secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

SAW2

2009-05-06 21:34:36 | 映画(さ)
評価点:44点/2005年/アメリカ

監督:ダーレン・リン・バウズマン

「あ、そう」

刑事のエリック・マシューズ(ドニー・ウォルバーグ)は離婚した妻の元へ行った、息子ダニエル(エリック・ナドセン)に別れ際に「行ってしまえ」とケンカしてしまう。
息子は情緒不安定になり、万引きを働いてしまったのである。
そんなある日、ジグソウという猟奇殺人鬼の新たな被害者が見つかる。
担当の刑事に来るように言われたマシューズは、天井に書かれたメッセージに目を奪われる。「近くで見ろ、マシューズ刑事」
被害者の首輪に残されていたメッセージを頼りに、犯人のアジトに気づいたマシューズは、アジトに突入する。
車いすに乗った犯人ジグソウは、「ゲームをしよう。二時間以内に息子がいる部屋を探し出さないと、神経ガスで彼は死んでしまうだろう」
マシューズは、息子が追いつめられる様子をモニターで見て、いらだちながらも、ジグソウとやりとりをする。

話題作「SAW」の続編が早くも登場。
特に、見たいわけでもなかったのだが、周りが「TAKESHI’S」がどうしても見たくないとのたまったので、「SAW2」を見ることになった。

良くも悪くも前作の「続編」というテイストになっている。
前作にはまれた人なら、間違いなくはまれるだろう。
基本的には「」とは独立した話なので、前作を見なくてもストーリー上あまり問題はないが、いきなりこの映画をみるとショック受けかねない。
やはりある程度の予備知識をもつべきだろう。

▼以下はネタバレあり▼

残酷な殺戮シーンに、閉鎖的な環境。
「見る」ことをモチーフにして、盲点をつこうという作風は余り変わらない。
その盲点により、今回もミスディレクション的なオチが用意されている。
ただ、今回は前作よりアラが目立つ印象は否めない。

ストーリーを細かく見ていこう。
前作のジグソウはやはり捕まっていない。
前作と同じような手口で、いきなり目覚めると、被害者は見知らぬ一室にいる。
「お前は密告者だから自分の痛みと引き替えにすれば、命を助けてやる。」という、例の論法である。
首にはデスマスク。それをあける鍵は、右目の中に埋められている。
一分間で右目から鍵を取り出し、錠を外さないと死んでしまうという極限状態が作品の冒頭である。
被害者は取り出そうとするがやはり躊躇し、殺されてしまう。

デスマスクが閉じて殺された描写は、傷口はそれほどでもないが、その後流れ出てくる血の量が半端ではない。
そのため、観客は一気に恐怖に突き落とされる。

これはまさに冒頭のシーンであり、今回の「事件」のきっかけにすぎない。
だが、このシーンが前作同様かなり衝撃的な描写になっているため、今後の展開に大きな緊張感が生まれている点は見逃せないだろう。

この映画の手法は、冒頭部にすべてが集約されていると言っても過言ではない。
要するに、衝撃的な描写を多用することによって、観客を恐怖へと導き、その恐怖心で、思考を麻痺させ、作中人物と同様に、正常な判断(謎解き)をさせなくさせるのである。
痛い、怖い、という負の感情が先行する余り、伏線となっている台詞やシーンに気付かないように出来ているのだ。
このやり方は、前作「SAW」でも同じだった
やり方が分かっていても、やはり「痛い」ので、思考は麻痺させられてしまうのだが。

第二の犯行は、八人の男女。
ある部屋(地下室などがあって一戸建ての雰囲気がある)で、閉じこめられたかれらは、目覚める前からずっと神経ガスを吸わされている。
猶予は二時間。
二時間すると、神経ガスが体内にまわり、血まみれになって死んでしまうと言う。
だが、二時間の間に、隠された解毒剤を見つけ出せば、助かる可能性もあるという。

だが、今回も単なる密室ではない。
その八人の様子を、被害者の一人である父親の刑事がその様子を見守るようにし向けられている。
つまり、今回の「SAW」の意味は、見ているのが加害者だけではなく、その被害者の近親者も含まれると言うことである。
息子を助け出そうとする刑事と、何とか脱出を試みる八人が、交互に展開していくことになるのである。

真相を解説しながら説明していこう。
息子以外の七人はすべて、マシューズ刑事が嵌めて逮捕した人間たちであり、その息子に対して憎むようにし向けられていたメンバーだったのだ。
そして、それを知って一番愕然とするのは当然、マシューズ刑事である。
これが明かされ始めた頃から、観客はこの事件がマシューズ刑事に向けられた犯行であることに気づき始めるだろう。

