新潮文庫
1978年 1月 発行
2002年 3月 63刷改版
2015年 5月 93刷
解説・山本健吉
322頁
1902年(明治35年)に実際に起こった八甲田雪中行軍遭難事件を題材に描かれた山岳小説です
日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で強行された『人体実験』
それは、日露が戦争状態に入った場合、青森と弘前、青森と八戸方面との交通は八甲田山系を縦断する道路を利用せざるを得なくなるだろう、という予測の元、冬の交通路が設定できるか否かの可能性について探るものでした
青森を出発し、199名もの死者を出した日本陸軍第8師団の青森5聯隊と、弘前を出発し、全行程を踏破した弘前31聯隊
2隊を対比して、自然と人間の闘いを描きます
まだ寒冷前線などという言葉もなかった時代のこと
弘前隊は、雪の多い地域で育った兵士が多く参加しており、雪中装備、行動に詳しかったのと、地元住民を案内人に立てたこと、さらに指揮命令系統がしっかりしており、劣悪な気象条件の下、無事雪中行軍を終えることが出来ました
一方、青森隊は東北出身者とはいえ雪にさほど馴染のない兵士がほとんどで、装備不良、指揮系統の混乱などが悲劇を招いたのでした
暴風雪の中、彷徨する青森隊の鬼気迫る光景が目に見えるようでした
気象学者で登山家でもある新田次郎さんだから描けた部分も多いかと思います
遭難事件の後始末、生き残った人々のその後なども丁寧に描かれています
陸軍内部のライバル意識、階級意識が招いた悲劇と同様のことは今に至っても日本国内のみならず世界中に存在しているのではないでしょうか
陸軍ねぇ‥‥机上で作戦を立てる人は、優秀な人たちだとはいっても、同質の小集団の中での優秀性でしかないと思うのですよ(^o^)/
原作は、少し吉村昭雪山版のような感じも受けました。
narikejpさんは雪山にも里の雪にも馴染があるのですね。
積雪20㎝で機能マヒするような土地で育ってきたので本書のような世界は全くの異次元。そこから帰還する人間がいることにすら驚きでした!
いつの世も、エリートなる人種が牛耳っていてはロクなことはありませんな。