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吉田篤弘「モナ・リザの背中」

2014年01月11日 | や・ら・わ行の作家

 

中央公論新社
2011年10月 初版発行
332頁

 

 

週の半分ばかり大学へ出向いて三十人あまりの学生を相手に芸術を論じているドンテン先生、50歳

 

朝は6時半に目覚め、じゃぶらじゃぶらとヤカンに水を入れガス台の上へ載せ湯を沸かす
冷蔵庫の扉をあけて新鮮な卵を取り出し、いっとう小さな柄付き鍋で、うで卵をつくらんとする
台所の時計の秒針が三回転半するあいだに、五十年が凝縮されて濃密な卵がうで上がる
食パンは6枚切りのものを欠かさず買ってあり、適当に焼きバターをへずりとってはパンにのせて食す
うで卵は殻を剥いて塩を振り、魔法瓶の湯を湯呑みに注いでインスタント・コーヒーをつくる
以上、卵と食パンとコーヒーと赤く熟れたトマトを丸かじり
という朝食を終え、寝間着から外出着に着替え、大学に行く日もあれば、終日、都内を散策する日もある

 

ある日、助手のアノウエ君(本名はイノウエ君)にもらった目薬=メヲサラ(これもドンテン先生のネーミング)を注したことに起因すると思われる不思議な現象が始まる
それは、知らぬ間に絵画の中に入り込んでしまう、というものだった
黒沢明監督の「夢」、NHKの「額縁をくぐって物語の中へ」などが思い出されます

 

やがてアノウエ君も絵画の中に入り込んでしまい…

 

古今東西の名画やポスターの中で幾度も出会う男性
絵画の奥は別の絵画に繋がっていて、行き来は出来るものの自分の思い通りにはならないらしく
彼はある絵から逃げ出してきた人物で、元の絵に戻れなくなってしまったのだ

 

時間は止まり空間も歪む二次元世界の中で繰り返されるドンテン先生とアノウエ君の芸術論議はなかなか興味深いものがあります
そればかりでは退屈してしまう読者を楽しませるような、観念的な世界を行き交う冒険譚もあり、一風変わった作品でした

 

モナ・リザを背後から見たら、どのような風景が広がるのでしょうね

 

吉田さんの想像力と、豊富な語彙、1頁に1つは出てくる巧みなオノマトペには全く脱帽です

 

 


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