・シーン5 クリスティーヌのドレッシングルーム<#8 Before The Performance">
クリスティーヌはドレッサーの前に座ってメイクの仕上げをしている。ギュスターヴはそばに立って、美しい母の姿をうっとりと見ている。
クリスティーヌ
「(台詞)ギュスターヴ、イヤリングを取ってくれる?ダイヤモンドの、左にあるのを」
ギュスターヴはイヤリングを渡し、クリスティーヌはそれを着ける。パウダーを顔に軽くはたいて仕上げをする。
優雅なアップスタイルのヘア、シャンパンゴールドのドレスの姿は輝くばかりの美しさにあふれている。
クリスティーヌ
「(台詞)さあ、これでどうかしら?」
ギュスターヴ
「なんてキレイ! とてもキレイ! 本でみた女王さまのよう」
クリスティーヌ(愛情いっぱいに)
「あなたも、とても美しいわ。本当に美しいわ! 歌い終わったら、ふたりで一緒に過ごしましょう、きっと楽しいわ」
ノックの音がして、ラウル登場。
ギュスターヴ
「(台詞)お父さま! 今夜のお母さまはとってもおきれいでしょう?」
ラウルは完璧な盛装で、朝までの崩れた様子は微塵もなく、いつもの渋い表情も今は見えない。
ラウル
「(台詞)そのとおりだね。僕が最初にお母さまと楽屋口で会った時と同じにきれいだ」
クリスティーヌ
「(台詞)あなたもよ、ラウル。オペラ座のボックス席に居たハンサムな青年のまま、赤い薔薇を投げてくださったあの時と...」
ラウル
今までとは違い、にこやかに
「ギュスターヴ、少しの間外へ出ていてもらえるかな?」
ギュスターヴ
「(台詞)探検してきてもいい?僕ひとりで?」
クリスティーヌ
「ええ、でもステージの裏にいてね。歌が終わったらここに戻って来てちょうだい」
ギュスターヴ
「はい!きっと!」退場
曲解説:第1幕でも歌われた"Beautiful"が短く使われる。
ラウル
「結婚した日から、物事の方向を見失ってしまった」
クリスティーヌ
「(台詞)ラウル...」
ラウル
「僕は自分のとった行動に誇りを持てない」
クリスティーヌ
「(台詞)わたしたちふたりとも...」
ラウル
「僕が望んだもの、置き忘れた全ての望み...どれだけの価値があったことか...。僕はきみに頼む権利も無いが、たった一つだけ、もしきみが僕を愛してくれているなら」
クリスティーヌ
「(台詞)あなた、何でも...」
ラウル
「どうか、歌を歌わないでおくれ」
クリスティーヌ
「(台詞)何ですって?でも、ラウル...!」
ラウル
「恐ろしい過ちを犯していることに気付いておくれ、きみ」
クリスティーヌ(衝撃を受けて凍りつく)
「でも、わたしは歌わなくてはなりません。わたしたちは同意したのです」
ラウル
「あの、地獄が生み出した悪魔が、奴が僕らみんなを彼のゲームに巻き込んだんだ」
クリスティーヌ
「やり遂げさせてください。どうか、聞いて...わたしにはこれが必要なの」
ラウル
「きみにとても必要なこと...僕が否定してきたこと。きみにはきみが知るとおり、きみの傍に戻ったあの男が必要なんだ。きみはきっとあいつを取り戻す、誓ってもいい!僕に訊いてみてくれ! でも、もしきみが僕をまだ愛してくれているなら、どうか今すぐここを離れよう」
クリスティーヌ、動揺して
「(台詞)何を言っているの、ラウル?本気なの?」
ラウル
「(台詞)シェルブール行きの"アトランティック・クィーン号"を3人で予約した。あと一時間で出港する、今からなら充分間に合うよ。お願いだ、僕らと、子どもと一緒に行こう」
「心はここへ置いて行こう」
曲解説:第2幕"Why Does She Love Me?"が再登場、ラウルの無力感と哀しみが際立つ。
ラウルはドアを閉めて部屋を出て行く。クリスティーヌは茫然と彼の立っていた場所を見つめている。
ラウルは自分がファントムとしてしまった賭けの過ちに気付き、そしてもうひとつの、この10年間ずっと彼の心にのしかかっているクリスティーヌとファントムの目に見えない繋がりが再び縒り合される事の不安を何とかして取り除きたいとクリスティーヌに懇願する。
クリスティーヌは、突然の夫の頼みにとまどうが、芸術家としての矜持と夫への愛、そしてファントムへの想いに揺れ動く。
突然、闇が形を成したかのように、ファントムが姿を表わす。ドレッサーの前に戻ったクリスティーヌの背後に音も無く近づき、彼女の首筋に触れる。
クリスティーヌは一瞬、恐怖に凍りつく。
ファントムはクリスティーヌの首に、持参していたネックレスすばやく着ける。 贅を尽くした宝石に彩られた美しいそれは、以前ファントムがオートマタに着けていたものの完成品である。クリスティーヌを誘惑するように囁きかけ、触れるファントム。官能と愛のよろこびに我を忘れそうになるクリスティーヌ。
ファントム
「彼は自分の愛が足りないことを知っている。彼はきみが必要なのは彼ではないことを知っている。 きみが、より素晴らしいものから成ることを。これは我々が認めたことだ、そのとおりだ。彼を埃の中に置いて行く時が来た。
きみがきみとしてあるべき時が来たのだ。音楽をきみ自身のものとして解放する時が来たのだ!」
「その時、まさしくその時、ドラムが響く。きみはかつてのように舞台に立つだろう。群衆は静まり、そして甘い恍惚に浸る、わたしはきみが再び歌うのを聴くことだろう!
