow Copse」、
一歩外に出れば沢山の生物や霊的なものが居るように感じる
森の中にポツンと佇む京都の山寺の深夜に感覚が鋭くなったような雰囲気がある「Hands」などなど、
スピリチュアルで特別な体験を音で表現したような感じ満載ですし、
多種多様のミニマルな反復音がドロステ効果のように
音楽に深みと厚みを与えている「Nectar Dripping」に、
美しさに侵食されていくかのような「Beautiful Crisis」などなど、
統一感の中に曲のバリエーションやフックもしっかりありますし、
幽玄な美しさや自然現象の奔放さを前にしたら人は圧倒的に無力であり、
ただそれを受け入れる事しか出来ない的な
「強迫観念的な美しさ」と「圧倒的なまでの無力感」なんかも
見事なまでに表現＆描写されている！

実験的で難解で幽玄でダークでアート的で
自然信仰やスピリチュアル的なものもあるので
良くも悪くも「怖い」要素も強い作品ではあるんでしょうが
ここまで「畏怖するような美しさ」を表現＆描写出来ている
凄味のある作品はそうそう無いように、
個人的には中々に興味深くて素晴らしい作品だと思う。
難解で幽玄な名作！