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柴田よしき「いつか響く足音」

2012年10月03日 | さ行の作家

 

新潮文庫

2012年5月 発行

解説・椰月美智子

271頁

 

 

今は寂れてしまった郊外の団地を舞台にした連作小説集

 

「最後のブルガリ」

そこそこの学校を出て事務職に就いていた絵里の人生の歯車が狂い始めた

母の入院と死

治療費に多額の借金をしていた父は自殺

父の生命保険と住んでいたマンションの売却金とで借金は消えた

しかし、同時に絵里の住む場所もなくなった

家財道具一式を処分し、賃貸マンションに移り住んだ絵里は「幸い仕事はある、給料は貰える、あとは運が上向くだけ」と思っていたのだが、そうではなかった

26歳、課内の女性正社員の中で最年長になっていた絵里に残された道は寿退社

しかし、結婚を考えていた相手に裏切られ全ての望みを失った彼女が途方に暮れていた時、偶然街で会った高校時代の同級生朱美に誘われたのが夜のバイト

ブランド物を買い漁り派手な生活を続けた結果、またもや多額の借金を背負い住まいから逃げ出す羽目に陥る

そして転がり込んだのが朱美の住む団地だった

 

「黒猫と団子」

両親が離婚、高校を中退した朱美の仕事はキャバクラ嬢

ある日、父親とばったり再会

なんとなく父親の暮らす団地に転がり込むことになる

娘が同居してくれて嬉しいのだけれど居心地の悪さもあってか、ふらりと出かけたまま戻らない父親

それで、どうせ一人なのだから、と前話の絵里を受容れることにしたのです

前話では絵里から見た朱美が、この話では朱美から見た絵里が描かれています

お互い相手に対して考えていることを隠して上手に付き合っているのですね

よくわかります

 

「遠い遠い隣町」

夫に先立たれ一人暮らしの塚田里子

隣町には息子夫婦が住んでいるのだが疎遠になってしまっている

その原因は…

こういうお姑さんは、いけませんね

自分が嫁の立場だったら怒り心頭、二度と顔も見たくなくなります

里子もわかってはいるのです

頭の中では

でも、何故か口に出してしまう

独り暮らしの寂しさについつい息子夫婦を訪ねてしまう

それも、喜ばれもしない手作り料理を持って

 

「いつか響く足音」

何故か縁に恵まれず最初の結婚は夫が酒乱で離婚

2度目の夫は病気で死亡

3度目の夫と結婚し、この団地にやってきた宮前静子

最初の夫との間に生まれた二人の男の子のうち次男は医者になって幸せな人生を送っている

今の夫とも仲良く暮らしておりこのまま幸せな生活が続くと思っていた静子に襲いかかる不幸

次男から連絡があり、医療過誤で訴えられ多額のお金が必要だという

ごく普通に地味に暮らしているのに、何故だかついていない人生を送る女性が犯した罪

いや、あれは本当に罪だったのか、それとも偶然だったのか

 

「闇の集会」

猫に執着するカメラマン、米山克也

幼い頃は自宅アパートの階段にいる猫が怖くて仕方がなかった

その猫が消えることを願ったら本当に姿が見えなくなったことで、いつか猫に復讐されるのでは、という不安に苛まれる

猫たちが闇の中で開く集会の場で、猫殺しの罪で裁かれる自分、というイメージが頭から離れないのだ

何かを願ったり望んだりしたら、さらに大きな裁きを受ける、そんな恐怖が克也の身を縮こまらせた

男らしく、男らしく、男の子なんだから!と言い続ける母親の言葉にさらに委縮してしまう

猫たちの闇の集会は本当に存在するのか?

ネットに流れる噂を頼りにこの団地にやってきた克也は夜な夜な猫を探して写真を撮り続ける

 

「戦いは始まる」

さて、ここで「絵里の問題についてみんなで知恵を出し合う会」ということで登場人物たちが朱美の部屋に全員集合

皆、里子さんを中心に繋がっていたわけです

持ち寄った手料理、惣菜、果物、おつまみ、お酒、ビール

里子さんの大量の手料理のお蔭か、年齢も性別もバラバラの面々の集まりは楽しく盛り上がります

ここで登場するのが仲島恭平

新婚時代からずっとこの団地で暮らしてきた彼の話は、とても悲しかったです

仕事人間で妻を顧みることのなかった彼が今も背負っているものの重さはいかほどのものなのでしょう

 

 

「エピローグ」

ここで、あたしは安心できる

と思うようになった絵里

 

朱美も、ふと絵里が妹とか姉だったらいいな、里子さんは叔母さんか何か、と考えるようになります

別に血なんか繋がってなくても、家族でいいんだ

この団地全部、家族でいいんだよ

鬱陶しさやめんどくささもみんな含めて、家族で、いいんだ、と思う

 

 

心の闇を抱えた登場人物たち

寂れた団地で知り合いになった彼らは、「家族」になって明日に向かって強く生きていくのです

 

人と繋がる、人と関わるって素敵なことですね

 

 

 


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