そして音楽は、私たちの音楽は、うねり、そしてほぐされ、ふたつの旋律の鎖はついに絡み合う! わたしたちのあるべき姿を現実のものにし、わたしたちは完全なものになる!わたしたちは一つになるのだ! ふたりの絆はゆるぎないものとなろう!
今宵、わたしのために、きみは運命に身を委ねるのだ、きみの歌をもう一度聴かせておくれ!」
ファントムは闇の中へと消えて行く。クリスティーヌは動揺を隠せない。
曲解説:第1幕"The Aire"が歌詞を付けて歌い出され、途中からは"'Til I Hear You Sing"に引き継がれる。時間の経過につれ、同じメロディながら歌詞がどんどん確信を持った内容へと変わっていて興味深い。第1幕の初めでファントムはクリスティーヌの歌をもう一度何とかして聴きたい、と願っていたが、次には「きっときみの歌を聴くだろう」となり、第2幕ではクリスティーヌが歌うことを確信し、それが彼女の運命であると歌い上げる。
ステージマネージャーが現れ、クリスティーヌに出番を告げる。
クリスティーヌ
「あちこちに引きずられ、わたしは何と答えればいいの? 拒むことなどできない、でもそう出来たらどんなにいいか...ああ神さま」
ラウル
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、僕も不安でたまらないんだ」
ファントム
「だが、全ての望みと祈りはきみにかかっている」
曲解説:「オペラ座の怪人」で、クリスティーヌが「ドン・ファンの勝利」に出演することでファントムをおびきよせる囮になることを承知させられたものの、恐怖と、師を裏切ることへの罪悪感の板挟みになって歌う場面の再現。メロディも歌詞も同じだが、最後の歌詞がファントムによって歌われるところに大きな違いと意味がある。
クリスティーヌはドレッサーの前に座ってメイクの仕上げをしている。ギュスターヴはそばに立って、美しい母の姿をうっとりと見ている。
クリスティーヌ
「(台詞)ギュスターヴ、イヤリングを取ってくれる?ダイヤモンドの、左にあるのを」
ギュスターヴはイヤリングを渡し、クリスティーヌはそれを着ける。パウダーを顔に軽くはたいて仕上げをする。
優雅なアップスタイルのヘア、シャンパンゴールドのドレスの姿は輝くばかりの美しさにあふれている。
クリスティーヌ
「(台詞)さあ、これでどうかしら?」
ギュスターヴ
「なんてキレイ! とてもキレイ! 本でみた女王さまのよう」
クリスティーヌ(愛情いっぱいに)
「あなたも、とても美しいわ。本当に美しいわ! 歌い終わったら、ふたりで一緒に過ごしましょう、きっと楽しいわ」
ノックの音がして、ラウル登場。
ギュスターヴ
「(台詞)お父さま! 今夜のお母さまはとってもおきれいでしょう?」
ラウルは完璧な盛装で、朝までの崩れた様子は微塵もなく、いつもの渋い表情も今は見えない。
ラウル
「(台詞)そのとおりだね。僕が最初にお母さまと楽屋口で会った時と同じにきれいだ」
クリスティーヌ
「(台詞)あなたもよ、ラウル。オペラ座のボックス席に居たハンサムな青年のまま、赤い薔薇を投げてくださったあの時と...」
ラウル
今までとは違い、にこやかに
「ギュスターヴ、少しの間外へ出ていてもらえるかな?」
ギュスターヴ
「(台詞)探検してきてもいい?僕ひとりで?」
クリスティーヌ
「ええ、でもステージの裏にいてね。歌が終わったらここに戻って来てちょうだい」
ギュスターヴ
「はい!きっと!」退場
曲解説:第1幕でも歌われた"Beautiful"が短く使われる。
ラウル
「結婚した日から、物事の方向を見失ってしまった」
クリスティーヌ
「(台詞)ラウル...」
ラウル
「僕は自分のとった行動に誇りを持てない」
クリスティーヌ
「(台詞)わたしたちふたりとも...」
ラウル
「僕が望んだもの、置き忘れた全ての望み...どれだけの価値があったことか...。僕はきみに頼む権利も無いが、たった一つだけ、もしきみが僕を愛してくれているなら」
クリスティーヌ
「(台詞)あなた、何でも...」
ラウル
「どうか、歌を歌わないでおくれ」
クリスティーヌ
「(台詞)何ですって?でも、ラウル...!」
ラウル
「恐ろしい過ちを犯していることに気付いておくれ、きみ」
クリスティーヌ(衝撃を受けて凍りつく)
「でも、わたしは歌わなくてはなりません。わたしたちは同意したのです」
