私は藤井九段の将棋を観賞するとき、ある一つの期待を抱きます。
それは、今日は一体何を見せてくれるのだろうかという期待。今まで考えてもみなかったものを、見せてくれるのではないかという期待です。
もちろん、手が予測できないという意味では他のプロ棋士も同じです。ですが、他のプロ棋士の手を見て感じるのは、よくぞここまで深く読んだものだという感嘆。例えるならば、はるか遠くに見えていた険しい山に登頂した人に感じるような、自分には決してそこまでは到達できないという気持ちです。
それに対して藤井九段の構想は、え? 一体これはどこから飛んできたんだ? というような驚き。あるとき、藤井九段がそっとどこかを指さす。その先を視線で追ってみると、今までは見えていなかった美しい風景が広がっている、そんなイメージなのです。
そういう意味で、今回の王位戦は多くのプロ棋士も藤井九段が二日制の舞台で何を見せてくれるのか、と楽しみにしているように感じます。少なくとも、山崎七段は明らかに藤井九段の独創的な指し回しを期待しているような解説をされていましたしね。
おそらく、対局者である羽生二冠も今回の王位戦を楽しみにしているのではないでしょうか。昨日も書いたように、直近20局では羽生二冠の19勝1敗と、羽生二冠が大きく勝ち越していますので、ライバルとはとても言えない状況です。ですが、今日の時間の使い方を見ると、羽生二冠は、藤井九段の構想を噛み締めるように、全身で受け止めようとしているように私には思えるのです。
そして、藤井九段はそんな期待に見事に応えて見せたのです。
タイトル戦となれば、普段は封じ手予想とかするのですが、今回はなんとなくする気がしません。それよりも、まったく真っ白な気持ちでこの二人の将棋を楽しみたい。今はそんな心境なのです。
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