そして、本作の目玉のトリックは、モニターの映像と、息子を追い求めている刑事の時間とが実は前後しているという事実である。
モニターの映像はすべて「録画」されたもので、過去なのである。
二時間という猶予はじつは嘘であり、、事件はすでに「終結」していたのだ。
このトリックが分かるのは、マシューズ刑事がジグソウと真に一対一で話し始めた時からだ。
ジグソウは最初に要求する。
「君と一対一で話がしたい」

いっこうに口を割らないジグソウに対して、しびれを切らした刑事は、仲間に流していた無線を切り、「我流」の取り調べを行う。
その時初めてジグソウは、口を割るのだ。
つまり、ジグソウは彼と真に一対一になるために時間を稼いでいただけなのだ。
そして導かれていった先は、何と前作の舞台となったビル。
マシューズ刑事は、真犯人にその部屋に監禁され、物語が終わる。

ジグソウは、マシューズ刑事の横暴なやり方に対して、制裁を加えたかったのだ。
だから、彼だけがその場所に導かれるように、苦痛を味わわせるため、息子と八人を利用し、そしてモニターとのタイムラグを設定することによって、彼を追い込んだのだ。

前作と同様、かなりのところまで先読みすることができる。
特に早い段階で、マシューズに対して犯行が向けられていると言う点は、読めたはずだ。
場合によっては、時間軸がずらされているということにも気付いたかも知れない。
だが、問題は真犯人が絶対に読めないように撮られている点だ。
真犯人(共犯)が、アマンダであることは100%読めないように出来ている。
なぜなら、伏線が伏線として機能していないからだ。
これは頭の善し悪し、理解度の問題ではない。
シナリオの問題だ。

真相が明かされるとき、しきりに伏線が走馬燈のように映し出される。
「私は君とゲームがしたい」
「これはゲームなんだ」
「彼はあなた達を試しているのよ」
だが、これらの台詞は何一つとして映画的な「伏線」にはなっていない。
真相を明かすときに見せるようなシーンではない。
なぜなら、そういうオチじゃなくても、その台詞は言えるからだ。
オチを決定づけうる台詞ではない。
アマンダが決定的に真犯人で協力者である、という伏線にはなっていないのだ。

何度も言うが、それは観客の理解度の問題ではない。
その伏線では、オチは導き出せない、そういう種類の伏線なのだ。
取りようによっては、なるほどそういう意味があったのか、というダブルミーニングの台詞ではない。
喩えるなら、裁判の証拠で、状況証拠だけを集めてお前が犯人だと告げているようなものだ。
決定的な物的証拠でないものが、「伏線」になりうることはないのだ。

だから、この映画を見終わった後の印象は、疲労感しかない。
だまされた、という爽快感は皆無だ。
他のミスディレクション映画と決定的な差はそこにある。
オチを見せられても、「あ、そう」としか思えない。
しかも真犯人がじつは中にいた、という陳腐で安直なオチ。

だが、これが普通の映画なら、単なる「あんまりおもしろくない映画」で済んでいた。
この映画は、そうではない。
これほどまで残酷描写を延々と見せ続けていた挙げ句に、オチがあまりに稚拙なものであるため、疲労感が倍増するのだ。
残酷さだけが強調されたようになるのだ。
全編を通しての、観客が経験するストレスと疲労感はかなりのものになる。
そのストレスを、オチで吹き飛ばしてくれるほどのシナリオの緻密さはない。
その疲労感は、終幕後、一気に訪れる。
結局、グロいだけの映画に成り下がってしまっている。

手法としては単純だ。
シナリオの稚拙さを、残酷描写だけでカバーしているだけなのだから。
そこにうまさのかけらもない。
シナリオの質だけで言えば、前作の方が遙かに良かっただろう。
全体的な人間性も薄っぺらく、犯人の動機も一方的な復讐。
八人の人間性がよく分からないから、都合良く展開するように見えてしまう。
少なくとも、死に追いつめられたという緊迫感が彼らにはない。
だから感情の起伏もスリリングにならない。
犯人側も、アマンダの動機が安易で自己中心的な復讐にすぎないし、ジグソウの動機も末期ガン患者に対する配慮が足りない動機だと思う。
必死に生きている末期ガンの人たちにあまりに失礼だ。
やはり犯人が一人勝ちするには独善的で説得力に欠ける動機しかない。

また、マシューズ刑事を本当に追いつめたかったのなら、もっと早い段階からメンバーのメンツを明かしておくべきだっただろう。
あの終盤にそれが明かされた所で、あまり緊張感やサスペンス効果はない。

とにかく演出が過剰なだけで、それによって全てがスポイルされた映画だ。

(2005/11/23執筆)

ちなみに、「SAW3」のほうがシリーズの魅力としてはさらにダウンするが、点数が高いのは、この「2」のようにグロいだけの話が個人的に嫌いだから、だと思う。

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