ラウル
「あの、地獄が生み出した悪魔が、奴が僕らみんなを彼のゲームに巻き込んだんだ」
クリスティーヌ
「やり遂げさせてください。どうか、聞いて...わたしにはこれが必要なの」
ラウル
「きみにとても必要なこと...僕が否定してきたこと。きみにはきみが知るとおり、きみの傍に戻ったあの男が必要なんだ。きみはきっとあいつを取り戻す、誓ってもいい!僕に訊いてみてくれ! でも、もしきみが僕をまだ愛してくれているなら、どうか今すぐここを離れよう」
クリスティーヌ、動揺して
「(台詞)何を言っているの、ラウル?本気なの?」
ラウル
「(台詞)シェルブール行きの"アトランティック・クィーン号"を3人で予約した。あと一時間で出港する、今からなら充分間に合うよ。お願いだ、僕らと、子どもと一緒に行こう」
「心はここへ置いて行こう」
曲解説:第2幕"Why Does She Love Me?"が再登場、ラウルの無力感と哀しみが際立つ。
ラウルはドアを閉めて部屋を出て行く。クリスティーヌは茫然と彼の立っていた場所を見つめている。
ラウルは自分がファントムとしてしまった賭けの過ちに気付き、そしてもうひとつの、この10年間ずっと彼の心にのしかかっているクリスティーヌとファントムの目に見えない繋がりが再び縒り合される事の不安を何とかして取り除きたいとクリスティーヌに懇願する。
クリスティーヌは、突然の夫の頼みにとまどうが、芸術家としての矜持と夫への愛、そしてファントムへの想いに揺れ動く。
突然、闇が形を成したかのように、ファントムが姿を表わす。ドレッサーの前に戻ったクリスティーヌの背後に音も無く近づき、彼女の首筋に触れる。
クリスティーヌは一瞬、恐怖に凍りつく。
ファントムはクリスティーヌの首に、持参していたネックレスすばやく着ける。 贅を尽くした宝石に彩られた美しいそれは、以前ファントムがオートマタに着けていたものの完成品である。クリスティーヌを誘惑するように囁きかけ、触れるファントム。官能と愛のよろこびに我を忘れそうになるクリスティーヌ。
ファントム
「彼は自分の愛が足りないことを知っている。彼はきみが必要なのは彼ではないことを知っている。 きみが、より素晴らしいものから成ることを。これは我々が認めたことだ、そのとおりだ。彼を埃の中に置いて行く時が来た。
きみがきみとしてあるべき時が来たのだ。音楽をきみ自身のものとして解放する時が来たのだ!」
「その時、まさしくその時、ドラムが響く。きみはかつてのように舞台に立つだろう。群衆は静まり、そして甘い恍惚に浸る、わたしはきみが再び歌うのを聴くことだろう!
そして音楽は、私たちの音楽は、うねり、そしてほぐされ、ふたつの旋律の鎖はついに絡み合う! わたしたちのあるべき姿を現実のものにし、わたしたちは完全なものになる!わたしたちは一つになるのだ! ふたりの絆はゆるぎないものとなろう!
今宵、わたしのために、きみは運命に身を委ねるのだ、きみの歌をもう一度聴かせておくれ!」
ファントムは闇の中へと消えて行く。クリスティーヌは動揺を隠せない。
曲解説:第1幕"The Aire"が歌詞を付けて歌い出され、途中からは"'Til I Hear You Sing"に引き継がれる。時間の経過につれ、同じメロディながら歌詞がどんどん確信を持った内容へと変わっていて興味深い。第1幕の初めでファントムはクリスティーヌの歌をもう一度何とかして聴きたい、と願っていたが、次には「きっときみの歌を聴くだろう」となり、第2幕ではクリスティーヌが歌うことを確信し、それが彼女の運命であると歌い上げる。
ステージマネージャーが現れ、クリスティーヌに出番を告げる。
クリスティーヌ
「あちこちに引きずられ、わたしは何と答えればいいの? 拒むことなどできない、でもそう出来たらどんなにいいか...ああ神さま」
ラウル
「クリスティーヌ、クリスティーヌ、僕も不安でたまらないんだ」
ファントム
「だが、全ての望みと祈りはきみにかかっている」
曲解説:「オペラ座の怪人」で、クリスティーヌが「ドン・ファンの勝利」に出演することでファントムをおびきよせる囮になることを承知させられたものの、恐怖と、師を裏切ることへの罪悪感の板挟みになって歌う場面の再現。メロディも歌詞も同じだが、最後の歌詞がファントムによって歌われるところに大きな違いと意味がある。