
4/28-29 あれはいつだった? 第99話
駐車場を出るとそのまま会社に行った。
旭は社長だったけれど、誰よりも出勤が早かった。
でもその日はすでに多くの社員が出社していた。
長野が帰国するまでまだ3日ある。
その日は長野のホテルに戻り泊まった。
食事をルームサービスで取った。
朝もルームサービスにし、食べないものはトイレに流した。
旭は長野に直子の脱走を電話で知らせたがホテルを使い続けた。
直子が戻ってくるかもしれないという口実だった。
長野の帰国日予定の日、長野はチェックアウトしたの印に部屋のカードを
カード入れに入れた。
朝9時前フロントは混んでおり、誰も旭を気にかけなかった。
どうせ払うものはない。
旭はその夜、スーツケースを男に返した。
そしてこれはスーツケースの始末費だと直子の指輪を渡した。
旭は自宅のマンションに帰った。
妻、マリコには疲れたからと書斎のベッドに一人で寝ると言って
早々に眠りについた。
直子が泣いていた。
直子の乳房をつかんでいる感触があった。
直子がもっと、もっととせっついてくる。
旭はうるさいと怒鳴って、直子の乳房を引きちぎってしまった。
血がそこら中に飛び散った。
旭は目を覚ました。
怖い夢だった。
心臓がバクバクしていた。
妻マリコはカタカナのマリコだった。
年は直子よりずっと上で良家というか金持ちの娘でその持参金額で
結婚を旭は決めた。
旭はマリコに2-3人の子供を産ませ、なんとか男子を作りたいと思っていた。
でも肉体的にはつまらない女であまり触る気がしなかった。
マリコは美しい顔立ちに反して丸太みたいに凹凸のない体をしていた。
旭は婚前交渉でそのことはわかっていたけど
楽しみは外で自分に言い聞かせ結婚に踏み切った。
マリコは妻とはという昭和の定義がなぜか頭にあって
あまり口をきいてくれない夫に不満は飲み込んでいた。
直子のような性欲は皆無で、旭が求めてこないのはどちらかというと
幸いだった。
そのマリコが妊娠したという報告をマリコの実家から聞かされた。
それから数か月後に病院の検査で長子は男子と聞かされた。
これでもうあの女には触らなで済むと旭は思った。
そんなころに白骨死体が発見された。
そしてその白骨死体が今村直子だとニュースで見て、聞いて
一時はテレビ中のワイドショーで持ちきりだった。
長野はショックで警察に乗り込んだ。
でも骨では顔の確認なんかなく、まして家族でもない長野に
白骨遺体は引き取ることもできなかった。
長野が信兄に電話した。
電話で信兄と話しながら、長野の声は次第に涙声になりそのうち
長野は恥も外聞もなくおいおい泣きだした。
直子の葬儀に出た長野はおそらく参列者の誰よりも泣いた。
絶望的に泣いた。
葬儀はニュースにもなったから長野の泣き姿は話題になった。
葬儀も終った夜、長野は今村家にどうせお一人なんだからと
泊まっていくように勧められた。
親戚もない長野にとってそれは初めのお泊りだった。
夕食のテーブルについた長野はテーブルの上のひとつの料理に
釘づけになった。
これ、長野が皿をさした。
切干大根の煮つけですよ、と直子の母が言った。
直ちゃんが作ってくれたことがありますと長野が言った。
家族はみな驚いた。
直子が料理なんかしたのですか?と直子の父が聞いた。
直ちゃんはいくつかの料理ができました。ただ、毎日おさんどは
嫌だと言って・・・・だからうちには松村夫妻がおさんどをしてくれます。
ご主人のほうはプロの料理人だったから
私たちは満足していました。
結婚しようとしている娘がおさんどは嫌だ!!
本当にわがままな娘・こですいませんと直子の父が言い訳した。
直姉ちゃんはと末っ子・直子の下の弟好古が
やる気になればできるんだと言った。
その声にびくっとした長野が直子とつぶやいてじっと好古を見つめた。
この子の声、直子にそっくりでしょ、
と信兄が長野に言った。
その晩、長野は直子の部屋に寝た。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます